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第七章 ただいま準備中

14.オーレリアの過去2(酷すぎて閲覧注意)読み飛ばしOK

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 苦々しい思いで宰相を睨みつけていたミッドランド侯爵家にとって唯一の救いになったのは⋯⋯。

『この国で新たな醜聞の種を撒かれても困りますから、社交も家政の取りまとめも行わず、王女殿下にはひっそりと暮らしていただければ良いのでは? 華やかな王都にいれば、友が欲しいとか茶会に行きたいなど、様々な願いも出てこられるでしょうし、長閑な田舎暮らしなどがお勧めかもしれませんな。
ランバルド王国は婚姻したという結果さえあれば良いそうですし、我が国もそれが一番だと願っております。
ああ、間違っても白い結婚などと言い出されませんように。オーレリア様が白い結婚だなどと仰られても嘲笑されて終わりですが、一度でもベッドを共にしたという事実さえあれば王国に逃げ帰る道はなくなりますから。
初夜が無事に終わったと言う立会人の証言があれば、第二夫人を娶る事が特例として許されます。誰の種かも分からない子を後継にさせるのは哀れだと、陛下が仰せになられましたので』



 顔合わせなどなく書面のみで婚約が成立。1ヶ月後にモラヴィアス王国にやって来たオーレリア王女の隊列は馬車3台と荷馬車が1台のみ。

 1台の馬車に王女と侍女2名が乗り、メイド4名がもう1台に。執事と侍従と下働きがもう1台に乗っていたが、護衛の数だけは40人と言う警戒ぶりだった。

 あまりにも人や荷が少ないが、当座必要な人と物以外は国境近くで待機していると言う。

『オーレリア様のお住まいが何処になるか分かりませんので』

 冷ややかな声で答えた執事は、オーレリアがどのような扱いをされるのかある程度は察知しているらしい。

 密やかで質素な隊列は、離宮への道を説明する使用人以外の出迎えがないまま王宮の前を通り過ぎ、離宮に向けてゆっくりと走り出した。



 カーテンを閉め切っていた馬車から降りるオーレリア王女は、襟の詰まった地味なデイドレスを着ており顔を覆い隠すベールで表情を隠していた。

 離宮で出迎えたのはお仕着せを着たメイドが3人。オーレリアを応接室に案内すると言う。

 部屋数が少ない為護衛の大半は野営になると聞き、馬車の近くにテントを立てる準備をはじめた。今夜使用する部屋に侍女とメイドを案内するよう指示を出した執事は、オーレリアと共に蔦の生い茂る離宮に足を踏み入れた。



 長い間使われていなかったのか、案内された応接室は空気が澱んで埃っぽく、部屋を出ていったメイドがお茶を運んでくる様子もない。

 夕闇が迫る頃やって来たミッドランド侯爵家の執事は、無造作に取り出した婚姻届と誓約書と地図をテーブルに置いた。

『今夜はここでお過ごしいただきますが、明日は準備ができ次第この地図にあります別荘へ向けて出立して下さい。誓約書の内容をご確認いただいてサインを終えられましたら、メイドが部屋にご案内いたします』

《 地図に示した別荘地を居住地とし、移動は別荘の周囲半径2KMまで。
第一夫人の経費その他について定められた予算内に収め、いかなる場合も増額は認めない。
常識の範囲であれば改装・改築を認めるが、侯爵家の許可した金額の範囲内で行う事 》





 夜⋯⋯天蓋付きの大きなベッドに掛けられているカーテンには防寒の意味があるはずだが、薄明かりであってもはっきりと姿が見えると思えるほど薄いレースが1枚。ベッドの周りには驚くほど多くの燭台が集められ、中心にあるベッドが劇場の舞台のように光り輝いている。

