病弱設定されているようです

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第三章 ロケットスタート

14.広く浅くでも、できることはあるはずだから

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「⋯⋯それは教えられないな~。その情報に見合う対価を熊は持ってないから。イリスもシモンも」



 本の虫だった実里が読むのは現実とかけ離れたものばかりだった。歴史物や遠い過去の文芸作品⋯⋯活字中毒だと言いながら常に本を手にしていた。

『現代物は苦手。現実を忘れさせてくれる本がいい。家族愛なんてクソ喰らえ』

 ネット小説が流行りはじめ『異世界転生物』にハマったのは自然の流れだっただろう。

 全く違う世界だけどどこか似通ったところのある世界。実里のいる時代よりかなり昔の世界と今が混ざり合う、二次元の世界の魅力に夢中になった。





 実里の知識⋯⋯ファンタジー物に必ずと言っていいほど出てくる《ギルド》と言う存在が気になり始めたのがきっかけだった。

『ギルドって本当はどんな物だったんだろう』

 成り立ちや時代背景をネットで調べ始めると止まらなくなり、他にもアレコレと調べ始めた。

 現代の知識でチート⋯⋯アレルギー? ワクチン? 最強の武器?

 ほのぼの街づくり⋯⋯上下水道っていつ頃できたの? 初めはどんな風に作ったの? コンクリートって材料は何?

 和食で無双⋯⋯ 塩ってどうやって作る? 砂糖は? 味噌は? 米って⋯⋯。

 貴族の暮らしは? 平民は? ドレスの変遷、馬車の種類、領主館とタウンハウスの違いは?



 ネット小説のありえない空想世界が楽しくて仕方ない。現実とかけ離れた世界で胸に秘めた夢を叶えたり、日頃の憂さを晴らしたり⋯⋯ご都合主義な設定だって『その世界特有のもの』だから、チートで無双も魔法や巻き戻りもなんでもござれなのが気に入っている。

 ざまぁされる悪役はあり得ない程の性悪かお間抜けなのがいいし、主人公が必ずハッピーエンドを迎えるのもいい。

 その後は、楽しみを2倍にも3倍にもしてくれる情報収集に勤しんだ。

『えぇぇ、それってすごいかも~』

『やっぱりそうなんだ~』

『え~、マジかぁ。それはちょっと~』



 ぼっちには時間がありすぎるほどある。一人の食事、やることがない休憩時間。洗濯と掃除以外に予定のない休日。

 小説を読み終わるとすぐに次の小説を探しはじめるが、その合間の情報収集も欠かせない。無限とも言える小説に出会えて疑問や興味に答えをくれる⋯⋯スマホは実里の宝物だった。




 実里の知識が広く浅く偏っているのは、全体の雰囲気だけ分かればそれで十分だったから。次のネット小説を読む時に、楽しみが2倍になればいいだけだから。

(いや~、異世界にお邪魔するとは思わなかったからさぁ、齧りかけの中途半端な知識しかなくて、ほんと申し訳ないって感じだよ。
ミリーの為に少しだけ道を開いておければそれで役目は終了だからさぁ、モヤっとした情報でなんとかなればいいなぁ⋯⋯こんな考えでもなんとかやっていけるかなぁ)

 生半可な知識を持っていて、その実なにも知らないのが実里。

(ミリーが目覚められるようになるまでのピンチヒッターですからそれまではなんとしてでも頑張りますとも。ま、まぁ、その⋯⋯やりたい放題やってる感もなくはないけど)


 実里がいなくなった時、無茶苦茶な奴がいたなぁと誰かが覚えていてくれたら嬉しいと思う。

 実里が大切に守ったミリーを守ってくれる人が見つかれば良いと思う。

(ミリーはかなり甘えん坊だから⋯⋯私は違う。私は自立したおばさん。おばあさんじゃないと思いたい。いや、思ってるぞ!)





「おい、おいって! 聞いてんのか!?」

「ん? 聞いてまて~ん。ごめんなさい、ごめんなさい、聞いてませんでしたぁ。もう一度お話いただければ幸いですぅ」

 ぼうっとして実里の時代を思い返していたミリーは地面に座り込んで土下座した。

「え? いや、そこまでしてもらわなくても⋯⋯」

「いやいやいやいや、そうは参りません。粗相があればなんなりと⋯⋯情報料はまけませんけどね」

「ちゃっかりしすぎだぜ。まぁ、それがチビすけなんだろうけどよぉ」

「あるぅひ~、もりのにゃか~、くましゃんは~、しぇこか~った、はなさっくも~り~のにゃか~、くましゃんはちらいだ~。2番も聞きたい?」





 どこに住んでいるのかも、誰と暮らしているのかも分からない⋯⋯胆力だけは誰にも引けを取らなくて秘密だらけのミリー。七変化のように言葉を操って人を煙にまき嫌味と悪態を撒き散らすのに、どこか寂しげに見えるのはあの見た目のせいではないだろう。

 つんと顎を上げて知識と理論で武装して、悪事ギリギリの正義を振り翳す。

(可愛げもへったくれもない⋯⋯ないけどよぉ、なんか目が離せないっつうかほっとけないんだよなぁ)

(強引だけど一線を引いていて、わたくし達との間に築いている壁は揺らぎもしない。ミリーは目の先に何を見ているのかしら)

(妹みたいに我儘だったり、姉みたいに偉そうだったり。ほんと、何考えてるのかぜんっぜん分かんないけど⋯⋯次に何を言い出すのか楽しみで仕方ないんだよな)



 ミリーの素性を知っているらしいセオじいは鼻を鳴らしてそっぽを向くだけ。

 ターニャ婆には塩を撒かれ、セリナはにっこり笑ってドアを閉めた。

「ほんと謎だらけだよ。いつかその謎を解明してやりたくなる」



 平民街でセオじいと呼ばれている年寄りは、昔の名前をセオドア・アーバスノットと言う。ターニャ婆はタチアナ・コンプトン。

「あの爺さんは昔っから飄々とした曲者だったって聞いてるからなぁ。ミリーの情報の大半はセオドア様からのものだろうが、それだけじゃ納得できない部分が多すぎる。
取り敢えず静観するしかなさそうだし⋯⋯たんぽぽかぁ」

「たんぽぽねぇ⋯⋯」

「うん、たんぽぽって言ってたよね」


  《 第三章 完 》

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