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第四章 ご利用は計画的に
19.パレードで見えてきたもの
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「あ! そろそろ来るみたいですね。太鼓やファイフの音が聞こえて来てます。シモン様もほら立って立って⋯⋯人が多いですからフードはしっかり握っててくださいね」
シモンの手を引いたネイサンが街道に並ぶ人達の方へ歩き出すと、ここ数日で顔見知りになった人達が声をかけてきた。
「前の方にどうぞ。ほら⋯⋯さあさあ」
「私らは毎年見に来とりますでねぇ、ちいとばかり見飽きとるとよ」
「そうですよぉ。田舎のパレードですが、結構見応えがありますよ」
「馬車が近うなったら皆で花ば投げますんで、これば使うて下さいな⋯⋯そやけど絶対の絶対に馬車の足元を狙うて下さいね。失敗したら代行様が叱られますんで。頼みますよ~」
馬車に乗っている人達に当たらないように祝いの花を投げるという面倒くさいルールを守るのはビリーの為らしい。
領都では王都と同じ言葉を話すのが決まりになっていて、方言を使っているのは祭りのために田舎から出てきた者達。その理由は⋯⋯ラバント子爵を継いだビリーの兄トールが初めて口にした命令が『田舎臭さを徹底的に排除しろ』だったから。
因みに⋯⋯ビリーの連絡を待っている間、暇つぶしと運動を兼ねて町を探検していたシモン達はかなりの有名人になっていた。
シモン達がのんびりと歩き回っている間ビリーに対する称賛は数多く聞いたが、領主とその母親については皆が揃って口籠り苦笑いを浮かべるばかり。
(領民達の本心が見え隠れしてたよねぇ)
「ありがとうございます。お花のお代を⋯⋯」
押し付けられた花束の代金を律儀に払ったネイサンがシモンの背に手を当てながら列の最前列に割り込んだ時、メジャーバトンを持ったドラムメジャーを筆頭にした鼓笛隊の姿が見えてきた。
金のモールが輝く赤い上着に白のパンツ、膝下まである黒いロングブーツで列をなした隊の、華やかな演奏と規律正しい隊列で幕を開けたパレード。その後ろから金色に輝くど派手な4頭立ての馬車が現れると、道の両側に立つ領民や観光客達から盛大な拍手が聞こえはじめた。
真っ赤なクッションに座って手を振っているのは金髪と赤い目の2人⋯⋯抜けるような白い肌を大胆に晒した白いドレスを着ているのは少し年嵩の婦人で、その隣に座っている男は金ボタンが付いた黒のアビと白地に刺繍を施したジレという派手な装い。
「相変わらずお綺麗やが⋯⋯ねぇ」
「領主様も相変わらずで⋯⋯まったく胸糞悪い⋯⋯ふん!」
明るい歓声の合間に時折、領民の本音が漏れ聞こえてくる。
「まるでどこかの王族みたいだね。似合ってないけど⋯⋯」
慌てたネイサンに肘で突かれたシモンの呟きは、鼓笛隊の奏でる音楽と歓声にかき消されていった。
シモンが最も注目したのは鼓笛隊の金のモールの先につけられていた『石筆』と呼ばれる飾り金具。
(あれって⋯⋯ゴールデンオブシディアンだったりして? もしそうならこの国には火山があるのかも)
オブシディアンは世界各地の火山地帯で産出される天然ガラスの一種。溶岩に含まれる成分によってさまざまな色に反射する「シラー」が特徴で、黒の地色に浮かぶ金色の輝きを持つゴールデンオブシディアンはその中でも高品質と言われている。
(領内には原因不明の病気が蔓延して苦しんでいる人達がいるのにこんな無駄なパレードに大金を注ぎ込んで⋯⋯⋯⋯そうか⋯⋯これがこの世界の縮図なんだ)
