【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

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第四章

39.少しだけ間違いに気付いたジョーンズだけど『お主、まだまだじゃのう』

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『アメリア様がレイモンド先代当主様のように儚くなられたら⋯⋯生きている意味さえなくなってしまう』

 アメリアの落馬事故が起きてからのジョーンズは、まるで悪夢の中に取り残されたかのように、アメリアの事しか考えられなくなっていた。

 誰と何を話していても、冷たくなって物言わぬレイモンドやセレナの顔と、目覚めないアメリアの顔が頭の中に浮かんでくる。深い霧の中を歩いているような気持ちに囚われると、周りの声が雑音にしか聞こえなくなる。

 しつこく話しかけてくる者に苛立ちを覚え、アメリアの敵に見える時さえある。

 眠れない夜には何度も何度もアメリアの元を訪れ、息をしているのを確認して部屋に戻った。たまの眠りには物言わぬレイモンドとセレナの前で呆然と立ち尽くす夢を見る。

 セレナではなく私がアルムヘイルへ行く事ができれば、毒に冒されたのが私なら、レイモンドが暗殺者に殺られる隙などなかったかもしれない⋯⋯そう思い、役立たずの自分を責め続ける夢。柩に縋るアメリアが『ひとりにしないで』と泣き叫んでいるのに言葉一つも思いつかず、マーカスが血の涙を流し殉死しようとしているのに声も出ない。

(私はなんと愚かだったのだろう。私がしなければならなかったのは、かつての幸せの名残をかき集めて、歪んだ世界で消え失せた夢に浸る事ではなかったのに。
アメリア様のお心を支えながら、前に進めるように配慮する事だったのに⋯⋯私達が⋯⋯私の心得違いが全てを歪ませていた)



 顔を上げたジョーンズは、大きなソファにちょこんと座っている無表情のエレーナが初めて目に入った。

 面倒なオーレリア国王夫妻や邪魔な弁護士ばかりに意識が向いていて、少し前からエレーナと口論していた時でさえ、エレーナを一人の人として認識していたのか⋯⋯自信がない。

 セレナに良く似たプラチナブロンドと翠眼で、飾りの少ないシンプルなデイドレスを着ている。小さな顔を支える首は今にも折れそうで、異様に細い手足は昔見たスラムの欠食児童並み。痩せていて小さくて⋯⋯ほんの僅かな衝撃で粉々になってしまいそうな頼りなさだが、幼児だと侮る事を許さない独特のオーラがある。

(お色だけでなくお顔立ちもセレナ様によく似ておられる? いや、幼い頃のレイモンド様の面影も)

 間違いなくビルワーツの血を引いていると思えるのは見た目や佇まいだけでなく、先ほどまでの理論立てた話の構成にも現れていた。

(5歳であれだけの弁舌⋯⋯あのように的確な言葉の選びで容赦なく追い詰める方など、ビルワーツにしかおられない。どうやって知識を得られたのか想像もつかないが、間違いなくビルワーツのご令嬢だな)



 エレーナを屋敷から出さないで、なるべくひっそりと暮らさせる事に異を唱えなかったのは、エレーナが邪魔だったわけではないはず。

(敵ばかりの中建国し、アルムヘイルなどの有象無象に手出しされない為には、なるべく人の目に触れないのが一番だと思ったんだった。それに⋯⋯)

 アメリアの暴言は心の傷が言わせただけで本心ではなく、顔を見に行かないのは忙しすぎるだけ⋯⋯。新しく雇った使用人達がジョーンズ達と同じようにアメリアを甘やかし、アメリアの行動を良いように考えてくれるはずなどないと、分かって然るべきだったのに。

 アメリアの言動だけ見れば、エレーナは間違いなく疎まれた邪魔者に見えただろう。世話をするのを嫌がられ放置されていたのも、酷い扱いをされたのも当然だったと、今更ながら気付かされた。

(新しい使用人達に対し私が一言でも説明をしていれば、アメリア様の癇癪や心ない言動の説明をしていれば⋯⋯)

 ここ数年を振り返ると、後悔しか思い浮かばない。

(レイモンド様から『後は頼む』と言っていただいたのに⋯⋯なんとかしなくては。使用人を全て入れ替えて、ミセス・メイベル達に教育を任せよう。エレーナ様には心から謝罪して、離籍だけはなんとか諦めていただかなくては)


 

「知らなかったと言えど、今までの事は謝罪致します。アメリア様の落馬事故で年甲斐もなく動揺し、不遜な言動がありました事も謝罪致します。使用人達を入れ替え、アメリア様のお気持ちを理解するまで教育を徹底致しますので、今後はご不快な思いなど起こらないとお約束致します」

