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20.久しぶりにクズ登場
数日ぶりに屋敷に戻って来たメリッサは執務室に篭って執事から報告を受けていた。
「そう、絵画を⋯⋯それでどうしたの?」
「はい、この屋敷の家具や美術品は全て資産として記載されているのでルーカス様の許可なく持ち出すと罪に問われる可能性があると申し上げましたところ諦められたようです」
「ありがとう、ライルのお陰でステファンにこれ以上罪を重ねさせずに済んだわ」
執事のライルは小さく笑みを浮かべ右手を胸に当てた。
「恐れ入ります」
この屋敷の使用人は執事以外は全て別棟に寝泊まりしているか通いでやってくる者ばかりだが、昼前の今は忙しそうに洗濯や掃除をするメイド達や昼食を作っている料理人達がいる。
ノックされた気配もなく執務室のドアが開いて壁にぶち当たり大きな音を立てた。
「おい、夫の俺様を放置したまま何をやってるんだ!?」
目を吊り上げて怒鳴るステファンからはほのかに酒の匂いが漂っていた。
(まだ午前中なのに?)
メリッサがチラリと見上げたライルは小さく肩をすくめ冷めた目でステファンに背を向けた。
「ステファン、お仕事はどうしたの?」
「は、久しぶりに帰っていたと思ったら仕事? あんなバカバカしい事やってらんねぇから辞めてやった」
大袈裟なそぶりで両手を広げ肩を竦めたステファンは少しよろめいて壁にもたれかかった。
「次の仕事がはじまるまで生活の面倒を見るのは妻の仕事だよなあ?」
(あー、そうきたかあ)
「いいえ、生活費は別って約束だもの。請求書への支払いもなるべく早くしてもらわなくちゃね⋯⋯今少し困ったことになっていて⋯⋯⋯⋯そうだわ、ステファンに少し相談に乗ってもらおうかしら? もし顧問弁護士になるなら予行演習のようなものにもなるし、生活費ではなくて相談料なら払ってもいいし。
そろそろ料理も出来上がる頃だから、ワインを飲みながら聞いてもらえるかしら?」
「あ? いいぜ~、その代わり相談料はたんまり払って貰うがな~」
「勿論よ、専門家の知識なら有料ですもの」
メリッサとステファンが食堂に移動すると直ぐに料理が並べられ、ライルがワインを持って来た。
「へぇ、ケチ臭え平民の割にいいワインじゃねぇか」
(思ったより酔っ払ってるみたい。これなら⋯⋯)
「相談料の一部だと思って好きなだけ飲んでもらえたら嬉しいわ」
ライルがグラスに注いだワインを一気飲みしたステファンはボトルをもぎ取って自分のグラスになみなみと注ぎ、ライルを手で追い払った。
「邪魔なんだよ、ちまちま注いでめんどくせえ」
食堂のドアを開けたままライルが退席したのを横目に見たメリッサは俯いて笑いを堪えた。
(夫婦(偽)だからってことかな、ここで聞いてますっていう合図かも)
「んで~、何があったんだ」
バカにしたようにヘラヘラと笑うステファンの前でメリッサは小さな溜息をついた。
「この間この屋敷に泥棒が入ったらしくて⋯⋯お客様から預かってた物がなくなったの」
「へぇ~、その割にここには誰もきてねえみたいだよなぁ」
ワイングラスに伸ばした手を止めたステファンが目を細めてメリッサの様子を窺った。
「お客様が公にしたくないって⋯⋯でも、何があったのか皆目見当がつかなくてどうやって探せばいいのか」
「⋯⋯ふーん、なんか後ろ暗いことでもあって騒げねぇってことだよな。なら、ほっときゃいいじゃん」
安心したように満面の笑みを浮かべたステファンがグラスのワインを一気に飲み干した。
(ステファンって酔うと言葉遣いが破落戸みたいになるんだよね、分かりやすくていいわぁ)
「そうはいかないわ、凄く高価な品なんだもの」
「なら商会の金で弁償したらいんじゃね? あ、それで商会が潰れても俺に手助けしろとか言うなよな⋯⋯あー、待てよ。そうなる前に『賭け』を終わらせねえとなぁ。あの島でやるって言っちまったし、準備やらなんかで結構金がいるんだ。その金は先に貰っとかねえとな」
ワインを注ごうとしてボトルに伸ばしたステファンの手が宙を切ったのを見たメリッサは、代わりにボトルを持ってグラスにたっぷりとワインを注いだ。
ごくごくとステファンの喉が鳴るのを確認したメリッサが意を決して話を振った。
「そうね、約束は守らなくちゃ⋯⋯途中でなし崩しに終わったら前の馬車の件みたいになっちゃうものね」
「ああ、二度とあんなのはごめんだぜ。期待してたのに結果がわかんねえとかマジふざけんなだよなぁ」
「どんなイタズラだったの? ステファンが考えたなら結構知恵を使ったんでしょ?」
「は! 俺様ならあんなヘマなんかしねえよ。アレはなぁ、お偉~いメイルーン様のミスだな」
「なんか面白そう⋯⋯どんな方法だったの?」
「⋯⋯ダメダメ! これだけは言えねー」
「もし仮に犯罪だったとしても、夫婦なら証言能力がないって知ってるでしょ?」
「⋯⋯えーっと、そうだっけ?」
「未来の弁護士様なのにねぇ⋯⋯」
「そう、絵画を⋯⋯それでどうしたの?」
「はい、この屋敷の家具や美術品は全て資産として記載されているのでルーカス様の許可なく持ち出すと罪に問われる可能性があると申し上げましたところ諦められたようです」
「ありがとう、ライルのお陰でステファンにこれ以上罪を重ねさせずに済んだわ」
執事のライルは小さく笑みを浮かべ右手を胸に当てた。
「恐れ入ります」
この屋敷の使用人は執事以外は全て別棟に寝泊まりしているか通いでやってくる者ばかりだが、昼前の今は忙しそうに洗濯や掃除をするメイド達や昼食を作っている料理人達がいる。
ノックされた気配もなく執務室のドアが開いて壁にぶち当たり大きな音を立てた。
「おい、夫の俺様を放置したまま何をやってるんだ!?」
目を吊り上げて怒鳴るステファンからはほのかに酒の匂いが漂っていた。
(まだ午前中なのに?)
