【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第二章 育ったお花から採れた種

12.できる事からはじめよう

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「ランドルフを引き受けてくれる⋯⋯そんな奇特な令嬢がいるだろうか」

「一応探してはみますが、おられないでしょうね」

 侍従長の言葉に全員が頷いた。口には出せないが、マクベスもアメリアが最も王妃に相応しいと思っている。ランドルフがアメリア嬢と婚約できていれば⋯⋯と、あり得ない幻想が何度も頭の中に浮かんでは消える。

(ビルワーツ侯爵家は王命に従わなくて良いんだから、婚約する気などなかったはずだしな。エロイーズの茶番に乗ったフリで、叩き潰しにきたんだろう)

 そのお陰で、王国に巣食う犯罪者達を漸く捕えるチャンスが訪れたのだから、文句は言えない。それどころか感謝しかない。

 味方がほとんどいなかったマクベスは、悪事の証拠を集めながら、王妃達を一斉検挙できる機会を窺っていた。

 一度失敗すれば、二度目のチャンスが来る前に、王妃派の誰かに殺されるだけだと分かっていたマクベスは、動くに動けず長い時間を過ごしていた。

(あの時でなければできなかった。王命を拒否できるビルワーツが、王妃の命に従った時、もしかしたらと期待を抱いた。そしてビルワーツが兵を連れて来ると知った時⋯⋯最初で最後のチャンスが来たと)

 打ち合わせもしていないのに、アメリアはマクベスの狙い通りに話の流れを作っていった。

 事実を冷静に説明しつつ、あの場にいた者達に過去と現実と恐怖の未来を植え付ける。その手腕に魅入られたのは、マクベスだけではなかった。

(あの日、数は少なくとも王妃達の意見に賛同しない者がいたのが、それを証明している)

 彼等はマクベスに賛同したのではない、アメリアが彼等を正気に戻し、立ち向かう勇気を与えた。僅か14歳の少女が、この国の歴史を変えた。



「それよりもまだ、マクベス陛下が王妃を娶られる方が現実的ではありませんか? 女性であれば体力的に危険が大きく、可能性も少ないでしょうが、男性は40過ぎても大丈夫ですよね」

「デクスター、無茶を言うな。長年お飾りの王をしていた余はランドルフと同レベル。その上、この年であれば価値はランドルフ以下であろう。可能性は少ないだろうが、ランドルフの妃になってくれそうな令嬢を探したい。
もし見つかれば王太子妃とし、ジュリエッタを候補のまま公妾にする。
いつでも構わないから、それ以外の方法が思いついたら教えて欲しい」

「仮に酔狂⋯⋯お心の広い令嬢がおられたとして、ランドルフ王太子殿下とジュリエッタ様が納得されるでしょうか?」

 本心が漏れ出したマーチャント宰相が全員が考えている疑問を口にした。

 なにしろ、ランドルフの婚約者を見つけるのは『干し草の中から針を探す』ようなものだから、無駄になると分かっている仕事を増やすのは遠慮したい。

「余が納得させる。いずれにせよあのままでは次期王にはさせられんし、廃太子した方が良いとも思っているくらいだ。どうしても嫌だと言うなら廃嫡しても構わん。
メアリーに関しても同じ。このまま言動を改めず好き勝手するなら、修道院に入れるしかないだろう」

「ランドルフ殿下を廃太子や廃嫡なさった場合、世継ぎはどうされるのですか?」

「王家の血を持つ養子を迎えるか、議院内閣制に移行か。いずれにしても現状では実現不可能だがな」

 混乱の最中の王国を引き受けてくれる者を探すのは、ランドルフの婚約者を探すのと同じくらい可能性が低いだろう。

 マクベスの在位中に、国をある程度軌道に乗せなければ、国は崩壊し民衆は今以上の苦難に見舞われる。

「それまでに国を正しく導ける次期王を見つける。王家の血を持たないランドルフの首を切るのはいつでもできるからな」

(オーレリアへ送った手紙に願い通りの返事がくれば、ランドルフは廃嫡できる)

 マクベスは親子鑑定のできる魔道具の貸し出しを願って、オーレリアの魔導具ギルドに手紙を出している。購入する金がないと正直に書いたが、今後の為だと思えば恥をかく事など気にならない。

(既に王国は瀕死状態だと他国にも知られているし、追加でネタを提供するくらいなんの問題もない。
ランドルフを鑑定する為だったが、ランドルフの子にも必要になるかもしれん)



「議院内閣制ですか。かなり大掛かりな改革が必要になりますね」

「ああ、それまでに国を預けられる議員や官僚を育てなくてはならん。借金を全て返済するのは間に合わないだろうが、国の運営に支障をきたさなくなるくらいには減らさんとな」

 現在、他国で採用されている議院内閣制は⋯⋯内閣が君主と議会の双方に責任を負う二元主義型議院内閣制。大臣の地位は君主の信任を受けて認められるが、議会の支持が得られなければ自発的に辞職しなければならない。

