【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第一章 お花畑の作り方

05.爽やかにゲスな考えに浸る蛙の子

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「お、王妃の言う通りじゃ! 婚約後は其方の為に、いくらでも支援金を吐き出させれば良い。昔の一臣下の癖に偉そうにしておる彼奴の金庫など、空にして(僕とジュリエッタの幸せと、ついでに)其方の王座を救うのじゃ!」

(出会ってから今までジュリエッタの望みは、全部ぜーんぶ叶えてきたのにさ、ジュリエッタを泣かしたままなんてあり得ないもんね。
元々ビルワーツ侯爵家は気に食わない奴ばっかだったし、女侯爵なんて最低女だったし。僕の家臣だったんだぞって、知らしめる良い機会じゃん)

 ランドルフの頭に浮かんでいるのは、既に亡くなったビルワーツ女侯爵でエレーナの母。

 謁見の際に口元に薄笑いを浮かべ、横柄な態度を崩さなかったビルワーツ女侯爵に対して、憤懣やる方ない思いを抱えてきた国王の浅はかな計略⋯⋯。

(あの女に一泡吹かせられないのは悔しいけど⋯⋯アイツの娘を利用し尽くせば少しは気が済むよな)

 傾いた国の財政を潤し、自身と王妃の遊興費を出させる為の縁組はまさに一石二鳥。女侯爵の代わりに、娘を虐げてやれば一石三鳥になる。

「母上に相談してみなさい。母上も間違いなく我等と同じことを申されるはず。ビルワーツ侯爵家など我等の下僕として、金を献上し続ければ良いと仰るに違いない」

「ビルワーツ侯爵家って、そんなにタチが悪い家なんですか?」

 純粋培養と言えば聞こえはいいが、深く物事を考えないエドワードは、少しずつ洗脳されているのに気付いていない。

(父上が悪い奴だって言うなら婚約するフリだけして、資産を全部貰うのはアリかも。悪い奴へお仕置きして、大金持ちになれるのはラッキーだしさ。
真実の愛の相手が近くに住んでなかったら、遠くまで行かなきゃいけないから、何回でも他国に行けるお金があれば便利だよね。それに何人も見つけたら絶対お金がかかるし。⋯⋯うーん、ちょっと魅力的かも)

 エドワードの誤解⋯⋯悪い奴を懲らしめるのは司法のお仕事で、真実の愛はおひとり様につき一人限定のはず。



「そうとも! あの家は昔、母上に対しても不敬を働いたことがあってな⋯⋯その挙句に独立などしおって、我等に大恥をかかせたのじゃ! その仇をエドワードがとれば、喜んでくださるに違いない」

「エロイーズ様が喜ぶのも大金持ちになるのも嬉しいけどぉ⋯⋯うーん、でもなあ⋯⋯やっぱり僕だって自分で相手を選びたい気もするしなぁ。
国とか父上達の使う金とかは、父上がなんとかするべきだし、僕の将来のお金も父上が準備してくれれば良いんだし。
資産なんて『王命だ!』って言って取り上げてしまえばいいのに。政略結婚なんてめんどくさいじゃん」

「そうはいかん! 自分勝手な先代のビルワーツ女侯爵は、アルムヘイル王国から独立して公国を作り⋯⋯我が国の窮状を無視するだけでは飽き足らず、他国へ執拗な根回しを行い国力を衰えさせたのじゃ!
今の侯爵は先代の非道な行いを悔い、其方と長女の婚姻で名誉を挽回したいと言うておる。
婚約成立後、ビルワーツは我が国の財を持ち逃げした不届者だと国中に知らしめるのじゃ。その上で、寛容な王家が慈愛の心でビルワーツに赦しを与えたと伝えれば、民は今まで以上に王家を尊敬するであろう。
嫌われ者に成り下がっておる元臣下を救うてやるのじゃからな」

 議会で渡された台本メモをチラ見しながら、ランドルフは一気にセリフを吐き切った。

(王家を尊敬ってか、僕を尊敬だよね⋯⋯それはちょっとかっこいいかもなぁ)



 気が強く我儘放題の祖母エロイーズを筆頭に、ランドルフ夫妻やエドワードと妹のアデルの王家5人組は、都合の悪いことから目を逸らし、妄想を作り上げるテクニックだけは最強の、似たもの親子⋯⋯同じ穴の狢。

 亡くなったビルワーツ女侯爵が、なぜ独立したのか思い出しもしない両親と、疑問に思わないエドワード。エロイーズが幽閉された理由さえ、雲の彼方に消え失せているのだから当然と言えば当然かも。

 家臣からは『ほんと、蛙の子は蛙だよなぁ』と思われている事に気付いていない。でもね、そう思ってるお前らも同罪だって知ってるのかな?

(毎日顔を見なきゃなのに可愛くないとかだったら、気分が盛り下がって絶対ダメダメじゃん。
あちこちの国に出かけたり船旅もしてみたいし、砂漠を駱駝で旅するというのもやってみたいって思ってるしね。砂漠の王ってハーレムとかって言うのを作ってるっていうのに、可愛い女の子を連れてないと恥をかいてしまうもんね。
とりあえずどんな子か調べて、我慢できるくらいの顔とスタイルをしてたら許してあげても⋯⋯大金持ちになれて、バンバン公妾とか愛妾を作れるんだもん)



「じゃあ、少し考えてみる。すぐには決められないって言うか⋯⋯(顔とかスタイルとかを)調べてみたいって言うか」

 8歳の女の子のスタイルチェック、それにどんな意味がある?