 侯爵家嫡男と共に司祭と数人の貴族が入って来た時に、薄いレースと灯りの意味が判明した。

『今の時代に初夜の立ち会いを行うなどあり得ません! 見知らぬ殿方に覗き込まれた中で寝屋を共にするなど⋯⋯どこまでわたくしを辱めれば気が済むのですか!』

 オーレリアが声を発したのはこの時のみ。

 離宮の中に立ち入る護衛の数を制限させたのはこの為だったのだろう。オーレリアに同行していた護衛や侍女達は抵抗したが、武力で押さえつけられて拘束された。

 オーレリアは好色な目をした男達の前でベールと共に髪を掴まれてベッドへと引き摺られ⋯⋯。

『大人しくこっちを向けば顔だけは殴らずにいてやる。ベールで隠してたのは残念な顔なんだろうがな!』

 ブチブチと切れた髪がベールと共にシーツの上に散らばり、破れた夜着が絡みつく身体には殴られた跡と抑え込まれた時に出来た痣や傷。

 強引に足を開かれて事後の確認をしたのは、父親である司教に強請って立会人となった年若い司祭だった。

『えっ! 出血って⋯⋯生娘だったって事? しかもすっげえ美人じゃん』

『次は俺の番だろ!? 金は払ったんだからな!』

『くそお! 俺は最後なんだから壊すなよ!』






 無理やり娶らされたオーレリアがベールで隠していたのは、この世のものとは思えないほどの美貌。しかも貞操を守っていたと知った侯爵家嫡男は、そのまま妻として侯爵家に迎え入れたいと騒ぎ立てた。

『オーレリアは噂のような淫乱女じゃなかった。このまま王都のミッドランド侯爵家に迎え入れましょう!』

 性犯罪者のくせに、何をか言わんやである。



 オーレリアの醜聞はただの噂だったのかも知れないと国王や宰相達は驚いた。

 ランバルド王国で厄介者扱いされていたオーレリアの噂を覆す事ができればランバルド王国に恩を売れる。今以上に関税率の引き下げを望めるかも知れない。

『初夜での出来事はランバルドから流れてきた噂のせいだと話せば、ご理解いただけるでしょう。生国ではろくな扱いをされていなかった王女を高待遇でもてなし、甘い言葉でも囁けばこちらの思い通りに踊ってくれるはず』

 どの程度の説明を受けたのかは定かでないが、正装に着替えた国王が宰相や侯爵達を引き連れて離宮に向かったが時既に遅し。

 荷解きもせずにいたオーレリア一行は、前日の内に指定されていた侯爵家の別荘に向けて出立した後だった。

『侯爵、流石に初夜でのアレはやり過ぎであろう。オーレリアに心を癒す(機嫌が直る)時間を与えよ』

 その後オーレリアから一度だけ別荘の改装を願う手紙が届いたが、侯爵は斜め読みしただけで改築費用の上限金額と『改築を許可する』のみ記した返事を出した。

 これで機嫌が治れば安いものだとほくそ笑みながら。





 侯爵が3ヶ月後に別荘を訪れた時、別荘は石が組まれた高い塀に囲まれていた。満々と水をたたえる堀には唯一の出入り口に向かう橋がかかり、真新しい跳ね橋と二重になった落とし格子まで設置されている。櫓・狭間・砲台⋯⋯。

 もはや別荘とは呼べない堅牢な要塞そのもの。

『わたくしに付き従う者達はわたくしが守らねばならないと、モラヴィアス王国の離宮にて勉強致しましたので、わたくしが移動を許可されている場所がわたくしと使用人達にとって安全であるように改築致しましたの。
あら、要塞のようでございますか? 上限を超えた費用を全てわたくしの個人資産で賄うのであれば自由にして良いと確約を頂いておりますから、見た目や設備をどのように改築しても問題はございませんでしょう?
その際に、わたくしの身の安全を保障しかねる方の立ち入りを拒否する許可もいただきましたので、皆様の敷地内への立ち入りはお断りさせていただきますわ。
ええ、確かにお二方は書類上の義父様と夫ですわね。その肩書きがわたくしや使用人達の安全を保障するものではないとご存知ですのに、落とし格子を上げろなどと⋯⋯笑えないご冗談をその様に堂々と仰られるのは痛すぎる気がいたします。でもモラヴィアス流の戯れ言なのであれば、無理にでも笑って差し上げた方がよろしかったかしら。
ご存知とは思いますけれど、敷地外では盗賊やならず者などが頻繁に彷徨いておりますので、お気を付けてお帰り下さいませ。
心配? いえいえ、別荘に立ち入れなかったせいで被害に遭ったなどと言われては迷惑ですもの。さあ、お急ぎになられませんと跳ね橋が上がってしまいましてよ』

 二重になった落とし格子を挟んで対峙したオーレリアは今日もベールを被っている。

 王都へ戻った侯爵家嫡男はオーレリアとの婚姻前に盛大な婚約式を終わらせていた第二夫人と、華やかな結婚式をあげさせられた。



 モラヴィアス王国から王女が嫁いできた事は公に告知される事もなく、安全な要塞の中で使用人達とひっそりと暮らしている。

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