【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?

との

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11.精力的なお館様は

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 シリルとケビンは元格闘家で素手で戦うベアナックル・ボクシングの他にパンクラチオンとフェンシングや棍棒術といった武器術もやっていた。

 現役当時彼等がやっていたベアナックル・ボクシングは拳打に加え、蹴り・投げ・締め・噛み付き・目つぶしも許容された過激な総合格闘術。

 パンクラチオンは打撃技と関節技などの組技グラップリングを組み合わせた古代ギリシア発祥の格闘技で、目潰しと噛み付きのみが禁止されていると言う過酷なもの。

 公式・非公式の大会で賞金を荒稼ぎしその合間に気が向いた時だけ護衛依頼を請け負い各地を転々としていたが、突然引退してレバントに帰ってきた。

「パンクラチオンに関してだったらあたしよりケビンの方が強かったのよねー。ムカつくでしょ」

「お前に言われたかねえよ。人間クラッシャーの癖しやがって」

「だから辞めたんじゃない。なんかつまんないなーって思ったし」


 シリルの女装は格闘家を辞めてレバントに戻ってきた時からはじまったらしい。汗まみれの男達に揉まれ続けその対極の世界に憧れた・・と言うのが理由で、純正のオネエ様なのかどうか未だ不明でレバント中で賭けが行われていると言う。


「でね、お館様と話したんだけど奴らがこのままを続けるならうちに越して来れば良いと思うの。奴らがどんなバカでも3人いっぺんに殺れるとは思ってないはずだから」

「まあ、そん時奴らが最初に狙うとしたらジェイ・・シリルの筈だから安全は保証出来る。
こいつを残してマイケルを殺ったりしたら国の一つくらい簡単に潰すだろうからな」

「やあねえ、あたしだって国を潰すんだったらちょっとくらい時間かかるわよー」



(時間かかっても出来るんだ・・マジか~)

 エリーはシリルの力強い上腕二頭筋と節だらけの大きな手を見つめた。

 アリシアがシリルの腕を見つめているのに気付いたマイケルは密かに自分の腕を触り、もっと筋肉をつけようと心に決めた。


「と言うことでアリシアはお祖母様からの連絡待ち、マイケルは今まで通りって事。
何かあったら直ぐにあたし達に連絡するのよ」

「俺は大概店にいるから、心配ならシリルを連れてきゃいい。こいつは女装しててもズボン履いてても異常に目立つがな」



 シリルとケビンが店の仕込みに行ってしまい、エリーとマイケルが地下室に残った。

「そんなに大変だったなんて知らなくて、ごめんなさい」

「アリシアが謝る事ないよ、こっちに来てからは結構呑気にしてたしね。
それよりも外出できるならレバントを案内したいんだ、港や屋台や異国の物を専門に扱ってる店とか。明後日は定期市もあるし」

「人混みに出かけても大丈夫かなあ、さっきシリルさんが言ってた侵入者がマイケルの事を探してたら危なくない?」

 エリーが心配そうにマイケルの顔を覗き込むとマイケルはぽっと顔を赤らめた。


「じゃ、じゃあ定期市だけはシリルに一緒に来てもらおうか。シリルとケビンはこの街の出身だから凄く詳しいんだ」



 2人は幾つかの約束事を決めてから出かけることにした。

一つ、帽子は絶対脱がない。

一つ、どちらかが気になる事があったら直ぐケビンのバーバルス亭宿屋の名前に戻る。

一つ、行動する前には必ず声をかける。

一つ、手を離さない。


「でっでは、手をつっ繋ごうか」

 店の正面で赤い顔をしたマイケルが震える手を差し出しアリシアがその手をとった。
 噛みまくったマイケルと恥ずかしがって少し俯き加減のエリーの後ろ姿を宿屋の中からシリルとケビンがこっそりと覗いていた。

「なんか良いわねー。もーかわい~、お館様に知らせちゃう?」

「やめとけ、あの人が知ったら大騒ぎしそうだ」

「そうよねー、調子に乗って先走りそうだもの」

 お館様とはレバント一帯を治めている領主のモブレー公爵の事。
 格闘家時代に護衛をした時公爵位を継いだばかりで、

『公爵様と呼ばれると近くに父上がいるのかと思って心臓に悪いからやめろ』

と、嫌がった本人の希望でつけた呼び名。


 執務室で仕事をするよりも身体を動かす方が好きなので、昔は護衛を撒いて屋敷を抜け出しては捜索隊が編成されていた猛者。
 無類の愛妻家なので『無茶をしないで下さいね』と言われてからは大人しくしているようだが、いつ昔の逃亡癖が出るかわからない。

「そうね~、お館様の捜索に借り出されるのはヤダわ。調子に乗るとあの人超ウザいんだもの。
農家の納屋に隠れてた時なんて積み上げた藁の中にいたじゃない」

「鉱山の視察だとか言ってツルハシ持って坑道に入ろうとして捕まってた時もあったぞ」

「・・やだ、思い出したら一発殴りたくなってきたわ」

「公爵殺しはヤバいからやめとけ」

「さっ、仕事仕事!」


 突然踵を返したシリルに苦笑いをしたケビンだった。

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