【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

文字の大きさ
44 / 97

43.ロナルド・コーク&イライザは似た者夫婦

「見るからに不審な男が時折屋敷を覗くようになりましたので、確認しましたらステファン様と愛人の借金取りでした。旦那様にご報告申し上げ何度も注意していただいたのですが一向に収まらないようです」

 メリッサから思っていたほどには金を引き出せず屋敷の家財にも手が出せないステファン達は商会の名前でツケが利く店ばかりを使っていたが、今までに使った金の清算が終わるまではツケ払いを禁止すると言い渡してある。

 その日から外食も買い物もできなくなったステファン達は商会の名前を出して借金をしようとしはじめたが、商会からの通達を受け取った真面な店はステファン達を相手にしない為闇金などの危ない店から金を借りまくっている。

「後で話してみるわ」

「あのような輩は何をしでかすかわかりません。ご無理だけはなさいませんように」

(本当に何を考えてるのか理解できない⋯⋯負けないと思い込んで商会を賞品にしたのかもだけど、負けたら一文なしどころじゃ済まない。メイルーンがステファンの願いを断ったら無職のままだから支払いのあてもない上に真珠だけ奪われて捨てられるか、模造品だとバレて報復を受けるか)

「罪を重ねまくってるから牢に繋がれる未来しかないのは仕方ないけど、頭を冷やすべきだと話すくらいの誠意は見せてあげたいのよね」

「このままだと悪事が公になる前に闇金業者に捕まってしまいそうで心配しております」

 ライルのもっともな意見にメリッサは首を縦に振った。

「どんな事をしてもメイルーンを引き摺り出すまでは無事でいてもらわなくちゃ」



 その頃、イライザは髪を振り乱して家の中を歩き回っていた。家の外には怪しげな風貌の男が彷徨き何回もドアが叩かれたり罵声が聞こえてきたり⋯⋯。

「買い物できないってどう言うことよ! 支払いがほんの少し遅れただけでうるさくつきまとうし。これじゃあ外にも出られないじゃないの!!」

 借金取りが彷徨くようになってから仕事場で寝泊まりするようになった夫を罵り、家に寄り付かなくなった息子に連絡する術に頭を悩ましていたイライザは諦めたようにベッドルームに向かった。

「また買えばいいんだもの。少しだけ売り払って利息分だけ準備したらメリッサに買い戻させてやるわ!」

 クローゼットを開けてほんの数回しか着ていないドレスや買ったばかりのアクセサリーをいくつか取り出した。

「向こうの屋敷に住めるように着替えも準備しようかしら? 食事も何もかも使用人がしてくれる⋯⋯平民と暮らすなんて嫌だったけど暫く面倒を見させて、躾をするのはどうかしら。メリッサを追い出して大掃除をさせたら平民臭も消えるわよね」

 を詰めた小さな鞄と身の回りの物を入れた大きな鞄を引き摺りながら玄関のドアを開けたイライザは胸を張って歩き出した。

「おーい、どこ行くんですかねえ。旅行なら金払ってからにしてくれよ」

「煩いわね! 大声を出さないでちょうだい、ご近所に知られたらどうしてくれるのよ!?」

 借金取りの胸を叩いたイライザが辺りを見回すと、少し離れたところに屯していた顔見知りが顔を背けた。

「は! 金を借りて返さねえ方がいけねえんだろうが」

「返すから、黙って着いてらっしゃい。馬車はどこに停めてるの? さっさと準備しなさい!」



「うーん、その金額では買い取れませんねえ。精々こんくらいが限界ですなあ」

「冗談じゃないわ! そんなに安い訳ないじゃないの」

「なら、他所に行ってもらって構いませんやね」

 何軒も回って同じ事を繰り返したイライザは売るつもりのなかったものも全て売り払い、なんとか利息分を準備した。

「毎度あり~、来月は遅れないように頼みますよ」

 付き纏っていた借金取りが機嫌良さそうに帰って行く後ろ姿に唾を吐き、空になった鞄を抱えたイライザは悪態をついた。

「帰り道くらい送りなさいよ!」



 すでに何日も仕事場に泊まり込んでいるコーク男爵はヒソヒソと陰口を叩く同僚の目を逃れて資料室にやってきた。

 僅かばかりの着替えは持ち出したが洗濯する場所も頼む金もない男爵からは異臭が漂い資料室の書類の臭いと相まって、資料室にいた男達が鼻を摘んでそそくさと出ていくのが見えた。

「クソクソクソ!」

 頭を抱えてしゃがみ込んだロナルドは壁に持たれて床に座り込んだ。

「コツコツ真面目に働いた結果がこれか? わしが何をしたと言うんだ!? 息子を溺愛する妻が暴走して大量の買い物をしまくってるのはわしの罪か? ロクデナシの息子が金持ちの平民を捕まえたのにちゃんと躾もできんのはわしに責任があるとでも?
あんな奴等に振り回されて家にも帰れず職場でも白い目で見られて⋯⋯」

 資料室のドアが開き見たことのある後輩が一歩足を踏み入れたが、床に座り込んだまま睨みつけてくるロナルドに気付いてそそくさと逃げ出してしまった。

(今のは確か平民だったはず⋯⋯クソ忌々しい。わしは何代も続く貴族だぞ! あんな金しか取り柄のない奴らに見下されるなどあり得ん!)

 寝不足で血走った目を吊り上げたロナルドが膝に手をついて立ち上がった。

「そうだ、わしが離縁すればいいんだ! イライザは実家に帰して借金を返させる。ステファンも廃嫡しよう。借金は全てあの二人がこさえた物だし、わしは名前を貸してやっただけだから、二人が返済すればいいんじゃないか!」

 仕事を早退したロナルドはイライザの実家であるキャンベル男爵家へ向かって歩き出した。

感想 4

あなたにおすすめの小説

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。