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第一章 マーサと共に
04.リセットボタンはどこ!?
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部屋の奥にある古めかしいドレッサーに近付き、背伸びしてそっと覗き込んで大きな溜め息を漏らした。
「マジかぁ⋯⋯ここは、ここだけは予想を裏切って欲しかったのに。なのに、まさかここが予想通りとは⋯⋯む、無念」
少しぼやけてはいるが、そこには寝癖だらけのシルバーブロンドの髪と、西洋人に比べるとかなり『平たい顔族』の顔が写っていた。
(はぁ、『平たい顔族』のいなさそうなこの景色にこの顔⋯⋯間違いなく『残念顔』じゃん。そのせいでボッチだったりして~。いやぁ、情けなさ過ぎて逆にウケるんだけど? 座敷童子⋯⋯じゃなくて、この世界なら『シルキー』か『ブラウニー』だな)
シルキーは名家や大金持ちの家に住む妖精で、顔は見たことがあるのに正体が分からないと言う希有な存在。
ブラウニーは身長は1メートル弱で、茶色のボロをまとい髪や髭は伸ばし放題。
ミリーの着ている古びたチュニックや傷んだ髪からすると、ブラウニーに軍配が上がりそうな予感。
(ミリーの家族がどんな人達なのか分かんないけど、家族構成まで似てるとかだったら心が折れそう。ゲームならリセットボタンを⋯⋯お? この角度ならちょっと見栄えが良くなるじゃん⋯⋯夜通しでも連打しまくってるよ。
ハブられてるのが本当だと仮定して、関わりがなさすぎるしお子ちゃま過ぎるしで、理由が何なのかも分かんな⋯⋯うーん、おでこの形は良さげじゃん。なら前髪を上げたら⋯⋯ダメだ。ますます顔が平たく見える。
唯一の情報源に聞いたら泣かれそうだしなぁ⋯⋯色が問題かなぁ。黒髪ならメリハリ不足が補えたり⋯⋯貴族なのかどうかでシバリが変わってくるはずだから、それだけでも知りたいなぁ)
ぼんやりした鏡の前で考え込みながら百面相をしているのは、少しでも見栄えが良い顔を模索中だから。
(ううっ、せめて目がもう少し大きければ⋯⋯)
曇った鏡に顔を近付けて顰めっ面をしていると静かにドアが開き、カートを押したマーサが入って来た。
「あら、もうお目覚めになられていたのですね。おはようございます。
今日の朝食にはミリー様の大好きなオレンジも付いていますから、楽しみにして下さいね。さあ、お顔を洗ってお着替えをいたしましょう」
いつもの穏やかな笑顔だが、目の下のクマは濃く口元にはくっきりと皺が刻まれている。
マーサの年齢は分からないが、乳母ならまだ若いはずなのに⋯⋯過労と心労による疲れなのか白髪も目立つ。
マーサの手を借りてお湯で顔を洗い、丁寧に繕った跡のあるチュニックに着替えさせて貰いながら、ふとある事に気付いた。
(そう言えばマーサって休みなしだったような。って事はここんちって完璧ブラック企業じゃん。ミリーがマーサに頼りっきりだったのは仕方ないけど⋯⋯マーサに甘えまくりの甘えんぼちゃんだったよなぁ)
『ヤダヤダ、マータここにいりゅのぉ。だっこ、だっこちて』
『マータ、もっとよんでぇ、おねまい!』
『じゅっとそばにいて⋯⋯おねまい』
それらはミリーの言動だが自分がやった事のように感じられ⋯⋯ブラックな職場に手を貸していた共犯者のように思えて仕方ない。
(今更反省してもしょうがないじゃない。マーサが退職する時、笑顔で送り出さなくちゃ。悲しそうにしてたら、マーサが心配するもんね)
