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第四章 ご利用は計画的に
20.ゲスな親子は不満がいっぱい
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ネイサンに呆れられながらレオンがお菓子を買い込んでいた頃⋯⋯。
お仕着せを着た使用人達が一列に並ぶ領主館の玄関前に鼓笛隊が到着し、ドラムメジャーの合図で演奏を止めて整列した。
茶番にしか思えない仰々しいパレードを忌々しく思っているのか、使用人達は貼り付けたような笑みを浮かべつつこっそりと溜め息を吐き、無表情が定番のセルジオでさえも眉間に深い皺を刻んでいた。
居並ぶ使用人達の心の内など気にも留めない2人⋯⋯領民から奥様と呼ばれている元領主夫人ジーニアと現領主トールを乗せた馬車が到着した。
馬車が停まると同時に駆け寄ったフットマンがトールが座っている方の扉を開けた。
尊大な態度で馬車を降りたトールは周りを見回しビリーの姿がない事に気付くと、チッと舌打ちをして馬車の反対側に回った。
(ったく、ビリーの奴⋯⋯母上のエスコートくらいしろっての)
別のフットマンが扉を開けトールが手を差し伸べると、女王然としたジーニアがトールの手を取り悠然と降りてきた。
「おかえりなさいませ」
一斉に頭を下げた使用人達の事など見向きもしないまま『着替えるわ』と一言呟いたジーニアが玄関ホールを入って行くと、その後ろ姿を眺めていたトールがクラバットを緩めながら後ろを振り返った。
「はぁ⋯⋯田舎者の声は下品で煩くて最悪だな。ったく、母上の為だから我慢してやったけどよお、こんなクソ田舎に帰ってこなきゃなんねえってどんな罰ゲームだよ」
顔を合わせるたびに『次の誕生日は王都で祝おう』とジーニアを説得しているトールだが、一度も成功したことがなく帰省の度に同じ不満を口にしている。
ジーニア曰く⋯⋯。
『ほんの数日でもここを離れたくないの。だって⋯⋯ここでならヘイリーにもわたくしのお誕生日を祝って貰えてる気がするのですもの』
「死んだ奴とかボロ屋敷に執着する理由がマジで分かんねえ。まあ、俺様が結婚するまでには建て替えるつもりだけどな~」
ヘイリーとは亡くなった前当主の事。ジーニアは『愛するヘイリー』を理由にさまざまな事を拒んでいるが、王都行きを嫌がる理由は別にあると気付いている者がごく少数いる。
「なあ、セルジオ。母上はなんでここから離れたがらねえんだ?」
一人だけ汗をかいているトールが袖口からのぞいているレースで額をゴシゴシと擦りながらセルジオを薮睨みした。
「さぁ、それは⋯⋯⋯⋯私どもでは分かりかねます故、ジーニア様にお聞きください」
「ふん! 本当は知ってんだろ? お前は昔っから俺様の事が嫌いだもんな~。父上の遺言がなけりゃお前なんかとっととクビにしてやるのに⋯⋯俺様を蔑ろにする家令とか俺様を見下ろす弟とか、全部ぶっ◯してやりてえ。
そうそう、偉そうにしてるけどよお夜道には気をつけた方がいいぜ~。暗~いとこでは何があるか分かんねえからな~⋯⋯父上みたいにならねえとは言い切れんだろ~? んで、ビリーの出迎えがないのはなんでだ?」
トールの気持ちを正しく表すなら『見下ろす』ではなく『見下す』のはずだが、既にかなり酒が入っているせいでトールの本音⋯⋯自分よりかなり背が高い弟に対するコンプレックス⋯⋯が漏れている。
「ビリー様は使用人の手配をしておられます。トール様のご友人の方々からのご要望にお応えする為に人手が足りず⋯⋯パーティーの準備に遅延が生じておりますので」
毎年の花祭りに必ず数人の友人を連れて帰り馬鹿騒ぎをするのが恒例のトールだが、今年の友人達もやはりタチの悪い者ばかり。昨夜から今現在も酒だ料理だと大声で喚き立てて部屋で乱痴気騒ぎを繰り広げている。
彼等の担当は若くて見た目がほどほどで筋肉バリバリの男性の使用人に限定しているのだが、その理由は若いマッチョなら暴れる者に力負けせずにすみ、見た目が普通の男ならベッドに引き摺り込まれずにすむから。
たまに『性別不問』や『筋肉フェチ』の輩もいるので注意を怠るわけにはいかないが⋯⋯。
「良いねえ、楽しんでんじゃん。んじゃ準備ができるまで俺様もそっちに参加だな。ワイン⋯⋯いや、ブランデーをすぐに持ってこいよ。極上のやつな」
酒焼けした顔に薄ら笑いを浮かべたトールはふらつく足で玄関の奥に消えて行った。
(手の震えと大量の汗、暴言と暴力。しかも前領主様であらせられたヘイリー様の最後を匂わせるのはこれで何度目か。まさかとは思いますが⋯⋯)
「このドレスはもう着られないから捨てるわ。で、ピンクの方に着替えるから髪を結い直して。アクセサリーは⋯⋯例のルビーのセットを。はぁ、あれは一昨年のパーティーで使った物なのに、ビリーのせいでわたくしが恥をかいてしまうなんて!」
1ヶ月前、新しいアクセサリーを購入しようとしたジーニアだったが、王都からわざわざ呼び寄せた商人を『予算オーバーだ』とビリーに追い返された。
「あの商人が持ってきたルビーはピジョンブラッドだったのに⋯⋯最高級のピジョンブラッドを持ってこさせたのよ! それなのに」
