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第六章 夢か現か幻か
08.なんかすっごくスッキリ〜
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「高野さんを脅迫し、就業時間内に問題行動をおこした。その問題行動が何時から何時までとなっているのかを教えて下さい。私、間違いなくアリバイがあるんで」
「「「⋯⋯⋯⋯はあああ!」」」
「ドライブレコーダーの内容をはじめに教えて頂けていれば良かったんですが、何も聞かされずに『辞めろ』ばかりだったので。せめて日にちや時間を吐け⋯⋯教えて頂けていたら、こんな無駄な時間はかけずに済んだはずなんですけどね」
目を見開いて真っ青になった高野に向かって実里がニッコリと笑うと、カタカタと震え出した。
(え~! ニッコリしただけなのに怯えるとか、そんなに凶悪な顔してないし~。超ムカつくんですけど~)
時々実里の後ろにあるドアに目線が行くのは逃げ出そうかと考えているからか。
「アリバイって⋯⋯そんな⋯⋯ぼ、僕は」
(いや~、詰んだね~。チェックメイトってやつだよ)
「社用車に乗っていたのが高野さんなのかどうか知りませんが、同情していた女性が私ではない事は間違いないですね。今日のお昼前後で午前の配達が終わって帰社するまでの間と言うと、11時過ぎから13時半というところですか。
今日の配達ルートに最も近いインターから帰社する迄の所要時間は、最低でも30分はかかりますが、利用時間についてはETCの記録を調べれば分かるはずですね。
で、問題になる時間は11時過ぎから13時の間のどこかだと推測して⋯⋯11時半から12時半位までガソリンスタンドにいたので、高野さんと行動するのは100%無理です」
午前の配達を終えてコンビニに駐車していた時に忘れていた記憶がポロポロと思い出された。このタイミングでこの世界に帰ってきた事に意味があるとしたら⋯⋯。
(高野と松井がやらかしたのがいつだったか、はっきりとは覚えてないけど警戒するのに越した事はないよねぇ)
速攻で帰社しても良いが会社の連中などカケラも信用できない。前回と同じ事が起きるなら、確実なアリバイと証人を確保しておかなければ。
実里が車を停めていたのは工事現場を行き交う大型トラックがいつも停まっている駐車場で、彷徨いてみると程よいサイズのボルトを複数発見する事ができた。後輪の前にボルトを立てて置き、ゆっくりと車を動かすと見事にパンクしてくれた。
いつ見ても混雑しているガソリンスタンドを選んでパンク修理を依頼したのが11時半頃。
「11時半位から12時半位までガソリンスタンドでパンクの修理待ちしてました。スタンドのレシートもありますし、すごく混んでいたので裁判になったら目撃者は大勢いるはずです」
コーヒーが乾き始めてかなり悲惨な見た目になっているが、実里は堂々と胸を張った。
(パンクの修理代は自腹を切るつもりだから、バレても自分でパンクさせたくせにとかって文句は言わせないもんね。なんでパンクさせたのか聞かれたらちょっと困るけど)
「パンクしたなんて連絡は聞いて⋯⋯ない」
「えーっと、パンクした時に会社に電話したので通話記録があるんじゃないでしょうか。自前の携帯でかけたので私の方には通話した時間と会社名が残っています。
電話の向こうが随分と騒がしくて、パンクした場合どうすればいいのか聞いたのですが、それどころじゃないと言って切られたので⋯⋯あの声は藪沢支店長だったと思うのですが、記憶にありませんか?」
「は? そんな電話をとった覚えは⋯⋯あ!」
「覚えがあるのか!?」
「いや、その⋯⋯あるような、ないような」
「その時の録音データあります。会社に経費の請求ができるかどうか分からなかったので、記録しておきました。以前『そんな事を言った覚えはない』と言われて自腹になった事があったので⋯⋯聞き間違いとかを避けたくて。それ以来、覚えておく必要がある大切な会話は必ず録音するよう心がけてます」
