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23.マーシャル夫人の助け
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「クローゼットはその⋯⋯応接室でお待ちいただけませんでしょうか。その間に準備をいたします」
(ギルティー。ジョージは昨夜のことを知っているんだわ。積極的に計画したのか黙認したのか、ジョージにしては杜撰な計画だったから黙認の方かしら)
「ジョージ、クローゼットをお見せする事に何か問題でも? レトビア公爵様はしょっちゅうお客様にクローゼットの中をお見せしていたわ。ジョージもいたから覚えてるでしょう?」
ぐっと歯を噛み締めたジョージがセアラを睨んだがセアラは首を傾げ不思議そうな顔でジョージを見つめた。
「では問題はなさそうね。クローゼットの中の大量のドレスの話はわたくしも聞いたことがあります。サイラスが養女の事をとても大切にしている話と一緒にね」
マーシャル夫人の連れてきた侍女がクローゼットの扉を開けて息を呑んだ。
「奥様、ドレスが!!」
「まあ、酷い!! クローゼットを開けさせたがらなかったのはこれが理由なの!?」
顔を引き攣らせたジョージが硬直した。クローゼットの左側にかけられたドレスがザックリと切り裂かれハンガーから垂れ下がっている。
「なんて事! それはセアラのドレスかしら?」
「えっ?」
夜会用のドレスが切り裂かれていると思い込んでいたジョージはマーシャル夫人の言葉に驚き慌ててクローゼットの中を覗き込んだ。
「サイラスがセアラの為に準備した物かしら? それにしても誰がこんな酷いことを⋯⋯」
「セアラの、セアラ様のドレスではない?」
昨夜切り裂かれたのは恐らくアメリアの物。セアラはメイド長が残していったドレスの中から夜会用のドレスに一番近い物をかけておいた。
元のドレスを知らなければ誤魔化せるかもと思っていたが、昨夜の薄暗い部屋の中では見分けがつかなかっただろう。
部屋の片付けは今でもセアラが殆ど一人でやっているのでケイトやナビアも気付いていなかった。
「ジョージ。あなたはセアラのドレスが切り刻まれていると思っていたようね。切り刻まれていると知っていたつもりと言った方がいいかしら?」
「まっまさか、そのような事がある訳がございません。私がそのようなことを知るはずは」
ジョージにとって想定外のことばかりが起こるからか挙動不審になっていた。公爵家の執事であればこの程度のことで動揺を表に表すなど失格なのだが⋯⋯。
「マーシャル夫人、前を失礼いたします」
不機嫌なマーシャル夫人の横から手を伸ばしクローゼットの右側に集められていた派手なドレスに手を伸ばしたセアラがドレスをハンガーから外すと鮮やかな赤いドレスの下から夜会用のドレスが姿を現した。
「まあ! なんてこと!!」
「なるべく気をつけたつもりですがあちこちにシワができているのではないかと思いますの」
(木は森に隠せ⋯⋯同じ手はもう使えないけど)
これも祖父との攻防戦で覚えた技で、高価な物を売り払おうとする祖父の目を欺くために兄と二人で考えた苦肉の策が今回役に立ってくれた。
「マーニャ、早速ドレスの皺取りを」
「はい、この程度ならお昼過ぎには大丈夫かと」
「マチルダとサラはその他の小物を確認して。壊れたり傷を入れられたりしていないか詳しく調べるのよ。夜会の途中で壊れたりしたら大変」
「畏まりました」
マーシャル夫人の指示でセアラは隠していた全ての小物を出しマチルダに手渡した。
「この件については後でゆっくり聞かせてもらいます。執事が詳しく知っているならサイラスはもう報告を受けているということかしら?」
「旦那様には何もお伝えしておりません」
「では早急に報告することね。家内のことに口を出すつもりはありませんが、ここで見たことを知らない事にはできないわ。
それから、部屋の鍵は開けたままで」
「畏まりました」
断頭台に向かう囚人のような様子のジョージは一気に歳をとったように見え肩を落とし部屋を出て行った。
「さて、このままマチルダ達に任せて帰宅しようと思っていたのだけれど。わたくしに話せることはあるかしら?」
「いえ、もう十分に助けていただきました。お陰様で無事に夜会に参加できそうですし、これ以上ご迷惑をお掛けすることはできません」
マーシャル夫人に頼っても迷惑をかけ不快な思いをさせるだけで解決するとは思えない。今後の計画を考えれば今以上のトラブルが起きることは間違いないだろう。
「そう、わたくしが頼まれたのは今回の夜会のみ。今後また関わることがあるかどうかわからないことを思えば下手に手を出すべきではないわね。
セアラ、味方はいるの?」
「はい、中々会えませんがきっと応援してくれています」
「そう、わたくしに言えるのは一人でも多くの味方を作る事くらいだわ。本当に信頼できる人を探しなさい。貴族社会は真っ黒で汚れた世界だから孤軍奮闘なんてあり得ないわ」
「ありがとうございます。頑張ります」
マーシャル夫人が侍女を従えて帰って行き、残った3人のメイドはテキパキとセアラを磨き上げる準備に取り掛かった。
風呂を沸かし頭の先から足の先まで徹底的に磨き上げた後、悲鳴をあげそうになるほど強力なマッサージ。メイドに風呂で洗われたこともマッサージされた経験もないセアラは悲鳴を上げかけてはメイドにくすくすと笑われた。
恐らくマチルダ達は公爵家でのセアラの扱いに気付いたのだろう。部屋の隅に呆然と立ち尽くしたケイトとナビアを無視したまま着々と準備を進めて行った。