急な階段を登り自室に向かいながら侍女に矢継ぎ早の指示を出していたジーニアは怒りを再燃させ、持っていた扇子を床に投げつけた。
お仕着せを着た使用人達が一列に並ぶ領主館の玄関前に鼓笛隊が到着し、ドラムメジャーの合図で演奏を止めて整列した。
茶番にしか思えない仰々しいパレードを忌々しく思っているのか、使用人達は貼り付けたような笑みを浮かべつつこっそりと溜め息を吐き、無表情が定番のセルジオでさえも眉間に深い皺を刻んでいた。
居並ぶ使用人達の心の内など気にも留めない2人⋯⋯領民から奥様と呼ばれている元領主夫人ジーニアと現領主トールを乗せた馬車が到着した。
馬車が停まると同時に駆け寄ったフットマンがトールが座っている方の扉を開けた。
尊大な態度で馬車を降りたトールは周りを見回しビリーの姿がない事に気付くと、チッと舌打ちをして馬車の反対側に回った。
(ったく、ビリーの奴⋯⋯母上のエスコートくらいしろっての)
別のフットマンが扉を開けトールが手を差し伸べると、女王然としたジーニアがトールの手を取り悠然と降りてきた。
「おかえりなさいませ」
一斉に頭を下げた使用人達の事など見向きもしないまま『着替えるわ』と一言呟いたジーニアが玄関ホールを入って行くと、その後ろ姿を眺めていたトールがクラバットを緩めながら後ろを振り返った。
「はぁ⋯⋯田舎者の声は下品で煩くて最悪だな。ったく、母上の為だから我慢してやったけどよお、こんなクソ田舎に帰ってこなきゃなんねえってどんな罰ゲームだよ」
顔を合わせるたびに『次の誕生日は王都で祝おう』とジーニアを説得しているトールだが、一度も成功したことがなく帰省の度に同じ不満を口にしている。
ジーニア曰く⋯⋯。
『ほんの数日でもここを離れたくないの。だって⋯⋯ここでならヘイリーにもわたくしのお誕生日を祝って貰えてる気がするのですもの』
「死んだ奴とかボロ屋敷に執着する理由がマジで分かんねえ。まあ、俺様が結婚するまでには建て替えるつもりだけどな~」
ヘイリーとは亡くなった前当主の事。ジーニアは『愛するヘイリー』を理由にさまざまな事を拒んでいるが、王都行きを嫌がる理由は別にあると気付いている者がごく少数いる。
「なあ、セルジオ。母上はなんでここから離れたがらねえんだ?」
一人だけ汗をかいているトールが袖口からのぞいているレースで額をゴシゴシと擦りながらセルジオを薮睨みした。
「さぁ、それは⋯⋯⋯⋯私どもでは分かりかねます故、ジーニア様にお聞きください」
「ふん! 本当は知ってんだろ? お前は昔っから俺様の事が嫌いだもんな~。父上の遺言がなけりゃお前なんかとっととクビにしてやるのに⋯⋯俺様を蔑ろにする家令とか俺様を見下ろす弟とか、全部ぶっ◯してやりてえ。
そうそう、偉そうにしてるけどよお夜道には気をつけた方がいいぜ~。暗~いとこでは何があるか分かんねえからな~⋯⋯父上みたいにならねえとは言い切れんだろ~? んで、ビリーの出迎えがないのはなんでだ?」
トールの気持ちを正しく表すなら『見下ろす』ではなく『見下す』のはずだが、既にかなり酒が入っているせいでトールの本音⋯⋯自分よりかなり背が高い弟に対するコンプレックス⋯⋯が漏れている。
「ビリー様は使用人の手配をしておられます。トール様のご友人の方々からのご要望にお応えする為に人手が足りず⋯⋯パーティーの準備に遅延が生じておりますので」
毎年の花祭りに必ず数人の友人を連れて帰り馬鹿騒ぎをするのが恒例のトールだが、今年の友人達もやはりタチの悪い者ばかり。昨夜から今現在も酒だ料理だと大声で喚き立てて部屋で乱痴気騒ぎを繰り広げている。
彼等の担当は若くて見た目がほどほどで筋肉バリバリの男性の使用人に限定しているのだが、その理由は若いマッチョなら暴れる者に力負けせずにすみ、見た目が普通の男ならベッドに引き摺り込まれずにすむから。
たまに『性別不問』や『筋肉フェチ』の輩もいるので注意を怠るわけにはいかないが⋯⋯。
「良いねえ、楽しんでんじゃん。んじゃ準備ができるまで俺様もそっちに参加だな。ワイン⋯⋯いや、ブランデーをすぐに持ってこいよ。極上のやつな」
酒焼けした顔に薄ら笑いを浮かべたトールはふらつく足で玄関の奥に消えて行った。
(手の震えと大量の汗、暴言と暴力。しかも前領主様であらせられたヘイリー様の最後を匂わせるのはこれで何度目か。まさかとは思いますが⋯⋯)
「このドレスはもう着られないから捨てるわ。で、ピンクの方に着替えるから髪を結い直して。アクセサリーは⋯⋯例のルビーのセットを。はぁ、あれは一昨年のパーティーで使った物なのに、ビリーのせいでわたくしが恥をかいてしまうなんて!」
1ヶ月前、新しいアクセサリーを購入しようとしたジーニアだったが、王都からわざわざ呼び寄せた商人を『予算オーバーだ』とビリーに追い返された。
「あの商人が持ってきたルビーはピジョンブラッドだったのに⋯⋯最高級のピジョンブラッドを持ってこさせたのよ! それなのに」
急な階段を登り自室に向かいながら侍女に矢継ぎ早の指示を出していたジーニアは怒りを再燃させ、持っていた扇子を床に投げつけた。
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