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9.突然現れた災厄 sideレオ
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「だーかーらー、レオ兄様の力が必要なの。本当の本当に困ってるのぉ」
「俺は忙しい、やりたいならお前だけでやればいいだろう?」
「レオ兄様、お・ね・がい」
突然やって来たアントリム侯爵家の末っ子は豪奢な絹のドレスと大粒のエメラルドのついた髪飾りで武装している。昔から父親と3人の兄はこのおねだりに弱く、つい望みをかなえてしまっていたが今回は流石に話が違う。
得意の両手を合わせて首を傾げるポーズも今回は心がちっとも揺らがないとレオナルドは内心安堵した。
「俺は修道士になったんだ。俗世のことは知らん」
「レオ兄様はホントは騎士になって手柄を立てて、可愛いお嫁さんと子供に囲まれて暮らしたいって思ってるの知ってるんだからぁ」
ストレンジ侯爵家は1人目が家督を継ぎ2人目が騎士になり、3人目は聖職者になると家訓で決まっている。その所為でレオは念願の騎士にはなれなかったが騎士修道会に入会した。
因みに4人目は自由。誠に羨ましい限りだとレオナルドは心から思っている。
(まあ、コイツは自由すぎるがな)
「夢を諦めてないから有期請願のままなんでしょう? このまま辞めちゃえばいいじゃない」
「総長や兄弟騎士を裏切ることなどできない。ギルに頼んだらどうだ?」
「ダメだったの。もうすぐ婚約が決まるんですって、だから忙しいって断られちゃった。あっ、これレオ兄様には内緒だった」
「近々戦いがある・・かも知れない。だから俺も忙しいんだ」
「うっそー、今暇だって知ってるもん。お父様が確認したら総長がお休みして良いよって言ってくれたんだからね。それに、騎士団に入ってから一度もお休みもらってないんでしょ?」
(くそっ、嵌められた)
「騎士団じゃなくて騎士修道会。ここは休みなんかないんだ」
「えー、そんなのダメだって。人間はね、ちゃんとお休みしなくちゃダメなの。と言うことで来週から来てね」
ドレスの裾を翻し返事も聞かずに出て行った末っ子の後ろ姿に溜息をつき、溜め込んでいた書類に手を伸ばしたレオは細かく書き込まれている数字を見てやる気をなくし書類箱に戻した。
(確かに結婚したいし・・したかったし子供も欲しい。いや、欲しかった。もう諦めたけどな・・)
4歳の時見た御前試合で『騎士になる!』と心に決めたレオナルドはその日からずっと騎士になることだけを夢見ていた。騎士は体力勝負だと聞けば走り込みを増やし朝晩の腕立てや腹筋を日課にし、身体が資本と聞けば食事の量を増やした。
父親に頼んだが剣を習うことは許されなかったので兄が家庭教師に習う時物陰から覗き見して剣の練習をした。
レオナルドが8歳の時、父親から『我が家の三男は聖職者になると決まっている』と言われたが夢を諦めずひたすら剣の修行を続けた。学園で並ぶ者のいない程の実力を身に付けても、騎士団の公開試合の一般参加で優勝しても父親の意見を変えることは出来なかった。
(司祭とか助祭とか、俺には絶対に無理だ)
全く話を聞かない父親が漸く首を縦に振った騎士修道会では戦闘部隊に所属している。守らなければならない戒律は多いが、本業は紛争の起きた様々な地域で剣を振るうのがレオナルドの仕事。
レオナルドが所属している聖マルセーロ騎士修道会には一生誓願を守りとおす終生誓願と、6年の期間を持つ有期誓願がある。レオナルドは18歳でこの騎士修道会に所属して既に5年。
(後1年か・・早かったな)
レオナルドの希望とは若干異なっているものの騎士修道会の生活はそれ程苦痛ではなかった。尊敬できる総長と気の合う兄弟騎士に恵まれ形だけの聖務にも慣れた。
(末っ子の我儘に今更振り回されるとは思わなかったな。最後に会ったのは・・騎士修道会に入る前か)