無駄な贅沢で享楽に耽る一部の者達は貧困や疫病を気にも留めず、彼等の権力を恐れて表向きだけ喜びや尊敬を表す大勢の者達は心に不満を溜め込む。
国境に近い村で見てきた惨状に心を痛めていたシモン達は、田舎の貧乏子爵領とは思えない派手な花祭りの様子に憤りを感じずにはいられなかった。
衣装だけでなく楽器の演奏練習や隊列を組んでの行進など、どこにも引けを取らない鼓笛隊の編成には莫大な金がかかっているはず。
4頭立ての馬車に乗って贅の限りを尽くした衣装を身に纏ってるあの2人にとって、このパレードは最大の見せ場なのかもしれないが本当はただの余興にすぎない。
(だって、笑顔の領民達からは怒りと不満ばかり感じるからさぁ)
「はぁ、やっと行ったとよ⋯⋯あ!」
シモンの横でほっと安堵の息を漏らした女性が余所者の存在を思い出して慌て始めた。
「え、えーっとぉ⋯⋯チョコレートドリンクのチケットは手に入ったとですか? 砂糖菓子も美味しかですよ~」
「そやそや、祭りの本番は屋台の甘い菓子!」
(砂糖菓子だけでもかなりの出費なのにチョコレートまで仕入れてるなんてって呆れてたけど、あれってちゃんと理由があったんだ)
無意味なパレードだけなら領民の怒りは膨れ上がるばかりだろうが、普段口にできない菓子や料理を並べれば少しは溜飲が下がるはずと言うビリーの苦肉の策なのだろう。
(ラバント子爵領は農業でかなりの税収があるから出来てるんだろうけど⋯⋯ロクデナシの兄や母親の希望を叶えつつ、領民の機嫌も損ねないなんて、貧乏になるはずだよ。しっかし、花祭りが領地の財政を逼迫してるって本当なんだね)
「⋯⋯ン様⋯⋯シモン様ってば! 惚けてちゃダメですよ。私達はここからが本番なんですからね」
「あ~、うん。そうだね⋯⋯んじゃ、砂糖菓子を買ってから領主館に行こう」
甘い物には目がないシモンはネイサンの手を引いて、パレードが始まる前から狙っていた屋台に向けて足を進めた。
シモンの手を引いたネイサンが街道に並ぶ人達の方へ歩き出すと、ここ数日で顔見知りになった人達が声をかけてきた。
「前の方にどうぞ。ほら⋯⋯さあさあ」
「私らは毎年見に来とりますでねぇ、ちいとばかり見飽きとるとよ」
「そうですよぉ。田舎のパレードですが、結構見応えがありますよ」
「馬車が近うなったら皆で花ば投げますんで、これば使うて下さいな⋯⋯そやけど絶対の絶対に馬車の足元を狙うて下さいね。失敗したら代行様が叱られますんで。頼みますよ~」
馬車に乗っている人達に当たらないように祝いの花を投げるという面倒くさいルールを守るのはビリーの為らしい。
領都では王都と同じ言葉を話すのが決まりになっていて、方言を使っているのは祭りのために田舎から出てきた者達。その理由は⋯⋯ラバント子爵を継いだビリーの兄トールが初めて口にした命令が『田舎臭さを徹底的に排除しろ』だったから。
因みに⋯⋯ビリーの連絡を待っている間、暇つぶしと運動を兼ねて町を探検していたシモン達はかなりの有名人になっていた。
シモン達がのんびりと歩き回っている間ビリーに対する称賛は数多く聞いたが、領主とその母親については皆が揃って口籠り苦笑いを浮かべるばかり。
(領民達の本心が見え隠れしてたよねぇ)
「ありがとうございます。お花のお代を⋯⋯」
押し付けられた花束の代金を律儀に払ったネイサンがシモンの背に手を当てながら列の最前列に割り込んだ時、メジャーバトンを持ったドラムメジャーを筆頭にした鼓笛隊の姿が見えてきた。