社用車の使用者が高野だと判明し、樋下が高野に連絡を取ろうと電話に齧り付いていた時だった。
慌てふためく樋下の無様な様子を横目に見ながら『樋下の昇進が消えた』とほくそ笑んでいた藪沢が、何気なくとった電話だった。最高にいい気分でいたのに、パンク如きで電話をしてくるなと怒鳴った覚えがある。
「あ、あの時はすまなかった。社員に知られるわけにはいかないし、一刻も早い解決は必要だしでバタバタしていたと言うか」
実里が『録音している』と言うまでは言葉を濁していた藪沢の本性が透けて見えるようだった。
「では、私はこの件に一切関わっていないと理解して頂けたでしょうか?」
「あー、うん。わかっていると思うが、ここで聞いた話は他言無用だからな。それと、クリーニング代は出してやるから、コーヒーは手が滑った自分のミスだと言うんだぞ」
「退職は?」
「その話はなかったこ⋯⋯」
「待ってくれ! 次の仕事を紹介するし、退職金代わりの金も払う! だから」
「高野君⋯⋯」
「このままじゃ会社がヤバいって分かってるでしょう!? 専務の息子が元凶のひとりだなんてバレたら、芹澤様の心象が悪くなるかも。そんな事になったら父さんも僕も⋯⋯」
「それは確かに⋯⋯しかし」
高野と樋下が話の合間にチロチロと見ているが、実里は我関せずといった様子。ハンドタオルで髪の毛を拭いていた。
(どうしようかなぁ、もう退出しても良さそうだけど、コイツらを放置して会議室を出るって事は、興味津々の有象無象にひとりで立ち向かうって事でしょ? 罰ゲームかっての)
「お話中失礼します。午後の配送時間はとっくに過ぎていますし、ルートの穴が開かないならこのまま退社させていただいていいでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ! そんな事、ほっとけばいいだろ!? 今はそれどころじゃないんだから」
(ほっほう、支店のリーダーで専務の息子が配送を『そんな事』と言うんですか。腐れ、腐ってしまえぇぇ! 爆弾、投下じゃあ)
「そう言えば~、高野さんと一緒にお出かけした女性って誰だったんですかね~?」
(え? なんで知ってるかって? この人生2回目ですもん。おーっほっほ)
「「「⋯⋯⋯⋯はあああ!」」」
「ドライブレコーダーの内容をはじめに教えて頂けていれば良かったんですが、何も聞かされずに『辞めろ』ばかりだったので。せめて日にちや時間を吐け⋯⋯教えて頂けていたら、こんな無駄な時間はかけずに済んだはずなんですけどね」
目を見開いて真っ青になった高野に向かって実里がニッコリと笑うと、カタカタと震え出した。
(え~! ニッコリしただけなのに怯えるとか、そんなに凶悪な顔してないし~。超ムカつくんですけど~)
時々実里の後ろにあるドアに目線が行くのは逃げ出そうかと考えているからか。
「アリバイって⋯⋯そんな⋯⋯ぼ、僕は」
(いや~、詰んだね~。チェックメイトってやつだよ)
「社用車に乗っていたのが高野さんなのかどうか知りませんが、同情していた女性が私ではない事は間違いないですね。今日のお昼前後で午前の配達が終わって帰社するまでの間と言うと、11時過ぎから13時半というところですか。
今日の配達ルートに最も近いインターから帰社する迄の所要時間は、最低でも30分はかかりますが、利用時間についてはETCの記録を調べれば分かるはずですね。
で、問題になる時間は11時過ぎから13時の間のどこかだと推測して⋯⋯11時半から12時半位までガソリンスタンドにいたので、高野さんと行動するのは100%無理です」
午前の配達を終えてコンビニに駐車していた時に忘れていた記憶がポロポロと思い出された。このタイミングでこの世界に帰ってきた事に意味があるとしたら⋯⋯。
(高野と松井がやらかしたのがいつだったか、はっきりとは覚えてないけど警戒するのに越した事はないよねぇ)
速攻で帰社しても良いが会社の連中などカケラも信用できない。前回と同じ事が起きるなら、確実なアリバイと証人を確保しておかなければ。