 一元主義型議院内閣制では君主は儀礼的な役割しか持たず、内閣が実際の行政権を持つ。マクベスが狙っているのはこの、一元主義型議院内閣制。

「優秀な王のいない君主制など害悪でしかないと、この国の歴史を思い浮かべれば誰でも思うはず。父王も同じことを考えておられたんだ、余の代でせめて新しい時代への基盤だけは整えておきたい」

 父王を尊敬していたマクベスの苦悩と決意を知り、全員の頭がフル稼働し始めた。

「王太子妃候補を探してみます。欲を掻かず最低限の条件で探せば見つかるかもしれません」

 これはマーチャント宰相。外務大臣を勤めながら、水面下で反王妃派を結びつけていた彼の言葉は心強い。最低限の条件は、真面な考えと年齢相応な教養。それ以外は候補が複数見つかった時に考えればいい。


「取り調べの状況を確認してきます。他人の細々とした犯罪まで密告して、己の罪を軽減させようとする輩を締め上げて、現場の混乱を治めるのが急務ですな」

 最高裁判所長官は、多くの司法官が手を取られている状況を改善すると宣言。


「騎士団を叩き直すのに、ビルワーツ侯爵に助力を頼んできます」

 猪突猛進型のデクスターが、サムズアップしながら満面の笑みを浮かべた。ビルワーツ侯爵家は表舞台に出ることをよしとせず、依頼があった時だけ手助けをするスタンスを崩していない。

『今ビルワーツの名が前に出れば、国の大改革を推し進めておられるマクベス陛下の妨げにしかなりません』

 エロイーズ達を幽閉できたのはマクベス陛下の手腕だと国中に知らしめ、民を安心させるのが最優先事項だが、ビルワーツの名前が新聞報道などで目立ち過ぎていると言う。

『お飾りなどではなく、国を思う賢王だと知っていただかなくてはなりません。陛下は苦渋を耐え力をつけ準備をしておられた。それを知るのが一部の者だけでは、民がついてこれませんからな』


「ランドルフ殿下の教育は私がいたします。朝宿題を出し夕食前に確認する程度であれば、時間が取れるでしょう」

 無表情で宣言したのは侍従長で、今いるメンバーの中で最も広く知識を持っているのは彼だろう。国王の教育係を務めたこともある。


「わたくしの代理を務める者を一人雇うことをお許しくだされば、メアリー殿下とジュリエッタ様の教育係を、務めさせていただきたいと存じます」

「それは構わんが、侍女長の代わりを務められる者などおるのか?」

「はい、わたくしの叔母が商家に嫁いでおります。元は王宮侍女でございましたので仕事内容は把握しておりますし、元王妃や殿下の衣装を仕立て直して、売り捌くのを婚家に委託すると申せば、首を振らざるを得ないと思います。
あれほどの量があればかなりの額になりますし、一石二鳥ではないでしょうか」

 エロイーズ達の大人買いで一時的に繁盛した商会も今では閑古鳥が鳴いている。大口の仕事をちらつかせれば絶対に断らないと侍女長は確信していた。

 エロイーズやランドルフ達の衣装は最高品質の絹ばかりで、レースや付属の宝石類も新しいドレスの役に立つ。流行が大きく変わらないうちであればかなりの額になる可能性が高い。


 公共事業の見直しは内務大臣、ゴーストカンパニーの洗い出しは法務大臣等々。

 溜まっていた仕事を少人数で片付けながら急ぎの仕事を捌くので精一杯だが、全員が追加の仕事をやると言う。

「今が頑張り時ですから」

 マクベスは平民に王宮事務官の募集を公布し、学園にも張り紙をしている。長期雇用だけでなく、短期就労や時短就労も視野に入れて人探しを続けていた。

 学園を優秀な成績で卒業した者ならば即戦力を期待でき、平民学校の教師には優秀な平民の情報があるかもしれない。

 考えつく限りの手を打ちながら執務を行い、大臣達の執務室を駆け巡っていた。

「無理のないよう⋯⋯いや、今も無理をさせているが、もう少しすれば人が増えるはず。どんな人材が必要かいつでも言ってくれ。必ずなんとかする」

 



 レイモンドは王宮のタウンハウスで雑務に明け暮れていた。

 領地にアメリアと兵の多くを送り返し、代わりの人を王都へ連れてきた。従僕やメイドの他、皿洗い・洗濯・掃除が得意な下級使用人やメッセンジャー・下級事務官の手伝いができる者など。不足している部署を確認し、その都度人を送り込んだ。

『上級職の使用人や官僚の手配は皆様方にお任せします』

 王宮内を調べ不用品の洗い出しと買い取り。不足している物資を聞き取るついでに、細々とした雑事を手伝って帰るように指示を出した。



 セレナは仲の良い夫人たちに連絡をとり、王都で不足している物やあちこちで起きはじめている問題を調査し、レイモンドと対策を練った。

「塩の価格が上がっておりますの。価格操作している者はケイソンから来た輩のようですわ」

「北の関所近くで破落戸が確認されたそうで、被害が既に出ております」

「平民街の南西にあるスラムで、怪しげな動きがあると聞きましたの」

「ノーティスに向かう街道で一部地盤の沈下が見られたとか」

 夫人たちのネットワーク内で広がる情報は、誰よりも早くセレナに届いた。


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