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委任状
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十二月
ーーーーーー
馬車は大通りを静かに走り続ける。殆どの貴族は既に夜会に出かけているか、自宅で寛いでいるのだろう。辺りを走る馬車は殆どいない。
「アイラ様、これって・・」
ソフィアがニヤニヤとしながら、ウィルソンと手元の書類を見比べている。
「「?」」
「ソフィア、何ニヤニヤしてるんだ?」
「ふーん、そうなんだ」
「ソフィア? 何かおかしなところあったかしら?」
「アイラ様、これってアイラ様がお作りになったんですよね」
「ええ。侯爵を動かすのは、これが一番だと思ったの」
「ウィルソン、気付いてないの? ほらここ」
委任状のアイラのサインは、
【アイラ・フェイン】
となっていた。
アイラとウィルソンの顔が真っ赤になる。
「とっ特に意味はないのよ。侯爵に奪われた時の事を考えて。ほら、これなら名前が違うから、無効になるでしょ?」
「はい、その通りですね」
ソフィアは態とらしく、大袈裟な身振りで頷いた。ウィルソンは真っ赤な顔で黙り込んでいる。
「とっとにかく、教会へ行きます。侯爵が来なかったら、本当に離婚の手続きをするつもり。だから、少し時間がかかると思うの」
「今日手続きされるのですか?」
「ええ、侯爵がどの辺りで追いつく分からないから、時間稼ぎのついでって感じかしら」
アイラにとってデイビッドとの離婚は、時間稼ぎのついでと言い切るほど、重みのないものらしい。
「侯爵に教会の名前は?」
「ちゃんとグランディ教会って言ったわ」
「一番可能性が高いのは、教会を出た直後でしょう。教会に先回りするには時間が足りないはずですし、王都の中で馬車を襲うのはリスクが高すぎます。
グランディ教会は、教会を出て馬車まで少し距離があります。そこが一番危ないと」
「侯爵を見張らせているし、教会に人も配置してあるのでしょう? だったら大丈夫ね」
「アイラ様が囮になるのですよ。危機感を持っていただきませんと」
「私よりソフィアが心配なの。出来れば馬車で待っていてほ「駄目です」」
「ソフィアまで? それ、今日はウィルソンから何回も聞いて、うんざりしてるのに」
教会につき、入り口を入ると助祭が声をかけてきた。
「本日はどのようなご用件で?」
「はい、離婚の手続きをお願いに参りました。司教様はおいででしょうか?」
ソフィアが金貨の入った革袋を助祭に手渡した。革袋のかなりの重さに、助祭は目の前の女性が高位の貴族だと推測した。
「こちらへどうぞ」
人目を憚る為、夜遅くやって来る人が多いのだろう。助祭はごく自然に、アイラ達を別室に案内した。
「司教様に声をかけて参ります。暫くお待ち下さい」
部屋は暖炉の火で暖かく、ランプが煌々と灯っている。アイラ達が椅子に腰掛けてしばらく待っていると、簡素な祭服の司教が助祭と共に現れた。
アイラは立ち上がり、司教に最敬礼を行う。
「この様な時間に申し訳ありません。エジャートン伯爵アイラ・ランズダウンと申します」
「おかけください。離婚の手続きに参られたとか。相手の方はどちらに?」
「白い結婚なので、1人で参りました」
「ご結婚されたのは?」
「二年前の八月でございます」
「ご存知の様に我が国では、白い結婚の場合結婚後一年で、離婚の申し立てが出来ます。但しその内容に虚偽が認められた場合、厳しい処罰が下されます」
「はい、存じております。神に誓って嘘偽りございません」
助祭が司教に書類を渡した。
「それでは内容を確認の上、ご署名を」
手渡された数枚の書類の内容を読み、サインする。
「これで手続きは終わりです。今日から1ヶ月以内に、相手からの申し立てがなければ離婚は成立します。申し立てがあった場合は、調停が行われることになります」
「ありがとうございました」
司教が助祭と共に退出した。別の助祭が入り口で待機しており、アイラ達を出口まで案内してくれた。
「さて、ソフィア気をつけてね。ここからが本番だわ。ソフィア? どうして笑ってるの?」
「いえ、アイラ様がお元気なのが嬉しくて」
「? ああ、元々離婚するつもりだったもの。自分が結婚してるの、忘れてる事の方が多かったわ」
「もう、クリスマスなのね。屋敷では色んな料理が準備されてる頃だわ。クリスマスが終わるまでに、領地へ帰るのは難しそうね」
「屋敷の料理人が、張り切って特別料理を準備しているみたいですよ」
「楽しみだわ。イノシシの丸焼きはなくて良いけど」
「そうですね、食べきれませんもの」
