【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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17.まるで他人事のように

 イライザがドレスやアクセサリーを見せびらかして優越感に浸り幸せを満喫した日の夕方、ロナルド・コークはルーカスの元を訪れていた。

 商会員に案内されたのは派手ではないが重厚な家具と風景画が飾られた応接室で、高級品を見慣れていないロナルドの目から見ても明らかに一級品と分かる品ばかり。

 居心地が悪そうにソファに座っているロナルドは部屋を見回しながら溜息をついた。

(わしが間違っていたんだろうな。分不相応な願いを持った⋯⋯いや、その前に子育ても妻の教育にも失敗したところから)

 カチャリとドアが開いてルーカスとお茶を運んできた女性の事務員が入ってきた。芳しい紅茶の香りが漂い銀のスプーンが添えられ、横に並べられた茶菓子はロナルドが見たことのないものばかり。

(貴族と言っても最底辺の男爵で借金の支払いで青息吐息のわしと平民でも商会を切り盛りし財を成しているこの男⋯⋯。どちらが上か考える必要もなかったな)

「今日はどういったご用件でしょうか?」

 冷ややかとは言えないが親しみも感じられないルーカスの態度に、ロナルドは謝罪をしても受け入れてもらえないのではないかと不安に駆られた。

「⋯⋯今日は詫びを言いにきました。うちの息子が財産狙いでお嬢さんに近付いたことにはじまり、数々の非礼をしてきた。どうやって償えば良いのか、償う方法があるのかも分からんのですが⋯⋯」

 勧められた紅茶に手を出すこともせず訥々と謝罪を口にするロナルドにルーカスの目が冷たくなっていった。

「コーク家で何かあったのですか、それとも愚痴を言いにこられたのですか?」

「いや、そう言うわけでは⋯⋯借金に追われて人として大事な事を忘れておった自分から目を逸らせなくなったのです。息子をあのように育ててしまったのも妻の行動を諌めることもできなかった。その失敗を人に押し付けるような真似をしてしまい、申し訳ないと思っております」

「なんの対策も立てず行動も起こさず⋯⋯謝罪に来られただけのようにお見受けいたしますが、ご自身の中の罪悪感を和らげるために私どもの時間を利用されては困ります」

 俯き加減でいたロナルドが顔を上げてテーブルに身を乗り出した。

「離婚を申し立ててはいただけませんでしょうか? これ以上人様にたかるのをやめさせねばならんと思うのですが、息子や妻には何を言っても理解できんだろうと思うのです」

「細君やご子息の行いを咎めることもなく私達にそれを望まれるのはいささか虫が良すぎませんかな。それにどうもご自身の非は家族を止められなかったことだけだと思われているご様子⋯⋯借金の肩代わりをお断りした時や花嫁代を断られた時の言動を思い出されては如何ですか? 『平民の行き遅れ』を貰ってやると言われたのも、娘の持参金を先払いしろと仰られたのもご子息だけではなかったと記憶しております」

 足を組んで目を細めて睨むルーカスの前で冷や汗を垂らしたロナルドが足を震わせた。

「あ、あの時は借金の事で頭がいっぱいで」

「離婚程度で済む問題であれば良いのですが⋯⋯一度くらいはご子息や細君の行いを問いただされては如何ですか? その様子では結婚式の後からご家族がどのような暮らしをしておられるのかさえご存知ないのではありませんか?」

「メリッサ殿に対して失礼な態度をとっておることは想像がついております。昨夜帰ってきた時の言動は酷いものでしたし、妻はそれをまるで煽るような素振りでした」

「⋯⋯他家の考えや方針を批判するつもりも意見するつもりもありませんが、正直に申し上げるなら考えが甘すぎると言わざるを得ません。こんなところで自己憐憫に浸っているふりをされるより、ご家族で腹を割って話し合われる方が先だと思います」

「そ、それは一体どう言う意味でしょうか?」

 ロナルドがテーブルに勢いよく手をつくとカップがガチャガチャと音を立てた。

「それをこちらから親切にご説明する義理があるとは思えません。申し訳ありませんがこの後人と会う約束がありますので」

 席を立ったルーカスは応接室のドアを開け、ロナルドが出ていくのを待った。



 放心状態のロナルドが肩を落として帰って行き、隣の部屋からメリッサが顔を出した。

「お疲れ様~、なんか疲れ果ててたね」

「ほっときゃいい、自業自得ってやつだからな」

「まあねぇ⋯⋯でも、ちょっと可哀想な気もしない?」

「絶対に甘やかすなよ、ああいう奴はなすぐにつけあがるんだよ。状況が悪くなってそうだから保身に走っただけで、本当になんとかしたいと思ってりゃここに来る前に女房と息子を怒鳴りつけてる。それをせずにここにきたのは自分だけは助かりたいと思ってるってことだ」

「⋯⋯そうなの?」

「ああ、俺達が離婚だって言い出した時に『あいつらのせいだ、俺は関係ない!』って言う為の布石だよ。メリッサは甘いからなぁ、もし変に手助けしようとしたらケツを引っ叩くからな」

「うん、分かった。父さんに叩かれたら当分椅子に座れなくなりそうだもの」

「そんときゃケニスがクッションがわりになるって言いそうだ」

 ルーカスが途轍もなく嫌そうな顔をした。



「ヘックション!」

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