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第六章 夢か現か幻か
04.心の変化に気付いても
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午前11時、予想通りかなり早く配送が終わった実里は、高速の近くにあるコンビニの駐車場に車を停めた。
大型トラックにも対応しているこの駐車場はかなりの広さがあり、隅の方に停めてしまえば昼寝をしていても叱られない。
(久しぶりの運転だけど、あんま疲れてないなぁ⋯⋯やっぱり30歳も若返ったから? ミリーの年齢から考えると10歳も歳をとったんだけど⋯⋯ううっ、ややこしすぎる)
車を降りて肩を回しながらコンビニへ向かっていると、実里の会社のロゴが入った車が駐車場の前を通り過ぎて行った。
(げ! こんなとこで見かけるなんて、気分滅入るわ~。この駐車場を使う社員はいないはずなんだけど⋯⋯なんかあったのかな? まぁ、こっちには連絡来てないんだから気にしなくてもいっか)
このコンビニの前を通るとしたら営業マンくらいだが、今通り過ぎたのは配送メンバーしか乗らないステーションワゴンで、営業マンが乗っている車とは車種が違っていた。
コンビニでおにぎりを2つとお茶を買って車に戻っていた実里は、ふと後ろを振り返って首を傾げた。
(さっきの車⋯⋯助手席にも誰か乗ってた⋯⋯ような気がする。う~ん、まぁ、いいか)
新人研修で助手席に先輩か後輩が乗っていたのかもしれないし、たまたま営業マンが配送用の車を使ったのかもしれない。ブラックなこの会社は人の出入りが激しいので⋯⋯新しい配送メンバーが入る可能性の方が高そうな気もする。
人のやる事など想像するだけ無駄⋯⋯人の心なんて理解できるはずがないのだから。
車に戻った実里はもそもそとおにぎりを食べ始めた。
(お米、最高! 昆布にして良かった~、これこそソウルフードってやつだよね)
携帯のアラームをかけてから車のシートを倒し、目元にタオルを掛けて昼寝する気満々だった実里は、あることに気付いてガバッと起き上がった。
(ちょ、ちょっと待てぇ! 寝たら向こうの世界に戻るとかだったらどうしよう⋯⋯いや、でも、絶対寝ないとか無理ゲーじゃん)
前回別の世界に転移したのは実里がご臨終~となった時だろうと予想しているが、『寝る』のがキーのひとつだと言う可能性は否定できない。
3歳のミリーは寝て目が覚めた時、実里の記憶を取り戻していた。それから9年後、寝て目が覚めたら元の世界に戻り若返っていたのだから。
最初の異世界転生は実里が病気で死んだせいかもしれないが、今回の転移は理由が思い当たらない。ミリーがあの若さで突然死したとは思えないし、寝込みを襲われて殺されたとも思えない。
人畜無害⋯⋯ではなかったかもだが、ミリーを邪魔だと思っている奴等からは存在そのものをスルーされていたに近い状態で生きていたし、寝る前の数日を思い出しても周りの様子に変化はなかった。
(誕生日が近かったくらいか⋯⋯でも、3歳から何度も誕生日なんて過ぎたけど、今までは何も起きなかったし⋯⋯)
あの世界に戻りたいかと聞かれたら『戻りたい』とは言いにくい。でも、この世界に戻れて嬉しいかと聞かれても『嬉しい』と言い切れないのが切ない。
会いたい人はいるが、あそこはミリーの世界であって実里の世界ではない。
(ここが私の世界かって言われたら微妙なんだけど、どうせ会えなくなるなら『早い方が傷は浅い』って割り切らなきゃ)
どちらの世界の親も毒親なのは同じだが、向こうの世界には自由がなさすぎた。
表面上⋯⋯ミリーの生活は自室だけで完結し、暇な時に行けるのは図書室と裏庭だけと決まっていた。実際には、ターニャ婆のお店やギルドに顔を出してせっせと資金稼ぎに勤しんでいたけど。