「夜会に出席なさるのは初めてだとお聞きしておりますのでお食事を召し上がられている最中に恐縮ですが、注意すべき事を少しお話ししても宜しいでしょうか?」
セアラが頷くと3人の中でリーダー格のマチルダが優しい口調で話しはじめた。
(ギルティー。ジョージは昨夜のことを知っているんだわ。積極的に計画したのか黙認したのか、ジョージにしては杜撰な計画だったから黙認の方かしら)
「ジョージ、クローゼットをお見せする事に何か問題でも? レトビア公爵様はしょっちゅうお客様にクローゼットの中をお見せしていたわ。ジョージもいたから覚えてるでしょう?」
ぐっと歯を噛み締めたジョージがセアラを睨んだがセアラは首を傾げ不思議そうな顔でジョージを見つめた。
「では問題はなさそうね。クローゼットの中の大量のドレスの話はわたくしも聞いたことがあります。サイラスが養女の事をとても大切にしている話と一緒にね」
マーシャル夫人の連れてきた侍女がクローゼットの扉を開けて息を呑んだ。
「奥様、ドレスが!!」
「まあ、酷い!! クローゼットを開けさせたがらなかったのはこれが理由なの!?」
顔を引き攣らせたジョージが硬直した。クローゼットの左側にかけられたドレスがザックリと切り裂かれハンガーから垂れ下がっている。
「なんて事! それはセアラのドレスかしら?」
「えっ?」
夜会用のドレスが切り裂かれていると思い込んでいたジョージはマーシャル夫人の言葉に驚き慌ててクローゼットの中を覗き込んだ。
「サイラスがセアラの為に準備した物かしら? それにしても誰がこんな酷いことを⋯⋯」
「セアラの、セアラ様のドレスではない?」
昨夜切り裂かれたのは恐らくアメリアの物。セアラはメイド長が残していったドレスの中から夜会用のドレスに一番近い物をかけておいた。
元のドレスを知らなければ誤魔化せるかもと思っていたが、昨夜の薄暗い部屋の中では見分けがつかなかっただろう。
部屋の片付けは今でもセアラが殆ど一人でやっているのでケイトやナビアも気付いていなかった。
「ジョージ。あなたはセアラのドレスが切り刻まれていると思っていたようね。切り刻まれていると知っていたつもりと言った方がいいかしら?」
「まっまさか、そのような事がある訳がございません。私がそのようなことを知るはずは」
ジョージにとって想定外のことばかりが起こるからか挙動不審になっていた。公爵家の執事であればこの程度のことで動揺を表に表すなど失格なのだが⋯⋯。
「マーシャル夫人、前を失礼いたします」
不機嫌なマーシャル夫人の横から手を伸ばしクローゼットの右側に集められていた派手なドレスに手を伸ばしたセアラがドレスをハンガーから外すと鮮やかな赤いドレスの下から夜会用のドレスが姿を現した。
「まあ! なんてこと!!」
「なるべく気をつけたつもりですがあちこちにシワができているのではないかと思いますの」
(木は森に隠せ⋯⋯同じ手はもう使えないけど)
これも祖父との攻防戦で覚えた技で、高価な物を売り払おうとする祖父の目を欺くために兄と二人で考えた苦肉の策が今回役に立ってくれた。
「マーニャ、早速ドレスの皺取りを」
「はい、この程度ならお昼過ぎには大丈夫かと」
「マチルダとサラはその他の小物を確認して。壊れたり傷を入れられたりしていないか詳しく調べるのよ。夜会の途中で壊れたりしたら大変」
「畏まりました」
マーシャル夫人の指示でセアラは隠していた全ての小物を出しマチルダに手渡した。
「この件については後でゆっくり聞かせてもらいます。執事が詳しく知っているならサイラスはもう報告を受けているということかしら?」
「旦那様には何もお伝えしておりません」
「では早急に報告することね。家内のことに口を出すつもりはありませんが、ここで見たことを知らない事にはできないわ。
それから、部屋の鍵は開けたままで」
「畏まりました」
断頭台に向かう囚人のような様子のジョージは一気に歳をとったように見え肩を落とし部屋を出て行った。
「さて、このままマチルダ達に任せて帰宅しようと思っていたのだけれど。わたくしに話せることはあるかしら?」
「いえ、もう十分に助けていただきました。お陰様で無事に夜会に参加できそうですし、これ以上ご迷惑をお掛けすることはできません」
マーシャル夫人に頼っても迷惑をかけ不快な思いをさせるだけで解決するとは思えない。今後の計画を考えれば今以上のトラブルが起きることは間違いないだろう。
「そう、わたくしが頼まれたのは今回の夜会のみ。今後また関わることがあるかどうかわからないことを思えば下手に手を出すべきではないわね。
セアラ、味方はいるの?」
「はい、中々会えませんがきっと応援してくれています」
「そう、わたくしに言えるのは一人でも多くの味方を作る事くらいだわ。本当に信頼できる人を探しなさい。貴族社会は真っ黒で汚れた世界だから孤軍奮闘なんてあり得ないわ」
「ありがとうございます。頑張ります」
マーシャル夫人が侍女を従えて帰って行き、残った3人のメイドはテキパキとセアラを磨き上げる準備に取り掛かった。
風呂を沸かし頭の先から足の先まで徹底的に磨き上げた後、悲鳴をあげそうになるほど強力なマッサージ。メイドに風呂で洗われたこともマッサージされた経験もないセアラは悲鳴を上げかけてはメイドにくすくすと笑われた。
恐らくマチルダ達は公爵家でのセアラの扱いに気付いたのだろう。部屋の隅に呆然と立ち尽くしたケイトとナビアを無視したまま着々と準備を進めて行った。
「夜会に出席なさるのは初めてだとお聞きしておりますのでお食事を召し上がられている最中に恐縮ですが、注意すべき事を少しお話ししても宜しいでしょうか?」
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