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12.夢見るおばさんと息子の暴走
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「メリッサ様は暫く事務所に泊まり込まれるそうでございますが、お手紙を預かっております」
「そうかぁ、仕事が忙しいのかもな~。へへっ、じゃあ俺も出かけてくる」
メイドから手紙を受け取った手紙をポケットに突っ込んだステファンは笑いを堪えながら部屋に駆け込んでクローゼットのドアを開けた。
(ここに置いといて騎士団が家探しなんてしたらまずいよな⋯⋯アマンダが見たら返してくれなくなりそうだし⋯⋯母上に預けておけばいいか)
ポケットに真珠のネックレスを突っ込み階段を駆け下りたステファンは馬車に乗って実家に戻ってきた。
「父上、もうお戻りだったんですか?」
「ああ、こんな時間にどうしたんだ? メリッサは家で一人なのか?」
「えっと、メリッサは仕事で商会に泊まるそうなんです。だから顔を見にきたんだけど、母上はキッチンかなぁ?」
大学に入る前からぶつぶつと文句ばかり言うようになった父親が苦手なステファンは、ジリジリと横歩きをしてキッチンに駆け込んだ。
「母上、これを預かっておいてくれないかな」
「え⋯⋯まあ、これってあのネックレスなのね。凄い、なんて綺麗なのかしら」
「誰にも見つからないように隠しておいて」
「⋯⋯え、ええ。分かったわ⋯⋯任しておいて」
貧乏な男爵家から貧乏な男爵家に嫁いだイライザには当然のことながら宝石の目利きなどできない。
「これがあれば今以上に望みが叶うんだ、絶対に無くさないで」
「えーっと、ええ分かったわ」
恭しい態度でネックレスの包みを受け取ったイライザはそそくさとベッドルームに駆け込んだ。
(凄い! 本当に取ってくるなんて。しかも一粒なんてせこい事を言わず全部⋯⋯でも、バレたらどうするつもりかしら? うーん、ステファンの事だからきっと上手に潜り抜ける作戦があるんだわ。無理してでも大学に行かせて良かったわ、あんな方と知り合って帰ってくるし)
以前、就職先の斡旋をしてもらったらどうかと言ったイライザに、自力で成功したいから奴の手助けなんていらないと言い切った息子を誇らしく思っていた。
足りない利息の支払い分を副業で稼いでくる息子の才覚がとうとう発揮される時が来たのだと確信できる手の中の重みにイライザの胸が高鳴った。
(これがなくなってメリッサの家が立ち行かなくなっても別に構わないわ⋯⋯平民のくせに貴族と結婚できただけで有難いと理解させなくちゃね。後はさっさと離婚させて⋯⋯残った資産があれば慰謝料を払わせましょう。なかったら⋯⋯どこかから借りてこさせれば良いわ、うちみたいにね。ふふっ)
手の中の包みを開いたイライザはネックレスを胸に当て、くすんだガラスに映るぼんやりした自分の姿にうっとりと見惚れていた。
(ピカピカの鏡に映してみたい⋯⋯その後社交界のパーティーに参加して⋯⋯)
自分を呼ぶ声で我に返ったイライザは慌ててクローゼットの奥にネックレスをしまった。
(あの人が明日仕事に行ってからゆっくり見れば良いわ)
久しぶりに3人で食卓を囲んだが妙にテンションの高いイライザとステファンに比べ父親のロナルドは眉間に皺を寄せたまま黙り込んでいた。
「⋯⋯ったんだよ、信じられる?」
「呆れてしまうわね、ステファンが学生の頃とは別世界みたいだわ」
「ステファン、メリッサとは上手くいってるのか?」
険しい顔のロナルドが目を細めてステファンを見た。
「⋯⋯え?」
「一度も二人で来たこともないし、お前の口から話も出ん」
「あー、メリッサは仕事ばかりでさぁ。なかなか時間が合わないんだよ」
めんどくさそうな顔のステファンが皿に乗った豆をつつきながら返事をするとロナルドの眉間の皺がますます深くなった。
「商会の顧問弁護士になると言ってたそうだが?」
「ああ、でもやめようかなあって思ってるんだよね。もっと良い仕事が見つかりそうなんだ」
「ステファ⋯⋯」
「まあ、それは良かったわ。娘が仕事から離れられないなんて商会は問題でも抱えてるんじゃないかしら。倒産とかしそうなら早めに縁を切らなくては我が家に被害が来てしまうし、平民なんてすぐに貴族の足元を見てくるから十分に気をつけなくちゃ」
「確かに! 母上の仰る通りだよ。平民のやってる商会なんて関わらないのが一番だ。早めに慰謝料をもらって離婚するのもありだよな」
「お前達、本気で言ってるのか!?」
「勿論」
「当然のことですわ。貴賎結婚なんて反対でしたもの」
「貧乏男爵と平民の結婚は貴賎結婚とは言わん。それにメリッサの父親のお陰で我が家がどれほど楽になったか⋯⋯その恩も忘れたのか!?」
