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76.謎が解決した気になってるけど
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片付けを済ませたジルベルト司祭は用事があると言い、ドワーフの村長の家へ行ってしまった。
広場の山側に整然と並んだドワーフの村の右方向にロクサーナが建てかけている家があり、朝食で使った竈門やテーブルがあるのは正面。
そのお陰で、広場を横切って村長の家に入って行くジルベルト司祭の様子がはっきりと見えた。
(ジルベルト司祭に何が起きた? 距離感おかしすぎだよ~)
しばらくして、村長と連れ立って家から出てきたジルベルト司祭は、ゼフィンおじさんの家に入って⋯⋯そのまま出てこない。
昨夜からずっと気配を消していたミュウが帰ってきたのを察知し、すぐに質問タイムに突入したロクサーナ⋯⋯。
「ジルベルト司祭は、ちょっと用事があるって言ってたんだけど、なんだろうね」
【この場合ノーコメントって使える?】
「うっ、それにね⋯⋯これからはルイスって呼んで欲しいって言うの。やっぱおかしいよね?」
【ややこしく考えなくても、ガンツとかウルサみたいなもんじゃないの?】
ガルシア公爵家を除籍された時平民のルイスとなり、本当はジルベルトと言うミドルネームもなくなっていると言うのが理由。
『ほら、教会を辞めた後に(ロクサーナから)『ルイス』って呼ばれたいから、すぐ気が付けるよう練習をしたいんだ』
「寝てないから、どっかおかしくなったとか⋯⋯仕事してないとおかしくなるヤバい病気なのかな」
【多分だけど、正攻法をやめて囲い込みをしはじめたってとこじゃない?】
「正々堂々何かを攻めてたの?⋯⋯よく分かんないけど、教会ってやっぱり怖いとこだね~。
よし、朝採りの薬草をゴリゴリしてくる。今日はグロリオサの球根もやらなくちゃ」
悩んだ時は身体を動かす⋯⋯かなり脳筋思考に傾倒してきつつあるロクサーナが動きはじめた。
【毒薬草を朝採れ野菜みたいに言うんじゃな~い】
ロクサーナはこの国がある大陸とは別の大陸にしか生息していない毒薬草⋯⋯特に根に毒のある物を集めている。
(待ってろよぉぉ、キルケー)
毒に詳しく性格の悪いキルケーから情報を引き出したいなら⋯⋯キルケーが知らない情報をチラつかせればいい。
単純思考で可能性のある毒薬草を収集しているのは、絶対にジルベルト司祭には知られてはならないミッションのひとつ。
(セイレーンの事がバレたからなあ。例の『吐けぇ~』が発動するかも⋯⋯う~ん⋯⋯やっぱり、ジルベルト司祭が執務室に監禁されてる隙を狙うしかなさそう)
これだけ長い間休んでいれば、ジルベルト司祭の執務室は書類で足の踏み場もないほどになっているはず。
(今は誤作動しているけど、書類の山を見れば再起動して机に齧り付く⋯⋯よね?)
