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18.頑張れマーサ
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「ヘックション!」
(なんか背中がゾワゾワする、風邪でも引いたかなぁ)
ケニスが領地から届いた帳簿を確認していると執事がやってきて手紙を差し出した。真っ白い封筒を受け取ってランプの灯りに翳すと隅に見慣れた紋様が押されているのが見えた。
「こんな時間に⋯⋯ゾワゾワの原因はこれかぁ」
書類を机の脇に避けて手紙の封を開けたケニスの顔が訝しげな顔から苦笑いに変わった。書かれていたのは一人の男の名前と家族構成で、最後に乱雑な文字で追伸文がついていた。
「出かけてくる」
詳しいことは何も言わずポケットに手紙を押し込んで部屋を飛び出したケニスは階段を駆け下りた。
「帳簿が⋯⋯仕方ありませんね、マーサ様にお伝えしておきましょう」
ハリー、24歳
ワッツ家の元従僕。9歳でワッツ公爵家に奉公に上がったが半年前から行方不明。3年前に通り魔に襲われた際両親は他界し妹(リリアナ、現17歳)は重傷を負い療養所へ。
弟(セオドア、現19歳)は3年前からワッツ公爵領の領主館に職を得ている。
特徴は痩せ型、濃いブロンドと翠眼。左足を少し引き摺って歩く癖あり。
追伸
下手こいてメリッサを泣かしやがったら半径5キロ以内には近寄らせねえ。ケツの穴引き締めてバリバリ働いてこい!
スラムの調査をしているメンバーが泊まっている宿に着くと休憩中の男が2人、部屋で食事をとっているところだった。
「休憩中にすまない、食べながらで構わないんだが状況を聞けるかな?」
「まだ報告できる程ではないんですが、以前奴と同じ部屋に住んでた男を酒場で見つけたんで張ってます。それ以外には奴の住処を見張ってるのと、『形の崩れた靴』を追いかけてる奴がいます」
スラムの女乞食やもぐりの娼婦たちは『危険な娘』『形の崩れた靴』などと呼ばれ真面な者は近寄りもしないが、御者はその中の一人と懇意にしていた。
「御者が消えたのと同じ頃にいなくなったんで一緒にいるんじゃないかと思ってるんですが、女達が邪魔で情報に辿り着けないでいます」
テーブルに並んだ料理を平らげながら大柄でタレ目の男が報告する横で、線の細い幼い顔立ちの男がエールを注いでケニスの前に置いた。
「ありがとう、君も気にせず食事を続けてくれていいから。少し左足を引き摺って歩く男がいたら用心して欲しいんだ。24歳、痩せ型で濃いブロンドと翠眼。従僕をしていたくらいだから多分顔立ちは整ってるはず」
「そいつは?」
「元ワッツ公爵家の従僕で半年前から行方がわからなくなってる男なんだ。もしこの辺りで見かけたら間違いなくワッツの手先だと思う」
「おい、ガンツの報告にあった奴に似てないか?」
「目を逸らしたのが気になるって言ってた奴ですね。立ち上がった時左膝を庇ってたって言ってましたから」
「明日療養所の妹について調べてくるつもりなんだが、ワッツ公爵領の弟の事は少し時間がかかると思う。何か分かったら知らせるよ」
「⋯⋯通り魔の事も調べた方がいい気がしますね。種類にもよりますが真面な療養所なら結構な金がかかりますし、妙に鼻がムズムズします」
翌日、過去の新聞を調べるために図書館に行く途中で商会に寄ったケニスは、壁に貼られた地図を睨みつけるメリッサを見て首を傾げた。
「この危険な状況で馴染みの女を連れて逃げてるのなら間違いなさそうだなあ」
「それがどうかした?」
ミゲルの事故の時逃げ出した御者の名前はヒューゴ。当時21歳だった彼は妻子を残したまま行方不明になり、妻と子供は一週間後に両親の住む田舎に越して行った。
「報告書を読んでからずっとモヤモヤしてたんだけど⋯⋯もしかして御者は奥さんに事情を説明してたからすぐに引っ越せたんだって考えたらスッキリしたんだ。
本人から事情を聞いてなかったら安否が気に掛かって普通は引っ越せないでしょ?
で、前回は御者か奥さんが別行動を望んだけど今回は一緒に行きたがった」
「そう言われてみれば⋯⋯奥さんは御者が帰ってくるのを待たなかったんだよな」
「子連れで引っ越したのが一週間後⋯⋯普通なら旦那さんが心配で引っ越しなんかできないはずだよね。イタズラを仕掛けるのを知ってたか御者が手伝うことになってたのか、それを夫婦ともが知ってた可能性が高いね。
ミゲルが夜遅くまで大学で勉強するのが習慣だったとしても、イタズラを仕掛けた特定の馬車に必ず一人で乗せなきゃいけないわけでしょう? 賭けの結果を知るためだけにアイツらがそれをずっと見張ってたとは思えないから、どこかで馬鹿騒ぎしながら報告を待ってたはずだし。
御者は脅されたか金のためかで犯行に加担したけど、ミゲルの怪我が思ったより酷くて逃げ出した」
「妻は事情を知ってて逃げる準備をしていたのなら辻褄が合うし、葬儀に顔を出さなかったのも納得がいくな。
事情を知ってたら顔なんて出せない⋯⋯と言うか、バレるのが怖いから顔を出さない」
「子供を危険に巻き込まない為に前回は別行動を選んだろうな」
今まではステファン達が仕掛けたイタズラに巻き込まれ逃げ出したのだと思っていたが、全てを知っているならこれほど長い間逃げ回っているのは納得がいく。
「捕まっても奴らが御者の減刑に力を貸すわけがないしな」
「だとすると⋯⋯」
(なんか背中がゾワゾワする、風邪でも引いたかなぁ)
ケニスが領地から届いた帳簿を確認していると執事がやってきて手紙を差し出した。真っ白い封筒を受け取ってランプの灯りに翳すと隅に見慣れた紋様が押されているのが見えた。
「こんな時間に⋯⋯ゾワゾワの原因はこれかぁ」
書類を机の脇に避けて手紙の封を開けたケニスの顔が訝しげな顔から苦笑いに変わった。書かれていたのは一人の男の名前と家族構成で、最後に乱雑な文字で追伸文がついていた。
「出かけてくる」
詳しいことは何も言わずポケットに手紙を押し込んで部屋を飛び出したケニスは階段を駆け下りた。
「帳簿が⋯⋯仕方ありませんね、マーサ様にお伝えしておきましょう」
ハリー、24歳
ワッツ家の元従僕。9歳でワッツ公爵家に奉公に上がったが半年前から行方不明。3年前に通り魔に襲われた際両親は他界し妹(リリアナ、現17歳)は重傷を負い療養所へ。
弟(セオドア、現19歳)は3年前からワッツ公爵領の領主館に職を得ている。
特徴は痩せ型、濃いブロンドと翠眼。左足を少し引き摺って歩く癖あり。
追伸
下手こいてメリッサを泣かしやがったら半径5キロ以内には近寄らせねえ。ケツの穴引き締めてバリバリ働いてこい!