(結構貯まったよね~。いやぁ、ほんとよく頑張りました。ミリーが上手くミッドランド侯爵家から逃げ出せたら将来は安泰だって思えるくらいには貯まってる。ミリーが戸惑ってもターニャ婆やイリス達が助けてくれる筈だから、私がいなくても大丈夫⋯⋯あの世界でもこの世界でも、私がいなくなっても誰も⋯⋯みんないつも通りかぁ)
乳母のマーサが辞めてから、ミリーのフリをした実里は全力で生きていた。家族や使用人には無視されたままだったが、平民街に少し仲の良い人もできて、ミリーの将来に少しばかり希望の光が見えてきたところだった。
12歳の頃の実里は⋯⋯勉強は親に褒められたいからやっていただけで、学校は嫌いだったし、放課後一緒に遊ぶ友達はいなかった。友達と遊ぶより母親に纏わりついて⋯⋯掃除機をかけて洗濯して、買い物や料理を作る手伝いをしていた方が母親に褒められると思っていたから。
(クラスメイトと少し仲良くなっても、何度か放課後の誘いを断ったら、仲間の輪から外れてしまうんだよね。あの時はそれで良いと思ってたからなぁ)
実里が目覚めてなければ、ミリーの暮らしは屋敷とそれを取り囲む塀が牢獄に思えて息が詰まりそうになっただろう。
馬車に乗って出かけるどころか散歩さえ許可が出ない。ただ、屋敷の中を⋯⋯許されている場所だけを⋯⋯彷徨くしかない毎日。誰にも認識されない『妖精シルフィー』がミリーになる筈だったから。
働かなくては食べていけないし、なんでも自分でやらなくてはいけないけれど、この世界には何よりも大切な自由がある。
あの世界の子供は『親の持ち物』でしかなく、行動の全てを決められてしまう。それは大人になっても変わらず、親が許す範囲の中で親が望むように生きていくだけ。
(あれじゃあ水槽の中の金魚だよ。好みとか希望なんかは関係なくて、与えられた物を着て指示された事だけをやって。
後は、与えられる餌を与えられた量だけ食べて、動いて良いよって言われてる中をフワフワって漂って。
この世界なら、22歳だからだけど⋯⋯努力すれば変えられる事もあるし、頑張ればやりたい事を実現もできる⋯⋯って言っても、今までそんなふうに思った事なかったけどね)
大型トラックにも対応しているこの駐車場はかなりの広さがあり、隅の方に停めてしまえば昼寝をしていても叱られない。
(久しぶりの運転だけど、あんま疲れてないなぁ⋯⋯やっぱり30歳も若返ったから? ミリーの年齢から考えると10歳も歳をとったんだけど⋯⋯ううっ、ややこしすぎる)
車を降りて肩を回しながらコンビニへ向かっていると、実里の会社のロゴが入った車が駐車場の前を通り過ぎて行った。
(げ! こんなとこで見かけるなんて、気分滅入るわ~。この駐車場を使う社員はいないはずなんだけど⋯⋯なんかあったのかな? まぁ、こっちには連絡来てないんだから気にしなくてもいっか)
このコンビニの前を通るとしたら営業マンくらいだが、今通り過ぎたのは配送メンバーしか乗らないステーションワゴンで、営業マンが乗っている車とは車種が違っていた。
コンビニでおにぎりを2つとお茶を買って車に戻っていた実里は、ふと後ろを振り返って首を傾げた。
(さっきの車⋯⋯助手席にも誰か乗ってた⋯⋯ような気がする。う~ん、まぁ、いいか)
新人研修で助手席に先輩か後輩が乗っていたのかもしれないし、たまたま営業マンが配送用の車を使ったのかもしれない。ブラックなこの会社は人の出入りが激しいので⋯⋯新しい配送メンバーが入る可能性の方が高そうな気もする。
人のやる事など想像するだけ無駄⋯⋯人の心なんて理解できるはずがないのだから。
車に戻った実里はもそもそとおにぎりを食べ始めた。
(お米、最高! 昆布にして良かった~、これこそソウルフードってやつだよね)
携帯のアラームをかけてから車のシートを倒し、目元にタオルを掛けて昼寝する気満々だった実里は、あることに気付いてガバッと起き上がった。
(ちょ、ちょっと待てぇ! 寝たら向こうの世界に戻るとかだったらどうしよう⋯⋯いや、でも、絶対寝ないとか無理ゲーじゃん)