金のモールが輝く赤い上着に白のパンツ、膝下まである黒いロングブーツで列をなした隊の、華やかな演奏と規律正しい隊列で幕を開けたパレード。その後ろから金色に輝くど派手な4頭立ての馬車が現れると、道の両側に立つ領民や観光客達から盛大な拍手が聞こえはじめた。
真っ赤なクッションに座って手を振っているのは金髪と赤い目の2人⋯⋯抜けるような白い肌を大胆に晒した白いドレスを着ているのは少し年嵩の婦人で、その隣に座っている男は金ボタンが付いた黒のアビと白地に刺繍を施したジレという派手な装い。
「相変わらずお綺麗やが⋯⋯ねぇ」
「領主様も相変わらずで⋯⋯まったく胸糞悪い⋯⋯ふん!」
明るい歓声の合間に時折、領民の本音が漏れ聞こえてくる。
「まるでどこかの王族みたいだね。似合ってないけど⋯⋯」
慌てたネイサンに肘で突かれたシモンの呟きは、鼓笛隊の奏でる音楽と歓声にかき消されていった。
シモンが最も注目したのは鼓笛隊の金のモールの先につけられていた『石筆』と呼ばれる飾り金具。
(あれって⋯⋯ゴールデンオブシディアンだったりして? もしそうならこの国には火山があるのかも)
オブシディアンは世界各地の火山地帯で産出される天然ガラスの一種。溶岩に含まれる成分によってさまざまな色に反射する「シラー」が特徴で、黒の地色に浮かぶ金色の輝きを持つゴールデンオブシディアンはその中でも高品質と言われている。
(領内には原因不明の病気が蔓延して苦しんでいる人達がいるのにこんな無駄なパレードに大金を注ぎ込んで⋯⋯⋯⋯そうか⋯⋯これがこの世界の縮図なんだ)
無駄な贅沢で享楽に耽る一部の者達は貧困や疫病を気にも留めず、彼等の権力を恐れて表向きだけ喜びや尊敬を表す大勢の者達は心に不満を溜め込む。
国境に近い村で見てきた惨状に心を痛めていたシモン達は、田舎の貧乏子爵領とは思えない派手な花祭りの様子に憤りを感じずにはいられなかった。
衣装だけでなく楽器の演奏練習や隊列を組んでの行進など、どこにも引けを取らない鼓笛隊の編成には莫大な金がかかっているはず。
4頭立ての馬車に乗って贅の限りを尽くした衣装を身に纏ってるあの2人にとって、このパレードは最大の見せ場なのかもしれないが本当はただの余興にすぎない。
(だって、笑顔の領民達からは怒りと不満ばかり感じるからさぁ)
「はぁ、やっと行ったとよ⋯⋯あ!」
シモンの横でほっと安堵の息を漏らした女性が余所者の存在を思い出して慌て始めた。
「え、えーっとぉ⋯⋯チョコレートドリンクのチケットは手に入ったとですか? 砂糖菓子も美味しかですよ~」
「そやそや、祭りの本番は屋台の甘い菓子!」
(砂糖菓子だけでもかなりの出費なのにチョコレートまで仕入れてるなんてって呆れてたけど、あれってちゃんと理由があったんだ)
無意味なパレードだけなら領民の怒りは膨れ上がるばかりだろうが、普段口にできない菓子や料理を並べれば少しは溜飲が下がるはずと言うビリーの苦肉の策なのだろう。
(ラバント子爵領は農業でかなりの税収があるから出来てるんだろうけど⋯⋯ロクデナシの兄や母親の希望を叶えつつ、領民の機嫌も損ねないなんて、貧乏になるはずだよ。しっかし、花祭りが領地の財政を逼迫してるって本当なんだね)
「⋯⋯ン様⋯⋯シモン様ってば! 惚けてちゃダメですよ。私達はここからが本番なんですからね」
「あ~、うん。そうだね⋯⋯んじゃ、砂糖菓子を買ってから領主館に行こう」
甘い物には目がないシモンはネイサンの手を引いて、パレードが始まる前から狙っていた屋台に向けて足を進めた。
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