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第九章 なんでやねん

11.再び⋯⋯ここはどこ?

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「えーっと、どなたさん?」

 見覚えのない女性に毛布を剥ぎ取られた実里は、寝ぼけ眼を擦り部屋を見回した。

「ここはどこ? 私は実里⋯⋯なんか変な物が浮いてるんですけど?」

 木目が美しい床がピッカピカの部屋は、広さで言えば20畳くらい。

 出入り口らしきドアを挟んだ左側はL字型に本棚設置され、ギッシリと本が並んでいる。

 ドアの右側はこれまたL字型にガラスの扉付きの棚が設置され、その間にキッチンらしき水道の蛇口やコンロが見えた。何に使うのか想像できない怪しい道具やあちこち凹んだ鍋もある。

 極め付けは長方形のコンテナの中で、リズムに乗って歌って揺れ動く花々。スタンドマイク役の葉っぱは直立不動だが、勢いに押されて時々倒れかれる。

(スタンドの先っちょが光ってるのはマイク? う~ん、芸が細かい。歌ってるのはゴスペルっぽいな)

 部屋の真ん中には大きな机とオンボロのスツールが2脚。机の上ではガラスのビーカーがポコポコと音をさせながら湯気を上げている。

 実里が見ているもうひとつの『変な物』は、机の周りでふわふわと浮かぶ白い綿のような物。イメージは真っ白なまっ◯ろ◯ろすけ。

 大きいのの後を中位のと小さいのが追いかけているようにふわふわと⋯⋯机に近付いたり天井近くまで上がったり、気ままに部屋を飛び回っている。


「寝ぼけてる? 巫山戯てる? 私の事、馬鹿にしてる? エミリーちゃ~ん、アンタ喧嘩売ってんの? 買うよ、買っちゃうよ~。4276勝1引き分けのアタシにまた負けたいってか?」

「えーっと、エミリーってのが私? んで、あなたに負けまくってると」

 首を傾げた実里は自分を指差した。

「⋯⋯もしかして、マジ?」

「はい、マジですね」

「マジかぁ。ちょっと仕事のしすぎかもね。うん、そうに違いない。エミリー、今日はもう帰っていいから。家に帰ってさっさと⋯⋯家、分かる?」

「家が何かは分かります。屋根があって壁もあって寝るとこですね」

 ドヤ顔の実里の頭を目の前の女性が殴りつけた。

「いってえ! 痛いじゃないですか、バカになったらどうしてくれるんですか!?」

「⋯⋯記憶はなくしても、そのノリは変わってないのね。いい事、よくお聞き。アタシの名前はステーシー。ボケナスなアンタの先輩魔法使い。アンタは3連ちゃんの徹夜して、ソファで寝こけてた。ここまでは分かった?」

「はい⋯⋯いやいやいや、魔法使いって何ですか? 厨二病とかですかね。この世界に魔法なんてない⋯⋯」

 ステーシーが実里の目の前で指の先に火を灯し、白いふわふわが部屋の隅に逃げ込んだ。

「あるんですね、はい。ごめんなさい」

(あ、プルプルしてる~。超可愛いじゃん)

「はぁ、アンタが記憶を取り戻すまでは、アタシが家の送り迎えするっきゃなさそうね。ついてらっしゃい」

「へい! お供しやす」




 ステーシーに連れられて部屋を出た実里は、うっかり大声をあげてしまった。

「うわぁ! なんですか、これはぁぁぁ」

 実里のいる建物はどうやら円筒形をしているらしく、壁に沿ってドアがポツンポツンと並んでいる。廊下の横?⋯⋯建物の中央には広くて丸い穴が空いている。

「しょぼい手すりは付いてるけど底が見えない穴⋯⋯あの、高所恐怖症なんですけど」

「記憶がないくせに、そんな事は覚えてんの?」



 その穴の中にはゆっくり上下している箱が浮かんでいる。

「エレベーター。これがないとここじゃ仕事できないわ」

「まさかと思いますけど、アレに乗る? 死んじゃいますって、箱までの距離が2メートル以上あるじゃないですか! まさか飛ぶの? 走り幅跳びはクラス最下位だったんで無理です。いつもジャンプする時のタイミングが掴めなくってですね⋯⋯」

「お黙り! アンタだけ階段でもいいわよ。ここは32階だからアタシはエレベーターを使うけどね」

「の、の、の、乗ります。乗ててくだたい」

(あ、噛んだ)

 目を瞑っていた実里は何が起きたのか分かっていないが、ふわっと身体が浮いて実里が『ひぃぃぃ!』と叫んでいたら、グインっとGがかかって急降下していた。



「ほえ~」

 実里が出てきた塔は見上げてもてっぺんが見えないほどの高さで、白っぽい御影石で出来ている。

(所々ヒビが入ってるけど大丈夫なの?)

「ボケっとしてたら口ん中に虫が入るわよ」

「タワマンより凄い⋯⋯雲を突っ切ってそう。んでも、この塔って縦横の比率がおかしくありません? 横は大学とかのでかい体育館くらいしかないみたいな。安全基準とか建築法とかどうなって⋯⋯」

「行くわよ。お腹が空いたから先になんか食べにいくわ」

 ガシッと実里の腕を掴んだステーシーが無詠唱で転移した。



 突然景色が変わり、食べ物の美味しそうな匂いが実里のお腹を直撃した。

「わぉ、ファンタジーの世界⋯⋯ああ、夢か。今度の夢はファンタジー物の転移ね。前のは~、前のは~、前のはファンタジー物の憑依。うん、突然ホラー感満載じゃん。いやぁ、夢ってその人の願望とかって言うからな~。ホー◯テッドマ◯ションとか好きだったのかも。今度、行ってみようかな。カップルに前後を挟まれて、きゃ~とか⋯⋯やめとこ」

「なにぶつぶつ言ってんの、さっさと来ないと置いてくわよ」

 ステーシーが向かった先には、中央にステージ台がある広場があり屋台や露店が並んでいた。料理を買い込んだ客がベンチに向かって歩き、買い物客がのんびりと露店を冷やかしている。

「ヤバい、食いっぱぐれる」

 実里は人混みに紛れ込みそうなステーシーの背中を追いかけはじめた。



 見たことのない景色の中でも実里が慌てずにいられるのは、これが初めての経験ではないから。ミリーの世界に似ているところもあるが、色々と違っていてそれはそれで面白そう。

 ゴーっという音で実里が振り返ると、ブラックキャブに似た車が空から降りて来るところだった。

 レンガ造りの4階建ての建物の前が駐車場になっているらしく、そこを狙って降りている。

 車が地上近くでゆっくりと停車して、後部座席のドアが開くと3人の男性が降りてきた。

(この世界の車ってド◯えもん仕様なの? ちょびっと浮くのが俺様流とか)

 男達はみんな、黒色のフロック・コートと濃いグレーのズボンに前飾りのついた白いシャツ。少し立てた襟元には色違いの蝶ネクタイが結ばれて、手にはステッキとシルクハットを持っていた。

(ふ~ん、この時代のお金持ちさんのスタイルはコレなんだ。蝶ネクタイかあ、お子ちゃまがしてるのは好きなんだけどなぁ)

 実里の中の蝶ネクタイのイメージは、半ズボンにサスペンダー&蝶ネクタイで、ちょこまかと走り回る元気な男の子。

 短い階段を上がった先の両扉が中から開いて、男性達を招き入れた。



 周りに並んだ建物もレンガ造りだが3階建てのものばかり。1階が店舗で2階と3階は会社か事務所のように見えた。

 男性を降ろした車は再びゴーっと言う音を立てて浮き上がり、空高く飛んでいった。

(まさかの空飛ぶタクシー? 信号待ちもラッシュもなくて便利そうだけど、運転するのはドライバー? それともパイロット?)

 広場と建物の間の広い道は石畳になっていて、両端が人の歩く歩道で歩道の間を馬車が走っている。



「お間抜けエミリー! これ以上待たせたらうちの掃除させるわよ!」

 実里の背中をゾゾっと悪寒が走り抜けた。妙に嫌な予感がしたせいではないと心から思いたい。

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