【ロクサーナ~、お昼食べないと縮んじゃうぞ~】
ポンっと現れたミュウが嫌そうな顔で毒薬草を睨みつけた。ロクサーナが今、手に持っているのはポークウィードで、染料にも使えるがかなり毒性が強いもの。
いつもの如く、調薬に夢中になり過ぎてお昼を食べ忘れていたロクサーナが時計を見て慌てはじめた。
「ええっ!? もうこんな時間⋯⋯あ、あれ? ジルベルト司祭は確かえーっと⋯⋯」
【ねえ、これって死んじゃうやつじゃん! そんなに呑気に触っちゃダメだってばぁ。あと、ジルベルトは山にいる】
「山って、もうお昼なのに⋯⋯ジルベルト司祭ってホムンクルスかタロースなの?」
【ププッ! どっちが好みかってこと?】
「そうじゃないよお」
ホムンクルスは錬金術師が作り出す人造人間で、タロースは鍛冶の神によって作り出された青銅製の自動人形。
気を失ったまま数日間眠りこけていたロクサーナと違って、ほとんど寝てないはずのジルベルト司祭は今、山でドワーフと一緒に木を選んでいるらしい(ミュウ談)
【寝ないで平気な奴って事なら、そうかもよ?】
地下室を出て広場に行ってもいつもと同じ光景⋯⋯ドワーフの作業場の煙突から煙が上がり、カンカンと小気味のいい音が聞こえてくる。
子供達が木の棒を持って走り回り、海風が吹いて秋の気配を知らせ⋯⋯ここからは見えない山の中に、ジルベルト司祭の気配が感じられた。
(ひとつだけ、いつもと違う⋯⋯なんか落ち着かない)
朝と同じベンチシートに腰掛け、テーブルに頬肘をついて山の方をなんとなく見つめていると、モヤモヤと疑問が浮かび上がってくる。
「⋯⋯間取りの相談にのってとは言われたけど、なんで島の木を選んでるの? 寝食わすれて」
【⋯⋯】
「しかもノコギリと鑿ラブのゼフィンおじさんとだよね?」
【⋯⋯ああいうのがタイプとか】
武器より工具や生活用品を作る方が好きだったゼフィンおじさんは、大工仕事や木工細工に目覚めてから幾年月か⋯⋯。今では鑿一本で、芸術的な彫刻まで彫り上げる腕前。
「ジルベルト司祭の好みはウルウルだから、モジャのゴツゴツはタイプじゃないと思う」
【ウルウルは変幻自在だよ?】
僕っ子で、いつも羽根の生えた美少女の姿のウルウルは、動物や蛇、巨人や醜い生き物にもなれる。
「ええっ!? じゃ、じゃあ、ジルベルト司祭にはドワーフみたいなゴツゴツのウルウルが見えてたとか? わあ、新発見かも」
ジルベルト、知らないところでガチムチ好き疑惑発生。
「ミュウ、もしかして私、騙されてる?」
【今頃気付いたのか⋯⋯(いや、この流れでいくと、ここは一応『誰に?』とか『何が』って聞いた方が良さそうだな)
⋯⋯えーっと、ロクサーナは誰に騙されてるって?】
「騙されてるって言うかぁ⋯⋯はっきり言ってもらえなかったのを、勘違いしたんだなぁって。
間取りの相談に乗ってって言われたんだけど、それの意味がよく分かってなくて。ほら、相談って色々な意味があるじゃん⋯⋯この山の木は立派だから、どれを選んでも良いか聞きたかったってようやく分かって。言葉って難しいねえ」
【えーっと、まあ⋯⋯ジルベルトの狙いは、本人に聞けば答えてくれるとは思うけど(この島に無理矢理住み着くつもりとか)】
「材料を山でゲットしたいなら全然問題ないし、ドワーフに仕事を頼みたいなら私に聞く必要ないのにね⋯⋯相談なんて言うから勘違いしちゃった」
【間取りの相談は本気な気がするなぁ(一緒に住みたいとかって下心がプンプンするもん。絶対、邪魔してやるけどね)】
「私にはそういうのって分かんないからさ、今までのお礼に材料はいくらでもどうぞ⋯⋯で済んでラッキー」