 夜会にはまだ出たことがないが、お茶会や昼食会は何度も出席している。エドワードの周りに群がってくるのは、いつも綺麗に着飾った令嬢達ばかり。

 キラキラと輝くブロンドとやや切れ長の濃いブルーの瞳⋯⋯眉目秀麗お世辞頭脳明晰との誉高い勘違い王太子だと言われているエドワードは、己の見た目にも内面にも絶大なる自信がある。いや、自信しかない。

 実際は、そこそこ整っているくらいの見た目と、愚鈍とまでは言わないがそれに近い、下駄を履かせても下の上程度の頭脳。

 え? 下の上なのに頭脳に自信がある? 比較相手がいなかったり、相手に忖度されたりすると『俺すげえ』と思えるのは当然の流れで。

 周りからはイタい子って見られてるけど⋯⋯。

 盛大に盛りすぎた評価は鏡に幻想を映し出し、教科書を学者や研究者用の高度な書物に見せてくれるものらしい。

 王太子と言う肩書きで、絶大なるフィルターをかけてもらっているエドワードは、そばに近寄る令嬢だけでなく使用人の美醜にまで拘っている。

(見た目も頭脳も、僕に相応しい者でないと側にはおけない。だってさぁ、見た目や頭が悪いのに僕の隣にいたら恥ずかしくて、居心地が悪いって思うはずだもんね。そんなの可哀想すぎじゃん)



「エロイーズ様にも相談したいし、それくらい構わないよね?」

 母上と呼ばれるのは許せるが、お婆様と呼ばれるのは許せないエロイーズは、処刑されると決まっていたが色々あって⋯⋯今でも北の塔にある王族専用の牢に収監されている。

 人の死を願うのは許されないが、エロイーズだけは⋯⋯ほら、あれだし。願っちゃうのも仕方ないよねと国民全てに思われている、王国史上最恐の毒婦。

 エロイーズの処刑をうやむやにした奴と、エロイーズ本人に呪いをかけようとした人が多すぎて、魔道具やお札が売り切れ続出になるのは何年も昔から続いている。

 今でも追加で『最強のやつが欲しいんだけど、残ってる? ええ~、売り切れかあ、なら入荷待ちするよ』と切れ間なく買いにくるリピーターがいるほどの逆人気ぶり。




 部屋に戻ったエドワードは、机の上に広げたままの宿題を見つけて溜め息を吐いた。

「あぁ、事務官に声をかけるのを忘れてた。もうすぐ夕食の時間だよな~⋯⋯思ったより遅くなったから食事の後にやるのも面倒だし⋯⋯⋯⋯そうだ! 家庭教師には父上の指示で仕事をしなくちゃいけなくなったって言えば良いんだ。
ビルワーツ侯爵家のなんとかって子の事を調べないといけないし、エロイーズ様にも会いに行かなきゃだし。
さて、少し早いけどまずは腹ごしらえだね」

 大嫌いな語学の宿題を無視できる口実ができたエドワードは、食堂に向かうためにご機嫌で部屋を出て行った。





 その数日後⋯⋯。

 将来の側近候補と一緒に遊んでいたエドワードが、何気ないフリを装いながら木剣を放り出して背を伸ばした。

「そう言えばさ、ビルワーツ侯爵家の令嬢って知ってる?」

「ビルワーツの? えー、見たことあったっけかなあ?」

「使用人に聞いたら、一回だけお茶会に来たらしいんだけど」

「ん?⋯⋯あっ、あれか! うん、見たことある。すごい可愛い子とお化け令嬢だ」

 エドワードの質問に折れた木剣を握りしめたまま返事をしたのは、アルバートソン伯爵家嫡男のケニス。父親は第二騎士団団長で、父子共に極めつけの脳筋。

「覚えてないの? 一回だけ来たお茶会でさ、古臭いドレス着てて陰気臭かったのがエレーナ。んで、一緒にいたターニャはめちゃめちゃ可愛くて目立ってたけど養女」

 詳しい話を知っていたのは、オルドリッジ公爵家嫡男のユージーンで父親は法務大臣。本の読み過ぎで、10歳になる前から眼鏡をかけているが『頭が良さそうに見える』とは本人談。

「姉妹なの!?」

(ヤバい! どっちなのか分かんないじゃん。ユージーンが言うなら間違いないから、美人のターニャならアリかも)

「そうそう、すっげえ可愛い子だったよな~。なんかこう⋯⋯守ってやらなきゃ~みたいな感じでさあ。あの子が大人になったらすっごい美人確定だよな」

「でもターニャは相続権がないから、将来的に考えると役立たずなんだよね」

 ユージーンによると、エレーナはビルワーツ侯爵家の正式な後継だが、ターニャは現在のビルワーツ侯爵代理の娘だと言う。

「えーっと、よく分かんないけど⋯⋯義妹なら相続権があるんじゃないの?」

 大きな身体で首を傾げたケニスは、大きな犬みたいで意外に可愛い。

「父上が仰ってたんだけど、成人になるまで限定の特別な養子縁組なんだって。つまり、学園を卒業する頃にはビルワーツじゃなくなるってこと」

 実はターニャの見た目に惹かれたユージーンは、父にターニャ・ビルワーツと婚約したいと強請って却下された時に、詳しく教えてもらっていた。

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