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06.神と国法に物申す
「むむっ! そ、それはですな⋯⋯」
「そちらにおられます議員の方々と、法執行官の方々にもお聞き致します。
とある判事の方が『売ること、それ自体に関しては私にやめさせる権利などないし、邪魔することもできない』と申されました。ですが、ほとんどの方は『妻売り』が悪と言いながら、弾圧するばかりでその原因に言及する方はおられません。
数百年もの昔より続けられた『妻売り』が、何故これほど長く続かねばならないのか、理由をお教えくださいませ。
税を払い日々の暮らしを生きる者達に、王都への道はあまりにも遠く、時間も資金も足りません。彼らは何故、法に手が届かぬまま、長い時を過ごさねばならないのでしょうか。
法の抜け道を使い、不貞を捏造し、妻の実家を没落させて離婚された方が、議員席で今もなお法について議論しておられるのが不思議でなりません。
いつまで経っても同じところをぐるぐる回る法律は、いつになれば彼らの声が耳に入るのでしょうか?
神と法が見落としている者達が、人の目の前で、より良き道を選びとっている可能性もなきにしもあらず。『妻売り』が紐で結び人目に晒して行われるのは、開き直らねばならないほど、覚悟がいることの表れかもしれません。
神にも法にも守られず、夫からは虐げられる⋯⋯そのような女性ならば『妻売り』が救済になる場合もございましょう。
法を守れと仰りながら、法は彼らを守っておられない。
男性と女性の扱いも、離婚できる条件の狭さも⋯⋯男性社会で、男性のみが、男性に都合のいいようにお決めになられる。
その矛盾はこの先いつまで続くのでしょうか?」
枢機卿や議員と法の執行官を前に、疑問を投げかけたアイラを応援するのは殆どが夫人と令嬢だった。
財産を保有する権利を取り返せても、女の意見など聞く耳を持たない男達は、勝手に処分して使い込む。
教会と国に守られた男達は、平然と不貞を繰り返し庶子を妻に押し付ける。
愛人を作りうさを晴らす夫人もいるが、夫と違って不貞にならない程度の気晴らしに抑えている人が多い。
(全てを対等にしろとは言わないけれど、あまりにも不平等すぎるわ)
「⋯⋯聞き捨てなりませんな、国法に問題があると言われるのか!?」
「とんでもございません。ですが⋯⋯ふと疑問に思ったのでございます。夫の不貞と妻の不貞にどのような違いがあるのかと。家が揉める事はどちらも同じ、子ができた時も同じでございます。神も法も何故別だと仰せになられるのか、不思議でなりません」
相手に浮気されれば傷つくのは男女どちらでも変わらない。浮気をすれば、愛人を囲えば、子供ができれば、家族にかける時間は減り出費が増えるのは男女とも⋯⋯。
いや、男の散財の方が多そうな気がする。
「後継や相続に問題が起きるのも、男女どちらの有責でも起こりうる。ですから、法で男女の離婚許可理由に違いがつけられている意味が分かりませんの」
「じょ、女性の場合は子ができた時点で、どちらの血を引くか分からない。家督の相続に直結する問題が起きかねん。その為に、前もってだな⋯⋯」
「では、子ができた場合は嫡子として認めないとされては如何でしょうか。かつて庶子が王となった国もあり、我が国でも夫の庶子に相続権を認める法案が何度も審議され⋯⋯可決されないのは『どの程度まで認めるか』が決めきれず、保留となっているから。
