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第六章 夢か現か幻か
03.軽自動車あるあるだよね
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朝礼の後にダッシュで商品を積み込み、モゴモゴだけは欠かさずに会社を出発。高速の入り口に向かって車を走らせながら、この不思議な状況に首を傾げた。
元の世界に帰って来たのに気付いた時は驚いた実里だが、混乱することもなくかなり落ち着いているとは思う。
(なんで22歳なのかは疑問だけどね。特に大きな出来事があったような覚えはないし、どうせなら会社に入ったばっかりの頃が良かったなあ。それなら瑞稀達に絡まれないように別の支店を希望出来たじゃん)
車の操作や道路標識、仕事の段取りや社会のルールも何一つ忘れておらず不安になる要素はない。
実里が乗っているのは、実里以外の人は使いたがらない⋯⋯社用車の中で最も古い軽自動車で、人間で言えばとっくに天に召されているはずの代物。
ワイパーを動かすとキーキーと盛大な不満を垂れ、ハンドルを左に切る時に意地悪な癖がある。
使う車の大きさは荷物の量によって変わり、実里が今日乗っている軽自動車以外にワンボックスカーやステーションワゴンもある。
(今日はかなり楽ができそう。ワゴンで大型店舗に大量のコピー用紙を運ぶ時は泣けるもんね)
今の自分は実里だと思えるが、ミリーとして『12年マイナス3年』生きていたのも間違いないと感じている。家庭教師から習ったカーテシーをやれと言われれば直ぐにできるし、あの国の歴史も全て覚えている。
(ドライブレコーダーに録音されるから、口には出さないけどね)
実里とミリーは別人格だと思っているが多重人格者ではない気がしている。
(だって生きている世界が全然違うんだもん。『ミリー』の世界は中世の後半あたりって感じで、まさにナーロッパってやつだった⋯⋯小説みたいな展開を自然に受け入れてる私ってやっぱおかしいのかな?)
インターの入り口が見えてきた。ここを抜けて一気に加速していく時が、実里の一番好きな瞬間かもしれない。
本線を走る車のタイミングに合わせてスピードを調整しながら右車線に滑り込み、アクセルを踏み込むと車がイヤイヤをするように横にブレはじめた。
「頑張れ爺ちゃん、死ぬまで現役って誰か言ってたよ」
後続の車はかなり使い込んだ工事用トラックなので、なるべく距離を空けたい。
(車間距離はかなりあるけど、トラックの前の軽自動車は鬼門だよ。鬼門! 虐められるの間違いなし!)
制限時速を無視して飛ばす右車線の白い外車をやり過ごし、ウインカーを出しながら右へハンドルを切ろうとした瞬間、後続のトラックが一気に加速しながら、ウインカーも出さずに右車線に飛び出してきた。
(やっぱりかぁ、いるんだよね~こういうウザい奴ら。『どけどけぇ、俺様の前を走るんじゃねえよ』って感じの奴)
法も周りの車も無視した外車など、海岸線を走るこの高速では毎日見かける。右車線に出てきたトラックは、インターで目の前に入ってきた古びた軽自動車が気に入らないのだろう。
(こういう奴って、運転手が女だってわかった途端、意味のない幅寄せしてきたり、車間距離も考えず前に入ってくるんだよね~。くわばらくわばら)
運転が好きなので仕事自体は嫌いじゃない。店からの注文で文具をピックアップして、コンテナに詰めるのは別の担当の仕事。届けた商品が注文の品と違っていても、実里のせいではない。
客先で頭を下げはするが会社に帰って叱られる心配はなく、実里達は注文品が詰められたコンテナをそのまま車に積めば良いだけなのでかなり気が楽。
会社にいる間の濃すぎる人間関係にはいつも辟易しているが、出発してしまえば1人きりになれるところも気に入っている。
たまに別ルートから応援依頼が入る時があるが、配達を早く終わらせれば休憩時間が増えるだけ。
複数の支店を統括しているマネージャーや、実里が所属している支店のリーダーはえこ贔屓が酷いが、『そういう人だ』と気付いてからはそれほど気にならなくなった。
勤め始めて3年目だが、固定のルートではなくフリーで配送するようになってから、ますます楽しくなった。
(固定のルートは楽だけど、毎日同じだから飽きてくるんだよね~。休みの人のルートを回るようになってからは、毎日気分が変わるしちょっぴり緊張感もあるのが楽しい)
店舗の位置・道路の状況・駐車できる位置などで、楽なルートときついルートがあるが、楽なルートを固定で走る人の方が『疲れた』『忙しすぎる』と文句を言うのが不思議でならない。
(瑞稀のルートなんて真面目にやったら1時間コースだもん。橘くんのとこだと急いでも2時間以上かかるのに)
実里の所属している支店の担当エリアは会社から最も遠いので、行き帰りの時間を考えると近距離の支店よりかなりハードで人気がないが、長距離走れるので運転好きの実里はかなり気に入っていた。
強いて不満を挙げるとしたら給料が安くて、毎月ギリギリの生活だと言うことくらいだろう。
(この世界に私が戻って来たって事はミリーはどうなってるんだろう。ん? 私がミリーだった時って、実里はどうしてたんだ? て言うか52歳で死んだ実里はどうなった? 異世界転生かと思ってたら、ループ物だったとか?⋯⋯えーっと、その両方って事?)