メリッサがチラリと見上げたライルは小さく肩をすくめ冷めた目でステファンに背を向けた。
「ステファン、お仕事はどうしたの?」
「は、久しぶりに帰っていたと思ったら仕事? あんなバカバカしい事やってらんねぇから辞めてやった」
大袈裟なそぶりで両手を広げ肩を竦めたステファンは少しよろめいて壁にもたれかかった。
「次の仕事がはじまるまで生活の面倒を見るのは妻の仕事だよなあ?」
(あー、そうきたかあ)
「いいえ、生活費は別って約束だもの。請求書への支払いもなるべく早くしてもらわなくちゃね⋯⋯今少し困ったことになっていて⋯⋯⋯⋯そうだわ、ステファンに少し相談に乗ってもらおうかしら? もし顧問弁護士になるなら予行演習のようなものにもなるし、生活費ではなくて相談料なら払ってもいいし。
そろそろ料理も出来上がる頃だから、ワインを飲みながら聞いてもらえるかしら?」
「あ? いいぜ~、その代わり相談料はたんまり払って貰うがな~」
「勿論よ、専門家の知識なら有料ですもの」
メリッサとステファンが食堂に移動すると直ぐに料理が並べられ、ライルがワインを持って来た。
「へぇ、ケチ臭え平民の割にいいワインじゃねぇか」
(思ったより酔っ払ってるみたい。これなら⋯⋯)
「相談料の一部だと思って好きなだけ飲んでもらえたら嬉しいわ」
ライルがグラスに注いだワインを一気飲みしたステファンはボトルをもぎ取って自分のグラスになみなみと注ぎ、ライルを手で追い払った。
「邪魔なんだよ、ちまちま注いでめんどくせえ」
食堂のドアを開けたままライルが退席したのを横目に見たメリッサは俯いて笑いを堪えた。
(夫婦(偽)だからってことかな、ここで聞いてますっていう合図かも)
「んで~、何があったんだ」
バカにしたようにヘラヘラと笑うステファンの前でメリッサは小さな溜息をついた。
「この間この屋敷に泥棒が入ったらしくて⋯⋯お客様から預かってた物がなくなったの」
「へぇ~、その割にここには誰もきてねえみたいだよなぁ」
ワイングラスに伸ばした手を止めたステファンが目を細めてメリッサの様子を窺った。
「お客様が公にしたくないって⋯⋯でも、何があったのか皆目見当がつかなくてどうやって探せばいいのか」
「⋯⋯ふーん、なんか後ろ暗いことでもあって騒げねぇってことだよな。なら、ほっときゃいいじゃん」
安心したように満面の笑みを浮かべたステファンがグラスのワインを一気に飲み干した。
(ステファンって酔うと言葉遣いが破落戸みたいになるんだよね、分かりやすくていいわぁ)
「そうはいかないわ、凄く高価な品なんだもの」
「なら商会の金で弁償したらいんじゃね? あ、それで商会が潰れても俺に手助けしろとか言うなよな⋯⋯あー、待てよ。そうなる前に『賭け』を終わらせねえとなぁ。あの島でやるって言っちまったし、準備やらなんかで結構金がいるんだ。その金は先に貰っとかねえとな」
ワインを注ごうとしてボトルに伸ばしたステファンの手が宙を切ったのを見たメリッサは、代わりにボトルを持ってグラスにたっぷりとワインを注いだ。
ごくごくとステファンの喉が鳴るのを確認したメリッサが意を決して話を振った。
「そうね、約束は守らなくちゃ⋯⋯途中でなし崩しに終わったら前の馬車の件みたいになっちゃうものね」
「ああ、二度とあんなのはごめんだぜ。期待してたのに結果がわかんねえとかマジふざけんなだよなぁ」
「どんなイタズラだったの? ステファンが考えたなら結構知恵を使ったんでしょ?」
「は! 俺様ならあんなヘマなんかしねえよ。アレはなぁ、お偉~いメイルーン様のミスだな」
「なんか面白そう⋯⋯どんな方法だったの?」
「⋯⋯ダメダメ! これだけは言えねー」
「もし仮に犯罪だったとしても、夫婦なら証言能力がないって知ってるでしょ?」
「⋯⋯えーっと、そうだっけ?」
「未来の弁護士様なのにねぇ⋯⋯」
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