【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第四章

04.この屋敷の執事、辞めてえ

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 ジェイクと話しているうちに、ふと思い出した詳細な出来事がうっかり口からこぼれ落ち⋯⋯エレーナが俯き加減になって目を泳がせ『どうしよう、ジェイクに不審がられたら』と焦っていると、下から覗き込むように見上げたジェイクにジト目で見つめられた。

「レイモンド様のお好きな銘柄のブランデーを手配したのを、どうしてご存じなのですか? ん? どうしてかなぁ」

 ジョーンズから連絡を受けてブランデーを手配したのはジェイクだが、誰にも話していない上にまだ届いていない。

(叔父上からの手紙を盗み読みした? あれは執務室の机の引き出しに入ってて⋯⋯鍵はかかってないけど)

 慌てて一歩下がりかけたエレーナが、床板の割れた箇所に踵を引っ掛けて尻餅をついた。

「いっ! ううっ」

「大丈夫ですか!? 失礼します」

 手を伸ばしたジェイクにヒョイっと抱え上げられたエレーナが思わず悲鳴を上げた。

「きゃあ! だだ、大丈夫ですから、下ろしてくださいませ」

 ベッドにそっと下ろされたエレーナは、真っ赤になった顔を両手で隠したまま俯いた。

(恥ずかしい⋯⋯ドーンって尻餅をつくなんて。18歳プラス4歳にもなって、しかもチュニックが少し捲れて膝が出てしまいました)

 4歳児の膝を見てもジェイクは何とも思わない、着替えさせることやお花摘みに連れて行くのだって平気でできるだろうが、エレーナの脳内年齢はジェイクの年齢とそれほど差がない。

(淑女として足首でさえ恥ずかしいのに、膝を見られたなんて⋯⋯子供用のチュニックの長さが脛のあたりまでなのが辛い)



「では、エレーナ様がマーカス様にお話があると仰っていたと、ジョーンズに連絡をしておきますね」

「⋯⋯宜しくお願いします。あの、アメリア様には内緒でとお伝えくださいませ」

「はい、任せてください」

 尻餅をついたお陰でジェイクの疑問から逃げられた⋯⋯まさに、怪我の功名?



 部屋を出たジェイクはエレーナの不思議な言動に首を傾げながら階段を降りかけ、階段の下で壺を磨くフリをしているメイドを発見し足を止めた。

(マズい、あれは顔を合わせるたびに休みの予定を聞いてくるジーニーだ)

 別の階段に向かうと毎回『眩暈が!』と言いながら倒れかかってくるリンジーを見つけて踵を返し、ロクなメイドがいないと呟きながら、屋敷の端にある階段目掛けて早足で逃げ切った。

(先に私室で手紙を書こう⋯⋯しかし貴族の令嬢ってすごいよ。たった4歳で大人と同じ話し方をするなんてさ。奇想天外だの杓子定規だの、よく知ってるよなあ)

 執務室でも手紙を書けるが、家政婦長のミセス・ブラッツに見つかるといちいち詮索してくるのが面倒くさい。

『宮殿へ届ける手紙ですの? 何かありましたかしら、わたくしにお見せくださいませ』

『アメリア様宛でしたらわたくしが確認して差し上げますわ』

 ミセス・ブラッツは侯爵家の⋯⋯初代公王の実家の家政婦長を任されている事を誇りに思いつつ、宮殿の侍女長の座につくチャンスを虎視眈々と狙っているのだと思う。

 若い執事より自分の方が知識も経験も豊富で、この屋敷の実質トップは自分だと思っている為、平気で執務室を荒らしジェイクのやることなす事首を突っ込んでくる。

 基本、執事の仕事は忙しいが、ジェイクの場合追加で邪魔が入るのでますます忙しくなっていた。

(はぁ、この屋敷の執事⋯⋯辞めてえ!)



 高位貴族の執事の部屋は、寝室以外に専用の居間もある。自分好みに家具やレイアウトを変えた居間には、ライティングデスクや座りこごちの良いソファとコーヒーテーブルが置かれ、壁際には冬の出番を待つ魔導ストーブも置いてある。

(エレーナ様のお部屋はなーんか違和感が⋯⋯う~ん、ああそうか! 殺風景で家具が大人用だった。足の届きそうにない椅子とか、迷子になりそうなベッドとか。んで、子供らしい物が何もなかった気がする。
ブランデーかぁ⋯⋯一応、余分な布巾を準備しとくか?)





