【完結】婚約してる? 婚約破棄した? ところであなたはどなたですか?

との

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61.グリーンで良かった

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 緊張して顔を引き攣らせていたレオは店の入り口で久々に『ひいっ』と怯えられソフィーにくすくすと笑われた。

 広々とした店はほとんどの席が埋まっている。美しく着飾ったドレス姿の女性のつけた宝石がランプの灯りに煌めき、凝った結び目のクラバットと上品なコートの男性がワイングラスを傾けている。
 蜜蝋で艶出しした家具とテーブルに掛けられた軽やかで繊細可憐なロココレース。壁際には葉に切れ込みが入ったモンステラが置かれ幾つもの絵画が飾られている。

 2人が案内された個室にはディナンドリーと呼ばれる真鍮シャンデリアと複雑な花模様のタペストリー。ダイニングテーブルにはそれと同じ花模様が編み込まれたシルクのボビンレースがかけられ中央に一輪の薔薇が飾られている。


『ここのオーナーは無名の画家を支援しているそうで、さっき飾られていたのは全部彼らの作品なんだそうだ』

 前回の気合の入りすぎた豪奢なレストランではなくソフィーに似合う店を教えてもらったレオは足を運び店の雰囲気と料理を確認してここを選んだ。

『この間のレストランも素敵だったけどここはとても落ち着くわね。連れてきてくれてありがとう』


 セーブル焼きの繊細な皿に盛られて出てきた料理は真鴨のスープにはじまり赤ワインとチョコレートソースをかけた鹿肉のローストやキャセロール。高価なメルルーサの石窯焼きや鰻のゼリー寄せ。
 デザートは砂糖漬けのバラを飾ったアーモンドクリームとマロングラッセ。

『保存が効くからって遠征中に栗はよく食べたな。カスタニャッチョ栗と干し果物で作るパンにしたりスープにも入れたし・・』

 食の細いソフィーの前には少なめ、レオの前には豪快に盛られた皿が置かれた。


 デザートが半分くらいに減った頃テーブルに飾られた薔薇を手にしたレオが席を立ちソフィーの横に跪いた。

『この薔薇を入れると12本になる。ソフィーの気持ちを教えて欲しい』

 ソフィーを迎えに行った時手渡した薔薇が11本。

『1本の薔薇は一目惚れ。11本なら最愛の人、12本なら結婚して下さい・・合ってるかな?』

『ええ』

『愛してる。これから先ずっとソフィーのそばにいさせてくれないか?』

『門番や庭師の見習いは無理だけどピクニックのお相手としてなら』

 頬を染めたソフィーが薔薇を受け取るとポケットから出した指輪をソフィーの薬指に嵌めた。

『サイズ・・ピッタリだわ』

『宝飾店の店主から、渡す時にサイズが合わないと慌てると聞いたんでハンナに教えてもらったんだ。石は亡くなった母が俺の誕生日に贈ってくれたものなんだが気に入ってくれると嬉しい』

『ペリドットね。とても綺麗』


 レオ達の母は子供が一歳になると其々に目の色に似た宝石をプレゼントしてくれた。

 マーカスはブルーイッシュグリーンのエメラルド。生命エネルギーや運を上昇させる幸運の宝石と言われ、記憶力や直観力を高めてくれる。
 4人兄弟のうち1人だけ濃い碧眼のギルは珍しいアレキサンドライト。時によって青緑から赤色に変色する石は「高貴・光栄・出発」などを意味する。
 レオは透明度の高いオリーブグリーンのペリドット。闇を祓う太陽の宝石で知恵と分別が与えられる石と言われる。
 ジョシュアは強い色合いのネオングリーンのグリーンサファイア。石言葉は「慈愛、誠実、貞操、高潔」精神の調和やバランスを保つと言われている。

 指輪を嵌めて漸く安心したレオは大きく息を吸って立ち上がりソフィーの頬にキスをして席に戻った。


『俺は生まれたばかりの頃明るいグリーンとピンクのオッドアイだったそうなんだ。その記念にファンシーヴィヴィッドとやらのピンクダイヤモンドとペリドットを贈られたんだが今は両目ともグリーンだからペリドットにしたんだ』

 ピンクダイヤモンドは「完全無欠の愛」婚約指輪や結婚指輪には最適だが、ソフィーはペリドットの指輪を気に入った。

『両目ともピンクにならなくて良かったわね』

『ああ、この見た目でピンクの目は辛すぎる』


『そう言えばエメラルドには浮気封じの意味があるそうで、婚約中に投げつけられたってマーカスが言ってたな』

『マーカス様が浮気をしたの?』

『いや、単なる誤解だったらしい。ラッキーな事に石に傷はつかなかったらしくて今もアイリーンマーカスの妻の指に嵌まってて、マーカスが酔うと常に武器を所持してるレディの前では細心の注意が必要だって必ず言い出すんだ』

(そう言えば、石や花の意味には注意しろって言われたな)

『ペリドットの石言葉は幸福や希望だから武器にはならないわね』

 くすくすと笑いながらソフィーが指輪を光に翳し目を細めた。






 ソフィーを送りレオが屋敷に帰ってきたと同時にいつものごとく元気良く部屋に飛び込んできたジョシュアに背中を向けたままのレオがクラバットを外しながら呟いた。

「断られた」

「その割に背中がニヤけてるんですけど?」

「背中はニヤけない。門番は無理だそうだ」

 チラリと振り向いたレオは今まで見たことがないほど晴れやかな顔をしていた。

「何時も揶揄われてばかりだからな、たまには揶揄ってやろうと思ったんだが失敗したな」

「レオ兄様、おめでとう! これで漸く脱童○ね! 聖職者になるなら閨の教育は不要だって言ってたけど大丈夫かしら?」




 顔を真っ赤にしたレオはやはりジョシュアには太刀打ちできないらしい。

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