レオナルドは見た目によらず子供と動物が好きだが、目が合うだけで子供には泣かれ動物には必ず威嚇され噛みつかれる。長兄と次兄は長身の細マッチョで学生時代から女性に大人気だったと言うのに・・。
三兄弟とも微妙に色が違うだけの金髪で顔の作りもそれ程違いがないのだが、人の評価はいつも『貴公子・王子様・魔王』が定番。
騎士になれたとしても結婚は無理そうなので騎士修道会に骨を埋めるのも良いかと諦めていた。
ノックの音と同時に勢いよくドアが開きノーマンが入ってきた。
「よお、実家に帰省するって?」
「末っ子がトラブルに巻き込まれたとか言ってきたんだ」
「そうか、お前がいないのは寂しいが偶には休暇をとるのも良いんじゃないか? まとまった休みを一度も取ってないだろ?」
「うちに帰ってもあんまり休めそうにないしなあ」
苦笑いをしながらお湯を沸かし紅茶を準備するレオナルドの大きな背中を見ていたノーマンがニヤニヤ笑いを浮かべた。大きな熊がチマチマと茶葉をポットに入れている様は何度見ても笑える。手に持つスプーンやカップが子供用のおもちゃに見えるのだ。
「その間に将来についてゆっくり考えてみろ。一度請願をたてたら変更がきかんからな。お前が迷ってるのは知ってる。騎士になりたかったんだろ?」
4年間世話になった兄弟騎士に本心を言い当てられたレオナルドは思わず手を止めた。
「いや、それはもう過去の事だし」
「ここには色んな奴がくる。食い詰めた奴とか何かから逃げてきた奴。ただ暴れたいって奴はすぐに叩き出すが・・お前はまた別だがな。お父上と話し合ってみたらどうだ?」
「それはもう諦めたんだ。無駄な努力をするくらいなら末っ子に振り回される方がマシだな」
扱いを間違えるとカップはレオナルドの手の中で粉々になるので、繊細なカップは取り扱いが難しい。大きな身体を強ばらせ恐る恐るテーブルまで運んだ。
「いいチャンスだから、しっかり考えてこい。末っ子の《お願い》はしつこそうだしな」
「確かに。アイツは一度言い出すと聞かないからなあ」
「俺は忙しい、やりたいならお前だけでやればいいだろう?」
「レオ兄様、お・ね・がい」
突然やって来たアントリム侯爵家の末っ子は豪奢な絹のドレスと大粒のエメラルドのついた髪飾りで武装している。昔から父親と3人の兄はこのおねだりに弱く、つい望みをかなえてしまっていたが今回は流石に話が違う。
得意の両手を合わせて首を傾げるポーズも今回は心がちっとも揺らがないとレオナルドは内心安堵した。
「俺は修道士になったんだ。俗世のことは知らん」
「レオ兄様はホントは騎士になって手柄を立てて、可愛いお嫁さんと子供に囲まれて暮らしたいって思ってるの知ってるんだからぁ」
ストレンジ侯爵家は1人目が家督を継ぎ2人目が騎士になり、3人目は聖職者になると家訓で決まっている。その所為でレオは念願の騎士にはなれなかったが騎士修道会に入会した。
因みに4人目は自由。誠に羨ましい限りだとレオナルドは心から思っている。
(まあ、コイツは自由すぎるがな)
「夢を諦めてないから有期請願のままなんでしょう? このまま辞めちゃえばいいじゃない」
「総長や兄弟騎士を裏切ることなどできない。ギルに頼んだらどうだ?」
「ダメだったの。もうすぐ婚約が決まるんですって、だから忙しいって断られちゃった。あっ、これレオ兄様には内緒だった」
「近々戦いがある・・かも知れない。だから俺も忙しいんだ」
「うっそー、今暇だって知ってるもん。お父様が確認したら総長がお休みして良いよって言ってくれたんだからね。それに、騎士団に入ってから一度もお休みもらってないんでしょ?」
(くそっ、嵌められた)
「騎士団じゃなくて騎士修道会。ここは休みなんかないんだ」
「えー、そんなのダメだって。人間はね、ちゃんとお休みしなくちゃダメなの。と言うことで来週から来てね」
ドレスの裾を翻し返事も聞かずに出て行った末っ子の後ろ姿に溜息をつき、溜め込んでいた書類に手を伸ばしたレオは細かく書き込まれている数字を見てやる気をなくし書類箱に戻した。
(確かに結婚したいし・・したかったし子供も欲しい。いや、欲しかった。もう諦めたけどな・・)
4歳の時見た御前試合で『騎士になる!』と心に決めたレオナルドはその日からずっと騎士になることだけを夢見ていた。騎士は体力勝負だと聞けば走り込みを増やし朝晩の腕立てや腹筋を日課にし、身体が資本と聞けば食事の量を増やした。
父親に頼んだが剣を習うことは許されなかったので兄が家庭教師に習う時物陰から覗き見して剣の練習をした。
レオナルドが8歳の時、父親から『我が家の三男は聖職者になると決まっている』と言われたが夢を諦めずひたすら剣の修行を続けた。学園で並ぶ者のいない程の実力を身に付けても、騎士団の公開試合の一般参加で優勝しても父親の意見を変えることは出来なかった。
(司祭とか助祭とか、俺には絶対に無理だ)
全く話を聞かない父親が漸く首を縦に振った騎士修道会では戦闘部隊に所属している。守らなければならない戒律は多いが、本業は紛争の起きた様々な地域で剣を振るうのがレオナルドの仕事。
レオナルドが所属している聖マルセーロ騎士修道会には一生誓願を守りとおす終生誓願と、6年の期間を持つ有期誓願がある。レオナルドは18歳でこの騎士修道会に所属して既に5年。
(後1年か・・早かったな)
レオナルドの希望とは若干異なっているものの騎士修道会の生活はそれ程苦痛ではなかった。尊敬できる総長と気の合う兄弟騎士に恵まれ形だけの聖務にも慣れた。
(末っ子の我儘に今更振り回されるとは思わなかったな。最後に会ったのは・・騎士修道会に入る前か)
レオナルドは見た目によらず子供と動物が好きだが、目が合うだけで子供には泣かれ動物には必ず威嚇され噛みつかれる。長兄と次兄は長身の細マッチョで学生時代から女性に大人気だったと言うのに・・。
三兄弟とも微妙に色が違うだけの金髪で顔の作りもそれ程違いがないのだが、人の評価はいつも『貴公子・王子様・魔王』が定番。
騎士になれたとしても結婚は無理そうなので騎士修道会に骨を埋めるのも良いかと諦めていた。
ノックの音と同時に勢いよくドアが開きノーマンが入ってきた。
「よお、実家に帰省するって?」
「末っ子がトラブルに巻き込まれたとか言ってきたんだ」
「そうか、お前がいないのは寂しいが偶には休暇をとるのも良いんじゃないか? まとまった休みを一度も取ってないだろ?」
「うちに帰ってもあんまり休めそうにないしなあ」
苦笑いをしながらお湯を沸かし紅茶を準備するレオナルドの大きな背中を見ていたノーマンがニヤニヤ笑いを浮かべた。大きな熊がチマチマと茶葉をポットに入れている様は何度見ても笑える。手に持つスプーンやカップが子供用のおもちゃに見えるのだ。
「その間に将来についてゆっくり考えてみろ。一度請願をたてたら変更がきかんからな。お前が迷ってるのは知ってる。騎士になりたかったんだろ?」
4年間世話になった兄弟騎士に本心を言い当てられたレオナルドは思わず手を止めた。
「いや、それはもう過去の事だし」
「ここには色んな奴がくる。食い詰めた奴とか何かから逃げてきた奴。ただ暴れたいって奴はすぐに叩き出すが・・お前はまた別だがな。お父上と話し合ってみたらどうだ?」
「それはもう諦めたんだ。無駄な努力をするくらいなら末っ子に振り回される方がマシだな」
扱いを間違えるとカップはレオナルドの手の中で粉々になるので、繊細なカップは取り扱いが難しい。大きな身体を強ばらせ恐る恐るテーブルまで運んだ。
「いいチャンスだから、しっかり考えてこい。末っ子の《お願い》はしつこそうだしな」
「確かに。アイツは一度言い出すと聞かないからなあ」
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