【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

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90.冷静なラーセン司祭

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「お嬢さんはやめておきましょう。多分時間がかかりすぎると思いますので」

 司祭は話があちこちに飛ぶイリスの性格を把握しているようで、別の人に説明をして欲しいと言った。



 リチャード王子と皇太子からそれぞれ話を聞いた司祭の名前はラーセン。

「それぞれのお話は理解できました。まず最初に申しあげなくてはならないのは、現存する聖女の宝物などただの装飾品に過ぎないということ。勿論、大司教はそれを承知していますし、神の啓示など起こり得ないことも知っています」

「な、なんだと!? 大司教、それは本当か?」

「ラーセン、貴様!!」


 イーバリス教会のはじまりの時、神に宝物を下賜されたのが本当だったかどうかを知る術はないが、その時下賜されたとされた物は欲深いものの手に渡ったかバラバラにされ売り払われたのか⋯⋯。何度もレプリカが作られたと言う。

 現存している聖女の装飾品と言われている宝物もその一つ。教会に残る資料を元に常に同じ形のものが作られ儀式で使われてきたが特別な力があるわけではない。

「300年前に盗まれたのもそれです。但し、教会や信者にとってはレプリカであろうとも神聖な儀式に欠かすことのできない大切な装備品でした。
金銭的な価値として言うならば一緒に盗まれたマドナーヤク・ダイヤモンドの方が余程大切だったのではないでしょうか。教会の隠し財産の一つでしたから。
聖女の儀式にかかせない宝物が盗まれた事が公になり、レプリカを作る事が出来なくなったのでそれ以降は作られていないだけなのです」

「しかし、何度も神の神託が降りていたではないか」

「それが神の神託だったと証明できるものはありますか? 帝国や高位貴族、商人達に都合の良い神託が降りる。上手くいけば神のお告げであり、違っていれば不心得だったからだと言われる。
実際、帝国は神託を利用して国を大きくしてきた。侵略は神の御意志であり、略奪は神の怒りを代弁しているいわば聖戦だと。
寄付する金額が高ければ高いほど都合の良い神託がおりる。おかしな話です。イーバリス教会では、どれほど誠実に生き真摯に祈っても金がなければ神には届かないのですから」

 それでも300年前に盗まれたのがイーバリス教会や信者にとって大切な品であった事は事実。聖女の儀式を司る大切な役目を果たしていた物を私欲のために盗まれた事は許せるものではなく、何よりもその襲撃で多くの聖職者達が酷い最後を迎えねばならなかった。

「王国はそれを償うべきだと思いました。奪われた物を探し出し正き場所に戻すのは当然で、無惨な死を迎えた物達に償いをするべきだと。
しかし、その為にイーバリスの聖女の血縁者達が辛く苦しい探索を行わされていると知り⋯⋯今では何が正しいのか分からなくなっています」


 メアリーアン達のことを言っているのだろう、マーシャル夫人の配下の一人イーサンが複雑な顔をしている。

「だからなんだと言うのだ。彼奴らにはその為に多額の資金提供をしておるし、格別に便宜も図っておるわ」

「国を自由に行き来できるように? 幾つもの身分証明を作って? それがなんだと言うのですか」

「偉そうなこと言っててもあんたも同じ穴の狢じゃんか。俺達が探し続けてたのが意味のないレプリカだって知ってたんならそう公表すれば良かったじゃん? それを知ってて知らん顔しといて今になって俺様全て知ってたよ~ってドヤ顔されてもよ。巫山戯んなって思うのは俺だけじゃねえぜ」

 いつの間にかイーサンの左手にはダガー、右手にはナックルダスターが嵌っている。

「確か君はイーサン・ホズウェル。それとも兄のローリーかな⋯⋯」

「どっちでも同じでしょう? 一人しか存在を許されていないんだから」

「イーバリス教会のしてきた事は許されない事だし、それを知っていて黙っていた私も同罪だと知っている。君達には私達を裁く権利がある」


「貴様らは一体何の話をしているんだ?」

 イーバリス教会の闇を知らない人達はラーセンとイーサンの話に首を傾げた。


「帝国軍がイーバリス教会の宝物の正当性を理由に王国を襲撃できる理由はないと言う話です。そしてイーバリス教会は宝物が戻りさえすれば神託云々などという言いがかりをつけるのはやめねばなりません」

「此奴の話は出鱈目だ。どこにそんな証拠がある!? 神託が降りておったことは信者達がよく知っておるではないか?」

「男性も含め多数の聖女が現れたのでしょう? その方法は恐らくイーバリス教会が昔信者を騙す為にやっていたものと同じで、ドームから降り注ぐ光を利用したのでしょう。その方法が記された教会の古い資料を持ってきています。
セアラ嬢はよく気がつかれましたね」

「いくつかのヒントがありました。精巧に作られていたブレスレットが本物の宝石ではなかったので不思議に思ったのがはじまりでした」

「セアラ嬢には心から感謝しています。ようやく全てを終わらせられる。勇気がなく目を背けていた罪を償えます」

 ラーセンが持っていた鞄をリチャードに手渡した。

「私が調べた全てと教会の古い資料の写しがここにあります。
教会がやってきた数々の不正の記録、教会の野望のために虐げていた人達の記録。その他に帝国が教会の信者を利用して侵略戦争を行った証拠もあります」

 入り口で話を聞いていた者達が騒めいた。ラーセンの話は口伝えに広がっていき最早秘密にしておく事は叶わなくなってしまった。


「くそっ、誰か⋯⋯あの、あの鞄を取り上げろ!! 証拠さえ奪えば何とでもなる!! 私はこの大陸で最も強大な帝国の皇太子なんだ」

「愚かな事を⋯⋯写しは全て然るべき人に預けてあります。その程度のことさえわからないなど、皇太子としてもう少し知略を鍛えるべきですね」

 多分その人はマーシャル夫人なのではないだろうか。全てを知り全てを自分の代で終わらせると言った優しく悲しげな顔を思い出した。


「我々はこのまま国へ帰ったほうが良さそうですね。お預かりした資料は王国にて精査いたします。聖女の宝物探索に関わった方々の今後についても私が責任を持つとお約束します」

「宜しくお願い致します。何をしても彼等に償い切れるとは思っておりませんが、できる限りのことをしたいのです」

 深々と頭を下げたラーセンにナーシング大司教が飛びかかった。

「貴様⋯⋯貴様のせいでぇぇぇ!!」

 無防備だったラーセンを助けたのはイーサンだった。右手のナックルダスターで殴り飛ばされた大司教は大きく吹っ飛んで神殿の奥に建立されていた神の像の足元にぶつかった。

 ぐらりと揺れた像が大司教の上にゆっくりと倒れていく。

「うっ、ぎゃあー!!」


「だ、大司教が⋯⋯」




 崩れ落ちた像に向かってラーセンが跪いた。

「神の御意志⋯⋯神託が降りたのでしょう。神の意志だと偽り多くの罪を重ねてきた大司教に神の慈悲をいただいたのかもしれません」

 我が物顔で教会を利用していた人であっても⋯⋯父の最後にラーセンの背中が小さく見えた。


 誰もが壊れた像を見つめたまま固まっていた時⋯⋯。

「あの、メアリーアンは?」

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