51 / 65
51.哀れな父と戦う4兄弟
しおりを挟む
「ジョシュア、この後一体どうするつもりなんだ? 陛下の前でワシは何を話せば良いのか何も聞いておらんぞ?」
(遅いわね。一体何をぐずぐずしてるのかしら。間に合わなくなっちゃう)
「お父様は何もしなくてもいいの」
「そうはいかん。爵位を譲ったとはいえ元侯爵、お前の横でボーっと突っ立っておるわけには」
「お父様が覚えなきゃいけないのは私の名前がジョージアナだって事だけ。次にジョシュアって言ったら・・覚悟するのね」
「・・ジョージアナ」
謁見室の横にある控えの間でジョージアナは父親の相手をしながら忙しなく扇子を開いたり閉じたりしていた。
(そろそろ限界だわ。私が時間を稼ぐしか)
「お父様、これを召し上がって」
「はっ? ジョシュ・・ジョージアナがワシのために持ってきたのか? そうかそうか、謁見の後にじっくりと味わうとするかな」
「だーかーらー、飲んでっ!」
「今?」
「そう、今。もしかして飲めない? 陛下への陳情の内容変えようかしら。私のこのドレス姿はお父様の性癖・・」
「分かった! 飲む、飲むからそれだけはやめてくれ。ガラス瓶なぞよく壊さずに持ち込んだものじゃ」
「全部飲んだ?」
「ああ、しかし何やらおかしな味がしたような」
「いいのいいの。気にしないで」
中身はコップ一杯程度のエールと・・カロメル。カロメルは水銀の塩化物のひとつで胃のむかつきを伴う強力な下剤。もともとお腹の弱い父親には効果絶大のはず。
謁見室の扉が開き中から謁見を終えた貴族が疲れ果てた様子で出てきた。
(次じゃん。拙い、薬は効いてこないし・・)
ジョージアナがイライラと立ち上がって控え室の扉を睨んでいると扉が開き三兄弟が紳士と淑女を伴って入ってきた。
「はぁ、なんでこんなにかかったのよ! 順番は次だし、さっき前の人は出てきたのよ」
「父上は・・まだ元気そうだな」
マーカスが眉間に皺を寄せた。
「何を言っておる。ワシはまだどこも悪くないぞ? それよりその者達は一体誰じゃ?」
ムッとする父親を見て溜め息を吐いたレオが父親に近付いた。
「ギル、後ろから押さえててくれ。父上、ちょっと・・」
ギルが父親を背後から抱えて腕を掴んだレオが父親の鳩尾を強く押した。
「ぐえっ、何をする! 離さんか!」
「レオ兄様、今のは?」
「心配ない、消化を良くするツボだ」
4兄弟が見守る中父親の顔が次第に青褪めてきた。
「拙い、はっ腹が・・」
「行ってらっしゃーい。ごゆっくりー」
ヨロヨロと部屋を出ていく父親にジョージアナが可愛く手を振った。
「あの方は大丈夫なのですか?」
「大丈夫。下剤が効きはじめただけだから」
父親に薬を盛って平然としている兄弟達にマシューとアリシアが顔を見合わせた。
「心配いりません。あの人は身体だけは丈夫ですし、この後は邪魔になるので」
平然と父親をディスったマーカスがレオに向き直った。
「俺が陛下に口上を述べてお前に引き継ぐんだな」
「ああ、マシュー殿とアリシア様はここで待機してください」
「俺は単なる添え物?」
「ジョシュアの調べだと帝国から子爵達が来ているらしい。ギルの護衛が必要になるかもしれん」
「分かった。レオの指示に従う」
「ねえ、私も行くわよ」
「ああ、お前の悪知恵は役に立つからな」
アントリム侯爵の名前が読み上げられた。4兄弟が謁見室の前に並ぶと、両開きの巨大な扉が開かれた。
緋色の絨毯を頭を下げたまま進み部屋の中央で3人は蹲踞の姿勢をとった。右手を胸に当て声がかかるのを待つ。ジョシュアは美しい所作でカーテシーをしている。
正面中央の玉座には冷たい目をした国王が鎮座しその横には宰相と大臣達が並んでいる。
「これはどう言う事だ。この度の謁見は前侯爵のショーン・アントリムの筈ではないのか?」
宰相の言葉に謁見室内がザワザワと騒めいた。
「面を上げよ。アントリム前侯爵は如何した?」
2度目の誰何で顔を上げた4兄弟。マーカスが向上を述べた。
「アントリム侯爵マーカス・アントリムと申します。国王陛下におかれましては・・「口上は不要。何故ここに其方達がおるのだ?」」
