【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との

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第四章

20.5歳の身体には徹夜は無理でした

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「ヤバそうな国の名前が出てたから、販売先は難しそうだよね。
正直にいうとさ、アタシとしてはどこで何を買おうがその後奴らがそれをどうしようが、どうでもいいって気持ちもあるんだよね。
エレーナに対する予算は奴らが好き勝手してて、本人は贅沢どころか物は持ってないし、癇癪なんて起こしてないから物を壊してない⋯⋯これが証明できればいいと思ってる。
で、エレーナに対して申し訳ない気持ちがあるなら慰謝料払うとか財産分与するとかしろって。後のことはエレーナには関係ないからさ、エレーナを巻き込まず侯爵家で解決すりゃいいじゃんって」

 ルーナの正論にジェイクが小さく頷いた。使用人の不正を解明するのは屋敷の主人や筆頭使用人の仕事であり、たった一人の後継者だとしても5歳の娘を巻き込むのは間違っている。

 問題は侯爵家には今、最終判断を下す権利を持つ者がいない事。当主であるアメリアは意識不明で、夫のニールは権利を剥奪されている上に横領の主犯格の可能性大。

 残るエレーナは(見た目年齢と周りの認識は)幼児に分類される未成年。

「管財人が指定されていないか確認する必要があるわ」

 ジェイクが使用人解雇などの権限を持っていると言っても、司法への連絡を含めて最終決定するには問題が大きすぎる。
 
「ある程度状況が掴めたら、使用人達に質問書を渡して、雇用期間中に自身が行った不正や罪に問われる可能性のある行為を書き出してもらうの。
弁護士立ち会いでジェイクに面接をしてもらい、その内容に虚偽や漏れがないと宣誓させてサインをもらう。その後は退職も継続勤務も自由だけど、常に居場所を明らかにし、侯爵家・弁護士・司法機関から呼び出しがあった場合、速やかに呼び出しに応じる。拒否した場合は罪に問われる。
ジェイクには信用できる上級使用人を見つけてもらわないといけないけど、時間稼ぎできるんじゃないかしら」

 以前侯爵家に勤めていた使用人は期待できないが、彼らの伝手を頼ることはできるかもしれない。

(1通目の遺言状には、元執事のジョーンズ・ハーヴィーと弁護士のピーター・グライムズを管財人及び遺言執行者に指定しておられたわ。ジェイクから声をかければピーター・グライムズ弁護士は手伝ってくれるかも。ジョーンズさんはアメリア様の事があるから、今は無理だと思うけど⋯⋯)

 アメリアの落馬事故について犯罪の共犯扱いされたばかりの今、この名前を口にするのはかなり勇気がいる。

「多分だけど⋯⋯アメリア様が信頼している弁護士はいると思うの。侯爵家の問題をアメリア様が信頼している弁護士に相談するのは、問題ないんじゃないかしら」

「では、ピーター・グライムズ弁護士に相談してみます。彼には領地の問題で何度も助けてもらってますし、アメリア様とジョーンズから紹介された弁護士ですから」

(意外と簡単に名前が出てきた⋯⋯)

 エレーナはほっと胸を撫で下ろした途端、一気に身体がだるくなった気がした。



「えーっと、今度は私の番ね。販売方法なんだけど、荷札から推測すると⋯⋯ミセス・ブラッツ達は荷物の中に別の荷札を入れて、アルムヘイルの個人か会社に商品を一旦配送してる。
荷物を受け取った人は、中に入っている荷札を使って荷物を送るの。そうする事でアメリア様達が取引を禁止している国へ荷物を堂々と送れるわ」

「でも、アルムヘイルは⋯⋯ああ、そうか! 皆さんアルムヘイルに実家がありますね」

「ええその通りよ、実家や友人との交流を禁止するのは流石にできないから⋯⋯、
『共通の趣味を持っている友人と荷物のやり取りをしてる』
『向こうには中々帰れないから、特産品を送ってあげてる』
とかって言われたら、誰も疑わないわ。
ただ、侯爵家の過去を知っているニール様が、何故取引先の一つにセルビアスを選ばれたのかが気になるの⋯⋯。侯爵家の前当主夫妻が⋯⋯ほら、えっと⋯⋯亡くなられたあの騒動に関わっていたと⋯⋯ご存知なはずなのにね⋯⋯うん」

 疲れすぎて頭が回らないのかもしれない。あくびを堪えながら一気に説明したエレーナの身体がゆらゆらと揺れはじめた。

「うわぁ、気付かなくて申し訳ありません。まだ5歳でいらっしゃるのに、徹夜は難しいですよね」

「ほら、ベッドに行かなくちゃ。エレーナと話してるとつい子供だって事を忘れちゃうんだよね」

 ジェイクに抱えられてベッドに運ばれた時には、エレーナの意識は夢の中を漂っていた。







 広い図書館の中は薄暗く、大好きな古い本の匂いがエレーナを包み込んだ。

 いつもよりひどく痛む背中に眉を顰めながら、図書室の左奥に向かって歩いて行くと、見知った顔の女子生徒の集団が歩いてくるのが見えた。慌てて道の端に避けて少し頭を下げ、ゆっくりと細く息を吐いた。