家を作りはじめて気付いたが、ロクサーナにはイメージの元にできるものがない。記憶にあるのは、教会の倉庫と聖女の個室と宿屋。
「家族と住む家より、便利なテント泊の方がイメージできる。その辺もあって、自分の家も進まないのに、ジルベルト司祭の相談に乗るなんて無理。材料の話だと分かって、ちょっとホッとした」
作る気になれないからと言いながら、異空間から出した料理をテーブルに並べて食べはじめた。
クロテッドクリームとジャム&スコーン、クリームと果物たっぷりのワッフル、チョコブラウニー⋯⋯。
飲み物は少し苦味のあるハーブティー。
【甘いのばっかりだと縮んじゃうよ~】
「ミュウ、言霊って知ってる? 縮む縮むって言ってるとホントになっちゃうからさ、せめて伸びないに⋯⋯あ、それもイマイチかも。う~ん、なんて言⋯⋯」
「色んなものも食べた方が伸びるよって言うのがオススメかな?」
ガシャン
「あぁ! お、驚いたぁ~。お帰りなさい?」
広場の山側に整然と並んだドワーフの村の右方向にロクサーナが建てかけている家があり、朝食で使った竈門やテーブルがあるのは正面。
そのお陰で、広場を横切って村長の家に入って行くジルベルト司祭の様子がはっきりと見えた。
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しばらくして、村長と連れ立って家から出てきたジルベルト司祭は、ゼフィンおじさんの家に入って⋯⋯そのまま出てこない。
昨夜からずっと気配を消していたミュウが帰ってきたのを察知し、すぐに質問タイムに突入したロクサーナ⋯⋯。
「ジルベルト司祭は、ちょっと用事があるって言ってたんだけど、なんだろうね」
【この場合ノーコメントって使える?】
「うっ、それにね⋯⋯これからはルイスって呼んで欲しいって言うの。やっぱおかしいよね?」
【ややこしく考えなくても、ガンツとかウルサみたいなもんじゃないの?】
ガルシア公爵家を除籍された時平民のルイスとなり、本当はジルベルトと言うミドルネームもなくなっていると言うのが理由。
『ほら、教会を辞めた後に(ロクサーナから)『ルイス』って呼ばれたいから、すぐ気が付けるよう練習をしたいんだ』
「寝てないから、どっかおかしくなったとか⋯⋯仕事してないとおかしくなるヤバい病気なのかな」
【多分だけど、正攻法をやめて囲い込みをしはじめたってとこじゃない?】
「正々堂々何かを攻めてたの?⋯⋯よく分かんないけど、教会ってやっぱり怖いとこだね~。
よし、朝採りの薬草をゴリゴリしてくる。今日はグロリオサの球根もやらなくちゃ」
悩んだ時は身体を動かす⋯⋯かなり脳筋思考に傾倒してきつつあるロクサーナが動きはじめた。
【毒薬草を朝採れ野菜みたいに言うんじゃな~い】
ロクサーナはこの国がある大陸とは別の大陸にしか生息していない毒薬草⋯⋯特に根に毒のある物を集めている。
(待ってろよぉぉ、キルケー)
毒に詳しく性格の悪いキルケーから情報を引き出したいなら⋯⋯キルケーが知らない情報をチラつかせればいい。
単純思考で可能性のある毒薬草を収集しているのは、絶対にジルベルト司祭には知られてはならないミッションのひとつ。
(セイレーンの事がバレたからなあ。例の『吐けぇ~』が発動するかも⋯⋯う~ん⋯⋯やっぱり、ジルベルト司祭が執務室に監禁されてる隙を狙うしかなさそう)
これだけ長い間休んでいれば、ジルベルト司祭の執務室は書類で足の踏み場もないほどになっているはず。
(今は誤作動しているけど、書類の山を見れば再起動して机に齧り付く⋯⋯よね?)