 夜、ベッドに入ったエレーナはマーカスの情報が何かないか頭を悩ませていた。

(確か2代目の公王が即位した半年後、ディクセン・トリアリア連合王国が攻めてきたんだわ)

 国境沿いでの戦いはオーレリアの参戦表明で収束したが、マーカスは事後処理に走り回っており、2通目の遺言書の開封時には欠席していた。

 その場にいたのは管財人及び遺言執行者に指定されていた元執事で宰相のジョーンズ・ハーヴィーと国際弁護士のピーター・グライムズ。ニールとジェイク⋯⋯何故かミセス・ブラッツも参加していた。

(それ以外には特筆するような出来事はなかったはず。ダイヤモンドの硬さ・耐摩耗性・熱伝導性とかの特徴を活かした工業利用を進めてて、経済は益々右肩上がりになったはず。腕時計の研究・開発も国家事業にしたはず)

 事業内容は⋯⋯携帯用の時計として一般的な懐中時計をより小型に改良し、竜頭の位置を変更するために機械の配置を変更するなど。

 エレーナは共同出資できればと考えて、秘密裏に調査を依頼したのでよく覚えている。

(国を守り発展させた方というくらいしか思い出せないわ。アルムヘイルと公国は国交を断絶してたから、情報そのものが少なかったし)

 今日も眠れなさそうだと諦めたエレーナは、今思い出した事を書き留めておこうとベッドを出てランプに火を灯した。



 翌朝、ジェイクが魔法郵便でジョーンズ宛に送った手紙の返事が返ってきた。

『マーカス様の了承を得ました。詳細はご本人より指示あり』





 10月8日、午後4時過ぎにマーカス達を連れて帰ってきたアメリアは食堂で早めの晩餐会をはじめた。

 予定では晩餐会が終わりアメリア達が帰った後、マーカスだけが戻ってくる。

(わたくしはそれまで部屋で待機しているだけ。きっと上手くいくわ⋯⋯人の命がかかっているんですもの、上手くいかせなくては! 他に方法が見つからないのだから、必ず理解していただかなくてはならないわ)

 家庭教師と共に勉強していたエレーナはいつもより気持ちが落ち着かず、教師から何度も鞭を受けていた。

「修辞学は過去に様々な芸術に影響を与えることもありました。幾つか例を挙げなさい」

「記憶術の思考法がルネサンス期の劇場や庭園の設計に影響を与え、バロ⋯⋯」


「答えがあっていても、集中力が足りておりませんわ!」

「ほらまた、手が止まっております!」

 午後6時になり家庭教師が帰った時には歩くのもやっとなほどで、ジェイクを待つ間ベットにうつ伏せなって休憩していた。



 ドアがノックされジェイクの声が聞こえたのは夜の9時近く。ジェイクの案内で向かったのは屋敷の南側にあるコンサバトリーで、マーカスは既にソファで寛いでいた。

 部屋の3面がガラス張りになっているスペースには珍しい植物がいくつも置かれ、反射したランプの光で眩しいほど。元々は果物の保管用に考えられたスペースだが、温室やくつろぎの空間としても利用されるようになった。

 初めて来た場所だと気付く余裕もなく、ソファに腰掛けたエレーナは正面に座るマーカスだけを見つめ続けた。

「初めてお会いします、マーカス・パンフィールと申します。こんな時間になって申し訳ありませんでした。何か大切な話があると聞いたのですが、アメリア様じゃなくて良かったのですか?」

(突然呼び出した見た目5歳のわたくしに嫌な顔をせず対応してくれるのは、前回お会いした時と同じだわ)

 短く刈った髪には白髪が混じり目の横に笑い皺がある。日焼けした顔と筋肉質で大きな身体は今でも訓練を欠かしていない証拠だろう。

「突然のお呼び出しに答えてくださり感謝いたします」

 打たれた背中が痛すぎて身体をあまり曲げられなかったが、エレーナがしっかりと頭を下げるとマーカスが笑い声を上げた。

「いや、申し訳ない。エレーナ様の言葉遣いや態度が大人びているのは聞いていたんですが、まさかと思っていたもので」

「どうぞ、いつも通りでお話しくださいませ。わたくしはお願いする立場でございますし、まだ5歳の子供ですので」

 エレーナも5歳らしい口調を何度か試してみたが、どの程度の話し方が相応しいのか分からず断念した。

「では、話っていうのは何かな?」

「来月、アメリア様はご両親の命日にお墓参りに行かれるはずですが、取りやめる事が出来ないと仰せになられた場合、どなたかに同行していただきたいのです」

 国民以外には両親だけが大切だと言い切るアメリアなら、どんな理由があっても墓参を取りやめにはしないだろうが、怪我をしてもそばに人がいればすぐに助けられるはずだと考えた。

(即死とか治療が間に合わないとかもあるから、本当は墓参自体を取りやめていただきたいのだけど⋯⋯)

「⋯⋯それは難しいな。アメリア様は絶対に誰もついてくるなと仰せになられててね。隠れてついて行っても見つかってしまうんだ。しかし、なぜそんな事を気にするんだい? 一緒に行きたくなったなら、素直にお願いしてみたらどうかな?
エレーナ様のおねだりならアメリア様も首を縦に振るんじゃないかな」

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