病弱設定されているようです

との

文字の大きさ
145 / 145
第九章 なんでやねん

12.こんな大団円やだ〜!

しおりを挟む
「嫌な予感は当たるって本当なんですねえ」

 屋台で熱々のピザとクレープをご馳走になり、ステーシーに連れられて家にやって来たが、玄関を開けた途端大量の物が散乱しているのが目に入った。

 荷物と荷物の間にできたまっすぐな道は、2階へ上がる階段に続いている。

「う~ん、ちょっとアレだけど、まだ大丈夫よ。床も見えてるし?」

「ちょっとじゃないですよ! 完全ゴミ屋敷じゃないですか! 綺麗なのはお顔だけ? 口は悪いし態度も図太そうだし腹黒そうだし、こんな家にふわふわちゃんを連れてきちゃダメじゃん。真っ白のふわふわちゃんが真っ黒になったら、本物のまっ◯ろくろ◇けになっちゃうじゃないですか!」

「しょうがないじゃん、ソイツはアンタについてきたんだもん」

 腕を組んで仁王立ちしていたステーシーが、ふわふわちゃんを立てた親指でくいっと指した。

「⋯⋯へ?」

「アンタねえ、可哀想だからこの子達のことだけでも頑張って思い出してやんなさいよ。人混みが嫌いなのに一生懸命ついて来てさあ、迷子⋯⋯にはなんないけど、落ち込みすぎたら消えちゃうからね」

「そんな、ふわふわちゃんってそんな儚げな存在だったの! うわぁ、ごめんね、ごめんね、頑張って思い出すからそれまで頑張ってぇぇぇ」

 膝と両手を床について涙を流した実里は、ゴミの山を飛び回るふわふわちゃんを見つめた。

「⋯⋯うっそぴょ~ん。抜けてるアンタの友達なんだもん、そんなにやわなわけないじゃん。びっくりしすぎてうっかり思い出しちゃった作戦は失敗かあ」

「なんですかそれ、衝撃で傷ついた乙女心⋯⋯どうしてくれるんですか!?」

「口は悪いし態度も図太そうだし腹黒そうな顔だけ綺麗なアタシに、なんか文句でもあんのか!? おらおらおらぁ」

 両手で握り拳を作ったステーシーは、実里の顳顬を両側からグリグリとネジ込むように圧迫した。

「ぐうぁぁ、痛い、痛い、痛いですう。ごめんなさい~」

 パンパンと両手を叩いたステーシーは『ふう、すっきり~』と満足顔で、2階を指差した。

「掃除したい? 2階に上がって寝る?」

「寝ます、お利口さんで寝たいです」

 ピシッと直立不動になった実里は右手で敬礼。

「アンタの部屋は2階のいちばん手前。パジャマ出して着替えて寝る! 明日も明後日も、アンタの記憶が戻るまでは自宅待機で警備員ね!」

「パジャマ⋯⋯」

「アンタのインベントリーに『いつでもどこでもお泊まりセット』が入ってるじゃん。頭に思い浮かべりゃ出てくるわよ。でもまあ、出てこなきゃ裸で寝なくちゃだねえ、あら、大変! おきばりやす~」








(思い出した⋯⋯異世界転生してますやん。今回は外と中が一致してるからラッキー⋯⋯なのか? 一晩ぐっすりで思い出せたけど⋯⋯なんかもう)

 田舎町で暮らしていた魔法使いの夫婦の元に産まれた実里は、エミリーと名付けられて大切に育てられていた。

 ふくふくと育ったエミリーがようやくお座りができるようになった頃、猛威を振るった流行病で両親が亡くなり、修道院に付属する孤児院に引き取られる事になったが⋯⋯。

 魔力量が多すぎるエミリーは、泣くたびに魔力暴走を起こしかけては部屋を崩壊させてしまう。

 そんなエミリーを持て余したシスターが連れて行ったのが通称『魔法使いのヤドリギ』と呼ばれる魔法塔で、その日からエミリーは魔法塔の職員であるステーシーの両親に育てられる事になった。

 豪快なステーシーパパと大らかなステーシーママに愛されながら魔力のコントロールと魔法を覚えるエミリーのそばには、いつも5歳年上のステーシーが寄り添っていた。

 おむつを変えてミルクを飲ませ一緒に遊んで一緒に眠る。近所の子供にエミリーが虐められそうになれば、ステーシーが相手をボコボコにしてくれる。怖い夢を見た時は頭を撫でながら歌を歌ってくれる。

 エミリーにとってのステーシーは信頼できる姉であると同時に、絶対的な支配者になっていった。

『ああん、姉ちゃんの言う事が聞けねえってか~? お漏らししたの、母さんにバラしちゃおうかな~』

『妹ってのは、姉の下僕なんだぞ~。ほれほれ、敬ってアタシにクッキーをさ~し~だ~せ~』

 ステーシーの両親の指導とステーシーの扱きにより才能を開花させたエミリーは、8歳になった日からステーシーと共に魔法塔で1日の大半を過ごすようになった。



「取り敢えず、下に降りてみるか。ゴミ屋敷をなんとかしなきゃだもん」

 昨日見た惨状を思い出しつつ階段を降りると⋯⋯綺麗に片付けられた玄関ホールが目に入り、実里の前にひらひらと1枚の紙が落ちてきた。

《 ステーシー様に感謝したくなった~? ほーっほっほ。食べるものがないから、お腹が空いたら買っといで。店は家を出て左に行けばアンタでも分かるはず 》

 手にした手紙からステーシーの声が響き、チャラチャラと音を立てて手紙が数枚の銅貨に変わった。

「うん、お腹すいた。取り敢えずなんか買いに行こう。まずはパン屋に行って卵サンドを買わなきゃね」

 玄関を出て左に進んで行くと見慣れた商店街が見えてきたが⋯⋯。





「よう、久しぶり」

「⋯⋯ どなたさんで?」

(ど、ど、ど、どちて? 人違いだよね、そっくりだけど、絶対に別の人だよね!)