「ふん、払える金があるなら全部払えばいいのに! せこくて最悪でしたね、結婚なんてしてやるんじゃなかった」
「慰謝料を払えるうちに払ってもらった方が良いんじゃないかしら? これから大変になるかもしれませんしねえ」
「そうかぁ、仕事が忙しいのかもな~。へへっ、じゃあ俺も出かけてくる」
メイドから手紙を受け取った手紙をポケットに突っ込んだステファンは笑いを堪えながら部屋に駆け込んでクローゼットのドアを開けた。
(ここに置いといて騎士団が家探しなんてしたらまずいよな⋯⋯アマンダが見たら返してくれなくなりそうだし⋯⋯母上に預けておけばいいか)
ポケットに真珠のネックレスを突っ込み階段を駆け下りたステファンは馬車に乗って実家に戻ってきた。
「父上、もうお戻りだったんですか?」
「ああ、こんな時間にどうしたんだ? メリッサは家で一人なのか?」
「えっと、メリッサは仕事で商会に泊まるそうなんです。だから顔を見にきたんだけど、母上はキッチンかなぁ?」
大学に入る前からぶつぶつと文句ばかり言うようになった父親が苦手なステファンは、ジリジリと横歩きをしてキッチンに駆け込んだ。
「母上、これを預かっておいてくれないかな」
「え⋯⋯まあ、これってあのネックレスなのね。凄い、なんて綺麗なのかしら」
「誰にも見つからないように隠しておいて」
「⋯⋯え、ええ。分かったわ⋯⋯任しておいて」
貧乏な男爵家から貧乏な男爵家に嫁いだイライザには当然のことながら宝石の目利きなどできない。
「これがあれば今以上に望みが叶うんだ、絶対に無くさないで」
「えーっと、ええ分かったわ」
恭しい態度でネックレスの包みを受け取ったイライザはそそくさとベッドルームに駆け込んだ。
(凄い! 本当に取ってくるなんて。しかも一粒なんてせこい事を言わず全部⋯⋯でも、バレたらどうするつもりかしら? うーん、ステファンの事だからきっと上手に潜り抜ける作戦があるんだわ。無理してでも大学に行かせて良かったわ、あんな方と知り合って帰ってくるし)
以前、就職先の斡旋をしてもらったらどうかと言ったイライザに、自力で成功したいから奴の手助けなんていらないと言い切った息子を誇らしく思っていた。
足りない利息の支払い分を副業で稼いでくる息子の才覚がとうとう発揮される時が来たのだと確信できる手の中の重みにイライザの胸が高鳴った。
(これがなくなってメリッサの家が立ち行かなくなっても別に構わないわ⋯⋯平民のくせに貴族と結婚できただけで有難いと理解させなくちゃね。後はさっさと離婚させて⋯⋯残った資産があれば慰謝料を払わせましょう。なかったら⋯⋯どこかから借りてこさせれば良いわ、うちみたいにね。ふふっ)
手の中の包みを開いたイライザはネックレスを胸に当て、くすんだガラスに映るぼんやりした自分の姿にうっとりと見惚れていた。
(ピカピカの鏡に映してみたい⋯⋯その後社交界のパーティーに参加して⋯⋯)
自分を呼ぶ声で我に返ったイライザは慌ててクローゼットの奥にネックレスをしまった。
(あの人が明日仕事に行ってからゆっくり見れば良いわ)
久しぶりに3人で食卓を囲んだが妙にテンションの高いイライザとステファンに比べ父親のロナルドは眉間に皺を寄せたまま黙り込んでいた。
「⋯⋯ったんだよ、信じられる?」
「呆れてしまうわね、ステファンが学生の頃とは別世界みたいだわ」
「ステファン、メリッサとは上手くいってるのか?」
険しい顔のロナルドが目を細めてステファンを見た。
「⋯⋯え?」
「一度も二人で来たこともないし、お前の口から話も出ん」
「あー、メリッサは仕事ばかりでさぁ。なかなか時間が合わないんだよ」
めんどくさそうな顔のステファンが皿に乗った豆をつつきながら返事をするとロナルドの眉間の皺がますます深くなった。
「商会の顧問弁護士になると言ってたそうだが?」
「ああ、でもやめようかなあって思ってるんだよね。もっと良い仕事が見つかりそうなんだ」
「ステファ⋯⋯」
「まあ、それは良かったわ。娘が仕事から離れられないなんて商会は問題でも抱えてるんじゃないかしら。倒産とかしそうなら早めに縁を切らなくては我が家に被害が来てしまうし、平民なんてすぐに貴族の足元を見てくるから十分に気をつけなくちゃ」
「確かに! 母上の仰る通りだよ。平民のやってる商会なんて関わらないのが一番だ。早めに慰謝料をもらって離婚するのもありだよな」
「お前達、本気で言ってるのか!?」
「勿論」
「当然のことですわ。貴賎結婚なんて反対でしたもの」
「貧乏男爵と平民の結婚は貴賎結婚とは言わん。それにメリッサの父親のお陰で我が家がどれほど楽になったか⋯⋯その恩も忘れたのか!?」
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