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1.結婚式前日
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結婚式を明日に控えたポーレット伯爵家は喜びに満ち溢れていた。忙しそうなメイドは薄らと微笑みを浮かべているし、侍従達は時折口笛を吹いたり鼻歌を歌ったり。
あちこちから届けられたお祝いの品は新居に送られるまで⋯⋯と、壁際に積み上げられ、執事が認めた送り主の名前と品名のリストは数枚に及んでいる。届けられた花はリリスティーナの自室から溢れ出し応接室や食堂にも飾られているが、リリスティーナの婚約者の元(リリスティーナが明日から住むディーセル伯爵家の屋敷)にはもっと沢山の花や贈り物が届いているという。
「贈り物がとんでもない事になってるわね」
名前と品名のリストを見ながら夫人が不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「ほらほら、そんな顔しない。可愛い顔が台無しだよ」
結婚して20年以上経つ伯爵夫妻の仲は未だアツアツで伯爵が夫人の眉間にキスをすると婦人の頬は真っ赤に染まり近くを通り過ぎたメイドが微笑ましそうに笑った。
「だってヒューバート、知らないお名前の方が一杯。それに⋯⋯」
「気にしちゃダメだよ。皆、今回の結婚が陛下の下知によるものだから騒ぎ立ててるだけ。リリスティーナの幸せだけを考えようじゃないか」
穏やかで謹厳実直な性格と言われるロードブレスト国王は国政だけは賢王と言われている。痩せた土地が多く目立った特産品のなかった貧しい小国を農業大国に押し上げた実績は賢王と呼ばれるに相応しく、貴族・平民に限らず絶大な人気を博している。
そのお陰で唯一の欠点と言われるソレもいずれなんとかなるのでは? と許されている程。
「明日の朝、馬車の再点検を頼む。途中でトラブルがあっては大変だからね」
「はい、旦那様」
「ドレスとベールに問題がないかもう一度確認しておいてね」
「はい、奥様」
「後は⋯⋯娘の結婚式が明日だなんて、なんだか落ち着いて座っていられないわ」
「私も同じ気持ちだよ。漸くリリスティーナが幸せになれる日が来る。娘を手放すのは寂しいが今回ばかりは嬉しい気持ちの方が強いよ。うん、これほど嬉しい日はないと思う」
「いいえ、明日はもっと嬉しい日になりますわ。リリスティーナの幸せは何度も邪魔されてきましたけれど、もう大丈夫ですわね」
感無量といった面持ちの両親に内心苦笑しながらリリスティーナ自身も『漸くここまできた』と安堵する思いだった。
「もう少ししたらデイビッドがお迎えにいらっしゃるのでしょう?」
「はい、カフェに連れて行ってくださるそうですの」
「本当に仲が良いこと。これならきっと大丈夫ね」
(いいえ、そうでもありませんでしたわ。だって、たった今婚約者のデイビッド様から重大発言をお聞きしましたの)
「実はね、以前から付き合っている恋人がいるんだ。二人とも愛してる⋯⋯どちらも大切にしたい。許してくれるかい?」
王都で今一番人気のカフェのオープンテラスは春の日差しが輝きそよ風がドレスの裾を揺らしていた。
デイビッド・ディーセルは暖かいカフェオレ、リリスティーナはダージリンティーとチョコレートケーキを前に明日からの生活や近々訪問する予定のディーセル伯爵領について話していたが、笑顔のデイビッドの口からまさかの二股発言が飛び出したのだ。
「⋯⋯あの、わたくしを愛していると仰っておられたのは偽りだったと言うことですか?」
リリスティーナはショックで思わず抗議してしまった。
「勿論嘘なんかじゃないさ。ただ、二人とも同じくらい愛してるんだ」
つい先程まで楽しく話していたその時と同じ笑顔のままで、お気に入りの作家の新刊を見つけたとでも言いそうなくらい普通に話すデイビッドにリリスティーナは目を見開いて呆然とした。
この婚約は元々国王陛下からの下知だった為断りにくかっただけかとも思ったが『会う度に好きになる』と少し照れくさそうに笑いながら何度も言っていたデイビッドがその時と同じ笑顔で『二人とも好きなんだ』と言う、結婚式の前日に⋯⋯。
「もう少し早く教えて頂く事はできなかったのでしょうか? そうすれば結婚を止めることもできましたのに」
「優柔不断でごめん。許してくれるかい」
「⋯⋯⋯⋯では、二人を同じくらいに大切にしていただけるとお約束してくださいますか?」
「勿論だよ! リリスティーナの事も彼女の事も同じくらい愛しているからね」
「それからもう一つ。状況が変わってもその⋯⋯その女性と一緒に暮らす事は」
「ああ、そんな無神経な事はしないさ。彼女もちゃんと理解しているから大丈夫だよ」
結婚式の前日に堂々と二股を公言した無神経なデイビッドが満面の笑顔で約束した。
リリスティーナにはデイビッドにあまり強く言えない理由があった。国王からの下知と言っても断る事はできなくもなかったが、デイビッドはとても優しくリリスティーナを大切にしてくれた。結婚に尻込みして本当に自分で良いのかと言う問いかけにデイビッドは、
『リリスティーナがいいんだ』
リリスティーナの過去を知っていてもなお結婚したいと言ってくれるデイビッドにいつしか信頼を寄せるようになっていた。
(この方なら信じても大丈夫。こんなに大切にしてくださるんだもの)
