【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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41.信用に値するかどうか

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「先程は大変失礼致しました」

 マルティン枢機卿は深々と頭を下げた後、爽やかな顔でメリッサの方に身を乗り出した。

「機嫌を取って私利私欲を満たそうとする者ばかりを相手にしておりまして⋯⋯自分でも失礼な態度をとっていると承知していてやめられないんですよ。ご無礼の段ひらにご容赦下さい」

 唖然としているメリッサとケニスの顔を見遣って一瞬申し訳なさそうな顔をしたマルティンだったが、背を伸ばして座り直しキラキラと輝く目をメリッサに向けた。

「いやぁ、今日は久しぶりに良い方達に会えて最高の気分です。因みに私は枢機卿ではありますが聖職者ではありません。あまり知られてはおりませんが⋯⋯プレステア教の規定では『枢機卿は信者の男性であれば誰でも』良くてですね、枢機卿団には他にも二人ただの信者がおります」

 作り物のようだった顔には少し笑い皺があり白い歯を見せて豪快に笑う様子には威厳が感じられないが、代わりに親しみやすさがあった。

「年齢や見た目でプレステア教の魑魅魍魎には舐められてしまうものですから、普段はフードを被って極力口を開かないようにしておりまして、今日はスッピンというのもあって緊張しておりました」

 予想外の展開に驚いているとマルティンは更に驚くような言葉を口にした。

「同僚のその男の一人はフェリントス商会の調査員なんですが、そいつを見てると商会の力とは侮れんどころか恐ろしいと常々思っているのです。
それが『モートン商会に比べたらマシだ』などと言うもんで適当に誤魔化しやがってと内心鼻を鳴らしておりましたが、先日の情報操作の手際をみて納得しました。
メイルーン⋯⋯ サマネス枢機卿が聖職者達を街道や街に配置した途端一つ目の噂が流れて捜査は難航した上に、二つ目の噂で反感を持つ者達が無言の行をはじめてしまったものですからもうビックリです。
捜査は完全に暗礁に乗り上げてすごすごと引き返すしかなくなった。
あまりの手際の良さに腹を抱えて笑ってしまいました」

 思い出し笑いをしているマルティンは一人で盛り上がりながら驚くような話をどんどん暴露していった。

「そんなモートン商会の方からの面会だと聞いて舞い上がってしまいまして、何が一番誠意を見せられるかなぁと考えてローブなしで来たんですがまるッと失敗でした。緊張感が半端なくて⋯⋯超恥ずかしかったんでいい年して目も合わせられなくなるとは思いもよりませんでした」

 ガシガシと頭を掻く姿はまるで人懐こい大型犬のようで出会い頭の人形とは似ても似つかない。

「俺⋯⋯私はある方からプレステア教を丸裸にしろと言われて潜入してまして。
漸くルディ・サマネス枢機卿を潰す証人を確保できたんで騒ぎ立てているところなんですけど、フェリントス商会の奴に協力を頼んだら断られて⋯⋯凹んでたらモートン商会から内密の連絡がきたって言われて舞い上がってました」

「もしかして、押し付けられたとか」

 うっかり口に出してしまったが散々罵倒した後だし⋯⋯と開き直ったメリッサは何もなかったように平然と『淑女の笑み』を浮かべた。

「メリッサ様、マジで最高です! 別に罵倒されたい癖とかないですよ、ただこんなにはっきり言われるとスッキリ爽快と言いますか。できれば交際を申し込みたいくらいで⋯⋯」

 ケニスの方から地面まで凍りつかせるような殺気が流れてきて、マルティンが言葉を詰まらせた。

「不穏なお言葉は控えていただけますでしょうか。今回の会合を混乱させたり不調に終わらせるのはお互いのためにならないと申し上げておきます」

 久しぶりに聞いたケニスの腹の底から響くような低い声は本気で相手を威嚇しようとしている時だと知っているメリッサは少し首を傾げて揶揄うように微笑んだ。

「今のところ人妻(偽)ですし、誰かと親密なお付き合いなんてしたら⋯⋯えーっと、それも不倫になるのかしら。ケニス、どう思う?」

「え、ふっ不倫?」

「人妻⋯⋯しかも、なんで(偽)がつく?」

「この件は帰り道でゆっくり議論しましょう。で、本題に戻って構いませんかしら?」

 唖然とするケニスと首を傾げたマルティンを放置してメリッサは話を進めた。

「ルディ・サマネス枢機卿がまだ司教になったばかりの頃犯罪の隠蔽の見返りに領地の所有権を奪ったのはご存知ですか? 公の登録名はランクル子爵ですが大学の卒業祝いだと言ってジョージ・メイルーン司祭に譲られています」

 父から渡された報告書の写しをテーブルに置いてマルティンの方に少し押し出すと、書類を手に取り真剣な顔で読みはじめた彼の眉間に深い皺が刻まれた。

「⋯⋯マジか。初夜権の行使に抵抗した領民を複数殺害⋯⋯いつの時代の話だよ、バカじゃねえの? ⋯⋯念書が⋯⋯ランクル⋯⋯ランクル子爵って」

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