養子縁組されて嫡子と同等の扱いをされている方も、過去から現在までかなりの数がおられるようです。
産まれた子に罪はなくとも、父や母の思惑次第で争いの火種になる可能性があります」
「そ、それは⋯⋯」
男児に恵まれず庶子を無理やり養子にされた挙句、養育させられている伯爵夫人が小さく頷いた。
夫は愛人をこれ見よがしに連れ回し、子を産んだ愛人は『実の母』の立場を利用して贅沢三昧しているのは有名な話。
『離婚できれば3人⋯⋯子供も入れて4人が幸せになれるのに』
『夫は愛人宅に入り浸っているのに、子ができないと舅や姑に嫌味を言われてもねえ⋯⋯離婚できないのが辛いわ』
「教会のお言葉に関しても、疑問を持っております。『神が結び合わせてくださったものを、人が離してはならない』というお言葉のどこに男女の差が含まれているのか。『結婚の尊厳を傷つけるもの』には性差があると説かれているのでしょうか」
「聖書には⋯⋯婦人たちは教会では語ることが許されていない。律法が命じているように服従すべき⋯⋯と書かれているのをご存知ないのだろうが、差があるのは当然のこと。神は、神の下に男をお作りになり、その下に女を作ったのです。従って、女が男に従うのは当然の事なのですよ。
この場でこれ以上神の言葉を疑問視するならば、異端者として尋問せねばなりますまいな」
もし何か学びたいことがあれば、家で自分の夫に尋ねるがよい⋯⋯女は折り目正しく、控えめに慎み深く身を飾り⋯⋯女は静かに、あくまでも従順に学ぶべき⋯⋯女が教えたり、男の上に立ったりするのを私は許しません。
「それは、本文の記述と筆跡が違っている為、後の誰かが手紙に追記したと言われている部分ではありませんか? 確か、教会から正式に発表されていたと記憶しております。
いずれせよ⋯⋯全ての人は『性・人種・能力』とは関係なく、神の目には絶対に同等だといつも説いておられます。
まあ、実際にはかなり差をつけておられますし、今のお話を大勢の方々の前でお聞きしたのですから、次回からの説法では変わってこられるのでしょう」
次の説法の時は最前列に座らせていただきます⋯⋯マーチャント枢機卿が、真っ青な顔で唇を引き攣らせた。
(寄付金に影響しないと良いですわね)
「ねえちょっと! 教会も法律もどうでも良いけどさ⋯⋯」
「そちらにおられます議員の方々と、法執行官の方々にもお聞き致します。
とある判事の方が『売ること、それ自体に関しては私にやめさせる権利などないし、邪魔することもできない』と申されました。ですが、ほとんどの方は『妻売り』が悪と言いながら、弾圧するばかりでその原因に言及する方はおられません。
数百年もの昔より続けられた『妻売り』が、何故これほど長く続かねばならないのか、理由をお教えくださいませ。
税を払い日々の暮らしを生きる者達に、王都への道はあまりにも遠く、時間も資金も足りません。彼らは何故、法に手が届かぬまま、長い時を過ごさねばならないのでしょうか。
法の抜け道を使い、不貞を捏造し、妻の実家を没落させて離婚された方が、議員席で今もなお法について議論しておられるのが不思議でなりません。
いつまで経っても同じところをぐるぐる回る法律は、いつになれば彼らの声が耳に入るのでしょうか?