「前侯爵はつい先ほど控室にて体調を崩し、代わりに我ら4兄弟が参りました次第でございます」
「謁見の内容は王国と帝国に関わる事だとあるが」
眉間に皺を寄せた宰相が国王を気にしながらマーカスに問いかけた。国王は足を組み不機嫌そうにマーカス達を睨みつけている。
「はい、帝国より身柄の引き渡しを要求されている【ソラージュ不動産】社長ソフィーの事でございますが、詳しくは弟レオナルドよりお話しさせて頂きたいと存じます」
「その件は現在近衛にて審議中である。どこから聞き及んだのかはわからんが詮索は無用」
「アントリム侯爵家三男、聖マルセーロ騎士修道会に所属しておりますレオナルド・アントリムと申します。
我々はソフィーが無実である事を証明する為に参りました。詮議不足のままソフィーを帝国に引き渡せば王家が他国より嘲笑されることになりましょう。証人も控え室に待機させております。我らの話をお聞きになりご判断頂ければと」
「近衛の審議を受けてもあの者は真実を口にしないと申すか?」
初めて国王が口を開いた。
「はい。勾留されてから既に5日。恐らく何も聞き出せていないのではないかと」
「他の者が無実を証明できると言うに、あの者は口を開いていないと断言するか」
「はい、守りたいものがあれば人はどれほどでも強くなれますゆえ」
「ふむ、その方はあの者の意思を無視して全てを明らかにすると申すのか」
「はい、ソフィーが何を考えていようとも無実を証明し助け出す所存でございます」
「何故?」
「ソフィーに救われた多くの者達が待っております。私もその1人でございます」
「なかなかに愛らしい見た目をしていると聞いておる。惚れたか?」
「はい、振られましたが」
それまで言葉遊びをしているように見えた国王の目がほんの少し細められ口角が上がったように見えた。
「自身を振った女を追いかけて未練たらしくここまで来たか・・話してみるが良い。覚悟はできておろうな」
(遅いわね。一体何をぐずぐずしてるのかしら。間に合わなくなっちゃう)
「お父様は何もしなくてもいいの」
「そうはいかん。爵位を譲ったとはいえ元侯爵、お前の横でボーっと突っ立っておるわけには」
「お父様が覚えなきゃいけないのは私の名前がジョージアナだって事だけ。次にジョシュアって言ったら・・覚悟するのね」
「・・ジョージアナ」
謁見室の横にある控えの間でジョージアナは父親の相手をしながら忙しなく扇子を開いたり閉じたりしていた。
(そろそろ限界だわ。私が時間を稼ぐしか)
「お父様、これを召し上がって」
「はっ? ジョシュ・・ジョージアナがワシのために持ってきたのか? そうかそうか、謁見の後にじっくりと味わうとするかな」
「だーかーらー、飲んでっ!」
「今?」
「そう、今。もしかして飲めない? 陛下への陳情の内容変えようかしら。私のこのドレス姿はお父様の性癖・・」
「分かった! 飲む、飲むからそれだけはやめてくれ。ガラス瓶なぞよく壊さずに持ち込んだものじゃ」
「全部飲んだ?」
「ああ、しかし何やらおかしな味がしたような」
「いいのいいの。気にしないで」
中身はコップ一杯程度のエールと・・カロメル。カロメルは水銀の塩化物のひとつで胃のむかつきを伴う強力な下剤。もともとお腹の弱い父親には効果絶大のはず。
謁見室の扉が開き中から謁見を終えた貴族が疲れ果てた様子で出てきた。
(次じゃん。拙い、薬は効いてこないし・・)
ジョージアナがイライラと立ち上がって控え室の扉を睨んでいると扉が開き三兄弟が紳士と淑女を伴って入ってきた。
「はぁ、なんでこんなにかかったのよ! 順番は次だし、さっき前の人は出てきたのよ」
「父上は・・まだ元気そうだな」
マーカスが眉間に皺を寄せた。
「何を言っておる。ワシはまだどこも悪くないぞ? それよりその者達は一体誰じゃ?」
ムッとする父親を見て溜め息を吐いたレオが父親に近付いた。
「ギル、後ろから押さえててくれ。父上、ちょっと・・」
ギルが父親を背後から抱えて腕を掴んだレオが父親の鳩尾を強く押した。