前回別の世界に転移したのは実里がご臨終~となった時だろうと予想しているが、『寝る』のがキーのひとつだと言う可能性は否定できない。
3歳のミリーは寝て目が覚めた時、実里の記憶を取り戻していた。それから9年後、寝て目が覚めたら元の世界に戻り若返っていたのだから。
最初の異世界転生は実里が病気で死んだせいかもしれないが、今回の転移は理由が思い当たらない。ミリーがあの若さで突然死したとは思えないし、寝込みを襲われて殺されたとも思えない。
人畜無害⋯⋯ではなかったかもだが、ミリーを邪魔だと思っている奴等からは存在そのものをスルーされていたに近い状態で生きていたし、寝る前の数日を思い出しても周りの様子に変化はなかった。
(誕生日が近かったくらいか⋯⋯でも、3歳から何度も誕生日なんて過ぎたけど、今までは何も起きなかったし⋯⋯)
あの世界に戻りたいかと聞かれたら『戻りたい』とは言いにくい。でも、この世界に戻れて嬉しいかと聞かれても『嬉しい』と言い切れないのが切ない。
会いたい人はいるが、あそこはミリーの世界であって実里の世界ではない。
(ここが私の世界かって言われたら微妙なんだけど、どうせ会えなくなるなら『早い方が傷は浅い』って割り切らなきゃ)
どちらの世界の親も毒親なのは同じだが、向こうの世界には自由がなさすぎた。
表面上⋯⋯ミリーの生活は自室だけで完結し、暇な時に行けるのは図書室と裏庭だけと決まっていた。実際には、ターニャ婆のお店やギルドに顔を出してせっせと資金稼ぎに勤しんでいたけど。
(結構貯まったよね~。いやぁ、ほんとよく頑張りました。ミリーが上手くミッドランド侯爵家から逃げ出せたら将来は安泰だって思えるくらいには貯まってる。ミリーが戸惑ってもターニャ婆やイリス達が助けてくれる筈だから、私がいなくても大丈夫⋯⋯あの世界でもこの世界でも、私がいなくなっても誰も⋯⋯みんないつも通りかぁ)
乳母のマーサが辞めてから、ミリーのフリをした実里は全力で生きていた。家族や使用人には無視されたままだったが、平民街に少し仲の良い人もできて、ミリーの将来に少しばかり希望の光が見えてきたところだった。
12歳の頃の実里は⋯⋯勉強は親に褒められたいからやっていただけで、学校は嫌いだったし、放課後一緒に遊ぶ友達はいなかった。友達と遊ぶより母親に纏わりついて⋯⋯掃除機をかけて洗濯して、買い物や料理を作る手伝いをしていた方が母親に褒められると思っていたから。
(クラスメイトと少し仲良くなっても、何度か放課後の誘いを断ったら、仲間の輪から外れてしまうんだよね。あの時はそれで良いと思ってたからなぁ)
実里が目覚めてなければ、ミリーの暮らしは屋敷とそれを取り囲む塀が牢獄に思えて息が詰まりそうになっただろう。
馬車に乗って出かけるどころか散歩さえ許可が出ない。ただ、屋敷の中を⋯⋯許されている場所だけを⋯⋯彷徨くしかない毎日。誰にも認識されない『妖精シルフィー』がミリーになる筈だったから。
働かなくては食べていけないし、なんでも自分でやらなくてはいけないけれど、この世界には何よりも大切な自由がある。
あの世界の子供は『親の持ち物』でしかなく、行動の全てを決められてしまう。それは大人になっても変わらず、親が許す範囲の中で親が望むように生きていくだけ。
(あれじゃあ水槽の中の金魚だよ。好みとか希望なんかは関係なくて、与えられた物を着て指示された事だけをやって。
後は、与えられる餌を与えられた量だけ食べて、動いて良いよって言われてる中をフワフワって漂って。
この世界なら、22歳だからだけど⋯⋯努力すれば変えられる事もあるし、頑張ればやりたい事を実現もできる⋯⋯って言っても、今までそんなふうに思った事なかったけどね)
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