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第七章 ただいま準備中

12.カミングアウト

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「私はミッドランド侯爵家の次女のミリーではなく別の世界で生まれて死んだ宵待実里です。
ミリーの中にいると気付いたのはミリーが3歳になる少し前、2ヶ月くらい前だったと思います。乳母のマーサがクビになると知ってパニック状態になっていた時です。
私とミリーの意識が共存していたのは、マーサが侯爵家を追い出された3歳の誕生日まで。泣いていたミリーは心を閉ざし奥深くで眠ってしまいました。
私のいた世界では異世界転生の物語が流行っていましたから、前世の記憶を持って転生したのかと思いました。それ以外だとすると多重人格や妄想くらいしか思いつきません」

 目の前にあるのはカチカチのパンがひとつと具のないスープ⋯⋯卑屈で諦めるのが得意だった実里の目が覚めた。

 何が起きたのか分からないが立ち止まって考えている暇はなかった。今やる事は限られた条件の中でも生き延びる術を見つける事。実里として消えたはずの生命だけれど、自分が諦めたらミリーを道連れにしてしまう。それが何より恐ろしかった。

 持っている知識を総動員して生き残る事だけに意識を集中してきた。

 自分ひとりなら諦めていたかもしれない時でも、ミリーが目覚めた時にひとりでも生きていけるように、ミッドランド侯爵家の魔の手から逃れて自分らしく生きられるようにと思えば頑張れた。

 食べ物を手に入れて、お金を稼ぎ、逃亡先を探し、継続的に資金が手に入る事業を立ち上げた。人・場所・金⋯⋯3つが揃えば生きていけるから。

 時折目覚めるミリーは実里がひとりじゃないと思わせてくれた。そしてこの世界もこの身体も実里の物じゃないと思い出させる瞬間でもあった。

「実里は元の世界で結婚した事があります。子供ができる前に離婚したので経験はありませんが、ミリーは私にとって子供のような存在なんです。笑顔がとても可愛くて、幸せにしてあげたいなぁと。私には母親のような責任がある気がしています」

 真偽の程は不明だが⋯⋯この世にはいくつもの平行世界が存在しているという。人はそれぞれの世界で暮らしているが、時折別の世界に紛れ込んでしまう事がある。

 タイムトラベラーは同じ世界での横移動で、転移と転生は別の世界への縦移動。

 ミリーの目が覚める回数が増える度に交代の時期が近付いている気がするが、本当の事は分からない。

「先日元の世界に戻ってしまって、もうここには帰って来ないのかと思ったのですが、1ヶ月ちょっと向こうの世界で暮らしていたらまた戻ってきていました。
運が良かったのは移動した日のその場所に帰って来たことです」

 自分でさえ荒唐無稽な話だと思うが、夢や妄想だとは思えない⋯⋯それなら、ミリーが目覚めて実里がこの世界から消える可能性を考えながら生活するしかない。

 人との関わりを増やしすぎるとミリーが混乱するかもしれないし、ミッドランド侯爵家との関係で失敗したらミリーの将来を潰してしまう。

「ブランドール公爵夫妻をデレデレパパと甘々ママだと揶揄った事があるのですが、ミリーに対する私の気持ちはそれと同じかもしれません」



「学園の在学中に入れ替わりが起きるのが不安なのね」

「はい、ミリーと実里が入れ替わった時、そばにいたのは乳母のマーサだけでした。ミリーの性格が突然変わったので訝しんでいましたが、変化に戸惑いながらも受け入れてくれました。
でも、学園ではそうはいかないと思うんです。何がきっかけになるのか分からないので慎重に動きたいと思っています」

「入れ替わりの起きるタイミングが分からないのは厄介だわ。それにしても毎日不安だったわね? 何か対応策を考えましょう」

「信じて下さるのですか?」

「当然信じますとも。侯爵家にはわたくしの手の者がいて、ミリーの様子が一変したのが3歳の2ヶ月前だって報告されていたの」

 その後の状況も報告を受けていたオーレリアだが、侯爵家に関わることを拒絶した。侯爵家を探らせていたのは、自分に関わろうとする芽を摘み取るためだけだったから。

「わたくしは生国であるランバルド王国と侯爵家とこの国を憎んでいるわ。だからと言って国を潰そうとは思っていないけれど、その憎しみは罪のない幼子を見捨ててもいいと思える程強いの。
わたくしの住む館にいつか招待するわね。侯爵家の領地にあってわたくしだけの要塞だから、びっくりするかもしれなくてよ」

 オーレリアはランバルド王国にいた頃から蓄えていた個人資産を運用し、信頼出来る使用人達だけに囲まれて暮らして来た。

「わたくしが神の元に迎えられるのはそう遠くない未来かもしれないでしょう? だから、わたくしの全てを託す相手を探していたの。今のミリーになら託したいと思えたけれど、知っていながら放置したわたくしの願いを叶えるかどうか、選ぶのは貴女だから」

 生国と嫁いできた国と家を憎み拒絶しているのなら、オーレリアに残った世界には何があるのだろう。

 家が定めた枠の中だけで生きるのが貴族の夫人や令嬢で、どこまでの自由が許されるのかを決めるのは当主の権限。友人を作るなら社交界との繋がりが必要だが、この国と婚家を拒絶していると言い切るオーレリアにそれができるのか。

(派閥とか事業の関わりとか⋯⋯付き合う相手を選ぶ時に侯爵家と縁のない人を選ぶのは、侯爵家を意識しているのと同じだよね。オーレリア様ってそういうのも嫌がりそうな気がする。だからと言って平民とお茶を飲んだりお喋りしてるのもイメージできないし)

 実里の世界ならテレビやネットがある。本やゲームで時間を潰したり、映画やコンサートに行ったりできる。

(お高いけど本はあるし、観劇もあるにはある⋯⋯。住んでるとこが要塞って、本気で引き篭ってるって感じがするし、国とか侯爵家はどんだけやらかしたんだって思っちゃうよ)

 オーレリアは『知っていながら放置した』『許されるべきではない』と言ったが、ミリーにしてみればオーレリアはほんの少し前まで存在することも知らなかった人。謝られても戸惑うだけだろう。

(知ってたら『なんで助けてくれないんだ』って思ったかもだけど、顔を合わせても『へ~、この方がミリーのお祖母様なんだ~』としか思えないんだよね)




「オーレリア様が生国とこの国と侯爵家を憎む理由を教えていただけますか?」

「ええ、その話を知っている人は殆ど亡くなってしまったんじゃないかしら。わたくしが何かしたんじゃなくて、それほど長い時間が経ってしまったの」

 聞くのが辛くなったらいつでも止めるからと言って、オーレリアがゆっくりと話しはじめた。
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