「はあ!? チビすけ⋯⋯てめえ巫山戯てんのか!」

「ち、チビ言うなぁぁ! 熊に知り合いはおりませんけど~」

「覚えてんじゃねえか! びっくりさせやがってよお」

 シンプルな革のジャケットに洗いざらしのジーンズ、使い込んで傷がついたハーフブーツも革⋯⋯会いたくても会えないと思っていたレオンがいる。

 その後ろに見えるのは、大型バイクの中でも実里が憧れていたハーレーっぽい大型バイク。

(クリ◇ト・イース◯ウッドがバイクに! 熊だけど、熊だけど許す! 時代と衣装がズレてるけど、熊だから許す! バイクに変なもんが乗ってるけど⋯⋯)


「んで、これから仕事か? 連れてってやるから乗ってけ」

「え~、事故とか~、迷子とか~」

「うっせぇ⋯⋯チビすけがようやく思い出したって連絡が来たから迎えに来てやったんじゃねえか」

「むむ? 連絡とな? 思い出したのって今朝だよ? ほんの2時間くらい前。誰にも言ってないし、誰も知らないはずだもん⋯⋯はっ! 盗聴か!? 盗聴は犯罪だよ、ストーカーも犯罪だし。ヤバいよ、お巡りさ~ん、熊を捕獲してえ。牢屋のご飯はどんぐり差し入れるから~」



「来年、チビすけが成人したら嫁に来い。今度は逃さねえからな」

「⋯⋯は、はいぃぃぃ。な、な、なにそれ。突然の監禁宣言じゃん⋯⋯そう言えば『俺はロリじゃねえ』とか『閉じ込めてケツ叩き』とか言ってた! 監禁からのドSなプレイとか無理だから~」

「やっぱ、あの時いたんじゃねえか。な~んかおかしいと思ったんだよな。次の日帰ったら気配が消えてるしよお。このまま捕獲した方が無難かもな」

 一歩で距離を縮めたレオンが実里を抱き上げて、バイクに向かって歩き出した。

「うぎゃあ! これ無理~、お、降ろしてぇぇぇ。恥ずかしいから、やめてぇぇぇ」

 真っ赤な顔を両手で覆った実里をバイクに座らせたレオンは⋯⋯。

「ちょっとこれ持っといてくれ」

「やっぱりこれは⋯⋯ねえ、熊はさっき私にプッ、プッ、プロッポーズしたんだよね」

「したなあ、プロポーズ」

「普通、花束とか持ってするもんじゃないの?」

「チビすけならこっちんが喜ぶんじゃね? 食えるし」

「⋯⋯⋯⋯この⋯⋯バカチンがぁ! 長ネギ持ってプロポーズすんじゃねぇぇぇ」

「これからは何があろうと、ひもじい思いも寂しい思いもさせねえから⋯⋯嫁に来い」



 翌日、見事な長ネギを持って叫ぶ実里の姿と大笑いするレオンの写真が新聞の一面を飾った。

《 バイク王レオン・ブランドールが天才魔法使いエミリー・コンプトンを長ネギで捕獲 》

 インタビューに答えたレオンは⋯⋯。

「仲人? ネギーおじさんだな」







 レオンがどうやって実里を追いかけたのか、これからの2人がどんなドタバタを繰り広げるのか、実里のそばにいつも寄り添っている『ふわふわちゃん』がなんなのか⋯⋯それはまた次の機会に。


  《   完   》






 ネギーおじさんはトランクス派だそう⋯⋯何故ここでこんな報告が? と思えるような閑話休題。ちゃんちゃん。

しおりを挟む
感想 25

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(25件)

かりりん
2025.12.04 かりりん

たびたびすみません(^_^;)願わくば実里がいなくなった後の毒親毒兄姉のざまぁエピソードも読んでみたいです。
マーサと合流した後のミリーのお話やエミリーとミリーの再会シーン等も。
余力気力がありましたならば気の向いた時によろしくお願いします。

2025.12.06 との

ありがとうございます😊
本編はここで完了とさせていただき、登場者達のその後をじわじわと書いて行く予定でおりますので、お付き合いいただけると嬉しいですᕦ(ò_óˇ)ᕤ

解除
sanzo
2025.12.04 sanzo

ん?????
え?完結なの!?

2025.12.06 との

ありがとうございます😊
一応完結⋯⋯でして。これからは、眠っていたミリーの成長やイリス達の事などを少しずつ(ゆっくりと)公開させていただきたいと思っています。

解除
かりりん
2025.12.03 かりりん

なるほど!実里はミリーに憑依していたけど、異なる次元では実里は実里であって、ミリーが存在する世界観でもエミリーとして転生していたという事だったのですね。
熊とのハッピーエンドは私もそうなるだろうと思っていましたが、実里が違う次元から召喚されてのハッピーエンドだと思っていました。何はともあれ、暖かい家庭を今度こそ築いて幸せになって欲しいです。
完結おめでとうございます。

2025.12.06 との

ありがとうございます😊
新しい世界で実里&熊らしい幸せを掴んで欲しいと思っています٩(^‿^)۶

解除

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

王族の言葉は鉛より重い

Vitch
恋愛
 フォークライン公爵の娘であるミルシェ。  彼女は間違い無く公爵の血を引く娘だった。  あの日までは……。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。