【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

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42. ロジャー・マルティンVSケニス・ラインフェルト

「七代前のワッツ公爵家三男ビリー・ワッツはワッツ公爵家から従属爵位を貰いランクル子爵を名乗りはじめましたが、領地に籠り一切表舞台に出てきませんでした。王家にはその後平民の娘との婚姻や嫡男の誕生などが報告されていますが、領民でさえ当主一家に会ったことがないまま代替わりをしています」

 ケニスのよく通る声にマルティンが陶然としている様に見えてメリッサは必死で笑いを堪えた。

(この人ってクルクル表情の変わる子供みたい)

「それってもしかして⋯⋯」

「不思議なことにビリー・ランクルを含めそれ以降当主となった方達は爵位を継承すると同時に全員が病気療養中と届出を出し、全ての手続きを執事に代行させています。
そのような状況でも王家から毎回認可がおりたのは教会のバックアップがあったからです」

 ランクル子爵家の執事職は世襲制のように親から子に受け継がれ領地の経営から納税に至るまでの一切を取り仕切っているが、教会はランクル子爵家で爵位継承が行われるたびに病気療養の件とあわせて執事の当主代行についても認可がおりるように働きかけていた。

「子爵領の収入は長年サマネス枢機卿に届けられていましたが、今はその全てをメイルーンが受け取っています。子爵家の念書と裏帳簿は手に入れました。
因みに現ランクル子爵には元使用人でさえ会った事がないと言っています」

「サマネス枢機卿がフェリントス商会から多額の融資を受けたのはその収益がなくなったからで、メイルーンは自分の為なのに助けないって事?」

「昔に比べると税収がかなり落ち込んでいるのでメイルーンが協力を渋っているのかもしれませんね。メイルーンの趣味は非常に金がかかるので父親を助ける余裕はないでしょうし」

「確かに⋯⋯その帳簿や念書をいただく事は可能でしょうか」

「今のところ信頼に値する方かどうか疑問に思っておりますから⋯⋯帳簿と念書は写しが限界かしら。
ご存知のように私は商人でございますので、それ以上はギブ&テイクと参りましょう。
マルティン枢機卿が提示されたものに見合うだけのものをご準備致します。証人でも証拠でも⋯⋯まだ公になっていない悪事の情報でも」



 マルティンとの会合を終わらせたメリッサとケニスは休む暇なく一路王都へ馬車を走らせていた。

「色んな意味で変わった人だったね」

「最初はやっぱりプレステア教の枢機卿なんてこんなもんかって思ったけど、あんな変わり種がいるなんて驚きだったなぁ。誰の指示で動いてるのか分からないけど、プレステア教も変わっていくかもな」

「どうして聞かなかったの? 貴族としてはそう言う情報って大事なのかと思ってた」

「聞けば巻き込まれそうだと思って。今回の件は別だけど、それ以外には関わりたくないからね」

「マルティン枢機卿はケニスに興味津々に見えたから逃げられないんじゃないかなぁ」

 メリッサの予言に近い揶揄いにケニスが顔を顰めた。

「今回だけの関わりで終わるはずだよ。マルティンの仕事場と俺達の住む場所は距離がありすぎるからね」

 かなりうんざりした顔のケニスが『うーん』と言いながら背伸びをした。

「プフッ! ケニスの顔が必死すぎてウケる⋯⋯そんなに嫌なの?」

「当然だろ? 上手く誤魔化したつもりだろうけど腹に一物あるのがバレバレだったからね。演技力不足を言葉で埋めるってどんな三文役者かって呆れて見てたんだ。そのせいで言わなくてもいい事を喋る羽目になってたし、かなりしつこそうだけど絶対無理だね」

「ふむ、ケニスって頭いいのね。父さんがケニスと一緒に行くのを許してくれたのはそのせいかも」

 人に優しいと言えば聞こえは良いがそのせいでしょっちゅう苦境に立たされるメリッサ。本人は気にしていないが周りはいつもハラハラしてばかりで、今回も心配したケニスが同行したいと手を上げてルーカスからの許可を無理矢理もぎ取った。

『手え出したら⋯⋯分かってんだろうな』

『やだなぁ、出しませんよ⋯⋯まだ』

 そんなやりとりがあった事など全く知らないメリッサは父親へのお土産が買えないか目を皿にして窓の外を見続けていた。



 久しぶりに屋敷に帰ってきたメリッサが温かい湯に浸かって呑気に鼻歌を歌っているとガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえた。

「お~い、メリッサぁ⋯⋯旦那様のお帰りだぞぉ~」

(げっ、ベロベロに酔ってるじゃない)

 結婚式の前からメリッサは屋敷の至る所に鍵をつけたが、ステファンの鍵開けのテクニックがプロ並みだと判明してから鍵を増やした。

(まさか使用人の前で錠前破りはしないだろうし⋯⋯内鍵も取り付けたから開けられないけど、結構音って響くんだ)

 ドアを叩いたり蹴ったりしながら大声で怒鳴るステファンの声と宥める執事の声が聞こえてきた。

「うっせえなぁ! 俺様が帰ってきてやったんだぞぉ、お出迎えぐらいしろって~の」

「お疲れ様です、お部屋にワインとナッツでもお持ちいた⋯⋯」

 執事の努力が実り呂律の回っていないステファンの声が遠くなっていき、メリッサは湯船の中で安堵の溜息をついた。

(これが終わったらライルにはしばらくお休みをあげなくちゃね)

 自分が出かけている間もきっと今のように苦労をかけていたのだろうと思い、ライルには温泉旅行をプレゼントすると心に決めたメリッサだった。



「さっきは大変だったわね、いつもあんな風にライル達に迷惑をかけてるの?」

「滅多にお戻りになられることはありませんし、たまにお帰りになられてもメリッサ様の不在をお知りになるとまたお出かけになられる事の方が多いのでご心配には及びません」

「アマンダを連れて来たりはしないの?」

「はい、今までは馬車の中から降りて来たことは一度もございませんでした。ただ、今後は気をつけたほうがいいかもしれませんね」

「と言うと?」

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