「ぐえっ、何をする! 離さんか!」
「レオ兄様、今のは?」
「心配ない、消化を良くするツボだ」
4兄弟が見守る中父親の顔が次第に青褪めてきた。
「拙い、はっ腹が・・」
「行ってらっしゃーい。ごゆっくりー」
ヨロヨロと部屋を出ていく父親にジョージアナが可愛く手を振った。
「あの方は大丈夫なのですか?」
「大丈夫。下剤が効きはじめただけだから」
父親に薬を盛って平然としている兄弟達にマシューとアリシアが顔を見合わせた。
「心配いりません。あの人は身体だけは丈夫ですし、この後は邪魔になるので」
平然と父親をディスったマーカスがレオに向き直った。
「俺が陛下に口上を述べてお前に引き継ぐんだな」
「ああ、マシュー殿とアリシア様はここで待機してください」
「俺は単なる添え物?」
「ジョシュアの調べだと帝国から子爵達が来ているらしい。ギルの護衛が必要になるかもしれん」
「分かった。レオの指示に従う」
「ねえ、私も行くわよ」
「ああ、お前の悪知恵は役に立つからな」
アントリム侯爵の名前が読み上げられた。4兄弟が謁見室の前に並ぶと、両開きの巨大な扉が開かれた。
緋色の絨毯を頭を下げたまま進み部屋の中央で3人は蹲踞の姿勢をとった。右手を胸に当て声がかかるのを待つ。ジョシュアは美しい所作でカーテシーをしている。
正面中央の玉座には冷たい目をした国王が鎮座しその横には宰相と大臣達が並んでいる。
「これはどう言う事だ。この度の謁見は前侯爵のショーン・アントリムの筈ではないのか?」
宰相の言葉に謁見室内がザワザワと騒めいた。
「面を上げよ。アントリム前侯爵は如何した?」
2度目の誰何で顔を上げた4兄弟。マーカスが向上を述べた。
「アントリム侯爵マーカス・アントリムと申します。国王陛下におかれましては・・「口上は不要。何故ここに其方達がおるのだ?」」
「前侯爵はつい先ほど控室にて体調を崩し、代わりに我ら4兄弟が参りました次第でございます」
「謁見の内容は王国と帝国に関わる事だとあるが」
眉間に皺を寄せた宰相が国王を気にしながらマーカスに問いかけた。国王は足を組み不機嫌そうにマーカス達を睨みつけている。
「はい、帝国より身柄の引き渡しを要求されている【ソラージュ不動産】社長ソフィーの事でございますが、詳しくは弟レオナルドよりお話しさせて頂きたいと存じます」
「その件は現在近衛にて審議中である。どこから聞き及んだのかはわからんが詮索は無用」
「アントリム侯爵家三男、聖マルセーロ騎士修道会に所属しておりますレオナルド・アントリムと申します。
我々はソフィーが無実である事を証明する為に参りました。詮議不足のままソフィーを帝国に引き渡せば王家が他国より嘲笑されることになりましょう。証人も控え室に待機させております。我らの話をお聞きになりご判断頂ければと」
「近衛の審議を受けてもあの者は真実を口にしないと申すか?」
初めて国王が口を開いた。
「はい。勾留されてから既に5日。恐らく何も聞き出せていないのではないかと」
「他の者が無実を証明できると言うに、あの者は口を開いていないと断言するか」
「はい、守りたいものがあれば人はどれほどでも強くなれますゆえ」
「ふむ、その方はあの者の意思を無視して全てを明らかにすると申すのか」
「はい、ソフィーが何を考えていようとも無実を証明し助け出す所存でございます」
「何故?」
「ソフィーに救われた多くの者達が待っております。私もその1人でございます」
「なかなかに愛らしい見た目をしていると聞いておる。惚れたか?」
「はい、振られましたが」
それまで言葉遊びをしているように見えた国王の目がほんの少し細められ口角が上がったように見えた。
「自身を振った女を追いかけて未練たらしくここまで来たか・・話してみるが良い。覚悟はできておろうな」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
435
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる