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第七章 ただいま準備中
10.いや〜、よく頑張ったねえ
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「このままじゃダメだって思ったから、じゃがいもが売れて喜んでちゃダメだって。
売ったのは盗んだんじゃなくて自分で育てたやつ。初めの種芋を作るのに侯爵家のゴミを漁ったから、盗んでないとは言えないかもだけど。
青くなったじゃがいもって毒があるから捨てるじゃん。それをこっそり拾って⋯⋯種芋に毒があっても、そこから育ったじゃがいもに毒はないし、捨ててるのを拾うだけならって。
種芋を作りはじめたのは3歳になる前。何度も失敗したけどなんとか種芋を作れて、じゃがいもを作れたの。で、自分が育てたじゃがいもを次の種芋にしたから、収穫できてからは一度も盗んでない。
盗んだのはりんごとか果物だけ。屋敷の外れにある果樹園を見つけたから忍び込んだの」
「ミリー、それは盗んだって言わねえ!」
黙って話を聞いていたレオンが声を荒げた。
「見つかったら侯爵家から泥棒だって言われるって確信しながらやったの。でもね、1日1個のパンと具のないスープしか与えないアイツらは育児放棄した犯罪者だって思ってたから、罪悪感はなかったかも」
3歳の頃が一番恐ろしかった。1日1回届く硬いパンとスープだけではお腹が空きすぎて涙も出ない。このパンがいつ届かなくなるのか⋯⋯食べずに置いておけばと思っても我慢できない。
目の前の柵を越えられれば、きっと捨てられたじゃがいもを見つけられると、それだけを信じて筋トレに励んだ日々。
マーサが残してくれた種は生きる希望だった。まだ大丈夫、絶対に大丈夫だと言い続けながらほうれん草や人参を育て、間引き菜が出来るまでは雑草を食べては吐いていた。
果樹園が見つかった時の事は忘れられない。バレないように1個か2個だけ。背の低いミリーでは手が届かない事の方が多かったが、果物が手に入った日は薄い毛布がいつもより暖かく感じられた。
「まさかと思うが、そのじゃがいもを食って生きてたのか?」
「子供はね、生のじゃがいもを食べちゃダメなの。ちょこっとなら平気だけど、お腹を壊して大変なことになる。予想以上に辛かったから1回しか食べてない。
種も苗もなくて作れるのはじゃがいもしかなかったから。食べれないって分かってたけど、何かしてないと耐えられなくて。頑張ってる間は『もし作れたら』『もし売りにいけたら』って希望が持てるじゃん。
マーサが最後の日にこっそり種をくれて、ほうれん草とか人参が作れたの。どっちも生で食べれたから、ホントに助かったんだよ」
何かしていなければ恐怖で頭がおかしくなる。意地を張ってる自分を笑って応援して⋯⋯泣いたら負けだと自分に言い聞かせていた。
(心の中のミリーが泣いてたから、実里は泣けなかったし、泣かずに済んだ。だって、ミリーは本当の3歳児だから何もできないのが当たり前で泣く権利があったから。
50年以上生きてきた実里にはミリーを守る責任があるんだからって)
「それに5歳の時から朝と夜の2食になったし。内容がほとんど変わんなくても、ミニマムな胃は喜んでた。
でもまあ、今考えてみたら試しに食べては見えちゃいけないものを何回も見たような気がするよ。いや~、ホント良く頑張ったねえ」
イリスもレオンもミリーの出自を調べるまで、ミッドランド侯爵家の病弱令嬢の事など気にしたこともなかった。
「ミリーが病弱令嬢だって知ってからも何もするつもりがなかったんだ。まさかそんな状態だなんて⋯⋯もっと早く俺が動いてりゃ」
「え~、それは天下のブランドール公爵家の熊なレオン様でも無理だよね~」
貴族の子息令嬢は成人するまでは家の持ち物のひとつで、捨てたり殺したりしない限り親が何をしようと誰にも口を出せない。
「ましてや派閥が違うんだもん。匂わせただけで大問題になっちゃうよ」
「もし今の環境から抜け出す方法があったら、ミリーはどうしたい?」
「⋯⋯う~ん、それは決められないなあ。まだ2人に話してないどうにもならない事情もあるし」
ごくたまに薄く目を開けて周りを見回すミリーの将来を考えたら、安易に手を出せない。