実里が車を停めていたのは工事現場を行き交う大型トラックがいつも停まっている駐車場で、彷徨いてみると程よいサイズのボルトを複数発見する事ができた。後輪の前にボルトを立てて置き、ゆっくりと車を動かすと見事にパンクしてくれた。
いつ見ても混雑しているガソリンスタンドを選んでパンク修理を依頼したのが11時半頃。
「11時半位から12時半位までガソリンスタンドでパンクの修理待ちしてました。スタンドのレシートもありますし、すごく混んでいたので裁判になったら目撃者は大勢いるはずです」
コーヒーが乾き始めてかなり悲惨な見た目になっているが、実里は堂々と胸を張った。
(パンクの修理代は自腹を切るつもりだから、バレても自分でパンクさせたくせにとかって文句は言わせないもんね。なんでパンクさせたのか聞かれたらちょっと困るけど)
「パンクしたなんて連絡は聞いて⋯⋯ない」
「えーっと、パンクした時に会社に電話したので通話記録があるんじゃないでしょうか。自前の携帯でかけたので私の方には通話した時間と会社名が残っています。
電話の向こうが随分と騒がしくて、パンクした場合どうすればいいのか聞いたのですが、それどころじゃないと言って切られたので⋯⋯あの声は藪沢支店長だったと思うのですが、記憶にありませんか?」
「は? そんな電話をとった覚えは⋯⋯あ!」
「覚えがあるのか!?」
「いや、その⋯⋯あるような、ないような」
「その時の録音データあります。会社に経費の請求ができるかどうか分からなかったので、記録しておきました。以前『そんな事を言った覚えはない』と言われて自腹になった事があったので⋯⋯聞き間違いとかを避けたくて。それ以来、覚えておく必要がある大切な会話は必ず録音するよう心がけてます」
社用車の使用者が高野だと判明し、樋下が高野に連絡を取ろうと電話に齧り付いていた時だった。
慌てふためく樋下の無様な様子を横目に見ながら『樋下の昇進が消えた』とほくそ笑んでいた藪沢が、何気なくとった電話だった。最高にいい気分でいたのに、パンク如きで電話をしてくるなと怒鳴った覚えがある。
「あ、あの時はすまなかった。社員に知られるわけにはいかないし、一刻も早い解決は必要だしでバタバタしていたと言うか」
実里が『録音している』と言うまでは言葉を濁していた藪沢の本性が透けて見えるようだった。
「では、私はこの件に一切関わっていないと理解して頂けたでしょうか?」
「あー、うん。わかっていると思うが、ここで聞いた話は他言無用だからな。それと、クリーニング代は出してやるから、コーヒーは手が滑った自分のミスだと言うんだぞ」
「退職は?」
「その話はなかったこ⋯⋯」
「待ってくれ! 次の仕事を紹介するし、退職金代わりの金も払う! だから」
「高野君⋯⋯」
「このままじゃ会社がヤバいって分かってるでしょう!? 専務の息子が元凶のひとりだなんてバレたら、芹澤様の心象が悪くなるかも。そんな事になったら父さんも僕も⋯⋯」
「それは確かに⋯⋯しかし」
高野と樋下が話の合間にチロチロと見ているが、実里は我関せずといった様子。ハンドタオルで髪の毛を拭いていた。
(どうしようかなぁ、もう退出しても良さそうだけど、コイツらを放置して会議室を出るって事は、興味津々の有象無象にひとりで立ち向かうって事でしょ? 罰ゲームかっての)
「お話中失礼します。午後の配送時間はとっくに過ぎていますし、ルートの穴が開かないならこのまま退社させていただいていいでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ! そんな事、ほっとけばいいだろ!? 今はそれどころじゃないんだから」
(ほっほう、支店のリーダーで専務の息子が配送を『そんな事』と言うんですか。腐れ、腐ってしまえぇぇ! 爆弾、投下じゃあ)
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