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10.驚愕するリチャードと能面執事
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ルーシーが精力的に走り回っている頃、ステラと熱い夜を過ごしたリチャードは意気揚々とタウンハウスに戻ってきた。
豪奢な馬車を降りステラと共に玄関を入ったリチャードは、様変わりしている玄関広間に困惑の表情を浮かべた。
「エマーソン、これは・・模様替えか?」
玄関横にいつもあった帽子かけや机・タペストリー等がなくなっている。
その他にもリチャード達にはよく分からないが、いつもに比べがらんとした様子の玄関に戸惑うリチャードとステラ。
「絵まで外したのか?」
「奥様がお持ちになられたようでございます」
「はあ? ! まさか・・」
リチャードは走り出し応接室に駆け込んだが、直ぐにそこを飛び出し二階に駆け上がって行った。
「大変申し訳ございませんが、只今ステラ様をご案内できるお部屋がございません。
暫くお時間を頂ければ古い家具を離れから持って来ることもできるかと思いますが」
玄関に呆然と立ち尽くしていたステラが勝手に応接室を覗きに行った。
「何これ」
落ち着いたベージュの壁紙には絵画やタペストリーを飾られた跡が残っており、床にはカーペットさえ敷かれていない。
カーテンの外された出窓からは明るい春の日差しが差し込んでいた。
テラスに続く窓を開くとガーデンテーブルもなくなっていた。
二階からはリチャードのつく悪態とバタン! と、ドアを閉める大きな音が何度も聞こえてきた。
暫くして髪を振り乱したリチャードが汗を垂らしながら階段を降りて来て、食堂に向けて走って行った後真っ赤な顔で戻ってきた。
「どういう事だ! どの部屋も何もない。家具もカーテンも。私の靴まで無くなってる。
エマーソン、一体これはなんだ! 説明しろ」
「奥様からのお手紙が旦那様の執務室にございます。私達へのご連絡では『荷物を纏めて家に帰るよう旦那様が仰られたので』と言う連絡のみでございます」
エマーソンとミセス・ブラックリーは無表情でリチャードを見つめている。
「どうやって・・こんなに大量の物をどうやって持って出たというんだ!」
「さて、起きた時にはこの様になっておりましたので」
「貴様、執事の癖に気が付かなかったというのか!」
「昨夜はご夫婦共に夜会に参加されておられましたので、私達は早々に部屋に下がらせて頂いておりました」
黙って成り行きを見ていたミセス・ブラックリーが一歩前に出た。
「因みに厨房の食品庫の中にも何も御座いませんので、お客様にお茶をお出しする事もかないません。いかが致しましょうか?」
「はあ? アイツは何を考えてるんだ! 私は私物を持って帰れと言ったんだぞ」
「恐れながら申し上げます。
この三年間、購入品の全ては奥様の資産より購入しておりましたので、食品庫の中の茶葉の一つまで奥様の私物であると言えるのではないかと」
「しかし、どうやればこれだけの荷物をたった一晩で運べるというんだ?」
あちこちの部屋を覗いていたステラが戻ってきた。
「ガードナー商会なら出来るわ。
あそこには何台も大型の荷馬車があるもの。それを総動員したんじゃないかしら」
「くそ! ガードナーめ、ただじゃおかんぞ。離婚届を付きつけて荷物を取り返してやる!」
「朝一番でソールズベリーから早馬が参りました。
昨夜、奥様が私物を取りに来られたと。
どうやらソールズベリーもここと同様の状態になっているようです。
旦那様のご指示が頂きたいと」
「何だとー! ちっ父上と母上が・・」
「大旦那様達はご旅行中ではありませんか?」
「そっそうだったな」
ミセス・ブラックリーがリチャードにさらに追い討ちをかけた。
豪奢な馬車を降りステラと共に玄関を入ったリチャードは、様変わりしている玄関広間に困惑の表情を浮かべた。
「エマーソン、これは・・模様替えか?」
玄関横にいつもあった帽子かけや机・タペストリー等がなくなっている。
その他にもリチャード達にはよく分からないが、いつもに比べがらんとした様子の玄関に戸惑うリチャードとステラ。
「絵まで外したのか?」
「奥様がお持ちになられたようでございます」
「はあ? ! まさか・・」
リチャードは走り出し応接室に駆け込んだが、直ぐにそこを飛び出し二階に駆け上がって行った。
「大変申し訳ございませんが、只今ステラ様をご案内できるお部屋がございません。
暫くお時間を頂ければ古い家具を離れから持って来ることもできるかと思いますが」
玄関に呆然と立ち尽くしていたステラが勝手に応接室を覗きに行った。
「何これ」
落ち着いたベージュの壁紙には絵画やタペストリーを飾られた跡が残っており、床にはカーペットさえ敷かれていない。
カーテンの外された出窓からは明るい春の日差しが差し込んでいた。
テラスに続く窓を開くとガーデンテーブルもなくなっていた。
二階からはリチャードのつく悪態とバタン! と、ドアを閉める大きな音が何度も聞こえてきた。
暫くして髪を振り乱したリチャードが汗を垂らしながら階段を降りて来て、食堂に向けて走って行った後真っ赤な顔で戻ってきた。
「どういう事だ! どの部屋も何もない。家具もカーテンも。私の靴まで無くなってる。
エマーソン、一体これはなんだ! 説明しろ」
「奥様からのお手紙が旦那様の執務室にございます。私達へのご連絡では『荷物を纏めて家に帰るよう旦那様が仰られたので』と言う連絡のみでございます」
エマーソンとミセス・ブラックリーは無表情でリチャードを見つめている。
「どうやって・・こんなに大量の物をどうやって持って出たというんだ!」
「さて、起きた時にはこの様になっておりましたので」
「貴様、執事の癖に気が付かなかったというのか!」
「昨夜はご夫婦共に夜会に参加されておられましたので、私達は早々に部屋に下がらせて頂いておりました」
黙って成り行きを見ていたミセス・ブラックリーが一歩前に出た。
「因みに厨房の食品庫の中にも何も御座いませんので、お客様にお茶をお出しする事もかないません。いかが致しましょうか?」
「はあ? アイツは何を考えてるんだ! 私は私物を持って帰れと言ったんだぞ」
「恐れながら申し上げます。
この三年間、購入品の全ては奥様の資産より購入しておりましたので、食品庫の中の茶葉の一つまで奥様の私物であると言えるのではないかと」
「しかし、どうやればこれだけの荷物をたった一晩で運べるというんだ?」
あちこちの部屋を覗いていたステラが戻ってきた。
「ガードナー商会なら出来るわ。
あそこには何台も大型の荷馬車があるもの。それを総動員したんじゃないかしら」
「くそ! ガードナーめ、ただじゃおかんぞ。離婚届を付きつけて荷物を取り返してやる!」
「朝一番でソールズベリーから早馬が参りました。
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どうやらソールズベリーもここと同様の状態になっているようです。
旦那様のご指示が頂きたいと」
「何だとー! ちっ父上と母上が・・」
「大旦那様達はご旅行中ではありませんか?」
「そっそうだったな」
ミセス・ブラックリーがリチャードにさらに追い討ちをかけた。
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