「まだあんのかよ! 全部喋っちまえ。どうにもならなきゃ俺が抱えて他国に逃げてやるから」
「熊が言うとできるかもって思えるから凄いよ。やらないけど」
部屋に閉じ込めてろくに世話をしていなかっただけだから、虐待の証拠は残っていない。
ずっと病弱だったから心配で外に出せなかったと言えばそれで終わり。痩せているのも背が伸びないのも偏食だったからと言い訳できる。
(死にかけた時、医者にそう言えって言ってたもんね)
「医者の証言なんてお金を積めばどうにでもなるし、使用人なんて自己保身に走るだけだよ」
「ミッドランド侯爵家にはお祖母様がいらっしゃるの。先代侯爵の第一夫人でね、その方なら侯爵家の事に堂々と口を出せるわ」
「え~、信用できないから遠慮しとく」
今まで一度も会った事がない祖母が今更何を考えていようと興味もない。
「現在の侯爵一家がどんな人達なのか知らなかったとか、しれ~っと言うのかなぁ。
『だから何?』って思うし言っちゃいそう。
その人を信用するくらいなら、貯金を全部抱えてうんと遠い国に逃げた方がマシ。
熊は連れてかないけどね。
子供だけで国境を越える方法とか、家を借りる方法とか調べたけど合法だと無理だったんだよね~、試して連れ戻されたら取り返しがつかないから諦めてるけど。
でも時々思うんだけど⋯⋯銭ゲバで強かな12歳ならワンチャンイケるんじゃねって。
あ、熊は連れてかないからね」
才能に溢れたレオンには彼を心から愛している家族と、彼を必要としている人達がいる。今の仕事では才能の一部しか使えていない気がするが、本人が納得しているのならミリーが気にすることではない。
「熊が手にしている物や築いてきた物を捨てさせるなんて、それに見合うだけのものを私もミリーも持ってないから。そんな責任は負えない」
「ミリーの気持ちはよく分かったわ。お祖母様には頼りたくないっていう気持ちを本人に言えたりしないかしら?」
「⋯⋯それは直接って事?」
「勿論。不満や文句があるなら直接言ったらどうかなって思うの」
「う~ん、別に構わないけど⋯⋯意味があるとは思えないんだけど」
お貴族様に文句を言えば無礼者呼ばわりされるだろう。本物のミリーの不利にならないように動くには⋯⋯。
「不敬罪に問わないのなら会ってもいいかなぁって思う」
「じゃあお呼びするわね」
「はあ?」
売ったのは盗んだんじゃなくて自分で育てたやつ。初めの種芋を作るのに侯爵家のゴミを漁ったから、盗んでないとは言えないかもだけど。
青くなったじゃがいもって毒があるから捨てるじゃん。それをこっそり拾って⋯⋯種芋に毒があっても、そこから育ったじゃがいもに毒はないし、捨ててるのを拾うだけならって。
種芋を作りはじめたのは3歳になる前。何度も失敗したけどなんとか種芋を作れて、じゃがいもを作れたの。で、自分が育てたじゃがいもを次の種芋にしたから、収穫できてからは一度も盗んでない。
盗んだのはりんごとか果物だけ。屋敷の外れにある果樹園を見つけたから忍び込んだの」
「ミリー、それは盗んだって言わねえ!」
黙って話を聞いていたレオンが声を荒げた。
「見つかったら侯爵家から泥棒だって言われるって確信しながらやったの。でもね、1日1個のパンと具のないスープしか与えないアイツらは育児放棄した犯罪者だって思ってたから、罪悪感はなかったかも」
3歳の頃が一番恐ろしかった。1日1回届く硬いパンとスープだけではお腹が空きすぎて涙も出ない。このパンがいつ届かなくなるのか⋯⋯食べずに置いておけばと思っても我慢できない。
目の前の柵を越えられれば、きっと捨てられたじゃがいもを見つけられると、それだけを信じて筋トレに励んだ日々。
マーサが残してくれた種は生きる希望だった。まだ大丈夫、絶対に大丈夫だと言い続けながらほうれん草や人参を育て、間引き菜が出来るまでは雑草を食べては吐いていた。
果樹園が見つかった時の事は忘れられない。バレないように1個か2個だけ。背の低いミリーでは手が届かない事の方が多かったが、果物が手に入った日は薄い毛布がいつもより暖かく感じられた。
「まさかと思うが、そのじゃがいもを食って生きてたのか?」
「子供はね、生のじゃがいもを食べちゃダメなの。ちょこっとなら平気だけど、お腹を壊して大変なことになる。予想以上に辛かったから1回しか食べてない。
