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第七章 ただいま準備中

08.そうだ、カキカキしよう

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 試験の翌日、ミリーはチラチラとイリスの様子を探りながら仕事に励んでいた。励もうとしていた。

(誰も聞いてこないのが不気味なんだけど。普通は『どうだった?』とかって言いそうじゃん。ほら、社交辞令ってやつ。興味はないけどとりあえず言っとくかみたいな。アレよアレ。
これ見よがしにもっこもこのコート着てるから、一応『今日は寒いですね』って言っとくか。いや『そのコート素敵ですね』って言やぁいいかみたいな。
後は⋯⋯『娘さんはお元気ですか?』とか『息子さんっておいくつでしたっけ?』って、話のネタがぜんっぜん思いつかない時にするやつとか。
日本人の気遣いだよ。日本人じゃないけど。おもてなしの心? 忖度? 空気読めよぉぉぉ)

 出かける準備で忙しそうなシモンやネイサンはともかく、イリスとレオンはミリーと目を合わせないようにしている気配がして、声をかけにくい。

「はぁ、疲れた。もういいや、カキカキしよう」

 この間のような『突発的お里帰り時空を超えて』が起きた時の為に、本物のミリーに伝えておきたい事を書き出しておくことにした。

(次にあんな事が起きたら、出戻りするかどうか分かんないしね。初めに日付を書いてっと⋯⋯)





 大学を卒業した後すぐ正式にギルドに就職したシモンは、ミリーから商会の経営権を買い取り株式会社として登録して社長に就任。ミリーが命名した『アンゲルスラテン語で天使の意株式会社』と言う名前には不満があるらしい、天使なお顔はいまだ健在の19歳。

 いつかドレス姿を披露して欲しいと虎視眈々と狙っているのはミリーだけではないはず。

 シモンの会社はミリー・レオン・イリスの3名が大株主となった。その他の株主はブランドール公爵家の両親と嫡男、クラレンド侯爵と嫡男、イリスの夫レイモンド子爵という豪華ラインナップ。

 肥料に関する特許はミリーとアーノルドとビリーが保持したまま。シモンが頑張って株の配当をミリーに貢ぎ、シモン達が頑張って肥料が売れれば特許使用料でミリーの懐が温まる⋯⋯銭ゲバの完全勝利。

 肥料の研究開発やメープルシロップの製造販売などを全て引き継いだシモンは、アーノルドやビリーと直接連絡を取り合い、必要に迫られた時にはミリーに有償で情報を仕入れている。

『ミリーが顧問になってくれたらもっと楽なんだけどなぁ』

『ぜ~ったいにお断り!』

(本物のミリーが帰ってきた時に困るじゃん)


 したたかになったシモンは卒業祝いにクラレンド侯爵領の一部をもぎ取り、ラッセル伯爵が密かに行っていた騾馬の育成を行っている。

 その頃、シモンの頭を悩ませていたクラレンド侯爵夫人を父と兄の3人で『ざまぁ』して叩き出したのだが、その話は別のところで⋯⋯。

 今はネイサンを連れてアーノルドの所へ行く準備をしている。

「ビリーも来ているって言うから、今日はそのまま帰るつもり。状況によってはそのままビリーに同行してエスキニア王国に行くかもだから、その時は連絡を入れるね」

(相変わらずの美人さんだけどオネエさんじゃなくなっちゃった。つまんないな~)

 授爵したビリーは現在、エスキニア王国のビリー・カーマイン子爵。生家のラバント子爵家を継いだ兄と母親は、多額の借金だけでなく詐欺や恐喝の罪で爵位を返上して平民となり鉱山で労働に勤しんでいる最中。

 アーノルドは授爵した際にアーノルド・キルギルス男爵となり、現在はアーノルド・キルギルス子爵。兄であるカーライル子爵とは良好な関係を築いている。



 レオンは相変わらず実家とは距離を置いて商人ギルドを切り盛りしている。現在23歳。

(こんなにデカくておっさん臭い事ばっかり言うのに⋯⋯解せぬ)

 ミリーに言葉でボッコボコにされてからほんの少し状況が改善されたが、レオンラブな熊ファミリーは気を抜くと猛攻を仕掛けてくるらしい。

 ミリーはブランドール公爵のノアを『熊パパ』と呼び、夫人のミレーネは『熊隊長』と呼んでいる。兄のキースは勿論『熊兄』

 ミレーネに『調教師様』と呼びかけたら泣かれたのでやめた。


 最近のレオンは同職ギルドとの連携も順調で少し暇を持て余している。

(熊は暇そう⋯⋯もっとお仕事したいよね、したいよね、させてあげるからね)

 郵便事業の計画がもう少し形になったら、レオンを馬車馬のように働かせる気満々のミリー。

「時々ゾワゾワ~っと寒気がするんだけどよう、風邪でもひいたかな」

(勘のいい熊だね~。これぞ野生の本能!)

「熊は風邪をひきませ~ん。熊って植物中心の雑食だって知ってる? うちの⋯⋯目の前の熊はお肉ばっかり食べてるから、栄養バランスが崩れてるんだよ。冬眠前ならどんぐりいっぱい食べなきゃだよ?」

「冬眠はしねえし、どんぐりは食わん」

「⋯⋯熊なのは否定しないんだ」

「チビ、チビ、チ~ビ」




「少し用事があって明日から出かけなくちゃならないの。1日で終わると思うけど、2日になっちゃうかも。その間、連絡が取れないからよろしくね、熊なギ・ル・ド・長」

「ん、行ってら~」

(ええっ! このタイミングで行っちゃうの!? い、いつカミングアウトすれば良いのか⋯⋯勇気が、勢いがプシュ~ンって消えちゃうよお)

 合格発表があるまで2週間あるが結果がどっちに転んでいても関係ない。ちゃんと自分の気持ちを話そうと決めていたミリーの手の中で、羽ペンがポッキリと折れた。




 翌日の朝、出社拒否シンドロームに陥ったミリーはペラペラの毛布を抱えてベッドに潜り込んだ。

(畑の野菜に水はあげたし⋯⋯ギルドにいるのは熊だけかぁ。な~んか、熊しかいないギルドに行きたくないんだよな~。なんでだろ。やっぱりタイミングを逃しちゃったからだよね~。ビビってないで自分から声を掛ければ良かったなあ)

 初めてレオンと会ってから何年も経ち、何度も言い合いをして揶揄いあってきたミリーがレオンと2人きりになりたくないと思ったのは初めての事。

 イリスもシモンも出かけていてレオンと2人だけになった事など数知れないと言うのに⋯⋯。

(やっぱ、アレだよ。話さなくちゃって思ってモヤモヤのビクビクになってるから。宿題を忘れましたって言い出す前とか、ズル休みした時に学校や会社から電話がかかってきた時がこんな感じだよね⋯⋯今日と明日は畑仕事頑張って、明後日ギルドに顔を出そう。急ぎの仕事はないんだし。うん、そうしよう)



 元気よくベッドから飛び降りたミリーが次にギルドに顔を出した時、運命の歯車が大きく動きはじめる。

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