26 / 48
26.マイケルの昔話
しおりを挟む
マイケルと3歳年下の弟は幼い頃からとても仲が良かったが、イライザが2人が一緒にいるのを酷く嫌がっていたのでいつも隠れて中庭や城の塔の外れで遊んでいた。
マイケルが7歳の時王妃であるマイケルの母が流行病で急死した。盛大な国葬が行われた後の王宮は火が消えたような陰鬱な場所になり、気落ちした陛下は以前にもまして政務にのめり込むようになった。
マイケルは隙を見つけては母のお気に入りだった温室に籠り本を読んでいたがある日弟がやって来た。
「あにさま、ぼくもここにいていい?」
「イライザ様は?」
「ははさまはおでかけしたの。あにさま、おうひさまがいなくなってさみしい?」
まだ死を理解できない弟はマイケルの顔を覗き込んできた。
「うん、そうだね。すごく寂しい」
「ぼくがいっしょにいてあげるね」
その日から弟はイライザの目を盗んでは絵本を持って温室を訪れるようになったが・・。
「ぼくのおなまえはね、とうさまとおんなじなんだよ」
持ってきた絵本の人物の1人を指差しながら『この人』と、嬉しそうに話してくれた。その人物は陛下とよく似た風貌の男性で産まれたばかりの赤子を抱いている。
イライザが持ち出しを禁じているというその絵本は初めて見る物で本の末尾に作者の署名があった。
何も知らない弟はその人物と会った時の話を何度もしてくれた。その男性とはイライザと共に馬車で出かけた先で会いイライザと弟の絵を描いてもらうそうで、その屋敷には沢山の肖像画が飾られている。
「ときどきぎゅってだっこしてくれるの。このあいだはおひげがくすぐったかった」
くすくすと思い出し笑いをした弟は『絶対誰にも言っちゃ駄目なの』と無邪気に笑った。
「あにさまとぼくのひみつ」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
マイケルはその時の事を思い出し青褪めハンカチで冷や汗を拭いながら震える身体をを真っ直ぐ保とうと必死に頑張っていた。
モブレー公爵とシリルはマイケルの状態は分かっていたが甘えは禁物だからと不調に気付かないふりをしていた。
マイケルが大きく息を吸って話を続けた。
「弟の話が幼い故の勘違いでないなら・・父上のお名前の中にベルナールと言う名前はありません。父上が髭を伸ばした事はありませんでしたし、王家筋の方々のお名前も調べましたがありませんでした。
絵本の末尾に記されていた署名はベルナール・モートン。調べてみたら以前短い期間ですが同姓同名の絵師が宮廷に出入りしていたそうです」
「それが本当ならとんでもない話じゃない。5年も秘密を抱えてたなんて辛抱強いと言うかクソ真面目なお馬鹿さんね。さっさと陛下にゲロっちゃえば良かったのに」
「陛下は施政者としても父としても素晴らしい方だから話せば良かったんだけど・・証拠もないし、4歳児の言葉だし。僕は勇気がなくて」
「まあ、チビちゃんのこと考えたら二の足踏んじゃうのもわかるわぁ。しっかしまあ、これって予想以上にヤバいじゃん。ケビンと傭兵召集する?」
モブレー公爵達はイライザの狙いはイライザ若しくはベルトラム侯爵家が自分の血筋の子を皇太子にしたがっているのだと考えていたが、弟の話が真実で弟が絵本を持ち出した事やマイケルに話したことがバレているとしたら。
「マイケルの警護と山の採掘現場とカリオナイト輸送中の護衛、一個小隊いりそうだな。絶対に信用できる傭兵は何人いる?」
「傭兵はアタシ達を含めて7人ってとこかしら。但し5人を集めるのにはちょっと時間がかかる」
もともと予測していたかのようにシリルがサクッと答えた。
「採掘現場の護衛用にうちから出来る限り人を出そう。執事のアーロンをつけときゃお利口に働くはずだからな」
モブレー公爵家執事のアーロンは一時期ケビンに弟子入りしていたパンクラチオンの達人。アーロン曰く、
『うちの旦那様は何をしでかすか分からない方なので、通常の護衛では間に合いません』
「なら傭兵4人をそっちに回すわ。んでアタシとケビンと傭兵の計3人でマイケルとカリオナイトの輸送の護衛かしら」
一気に予定が組み上げられていく様にマイケルは目を白黒させていた。
(これがこの人達の実行力なんだ。僕も頑張らなきゃ)
「カリオナイトの輸送も込みだからそれがベストだな。俺もこっちの仕事が落ち着き次第お前らに合流するし」
マイケルが7歳の時王妃であるマイケルの母が流行病で急死した。盛大な国葬が行われた後の王宮は火が消えたような陰鬱な場所になり、気落ちした陛下は以前にもまして政務にのめり込むようになった。
マイケルは隙を見つけては母のお気に入りだった温室に籠り本を読んでいたがある日弟がやって来た。
「あにさま、ぼくもここにいていい?」
「イライザ様は?」
「ははさまはおでかけしたの。あにさま、おうひさまがいなくなってさみしい?」
まだ死を理解できない弟はマイケルの顔を覗き込んできた。
「うん、そうだね。すごく寂しい」
「ぼくがいっしょにいてあげるね」
その日から弟はイライザの目を盗んでは絵本を持って温室を訪れるようになったが・・。
「ぼくのおなまえはね、とうさまとおんなじなんだよ」
持ってきた絵本の人物の1人を指差しながら『この人』と、嬉しそうに話してくれた。その人物は陛下とよく似た風貌の男性で産まれたばかりの赤子を抱いている。
イライザが持ち出しを禁じているというその絵本は初めて見る物で本の末尾に作者の署名があった。
何も知らない弟はその人物と会った時の話を何度もしてくれた。その男性とはイライザと共に馬車で出かけた先で会いイライザと弟の絵を描いてもらうそうで、その屋敷には沢山の肖像画が飾られている。
「ときどきぎゅってだっこしてくれるの。このあいだはおひげがくすぐったかった」
