【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

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89.ジリ貧の乱闘と呑気なイリス

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「この神殿、裏手からドームに登れるよう足場が作られておりましたし、何度も使用した痕跡もありましたの。
聖女のブレスレットは本物の宝石ではなくて、陽の光にあてると光が乱反射するように作られていましたし。それと鏡を一緒に使えば⋯⋯『誰でも聖女セット』が出来上がりましたの」

 ふふっと笑うセアラは非常に可愛らしく恐ろしい。


「ワシを、教会を愚弄するつもりであのような事を!」

「あら、わたくしは何かしたなどとは申しておりませんわ。そのような不思議な物が出来ただけですもの」

「其方の光は紛い物か⋯⋯? 真の聖女ではないと言うのか」

「さあ、わたくしの生まれた国には聖女と言う存在がないものですからよくわかりませんけれど⋯⋯多分、間違いなくわたくしは何の変哲もないごく普通の娘ですわ」

 リチャード達が『それは違うだろう』と突っ込みそうな顔になったが、セアラは意味がわからず首を傾げた。

 大司教の暴走のお陰かセアラの機転のお陰なのか、この時点で帝国が王国に宣戦布告できる理由が消えていた。

 皇帝から今回の大役を任され張り切っていた皇太子は作戦の失敗報告をした時何が起きるかを想像して真っ青になった。

(父上⋯⋯皇帝陛下は失敗を決して許さないはず)


「儀式に相応しくない重装備の護衛と国境近くに配備された軍隊。和解するふりをしながら帝国は宣戦布告前の全ての準備を終わらせておられるようですから、こちらも色々と研究致しましたの。
それに儀式の成功・不成功はイーバリス教会の問題であって、それを理由に開戦するのは不条理ではありませんかしら?」

「我が国はイーバリス教を国教としておる故」

「だからイーバリス教会の為に態々戦を仕掛ける⋯⋯大義名分として些か歪んでいる、こじつけに無理がありすぎますわ。
帝国はイーバリス教会の為ならどのような理不尽な願いでも叶えるわけではありませんよね」

 一貴族令嬢が堂々と大国の政策に異議を申し立てた。

「確かに、今回の件は王国の一部の貴族と教会の問題で」

「そこに政治やら軍隊が参加するのはおかしな話かも」

 イーバリス教会の信者が殆どとは言え今回の件で軍備を整えた帝国の遣り方を疑問視する者が出てきた。


「王国として宝物を返還できた事は僥倖ですが、イーバリス教会は宝物などなくとも神託があったと歴史には残っております。それなのに神託の有無の責任を王国に押し付けられるのは違うように感じられました。
神のお言葉がなかったと教会が判定なさるならばその根拠を、先程間違いなく聖女の光だと仰られたそれがイカサマだという証拠をだして頂かないうちは話し合いにはならないのではないでしょうか?」

(リチャード殿下達と悪魔の証明はできないって話をしたけど、こっちがする必要はない。教会にさせればいいのよね)


「し、しかし王国が過去に我が国の領地を侵略した事は事実であろう!」

「ならば他国の山賊が村人を襲えばその山賊の住む国に対して軍隊を配備して開戦なさるのですか?
国境近くで賊が出るたびに開戦すれば帝国は些細な理由でも侵略を行う残虐非道な国家だと蔑まれることになりかねないように思いますが如何でしょうか」

「くそっ! この女を不敬罪で捕まえてしまえ! 他国の王族に言いたい放題言いおって、そのままで済むと思うなよ! 衛兵!!」

 今回の作戦を立てたのは皇太子だった。イーバリス教会の宝物が見つかったらしいと聞き、それを口実に王国に攻め込むと脅せば簡単に属国にできると進言した皇太子は引くに引けなくなっている。

『神殿の襲撃は完全なる王国側の責任。それを追求すればどのような要望でも飲ませられます。長年教会が不遇をかこったのは王国のせいだと言えば良いのです。長年放置し続けてきた責任を取れと言えば王国は下手に出るしかなくなる』

 腹を立て真っ赤な顔になった皇太子がセアラを拘束しろと叫び、リチャード達がセアラを背に庇い一触即発の緊張感に包まれた。

「セアラ嬢に手を出される事は王国として看過できません」

「衛兵、王子や王女も皆捕縛せよ! 皇太子の命である!!」

 重装備の護衛達がガチャガチャと鎧の音を立てながら神殿に乗り込んできた。剣や槍を構え素手のリチャード王子達を取り囲んだ。


「王子!」

 ルークが数本の剣を持ち神殿内に駆け込んで来た。動きの重たい衛兵を蹴り倒しリチャード達に剣を投げるルーク。

「助かった。今までどこにいたんだよ!」

「ちょっと野暮用でな⋯⋯人使いの荒い奴がいるんだ。仕方ないだろう?」

 衛兵と戦いながら文句を言い合うリチャード達。リチャード達は善戦していたが流石に多勢に無勢でキリがない。

「こいつは流石にやばくないか?」

 疲れの見えはじめたリチャード達に比べ後から後から追加されていく衛兵達。



「お待ち下さい!」

 衛兵を押し退けるようにして入り口から割り込んで来た神官。

「司祭様!!」

「おや、あなたはあの時のお嬢さんですね。お久しぶりです」

 少し白髪混じりの司祭は40前くらいだろうか。口元の深い皺がある思慮深そうな紳士で黒いキャソックに大きな鞄を抱えていた。

「司祭様、こんなとこに⋯⋯今すっごい取り込み中で危ないですよ」

 戦いの最中だった者達は乱入してきた司祭とイリスの呑気な会話に拍子抜けして動きが止まってしまった。


「さてさて、この状況は一体何事なのでしょうか? 神聖なる神殿で乱闘騒ぎとは、いかに王家の衛兵と言えど許されるものではありません! 帯刀どころか抜刀しているなど出てお行きなさい!!」

「き、貴様! 皇太子である私の指示に従う衛兵に出て行けなど不敬であるぞ!」

「皇太子殿下であろうと皇帝陛下であろうと神殿での争いは許されざる事。教会法に定められ帝国法でも認められております。まさかご存じないとは言われますまいな。
王国の方々も身を守るためとは言え剣を収めて頂きます」

「神聖なる場に争いを持ち込んだ事許されよ」

 リチャード達が剣を鞘に収めた。



「さて、ナーシング大司教。己の欲望の為に嘘偽りを重ね続け教会と信者を欺き続ける。そのような愚かな行為をいつまで続けるおつもりかお答え頂きましょう」

「いっ、田舎司祭の分際で大司教であるワシに意見するとは! 何故このような時に王都に現れた? 貴様など田舎の教会でくたばって居ればよかったのじゃ!!」

「それが久しぶりに会った息子にいう言葉ですか。最近の大司教とは礼節も学ばなくなってしまったようですね」

「あの時の司祭さんがあの頭のおかしな大司教の息子!? うそぉ!!」

 驚きすぎて口をぽかんと開けたまま固まったイリスに以前教会の古い資料を見せてくれた司祭は、苦笑いを浮かべながら持っていた重そうな鞄を横にどすんと置いた。


「何が起きているのか、凡そは想像がついていますが念の為説明していただけますでしょうか?」

「はいはーい! 私が説明するね」

 右手を上げて返事をしたイリスだが、司祭に却下された。

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