いくら考えても考えても答えが出ない。降り口に近付いたと気付いた実里は、考えるのを諦めて配達先の順番を頭の中で確認し始めた。
(今日は国道を超えて、駅裏の⋯⋯)
元の世界に帰って来たのに気付いた時は驚いた実里だが、混乱することもなくかなり落ち着いているとは思う。
(なんで22歳なのかは疑問だけどね。特に大きな出来事があったような覚えはないし、どうせなら会社に入ったばっかりの頃が良かったなあ。それなら瑞稀達に絡まれないように別の支店を希望出来たじゃん)
車の操作や道路標識、仕事の段取りや社会のルールも何一つ忘れておらず不安になる要素はない。
実里が乗っているのは、実里以外の人は使いたがらない⋯⋯社用車の中で最も古い軽自動車で、人間で言えばとっくに天に召されているはずの代物。
ワイパーを動かすとキーキーと盛大な不満を垂れ、ハンドルを左に切る時に意地悪な癖がある。
使う車の大きさは荷物の量によって変わり、実里が今日乗っている軽自動車以外にワンボックスカーやステーションワゴンもある。
(今日はかなり楽ができそう。ワゴンで大型店舗に大量のコピー用紙を運ぶ時は泣けるもんね)
今の自分は実里だと思えるが、ミリーとして『12年マイナス3年』生きていたのも間違いないと感じている。家庭教師から習ったカーテシーをやれと言われれば直ぐにできるし、あの国の歴史も全て覚えている。
(ドライブレコーダーに録音されるから、口には出さないけどね)
実里とミリーは別人格だと思っているが多重人格者ではない気がしている。
(だって生きている世界が全然違うんだもん。『ミリー』の世界は中世の後半あたりって感じで、まさにナーロッパってやつだった⋯⋯小説みたいな展開を自然に受け入れてる私ってやっぱおかしいのかな?)
インターの入り口が見えてきた。ここを抜けて一気に加速していく時が、実里の一番好きな瞬間かもしれない。
本線を走る車のタイミングに合わせてスピードを調整しながら右車線に滑り込み、アクセルを踏み込むと車がイヤイヤをするように横にブレはじめた。
「頑張れ爺ちゃん、死ぬまで現役って誰か言ってたよ」
後続の車はかなり使い込んだ工事用トラックなので、なるべく距離を空けたい。
(車間距離はかなりあるけど、トラックの前の軽自動車は鬼門だよ。鬼門! 虐められるの間違いなし!)
制限時速を無視して飛ばす右車線の白い外車をやり過ごし、ウインカーを出しながら右へハンドルを切ろうとした瞬間、後続のトラックが一気に加速しながら、ウインカーも出さずに右車線に飛び出してきた。
(やっぱりかぁ、いるんだよね~こういうウザい奴ら。『どけどけぇ、俺様の前を走るんじゃねえよ』って感じの奴)
法も周りの車も無視した外車など、海岸線を走るこの高速では毎日見かける。右車線に出てきたトラックは、インターで目の前に入ってきた古びた軽自動車が気に入らないのだろう。
(こういう奴って、運転手が女だってわかった途端、意味のない幅寄せしてきたり、車間距離も考えず前に入ってくるんだよね~。くわばらくわばら)
運転が好きなので仕事自体は嫌いじゃない。店からの注文で文具をピックアップして、コンテナに詰めるのは別の担当の仕事。届けた商品が注文の品と違っていても、実里のせいではない。
客先で頭を下げはするが会社に帰って叱られる心配はなく、実里達は注文品が詰められたコンテナをそのまま車に積めば良いだけなのでかなり気が楽。
会社にいる間の濃すぎる人間関係にはいつも辟易しているが、出発してしまえば1人きりになれるところも気に入っている。
たまに別ルートから応援依頼が入る時があるが、配達を早く終わらせれば休憩時間が増えるだけ。
複数の支店を統括しているマネージャーや、実里が所属している支店のリーダーはえこ贔屓が酷いが、『そういう人だ』と気付いてからはそれほど気にならなくなった。
勤め始めて3年目だが、固定のルートではなくフリーで配送するようになってから、ますます楽しくなった。
(固定のルートは楽だけど、毎日同じだから飽きてくるんだよね~。休みの人のルートを回るようになってからは、毎日気分が変わるしちょっぴり緊張感もあるのが楽しい)
店舗の位置・道路の状況・駐車できる位置などで、楽なルートときついルートがあるが、楽なルートを固定で走る人の方が『疲れた』『忙しすぎる』と文句を言うのが不思議でならない。
(瑞稀のルートなんて真面目にやったら1時間コースだもん。橘くんのとこだと急いでも2時間以上かかるのに)
実里の所属している支店の担当エリアは会社から最も遠いので、行き帰りの時間を考えると近距離の支店よりかなりハードで人気がないが、長距離走れるので運転好きの実里はかなり気に入っていた。
強いて不満を挙げるとしたら給料が安くて、毎月ギリギリの生活だと言うことくらいだろう。
(この世界に私が戻って来たって事はミリーはどうなってるんだろう。ん? 私がミリーだった時って、実里はどうしてたんだ? て言うか52歳で死んだ実里はどうなった? 異世界転生かと思ってたら、ループ物だったとか?⋯⋯えーっと、その両方って事?)
いくら考えても考えても答えが出ない。降り口に近付いたと気付いた実里は、考えるのを諦めて配達先の順番を頭の中で確認し始めた。
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