【ロクサーナ~、お昼食べないと縮んじゃうぞ~】
ポンっと現れたミュウが嫌そうな顔で毒薬草を睨みつけた。ロクサーナが今、手に持っているのはポークウィードで、染料にも使えるがかなり毒性が強いもの。
いつもの如く、調薬に夢中になり過ぎてお昼を食べ忘れていたロクサーナが時計を見て慌てはじめた。
「ええっ!? もうこんな時間⋯⋯あ、あれ? ジルベルト司祭は確かえーっと⋯⋯」
【ねえ、これって死んじゃうやつじゃん! そんなに呑気に触っちゃダメだってばぁ。あと、ジルベルトは山にいる】
「山って、もうお昼なのに⋯⋯ジルベルト司祭ってホムンクルスかタロースなの?」
【ププッ! どっちが好みかってこと?】
「そうじゃないよお」
ホムンクルスは錬金術師が作り出す人造人間で、タロースは鍛冶の神によって作り出された青銅製の自動人形。
気を失ったまま数日間眠りこけていたロクサーナと違って、ほとんど寝てないはずのジルベルト司祭は今、山でドワーフと一緒に木を選んでいるらしい(ミュウ談)
【寝ないで平気な奴って事なら、そうかもよ?】
地下室を出て広場に行ってもいつもと同じ光景⋯⋯ドワーフの作業場の煙突から煙が上がり、カンカンと小気味のいい音が聞こえてくる。
子供達が木の棒を持って走り回り、海風が吹いて秋の気配を知らせ⋯⋯ここからは見えない山の中に、ジルベルト司祭の気配が感じられた。
(ひとつだけ、いつもと違う⋯⋯なんか落ち着かない)
朝と同じベンチシートに腰掛け、テーブルに頬肘をついて山の方をなんとなく見つめていると、モヤモヤと疑問が浮かび上がってくる。
「⋯⋯間取りの相談にのってとは言われたけど、なんで島の木を選んでるの? 寝食わすれて」
【⋯⋯】
「しかもノコギリと鑿ラブのゼフィンおじさんとだよね?」
【⋯⋯ああいうのがタイプとか】
武器より工具や生活用品を作る方が好きだったゼフィンおじさんは、大工仕事や木工細工に目覚めてから幾年月か⋯⋯。今では鑿一本で、芸術的な彫刻まで彫り上げる腕前。
「ジルベルト司祭の好みはウルウルだから、モジャのゴツゴツはタイプじゃないと思う」
【ウルウルは変幻自在だよ?】
僕っ子で、いつも羽根の生えた美少女の姿のウルウルは、動物や蛇、巨人や醜い生き物にもなれる。
「ええっ!? じゃ、じゃあ、ジルベルト司祭にはドワーフみたいなゴツゴツのウルウルが見えてたとか? わあ、新発見かも」
ジルベルト、知らないところでガチムチ好き疑惑発生。
「ミュウ、もしかして私、騙されてる?」
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⋯⋯えーっと、ロクサーナは誰に騙されてるって?】
「騙されてるって言うかぁ⋯⋯はっきり言ってもらえなかったのを、勘違いしたんだなぁって。
間取りの相談に乗ってって言われたんだけど、それの意味がよく分かってなくて。ほら、相談って色々な意味があるじゃん⋯⋯この山の木は立派だから、どれを選んでも良いか聞きたかったってようやく分かって。言葉って難しいねえ」
【えーっと、まあ⋯⋯ジルベルトの狙いは、本人に聞けば答えてくれるとは思うけど(この島に無理矢理住み着くつもりとか)】
「材料を山でゲットしたいなら全然問題ないし、ドワーフに仕事を頼みたいなら私に聞く必要ないのにね⋯⋯相談なんて言うから勘違いしちゃった」
【間取りの相談は本気な気がするなぁ(一緒に住みたいとかって下心がプンプンするもん。絶対、邪魔してやるけどね)】
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家を作りはじめて気付いたが、ロクサーナにはイメージの元にできるものがない。記憶にあるのは、教会の倉庫と聖女の個室と宿屋。
「家族と住む家より、便利なテント泊の方がイメージできる。その辺もあって、自分の家も進まないのに、ジルベルト司祭の相談に乗るなんて無理。材料の話だと分かって、ちょっとホッとした」
作る気になれないからと言いながら、異空間から出した料理をテーブルに並べて食べはじめた。
クロテッドクリームとジャム&スコーン、クリームと果物たっぷりのワッフル、チョコブラウニー⋯⋯。
飲み物は少し苦味のあるハーブティー。
【甘いのばっかりだと縮んじゃうよ~】
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