スラムの調査をしているメンバーが泊まっている宿に着くと休憩中の男が2人、部屋で食事をとっているところだった。
「休憩中にすまない、食べながらで構わないんだが状況を聞けるかな?」
「まだ報告できる程ではないんですが、以前奴と同じ部屋に住んでた男を酒場で見つけたんで張ってます。それ以外には奴の住処を見張ってるのと、『形の崩れた靴』を追いかけてる奴がいます」
スラムの女乞食やもぐりの娼婦たちは『危険な娘』『形の崩れた靴』などと呼ばれ真面な者は近寄りもしないが、御者はその中の一人と懇意にしていた。
「御者が消えたのと同じ頃にいなくなったんで一緒にいるんじゃないかと思ってるんですが、女達が邪魔で情報に辿り着けないでいます」
テーブルに並んだ料理を平らげながら大柄でタレ目の男が報告する横で、線の細い幼い顔立ちの男がエールを注いでケニスの前に置いた。
「ありがとう、君も気にせず食事を続けてくれていいから。少し左足を引き摺って歩く男がいたら用心して欲しいんだ。24歳、痩せ型で濃いブロンドと翠眼。従僕をしていたくらいだから多分顔立ちは整ってるはず」
「そいつは?」
「元ワッツ公爵家の従僕で半年前から行方がわからなくなってる男なんだ。もしこの辺りで見かけたら間違いなくワッツの手先だと思う」
「おい、ガンツの報告にあった奴に似てないか?」
「目を逸らしたのが気になるって言ってた奴ですね。立ち上がった時左膝を庇ってたって言ってましたから」
「明日療養所の妹について調べてくるつもりなんだが、ワッツ公爵領の弟の事は少し時間がかかると思う。何か分かったら知らせるよ」
「⋯⋯通り魔の事も調べた方がいい気がしますね。種類にもよりますが真面な療養所なら結構な金がかかりますし、妙に鼻がムズムズします」
翌日、過去の新聞を調べるために図書館に行く途中で商会に寄ったケニスは、壁に貼られた地図を睨みつけるメリッサを見て首を傾げた。
「この危険な状況で馴染みの女を連れて逃げてるのなら間違いなさそうだなあ」
「それがどうかした?」
ミゲルの事故の時逃げ出した御者の名前はヒューゴ。当時21歳だった彼は妻子を残したまま行方不明になり、妻と子供は一週間後に両親の住む田舎に越して行った。
「報告書を読んでからずっとモヤモヤしてたんだけど⋯⋯もしかして御者は奥さんに事情を説明してたからすぐに引っ越せたんだって考えたらスッキリしたんだ。
本人から事情を聞いてなかったら安否が気に掛かって普通は引っ越せないでしょ?
で、前回は御者か奥さんが別行動を望んだけど今回は一緒に行きたがった」
「そう言われてみれば⋯⋯奥さんは御者が帰ってくるのを待たなかったんだよな」
「子連れで引っ越したのが一週間後⋯⋯普通なら旦那さんが心配で引っ越しなんかできないはずだよね。イタズラを仕掛けるのを知ってたか御者が手伝うことになってたのか、それを夫婦ともが知ってた可能性が高いね。
ミゲルが夜遅くまで大学で勉強するのが習慣だったとしても、イタズラを仕掛けた特定の馬車に必ず一人で乗せなきゃいけないわけでしょう? 賭けの結果を知るためだけにアイツらがそれをずっと見張ってたとは思えないから、どこかで馬鹿騒ぎしながら報告を待ってたはずだし。
御者は脅されたか金のためかで犯行に加担したけど、ミゲルの怪我が思ったより酷くて逃げ出した」
「妻は事情を知ってて逃げる準備をしていたのなら辻褄が合うし、葬儀に顔を出さなかったのも納得がいくな。
事情を知ってたら顔なんて出せない⋯⋯と言うか、バレるのが怖いから顔を出さない」
「子供を危険に巻き込まない為に前回は別行動を選んだろうな」
今まではステファン達が仕掛けたイタズラに巻き込まれ逃げ出したのだと思っていたが、全てを知っているならこれほど長い間逃げ回っているのは納得がいく。
「捕まっても奴らが御者の減刑に力を貸すわけがないしな」
「だとすると⋯⋯」
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