『チッ! 邪魔よ』

 すれ違いざまエレーナの二の腕に鉄扇を叩きつけた後、友人達と顔を見合わせて大笑いをして図書室を出ていった。

 静かになった図書室の中に、嘲笑と嫌悪の気配を感じるのはいつもの事。並んでいる各国の歴史書から目的の本を見つけ、一番隅の席に座った。他の本より少し傷んだその本はエレーナのお気に入りだが、他の人は痛めつけるため以外で手に取ることはない。

 本の表紙に描かれているのは、この国で最も嫌われている国にあるビルワーツ侯爵家の紋章。

(ふう、疲れた⋯⋯)

 この3日ほとんど寝ていないが、今日は運の良いことにエドワードが公務と称して学園を休んでいた。

(授業のノートは写したし、エドワード様の課題も生徒会の仕事も終わらせたし⋯⋯自習の時間があって助かった)

 休み時間の全てを使ってこの後、王宮で行う政務の下準備も終わらせている。

(15分ある⋯⋯王宮に行く前に⋯⋯)

 本を開くと見慣れた絵姿が描かれている。落書きをされて元の顔もドレスも分からなくなっているが、エレーナの頭の中には残っている。

 プラチナブロンドで鮮やかな青い目の美しい女性がティアラを被り、金で縁取られた白いローブを身につけて堂々と立っている。

(お母様⋯⋯)

 エレーナが5歳の時に亡くなった、一度も会った事がない母親は、絵姿の中でもエレーナの頭の中でも動かないが、確かにそこにいる。

(お母様が生きておられたら、わたくしは違う人生になっていたかしら? いつかはわたくしのことを迎えにきて下さったかしら。お声をかけてくださる日は来たのかしら⋯⋯)

 自分でもあり得ないと分かっているが、ごくたまに夢を見たくなる⋯⋯。

(女でも良いよって、仕方ないものねって許してくださったかな⋯⋯)








「夢⋯⋯ループ前は⋯⋯そうか、ループ前のエレーナは『お母様に会いたかった』って思ってたわ」

 夢に出てきた本が母を知る唯一の手掛かりで、ほんのわずかな時間を見つけては、何度も何度も読み返した。破られたりいたずら書きをされたりで、卒業する頃には読める箇所は少なくなっていったが。

 ループ前のエレーナにあったのは、逃げ場のない辛い現実と永遠に終わらない地獄のような未来だけ。『母が生きていたら違っていたかも』と言う台詞は、疲れ果てた心に幻想を生み出した後、諦念を呼び起こす魔法の呪文だった。



 空が朝焼けに染まり少しずつ明るくなっていき、薄いカーテンを通して部屋が明るくなってきた。

(起きなくちゃ。昨日の夜⋯⋯どうやってベッドに入ったのか覚えてないなんて⋯⋯きっとルーナ様達に迷惑かけたわね)



 ルーナが着替えさせてくれたのか、昨日着ていたデイドレスではなく見慣れたチュニックに変わっていた。

 いつものように髪を手櫛で梳かしてリボンで結び、ベッドによじ登ってシーツや上掛けを整えた。

 今日の予定を組み立てながらカーテンを開けて、ドレッサー代わりのカクテルキャビネットの裏に手を突っ込んで、2冊のノートを取り出した。

(今日の夢の内容は書きたくない⋯⋯それよりもこのノートを隠す方法を見つけなくちゃ。できれば何が入っているか人から見えなくて、いつでも持っていられる方法があれば⋯⋯)

 いつここを出ることになるか分からない。着の身着のままでもルーナは助けてくれると言うが、記憶が薄れないうちにと書き留めたこのノートは、ループ前にエレーナがいたと言う唯一の証。高価な宝石や金貨の方が将来の糧になると知っていても、エレーナにとってはこのノートの方が価値がある。

(歴史からも人の記憶からも消えた時間だけど、あの時のエレーナは確かに生きていたんだもの)

 ノートを手に『《収納》方法かぁ⋯⋯』と考えていると⋯⋯。

「え? ええっ! ノートが! 消えた⋯⋯ノ、ノートはどこ?」

 手のひらを上に向けて『ノートが』と呟くとポンっと音がしたかの如く、手のひらの上にノートが現れた。

「きゃあぁぁ! な、な、なに⋯⋯ノートが消えて、出てきた⋯⋯ま、魔法?」

 バサリと音を立てて落ちたノートを恐々と見つめながら、エレーナは顔を引き攣らせた。



 エレーナの曽祖父母は魔法が使えたと言うが、祖父母も母親も使えなかったと聞いている。

(隔世遺伝とか? まさかね⋯⋯でも確かに、消えて現れたの)

 床に落ちたノートを見つめて首を傾げ⋯⋯。

(わたくしがループしたのは間違いない。となると、他にも不思議があってもおかしくないかも⋯⋯もう一度試してみれば⋯⋯)

 ノートを拾い上げてじっと見つめたが⋯⋯何も起きない。

「お片付け? 収納⋯⋯ポン⋯⋯うわぁ、消えた⋯⋯ノート⋯⋯ポン⋯⋯本当にできたわ。どこに入ってるのか分からないのが不安だけど、やっぱり魔法よね」

 その後、ルーナが来るまで色々な物を入れたり出したり試してみた結果、触れている物ならなんでも入った。

(ベッドまで入るなんて⋯⋯魔法って便利だわ。この魔法でお仕事を見つけられるかしら)

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