くすくすと思い出し笑いをした弟は『絶対誰にも言っちゃ駄目なの』と無邪気に笑った。
「あにさまとぼくのひみつ」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
マイケルはその時の事を思い出し青褪めハンカチで冷や汗を拭いながら震える身体をを真っ直ぐ保とうと必死に頑張っていた。
モブレー公爵とシリルはマイケルの状態は分かっていたが甘えは禁物だからと不調に気付かないふりをしていた。
マイケルが大きく息を吸って話を続けた。
「弟の話が幼い故の勘違いでないなら・・父上のお名前の中にベルナールと言う名前はありません。父上が髭を伸ばした事はありませんでしたし、王家筋の方々のお名前も調べましたがありませんでした。
絵本の末尾に記されていた署名はベルナール・モートン。調べてみたら以前短い期間ですが同姓同名の絵師が宮廷に出入りしていたそうです」
「それが本当ならとんでもない話じゃない。5年も秘密を抱えてたなんて辛抱強いと言うかクソ真面目なお馬鹿さんね。さっさと陛下にゲロっちゃえば良かったのに」
「陛下は施政者としても父としても素晴らしい方だから話せば良かったんだけど・・証拠もないし、4歳児の言葉だし。僕は勇気がなくて」
「まあ、チビちゃんのこと考えたら二の足踏んじゃうのもわかるわぁ。しっかしまあ、これって予想以上にヤバいじゃん。ケビンと傭兵召集する?」
モブレー公爵達はイライザの狙いはイライザ若しくはベルトラム侯爵家が自分の血筋の子を皇太子にしたがっているのだと考えていたが、弟の話が真実で弟が絵本を持ち出した事やマイケルに話したことがバレているとしたら。
「マイケルの警護と山の採掘現場とカリオナイト輸送中の護衛、一個小隊いりそうだな。絶対に信用できる傭兵は何人いる?」
「傭兵はアタシ達を含めて7人ってとこかしら。但し5人を集めるのにはちょっと時間がかかる」
もともと予測していたかのようにシリルがサクッと答えた。
「採掘現場の護衛用にうちから出来る限り人を出そう。執事のアーロンをつけときゃお利口に働くはずだからな」
モブレー公爵家執事のアーロンは一時期ケビンに弟子入りしていたパンクラチオンの達人。アーロン曰く、
『うちの旦那様は何をしでかすか分からない方なので、通常の護衛では間に合いません』
「なら傭兵4人をそっちに回すわ。んでアタシとケビンと傭兵の計3人でマイケルとカリオナイトの輸送の護衛かしら」
一気に予定が組み上げられていく様にマイケルは目を白黒させていた。
(これがこの人達の実行力なんだ。僕も頑張らなきゃ)
「カリオナイトの輸送も込みだからそれがベストだな。俺もこっちの仕事が落ち着き次第お前らに合流するし」
89
あなたにおすすめの小説
なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい
木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」
私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。
アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。
これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。
だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。
もういい加減、妹から離れたい。
そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。
だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。
妹は謝らない
青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。
手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。
気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。
「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。
わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。
「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう?
小説家になろうにも投稿しています。
「お姉さまみたいな地味な人を愛する殿方なんてこの世にいなくってよ!」それが妹の口癖でした、が……
四季
恋愛
「お姉さまみたいな地味な人を愛する殿方なんてこの世にいなくってよ!」
それが妹の口癖でした。
【完結】あなたにすべて差し上げます
野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。
王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。
しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。
女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、
すべてを清算して、いなくなってしまった。
残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる