【完結】婚約してる? 婚約破棄した? ところであなたはどなたですか?

との

文字の大きさ
52 / 65

52.国王の疑問とマシュー達

しおりを挟む
 レオはソフィーの生育歴や職歴、家族との関係の全てを順を追って説明した。

「つまりあの者は長年家族の誰とも関わりを持っていなかったと? 証拠は?」

「ソフィーがメイドとして支えていた主人の専属執事と侍女が控え室におります。その他に銀行取引の明細、20歳で会社を設立して後の日報と不動産会社と保育学校の帳簿一式。
16歳から20歳までの日報はございませんが必要であれば共に仕事をしていた平民2名が証人となると申しております。
本当にソフィーが詐欺の首謀者であればどこかしらに不審な金の流れがあるはず。詐欺の実行犯にそれなりの金を渡していなければなりません」

「会社など叩けばいくらでも埃が出るであろう」

「ソフィーに限ってそれはあり得ません。残念に思うほど要領が悪いので」

「要領のお・・仮にあの者を助け出せたならばその後はどうする?」

「帝国で悪事を働いた者達の身柄の引き渡しを要求し王国で裁くか、帝国に委ねるかのいずれかではないかと具申致します」




「良かろう、あの者を連れてまいれ。その間に控え室の証人とやらの話を聞こうではないか」

「陛下! お待ちください。近衛からの報告を聞いてからでも遅くはありません」

「では、団長の報告も聞こう。余の指示は不満か?」

「滅相もございません」

 宰相が目配せすると部屋の隅に控えていた補佐官が走り出した。


 マシューとアリシアが呼び出しを受け謁見室に入ってきた。
 6歳のソフィーが父親に売られたその瞬間から16歳までの詳細が語られ、父親がソフィーを売り渡した時の契約書が提出された。


 マシュー達の話が終わり近衛騎士団団長に連れられたソフィーが謁見室に入って来た。襟の詰まった長袖のドレスは足首まですっぽりと覆っている。後ろで一つに纏めた髪は紐で結ばれ蒼白な顔には傷一つない。外から見えるのは手首から先と裸足の足先のみ。

(予想通り、見えないところだけ狙ったな)


 近衛騎士団団長が腕を掴み上げてはいるが、ソフィーは背筋を伸ばしまっすぐに歩いて来た。諦念を浮かべた目・目の下のクマ、引き結ばれた口元の新しい皺、震える握り拳・・。

 大臣達にはソフィーの堂々とした態度が犯罪者の開き直りに見えるようで眉間に皺を寄せ口を歪めた。

「面を上げよ」


 顔を上げレオ達を目にしたソフィーが目を見開いた。

(なんでここに・・マシュー様やアリシア様まで)

「団長、報告を」

 宰相の声かけで団長が話しはじめた。

「連日の取り調べに対し反省の色もなく一切口を開こうと致しません。もう少し厳しく詮議するべきだと思われます」


「ソフィーと申したな。話してみよ」

「恐れながら私から申し上げることは何もございません」

「では罪を認めるか?」

「・・どうぞ陛下の御心のままに」

「そこにいる者達は皆、其方の無実の証明のために参った者達だがそれを見ても何も申さぬと?」

「話す言葉の持ち合わせがございませんので」

「このような状況になるまで親と姉を放置していたのは何故だ? 1度目に婚約者から連絡が来た時訴えることができたはず。2度目も然り。
《未必の故意》と言う言葉の意味は分かるか?」

「はい」

「幼くして事業をはじめ王都でも有数の企業に・・それだけの才覚のある其方が何故彼奴らを放置しておった」

「・・」



「言わぬか・・では仕方あるまい。全てを明らかに出来なかった此奴らには罰を与えねばならん」

「お待ち下さい! この方々は関係ありません。この方達を罰するのはおやめ下さい」

 淡々と現状を受け止め終わりが来るのを待っているだけのように見えたソフィーが突然暴れ出した。驚いた団長の手を振り解いたソフィーは床に頭を擦り付け土下座した。

「どうかお願いいたします。あの方達は何の関係もございません」

 小声で話していた大臣達はソフィーの慌てふためく様子に不審げな顔で口を閉ざし謁見室内は異様な静けさに包まれた。

「偽善であろう」
「しおらしくしておれば許されると?」
「随分と元気そうだ、近衛にしては手加減しすぎでは?」



「この者達のために土下座できる其方が何故自分の事は口を開かぬのか。
レオナルドよ、其方は理由を知っておるのであろうな」

「はい、存じております」

 ソフィーが慌てて顔を上げレオを見遣った。

(まさか、そんな事・・絶対に、絶対にダメ!)

「話が進まぬ。さてさて、どうしたものか」

 言葉とは裏腹に楽しげな顔をした国王。



「陛下にご覧頂きたい書類がございます。出来れば陛下お一人でご覧になっていただきたいのですが」

「ほう、宰相や大臣達にも見せてはならぬ書類か」

「(ああ、やっぱり)ダメ! レオ、それはやめて! お願いだから!」

「レオナルド、書類をここへ」

 レオが玉座に向けて歩き出すとソフィーが立ち上がりレオに飛びかかって書類をもぎ取ろうとした。

「うぐっ」

 レオが思わずソフィーの手を掴むとソフィーから呻き声が漏れた。

(酷い汗だ・・マズい、このままじゃ)

 左手に書類を持ち右手でソフィーの腕を掴んだままレオが囁いた。

「ソフィー、大丈夫か?」

「お願い、それを返して」

 レオの腕から逃れようと暴れるソフィーと微動だにせず心配げな顔でソフィーを見下ろすレオ。

 マシューがレオの手から書類を取り上げ国王の元に歩きはじめた。レオはマシューを追いかけようとしたソフィーをそっと抱え込んだが、ソフィーは痛む身体をものともせず拘束を逃れようと暴れた。

「マシュー様、ダメです! お願い!」

「ソフィー、これは元々私が預かっていたものだ。これを預かる時頂いたお言葉は『必要な時には使え』だった。意味は分かるね」

「分かりません! 今は必要な時じゃない!」


 ソフィーの懇願を無視してマシューは書類を国王に手渡した。






 パラパラと国王が書類を捲る音。興味津々でヒソヒソと話す大臣達。

「ああ、そんな・・ごめんなさい。ほんとにごめんなさい」

 崩れ落ちるように座り込んだソフィーを抱えるようにしてしゃがみこんだレオはソフィーの着ているドレスのあちこちに広く血が滲んでいることに気付いた。

(まだ新しい。クソっ!)



「これの詳細を知る者は青の間に参れ」

 国王の宣言を聞いたソフィーがグラっと揺れ意識を失った。






『頑張ってる孫がね・・』

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

婚約破棄されましたが、今さら後悔されても困ります

有賀冬馬
恋愛
 復讐なんて興味ありません。でも、因果応報って本当にあるんですね。あなたのおかげで、私の幸せが始まりました。  ・・・ 政略結婚の駒として扱われ、冷酷非道な婚約者クラウスに一方的に婚約破棄を突きつけられた令嬢エマ・セルディ。 名誉も財産も地に堕とされ、愛も希望も奪われたはずの彼女だったが、その胸には消せない復讐と誇りが燃えていた。 そんな折、誠実で正義感あふれる高位貴族ディーン・グラスフィットと運命的に出会い、新たな愛と絆を育む。 ディーンの支えを受け、エマはクラウスの汚職の証拠を暴き、公の場で彼を徹底的に追い詰める──。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...