マーサはミリーの事を心から慈しみ、全身全霊で尽くしてくれた。本気で叱ってくれたマーサに対してできる事は⋯⋯ミリーが前を向いて歩いている姿を見せる事。不安要素ばかりの中でも、頑張っているからきっと大丈夫だと少しでも思ってもらいたい。
少しガタつく机の足の下に板をかませてから、料理を並べるマーサの痩せた背中を見ていたミリーがふと呟いた。
「マーサはちゃんと食事してるの?」
「⋯⋯はい?」
3歳児らしくないミリーの言葉に驚いたマーサが、準備の手を止めて振り返った。
「あっ! えーっと⋯⋯マーサもぉ、オ、オレンジ、一緒に食べる?」
(誤魔化せるか? お願いだから誤魔化されてぇぇ)
「ありがとうございます。マーサにも分けてくださるなんて、ミリー様はお優しいですね。マーサはこの後でたくさんいただきますから、これはミリー様が召し上がってくださいませ」
「う、うん(マーサの前ではミリーらしく行動するしかないんだけど、幼児語なんて小っ恥ずかしくて使えないよぉ)」
訝しげな顔をしたマーサからの追及を回避する為、幼児にとっては少し高過ぎる椅子に急いでよじ登り、硬くなった白パンに齧り付いた。
(くっそ、料理人め! 絶対古いパンじゃんか。どうかそいつの靴に毎日小石が入り込みますように⋯⋯なむなむ)
もっもっもっ⋯⋯ごっくん。
(さて、これからどうするか⋯⋯)
食事中は私語厳禁。小さな口にはちょびっとしか入らないし、急いで飲み込もうとするとゲホゲホとむせてしまう。
「大丈夫ですか? ゆっくり召し上がらないと⋯⋯」
ベッドメイクしていたマーサが手を止めてミリーの元にやって来て、口の周りを拭いてくれた。
「う、うん⋯⋯ゲホッ⋯⋯も、もう大丈夫。ありがとう」
大人だったら確実に羞恥プレイに入る行為⋯⋯ 口周りを拭いてもらって顔を赤らめたミリーは、スプーンを持ち直してほんの少しだけスープを口にした。早食いだった実里には焦ったい程ゆっくりと。
(行き場なんてないしなぁ。実はぁ現世の記憶が戻ったせいで違和感が半端ないんですけどぉ、相談に乗ってくれませんかぁ?⋯⋯なんて言ったら頭がおかしくなったって思われるだけだろうし)
「マジかぁ⋯⋯ここは、ここだけは予想を裏切って欲しかったのに。なのに、まさかここが予想通りとは⋯⋯む、無念」
少しぼやけてはいるが、そこには寝癖だらけのシルバーブロンドの髪と、西洋人に比べるとかなり『平たい顔族』の顔が写っていた。
(はぁ、『平たい顔族』のいなさそうなこの景色にこの顔⋯⋯間違いなく『残念顔』じゃん。そのせいでボッチだったりして~。いやぁ、情けなさ過ぎて逆にウケるんだけど? 座敷童子⋯⋯じゃなくて、この世界なら『シルキー』か『ブラウニー』だな)
シルキーは名家や大金持ちの家に住む妖精で、顔は見たことがあるのに正体が分からないと言う希有な存在。
ブラウニーは身長は1メートル弱で、茶色のボロをまとい髪や髭は伸ばし放題。
ミリーの着ている古びたチュニックや傷んだ髪からすると、ブラウニーに軍配が上がりそうな予感。
(ミリーの家族がどんな人達なのか分かんないけど、家族構成まで似てるとかだったら心が折れそう。ゲームならリセットボタンを⋯⋯お? この角度ならちょっと見栄えが良くなるじゃん⋯⋯夜通しでも連打しまくってるよ。
ハブられてるのが本当だと仮定して、関わりがなさすぎるしお子ちゃま過ぎるしで、理由が何なのかも分かんな⋯⋯うーん、おでこの形は良さげじゃん。なら前髪を上げたら⋯⋯ダメだ。ますます顔が平たく見える。
唯一の情報源に聞いたら泣かれそうだしなぁ⋯⋯色が問題かなぁ。黒髪ならメリハリ不足が補えたり⋯⋯貴族なのかどうかでシバリが変わってくるはずだから、それだけでも知りたいなぁ)