種も苗もなくて作れるのはじゃがいもしかなかったから。食べれないって分かってたけど、何かしてないと耐えられなくて。頑張ってる間は『もし作れたら』『もし売りにいけたら』って希望が持てるじゃん。
マーサが最後の日にこっそり種をくれて、ほうれん草とか人参が作れたの。どっちも生で食べれたから、ホントに助かったんだよ」
何かしていなければ恐怖で頭がおかしくなる。意地を張ってる自分を笑って応援して⋯⋯泣いたら負けだと自分に言い聞かせていた。
(心の中のミリーが泣いてたから、実里は泣けなかったし、泣かずに済んだ。だって、ミリーは本当の3歳児だから何もできないのが当たり前で泣く権利があったから。
50年以上生きてきた実里にはミリーを守る責任があるんだからって)
「それに5歳の時から朝と夜の2食になったし。内容がほとんど変わんなくても、ミニマムな胃は喜んでた。
でもまあ、今考えてみたら試しに食べては見えちゃいけないものを何回も見たような気がするよ。いや~、ホント良く頑張ったねえ」
イリスもレオンもミリーの出自を調べるまで、ミッドランド侯爵家の病弱令嬢の事など気にしたこともなかった。
「ミリーが病弱令嬢だって知ってからも何もするつもりがなかったんだ。まさかそんな状態だなんて⋯⋯もっと早く俺が動いてりゃ」
「え~、それは天下のブランドール公爵家の熊なレオン様でも無理だよね~」
貴族の子息令嬢は成人するまでは家の持ち物のひとつで、捨てたり殺したりしない限り親が何をしようと誰にも口を出せない。
「ましてや派閥が違うんだもん。匂わせただけで大問題になっちゃうよ」
「もし今の環境から抜け出す方法があったら、ミリーはどうしたい?」
「⋯⋯う~ん、それは決められないなあ。まだ2人に話してないどうにもならない事情もあるし」
ごくたまに薄く目を開けて周りを見回すミリーの将来を考えたら、安易に手を出せない。
「まだあんのかよ! 全部喋っちまえ。どうにもならなきゃ俺が抱えて他国に逃げてやるから」
「熊が言うとできるかもって思えるから凄いよ。やらないけど」
部屋に閉じ込めてろくに世話をしていなかっただけだから、虐待の証拠は残っていない。
ずっと病弱だったから心配で外に出せなかったと言えばそれで終わり。痩せているのも背が伸びないのも偏食だったからと言い訳できる。
(死にかけた時、医者にそう言えって言ってたもんね)
「医者の証言なんてお金を積めばどうにでもなるし、使用人なんて自己保身に走るだけだよ」
「ミッドランド侯爵家にはお祖母様がいらっしゃるの。先代侯爵の第一夫人でね、その方なら侯爵家の事に堂々と口を出せるわ」
「え~、信用できないから遠慮しとく」
今まで一度も会った事がない祖母が今更何を考えていようと興味もない。
「現在の侯爵一家がどんな人達なのか知らなかったとか、しれ~っと言うのかなぁ。
『だから何?』って思うし言っちゃいそう。
その人を信用するくらいなら、貯金を全部抱えてうんと遠い国に逃げた方がマシ。
熊は連れてかないけどね。
子供だけで国境を越える方法とか、家を借りる方法とか調べたけど合法だと無理だったんだよね~、試して連れ戻されたら取り返しがつかないから諦めてるけど。
でも時々思うんだけど⋯⋯銭ゲバで強かな12歳ならワンチャンイケるんじゃねって。
あ、熊は連れてかないからね」
才能に溢れたレオンには彼を心から愛している家族と、彼を必要としている人達がいる。今の仕事では才能の一部しか使えていない気がするが、本人が納得しているのならミリーが気にすることではない。
「熊が手にしている物や築いてきた物を捨てさせるなんて、それに見合うだけのものを私もミリーも持ってないから。そんな責任は負えない」
「ミリーの気持ちはよく分かったわ。お祖母様には頼りたくないっていう気持ちを本人に言えたりしないかしら?」
「⋯⋯それは直接って事?」
「勿論。不満や文句があるなら直接言ったらどうかなって思うの」
「う~ん、別に構わないけど⋯⋯意味があるとは思えないんだけど」
お貴族様に文句を言えば無礼者呼ばわりされるだろう。本物のミリーの不利にならないように動くには⋯⋯。
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