神と法が見落としている者達が、人の目の前で、より良き道を選びとっている可能性もなきにしもあらず。『妻売り』が紐で結び人目に晒して行われるのは、開き直らねばならないほど、覚悟がいることの表れかもしれません。
神にも法にも守られず、夫からは虐げられる⋯⋯そのような女性ならば『妻売り』が救済になる場合もございましょう。
法を守れと仰りながら、法は彼らを守っておられない。
男性と女性の扱いも、離婚できる条件の狭さも⋯⋯男性社会で、男性のみが、男性に都合のいいようにお決めになられる。
その矛盾はこの先いつまで続くのでしょうか?」
枢機卿や議員と法の執行官を前に、疑問を投げかけたアイラを応援するのは殆どが夫人と令嬢だった。
財産を保有する権利を取り返せても、女の意見など聞く耳を持たない男達は、勝手に処分して使い込む。
教会と国に守られた男達は、平然と不貞を繰り返し庶子を妻に押し付ける。
愛人を作りうさを晴らす夫人もいるが、夫と違って不貞にならない程度の気晴らしに抑えている人が多い。
(全てを対等にしろとは言わないけれど、あまりにも不平等すぎるわ)
「⋯⋯聞き捨てなりませんな、国法に問題があると言われるのか!?」
「とんでもございません。ですが⋯⋯ふと疑問に思ったのでございます。夫の不貞と妻の不貞にどのような違いがあるのかと。家が揉める事はどちらも同じ、子ができた時も同じでございます。神も法も何故別だと仰せになられるのか、不思議でなりません」
相手に浮気されれば傷つくのは男女どちらでも変わらない。浮気をすれば、愛人を囲えば、子供ができれば、家族にかける時間は減り出費が増えるのは男女とも⋯⋯。
いや、男の散財の方が多そうな気がする。
「後継や相続に問題が起きるのも、男女どちらの有責でも起こりうる。ですから、法で男女の離婚許可理由に違いがつけられている意味が分かりませんの」
「じょ、女性の場合は子ができた時点で、どちらの血を引くか分からない。家督の相続に直結する問題が起きかねん。その為に、前もってだな⋯⋯」
「では、子ができた場合は嫡子として認めないとされては如何でしょうか。かつて庶子が王となった国もあり、我が国でも夫の庶子に相続権を認める法案が何度も審議され⋯⋯可決されないのは『どの程度まで認めるか』が決めきれず、保留となっているから。
養子縁組されて嫡子と同等の扱いをされている方も、過去から現在までかなりの数がおられるようです。
産まれた子に罪はなくとも、父や母の思惑次第で争いの火種になる可能性があります」
「そ、それは⋯⋯」
男児に恵まれず庶子を無理やり養子にされた挙句、養育させられている伯爵夫人が小さく頷いた。
夫は愛人をこれ見よがしに連れ回し、子を産んだ愛人は『実の母』の立場を利用して贅沢三昧しているのは有名な話。
『離婚できれば3人⋯⋯子供も入れて4人が幸せになれるのに』
『夫は愛人宅に入り浸っているのに、子ができないと舅や姑に嫌味を言われてもねえ⋯⋯離婚できないのが辛いわ』
「教会のお言葉に関しても、疑問を持っております。『神が結び合わせてくださったものを、人が離してはならない』というお言葉のどこに男女の差が含まれているのか。『結婚の尊厳を傷つけるもの』には性差があると説かれているのでしょうか」
「聖書には⋯⋯婦人たちは教会では語ることが許されていない。律法が命じているように服従すべき⋯⋯と書かれているのをご存知ないのだろうが、差があるのは当然のこと。神は、神の下に男をお作りになり、その下に女を作ったのです。従って、女が男に従うのは当然の事なのですよ。
この場でこれ以上神の言葉を疑問視するならば、異端者として尋問せねばなりますまいな」
もし何か学びたいことがあれば、家で自分の夫に尋ねるがよい⋯⋯女は折り目正しく、控えめに慎み深く身を飾り⋯⋯女は静かに、あくまでも従順に学ぶべき⋯⋯女が教えたり、男の上に立ったりするのを私は許しません。
「それは、本文の記述と筆跡が違っている為、後の誰かが手紙に追記したと言われている部分ではありませんか? 確か、教会から正式に発表されていたと記憶しております。
いずれせよ⋯⋯全ての人は『性・人種・能力』とは関係なく、神の目には絶対に同等だといつも説いておられます。
まあ、実際にはかなり差をつけておられますし、今のお話を大勢の方々の前でお聞きしたのですから、次回からの説法では変わってこられるのでしょう」
次の説法の時は最前列に座らせていただきます⋯⋯マーチャント枢機卿が、真っ青な顔で唇を引き攣らせた。
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「ねえちょっと! 教会も法律もどうでも良いけどさ⋯⋯」
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