ぼんやりした鏡の前で考え込みながら百面相をしているのは、少しでも見栄えが良い顔を模索中だから。
(ううっ、せめて目がもう少し大きければ⋯⋯)
曇った鏡に顔を近付けて顰めっ面をしていると静かにドアが開き、カートを押したマーサが入って来た。
「あら、もうお目覚めになられていたのですね。おはようございます。
今日の朝食にはミリー様の大好きなオレンジも付いていますから、楽しみにして下さいね。さあ、お顔を洗ってお着替えをいたしましょう」
いつもの穏やかな笑顔だが、目の下のクマは濃く口元にはくっきりと皺が刻まれている。
マーサの年齢は分からないが、乳母ならまだ若いはずなのに⋯⋯過労と心労による疲れなのか白髪も目立つ。
マーサの手を借りてお湯で顔を洗い、丁寧に繕った跡のあるチュニックに着替えさせて貰いながら、ふとある事に気付いた。
(そう言えばマーサって休みなしだったような。って事はここんちって完璧ブラック企業じゃん。ミリーがマーサに頼りっきりだったのは仕方ないけど⋯⋯マーサに甘えまくりの甘えんぼちゃんだったよなぁ)
『ヤダヤダ、マータここにいりゅのぉ。だっこ、だっこちて』
『マータ、もっとよんでぇ、おねまい!』
『じゅっとそばにいて⋯⋯おねまい』
それらはミリーの言動だが自分がやった事のように感じられ⋯⋯ブラックな職場に手を貸していた共犯者のように思えて仕方ない。
(今更反省してもしょうがないじゃない。マーサが退職する時、笑顔で送り出さなくちゃ。悲しそうにしてたら、マーサが心配するもんね)
マーサはミリーの事を心から慈しみ、全身全霊で尽くしてくれた。本気で叱ってくれたマーサに対してできる事は⋯⋯ミリーが前を向いて歩いている姿を見せる事。不安要素ばかりの中でも、頑張っているからきっと大丈夫だと少しでも思ってもらいたい。
少しガタつく机の足の下に板をかませてから、料理を並べるマーサの痩せた背中を見ていたミリーがふと呟いた。
「マーサはちゃんと食事してるの?」
「⋯⋯はい?」
3歳児らしくないミリーの言葉に驚いたマーサが、準備の手を止めて振り返った。
「あっ! えーっと⋯⋯マーサもぉ、オ、オレンジ、一緒に食べる?」
(誤魔化せるか? お願いだから誤魔化されてぇぇ)
「ありがとうございます。マーサにも分けてくださるなんて、ミリー様はお優しいですね。マーサはこの後でたくさんいただきますから、これはミリー様が召し上がってくださいませ」
「う、うん(マーサの前ではミリーらしく行動するしかないんだけど、幼児語なんて小っ恥ずかしくて使えないよぉ)」
訝しげな顔をしたマーサからの追及を回避する為、幼児にとっては少し高過ぎる椅子に急いでよじ登り、硬くなった白パンに齧り付いた。
(くっそ、料理人め! 絶対古いパンじゃんか。どうかそいつの靴に毎日小石が入り込みますように⋯⋯なむなむ)
もっもっもっ⋯⋯ごっくん。
(さて、これからどうするか⋯⋯)
食事中は私語厳禁。小さな口にはちょびっとしか入らないし、急いで飲み込もうとするとゲホゲホとむせてしまう。
「大丈夫ですか? ゆっくり召し上がらないと⋯⋯」
ベッドメイクしていたマーサが手を止めてミリーの元にやって来て、口の周りを拭いてくれた。
「う、うん⋯⋯ゲホッ⋯⋯も、もう大丈夫。ありがとう」
大人だったら確実に羞恥プレイに入る行為⋯⋯ 口周りを拭いてもらって顔を赤らめたミリーは、スプーンを持ち直してほんの少しだけスープを口にした。早食いだった実里には焦ったい程ゆっくりと。
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