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8.えっ? ハンナが言い出しっぺだよ?

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「厳密に言うと3回目かな。婚約直後ってのが1回あるから」

「今回も男爵?」

「なんと、帝国の子爵。姉さん達が隣の国まで出張して営業活動してるとは思わなかったよ。そう言うことだけは意欲的と言うか。その努力だけで真面な仕事できると思う」

「・・ねえ、結構ヤバくない?」

「取り敢えず手紙を書いて様子見するしかないかなと思ってる。手紙の内容じゃ被害状況とかわかんないし帝国の貴族じゃ情報もないし」

「ソフィーの家族はほんとクズ・・謝んないわよ・・よね。法的にはもう家族じゃないんだし訴えた方が良いんじゃない?」


 ソフィーは14歳の時アリシアステラの侍女と正式に養子縁組している。当時両親と姉からの金銭要求が激化し疲れ果てていたソフィーにアリシアが提案してくれた。
 この国の成人は16歳だが成人になっても未婚の女性は親の管理下にある。アリシア自身は既に孫も産まれており何の問題もないと言ってくれた。

「子供は息子ばかりですから娘が欲しかったと言うのもありますしね」

 ソフィーの両親がステラを裁判所に訴えソフィーの給料の差し押さえを言い出した時決断した。
 6歳で伯爵に売られた日に助けられてからステラには仕事と住む場所を与えてもらった。それからというもの十分な食事と暴言や暴力のない暮らしだけでなく、使用人に対するには過分な教育も受けさせて貰った。

(勝手な理屈で大奥様を貶めるなんて絶対に許せない!)


 ソフィーから金を引き出せない両親達はソフィーの名を騙って結婚詐欺を働いたのが2年前。婚約して暫く経った頃に不審を抱いた男爵が【ソラージュ不動産】に手紙を寄越したことで発覚した。
 その後立て続けに裕福な商人を引っ掛けたが、早い段階で確認の手紙が届き被害は少なく済んだ。

「貴族相手に詐欺なんて縛り首になるって分かってないのかしら」

「1回目の時と一緒で上手く逃げ切れるとでも思ってるのかも。貴族は外聞を気にするから平民に騙されたなんて恥ずかしくて言えないとか思ってそう。
あの後何もなかったからやめたんだと思ってた」

 ソフィーは入れ立ての紅茶のカップを持ってソファに座るハンナの前に一つ置き、仕事机の角にちょこんとお尻を乗せて紅茶を一口飲んだ。

「うーん、やっぱりソフィーの紅茶は美味しい。悩みながらぼーっとしながら淹れてもこのレベル。副業ならカフェの方が良かったんじゃない?」

「コーヒーはいまいち上手に淹れられないから無理かなー。ケーキとかも下手だし・・あっ、でも出資だけ? オーナーとかなら・・一階が店舗で上がアパートになってる物件があったような・・」

 ソフィーはカップを置いて本棚から分厚い書類挟みを取り出した。ソファに座って書類をパラパラとめくっていくソフィーからは先程のどんよりした様子は掻き消え生き生きと目を輝かせている。

「えーっとこれこれ。商業地区のど真ん中で立地がいいからって結構強気の値段設定だったから保留にしてたんだけど・・店舗は2軒で今入ってるのは女性用の雑貨を売る店と・・うん、良いかも。この後現地を見てこようかな」

「ソーフィー、えーっと又手を広げる気?」

 ハンナは自分が言い出したことながらあっという間に話が進んでいく様を見て内心舌を巻いていた。

「え? ハンナが言い出したんだよ? アイデア出すなら特別ボーナスを山分け「やる! ソフィーが教育したら絶対流行る!」」

「紅茶ブレンダーとか紅茶ソムリエのいるお店ならいけるかも」

「?」

「お客様の好みに合った紅茶をブレンドして販売したり淹れるの。ケーキとかお菓子はどこかのお店と提携したら良いと思う」

「リフォーム終わるまでに教育終わらせるなら建物押さえると同時にはじめた方が良さそう。教育係には貴族の屋敷に勤めてた人で自信のある人を一時的に雇うのがベストね。ソフィーは教育係を教育するの」

 ソフィーとハンナの打ち合わせはチョコレートの箱が空になっても続いた。




 



 集まったナニーやベビーシッター経験者の研修は驚くことにハンナが担当してくれた。

「アンタはナニーがどんな仕事するのかよく分かってないでしょ? アタシがみっちり扱くからその分給料宜しく」

「私は使用人の訓練だね」

 新しく雇った使用人達はスラム出身だったり幼い頃から働く必要のある子がほとんどなので一からじっくり教育のし直しをした。

 いつの間にか(ハンナが)慈善事業として国に申請していたので税金がかなり安くなっていた。


 屋敷や庭の修繕する人・常駐する医者・ナニー・事務員、その他に簡単な調理や掃除洗濯もある。全てが揃うまでに1年以上の月日が経った。

「長かった~」

 新しくなった鉄柵の鍵を開け壁一面を覆っていた蔦がなくなった屋敷を見上げたソフィーは、クリスマスのプレゼントを貰った子供のようにキラキラした目を輝かせていた。

 綺麗に剪定された前庭にはブロックで囲まれた花壇。玄関まで真っ直ぐに伸びた道は綺麗に掃き清められ落ち葉の一つも落ちていない。

「いや、1年って早いでしょ。よく頑張ったよ」

「働いたよ。ハンナにお尻叩かれすぎて腫れてるかも」

 屋敷の玄関を開けて中に入るとやや格式ばった装飾を取り払ったホールは以前の雰囲気とは一新、明るい色調の床板とベージュの型押しされた壁紙に明るい日差しが差し込んでいた。
 一番広い部屋には木製のおもちゃの入った箱と絵本の並んだ背の低い本棚が並んでいる。元音楽室だった隣の部屋には柵のついたベビーベッドが並び、シーツや毛布を入れた大きな収納棚が据え付けられていた。

「もう一つの部屋は?」

「取り敢えず空き部屋ってか何にも入ってないの。少しずつ人数を増やしていくつもりだから様子を見て使い方を考えるつもり」

 2階に上がる階段の前には柵が取り付けてあり大人しか上には上がれない。食堂の窓側には背の低い机と子供用の椅子が並び左半分には大きなラグが敷かれている。

「なかなかいんじゃない? 最初から気合を入れて作り込んでないとこが気に入った」

「予算の関係もあるけどとにかく手探りだし。下手に手をかけすぎたら収益のバランスも悪いし」

「あんまり至れり尽くせりだと子供を預ける親が警戒するかもね」




 最初の子供が母親に手を引かれ面接にやってきた。

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