2人が笑いながら歩いて行く。遠くに馬車が見え始めた時、左手からストックトン侯爵が現れた。
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馬車は大通りを静かに走り続ける。殆どの貴族は既に夜会に出かけているか、自宅で寛いでいるのだろう。辺りを走る馬車は殆どいない。
「アイラ様、これって・・」
ソフィアがニヤニヤとしながら、ウィルソンと手元の書類を見比べている。
「「?」」
「ソフィア、何ニヤニヤしてるんだ?」
「ふーん、そうなんだ」
「ソフィア? 何かおかしなところあったかしら?」
「アイラ様、これってアイラ様がお作りになったんですよね」
「ええ。侯爵を動かすのは、これが一番だと思ったの」
「ウィルソン、気付いてないの? ほらここ」
委任状のアイラのサインは、
【アイラ・フェイン】
となっていた。
アイラとウィルソンの顔が真っ赤になる。
「とっ特に意味はないのよ。侯爵に奪われた時の事を考えて。ほら、これなら名前が違うから、無効になるでしょ?」
「はい、その通りですね」
ソフィアは態とらしく、大袈裟な身振りで頷いた。ウィルソンは真っ赤な顔で黙り込んでいる。
「とっとにかく、教会へ行きます。侯爵が来なかったら、本当に離婚の手続きをするつもり。だから、少し時間がかかると思うの」
「今日手続きされるのですか?」
「ええ、侯爵がどの辺りで追いつく分からないから、時間稼ぎのついでって感じかしら」
アイラにとってデイビッドとの離婚は、時間稼ぎのついでと言い切るほど、重みのないものらしい。
「侯爵に教会の名前は?」
「ちゃんとグランディ教会って言ったわ」
「一番可能性が高いのは、教会を出た直後でしょう。教会に先回りするには時間が足りないはずですし、王都の中で馬車を襲うのはリスクが高すぎます。
グランディ教会は、教会を出て馬車まで少し距離があります。そこが一番危ないと」
「侯爵を見張らせているし、教会に人も配置してあるのでしょう? だったら大丈夫ね」
「アイラ様が囮になるのですよ。危機感を持っていただきませんと」
「私よりソフィアが心配なの。出来れば馬車で待っていてほ「駄目です」」
「ソフィアまで? それ、今日はウィルソンから何回も聞いて、うんざりしてるのに」
教会につき、入り口を入ると助祭が声をかけてきた。
「本日はどのようなご用件で?」
「はい、離婚の手続きをお願いに参りました。司教様はおいででしょうか?」
ソフィアが金貨の入った革袋を助祭に手渡した。革袋のかなりの重さに、助祭は目の前の女性が高位の貴族だと推測した。
「こちらへどうぞ」
人目を憚る為、夜遅くやって来る人が多いのだろう。助祭はごく自然に、アイラ達を別室に案内した。
「司教様に声をかけて参ります。暫くお待ち下さい」
部屋は暖炉の火で暖かく、ランプが煌々と灯っている。アイラ達が椅子に腰掛けてしばらく待っていると、簡素な祭服の司教が助祭と共に現れた。
アイラは立ち上がり、司教に最敬礼を行う。
「この様な時間に申し訳ありません。エジャートン伯爵アイラ・ランズダウンと申します」
「おかけください。離婚の手続きに参られたとか。相手の方はどちらに?」
「白い結婚なので、1人で参りました」
「ご結婚されたのは?」
「二年前の八月でございます」
「ご存知の様に我が国では、白い結婚の場合結婚後一年で、離婚の申し立てが出来ます。但しその内容に虚偽が認められた場合、厳しい処罰が下されます」
「はい、存じております。神に誓って嘘偽りございません」
助祭が司教に書類を渡した。
「それでは内容を確認の上、ご署名を」
手渡された数枚の書類の内容を読み、サインする。
「これで手続きは終わりです。今日から1ヶ月以内に、相手からの申し立てがなければ離婚は成立します。申し立てがあった場合は、調停が行われることになります」
「ありがとうございました」
司教が助祭と共に退出した。別の助祭が入り口で待機しており、アイラ達を出口まで案内してくれた。
「さて、ソフィア気をつけてね。ここからが本番だわ。ソフィア? どうして笑ってるの?」
「いえ、アイラ様がお元気なのが嬉しくて」
「? ああ、元々離婚するつもりだったもの。自分が結婚してるの、忘れてる事の方が多かったわ」
「もう、クリスマスなのね。屋敷では色んな料理が準備されてる頃だわ。クリスマスが終わるまでに、領地へ帰るのは難しそうね」
「屋敷の料理人が、張り切って特別料理を準備しているみたいですよ」
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