少しぎこちない愛の言葉と優しい気遣いにリリスティーナは心を開き、リリスティーナを心配していた彼女の両親も安堵のため息をつき自分達にできる限り二人の将来を支えていこうと決めた。
あちこちから届けられたお祝いの品は新居に送られるまで⋯⋯と、壁際に積み上げられ、執事が認めた送り主の名前と品名のリストは数枚に及んでいる。届けられた花はリリスティーナの自室から溢れ出し応接室や食堂にも飾られているが、リリスティーナの婚約者の元(リリスティーナが明日から住むディーセル伯爵家の屋敷)にはもっと沢山の花や贈り物が届いているという。
「贈り物がとんでもない事になってるわね」
名前と品名のリストを見ながら夫人が不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「ほらほら、そんな顔しない。可愛い顔が台無しだよ」
結婚して20年以上経つ伯爵夫妻の仲は未だアツアツで伯爵が夫人の眉間にキスをすると婦人の頬は真っ赤に染まり近くを通り過ぎたメイドが微笑ましそうに笑った。
「だってヒューバート、知らないお名前の方が一杯。それに⋯⋯」
「気にしちゃダメだよ。皆、今回の結婚が陛下の下知によるものだから騒ぎ立ててるだけ。リリスティーナの幸せだけを考えようじゃないか」
穏やかで謹厳実直な性格と言われるロードブレスト国王は国政だけは賢王と言われている。痩せた土地が多く目立った特産品のなかった貧しい小国を農業大国に押し上げた実績は賢王と呼ばれるに相応しく、貴族・平民に限らず絶大な人気を博している。
そのお陰で唯一の欠点と言われるソレもいずれなんとかなるのでは? と許されている程。
「明日の朝、馬車の再点検を頼む。途中でトラブルがあっては大変だからね」
「はい、旦那様」
「ドレスとベールに問題がないかもう一度確認しておいてね」
「はい、奥様」
「後は⋯⋯娘の結婚式が明日だなんて、なんだか落ち着いて座っていられないわ」
「私も同じ気持ちだよ。漸くリリスティーナが幸せになれる日が来る。娘を手放すのは寂しいが今回ばかりは嬉しい気持ちの方が強いよ。うん、これほど嬉しい日はないと思う」
「いいえ、明日はもっと嬉しい日になりますわ。リリスティーナの幸せは何度も邪魔されてきましたけれど、もう大丈夫ですわね」
感無量といった面持ちの両親に内心苦笑しながらリリスティーナ自身も『漸くここまできた』と安堵する思いだった。
「もう少ししたらデイビッドがお迎えにいらっしゃるのでしょう?」
「はい、カフェに連れて行ってくださるそうですの」
「本当に仲が良いこと。これならきっと大丈夫ね」
(いいえ、そうでもありませんでしたわ。だって、たった今婚約者のデイビッド様から重大発言をお聞きしましたの)
「実はね、以前から付き合っている恋人がいるんだ。二人とも愛してる⋯⋯どちらも大切にしたい。許してくれるかい?」
王都で今一番人気のカフェのオープンテラスは春の日差しが輝きそよ風がドレスの裾を揺らしていた。
デイビッド・ディーセルは暖かいカフェオレ、リリスティーナはダージリンティーとチョコレートケーキを前に明日からの生活や近々訪問する予定のディーセル伯爵領について話していたが、笑顔のデイビッドの口からまさかの二股発言が飛び出したのだ。
「⋯⋯あの、わたくしを愛していると仰っておられたのは偽りだったと言うことですか?」
リリスティーナはショックで思わず抗議してしまった。
「勿論嘘なんかじゃないさ。ただ、二人とも同じくらい愛してるんだ」
つい先程まで楽しく話していたその時と同じ笑顔のままで、お気に入りの作家の新刊を見つけたとでも言いそうなくらい普通に話すデイビッドにリリスティーナは目を見開いて呆然とした。
この婚約は元々国王陛下からの下知だった為断りにくかっただけかとも思ったが『会う度に好きになる』と少し照れくさそうに笑いながら何度も言っていたデイビッドがその時と同じ笑顔で『二人とも好きなんだ』と言う、結婚式の前日に⋯⋯。
「もう少し早く教えて頂く事はできなかったのでしょうか? そうすれば結婚を止めることもできましたのに」
「優柔不断でごめん。許してくれるかい」
「⋯⋯⋯⋯では、二人を同じくらいに大切にしていただけるとお約束してくださいますか?」
「勿論だよ! リリスティーナの事も彼女の事も同じくらい愛しているからね」
「それからもう一つ。状況が変わってもその⋯⋯その女性と一緒に暮らす事は」
「ああ、そんな無神経な事はしないさ。彼女もちゃんと理解しているから大丈夫だよ」
結婚式の前日に堂々と二股を公言した無神経なデイビッドが満面の笑顔で約束した。
リリスティーナにはデイビッドにあまり強く言えない理由があった。国王からの下知と言っても断る事はできなくもなかったが、デイビッドはとても優しくリリスティーナを大切にしてくれた。結婚に尻込みして本当に自分で良いのかと言う問いかけにデイビッドは、
『リリスティーナがいいんだ』
リリスティーナの過去を知っていてもなお結婚したいと言ってくれるデイビッドにいつしか信頼を寄せるようになっていた。
(この方なら信じても大丈夫。こんなに大切にしてくださるんだもの)
少しぎこちない愛の言葉と優しい気遣いにリリスティーナは心を開き、リリスティーナを心配していた彼女の両親も安堵のため息をつき自分達にできる限り二人の将来を支えていこうと決めた。
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