 ジョーンズの最大限の譲歩なのだろうが、肝心な事が理解できていない。使用人を入れ替えさえすれば問題が解決すると本気で思っているのだろう。

(あやふやな言い方で口を濁し、その実は言い訳ばかり。謝罪してると言えば許されるとでも? 新しい使用人達を教育すれば、問題解決だと思ってるなんて。
元凶はアメリア様と自分達だったと認識するまで、容赦しないわ。張本人に罪を認めさせ、もう手遅れなんだと認識させてこの国を出る。そうしなければこの人達は、いつまでもビルワーツの血にこだわり続けるに違いないもの)

 根本をはっきりさせないまま終わらせれば、たとえ離籍出来ていても、エレーナの存在が利用出来るとなれば声をかけてくるに違いない。

 アメリアに次の子供ができず、近い親戚でビルワーツ侯爵家を継がせるに相応しい人がいなかった時には確実にエレーナの名前が出る。

 どこかの国と手を組むのに『婚姻』させて、自分達の駒を送り込みたいと考えるかもしれない。

(どうやらわたくしは魔法が使えるみたいだから、それを知ったら? オーレリアを盾にしているように、わたくしを利用したくなるかも)

 自分にどの程度の魔法が使えるのか分からないが、この世界で魔導士が垂涎の的なのは間違いない。オーレリアから魔導士が流出しないのは、他国に行けば奴隷のように酷使され続けると分かっているから。



「アメリア様がお目覚めになられない程度で狼狽え、理知的な話もできなくなる宰相など5歳児以下ですわ。今は真面に頭が働かないと言うなら、別の者を連れて来なさい。
『知らなかった』で許されるのは子供だけ。知らないうちに人が傷つけられていたのは、自分のせいではないと思っているのなら、知らなければネグレクトは罪にはならないのだと国中に公布なさい。
公布できない理由があるのならば、わたくしが代わりに新聞社に知らせます。国の民草がわたくしと同じ勘違いをしないように努めるのは、ノブレス・オブリージュの一つ。躾や教育と虐待の線引きはとても重要な問題ですから、この国の現王女として、ビルワーツ侯爵家令嬢としてなすべき事のひとつと捉えねばなりません。
残念な事に、離籍するまでわたくしはこの国の王女であり由緒ある侯爵家の令嬢です。その立場から逃げ出すことなく傷だらけの背中を見せ、公国とビルワーツ侯爵家の考えでは『この程度は虐待ではない』『手を出した者さえ罰すればその原因は放置して良い』と公表します。その結果、人の手を借りた虐待が蔓延しても公国の考えに沿っているのだから、問題はないでしょう。
公国に住む民草の為に、建国王の理念を伝える広告塔となるのに、やぶさかではありませんわ」

「それは脅しではありませんか!! 使用人を入れ替えると申し上げました。使用人の選定や監督は私の手落ちだったと認め、謝罪も致しました。それなのに公開するなどと⋯⋯そんな非道な方法を使ってでも、ご自分の思い通りにしたいのですか! エレーナ様は現時点でビルワーツ侯爵家の後継者です! ノブレス・オブリージュだと仰るなら、貴族令嬢として王女としての責任を果たすべきです。それをせずに逃げ出そうとするのは間違っていると、何故お分かりになられないのですか!? 離籍だなんて、そんな勝手が許されるわけがない!」

「わたくしは真実を公表すると言っただけ。法律の専門家にお聞きしましょう。わたくしの言葉の中に、法律上1箇所でも脅しと認められる箇所はありましたか?」

「いえ、ひとつもなかったと断言致します。弁護士資格にかけて」

 何故か楽しそうなモーガンが右手を挙げて宣誓した。

「わ、私もその⋯⋯脅迫と言える言葉はなかったと、はい」

 ジョーンズの隣の男もびくつきながらモーガンに同意した。

(言質なんてとらせないわ。わたくしは『離籍このようにする』とは一度も言っていないもの。『虐待でないなら学ぶ』と言ったのだから、脅しにはならないわ)

「使用人だけの問題ではないと分からない限り、話は平行線を辿るだけです。使用人の不始末は当主の管理責任だけではなく、当主の言動が大きく影響すると言っているのです。当主の考えが変わらない限り、何度使用人を入れ替えようとも、同じことが起きる。
ジョーンズ達がアメリア様を甘やかし、好き勝手な行動を容認している限り、必ず同じ事が起きます。
よく聞きなさい。全てを許し全ての望みを叶えようとするのは、本当の意味で大切にしているとは言えません。相手が当主だろうが王だろうが、必要であれば苦言を呈し反対意見を述べるのが忠臣のやるべき事。
ジョーンズ達のやっている事は、甘やかして言いたい放題やりたい放題をさせてあげたいと願い、それを理解する者だけを周りに置こうとする行為です。ジョーンズは『アメリア様の言動の意味を皆に周知する』のが問題解決になると考えているようですが、アメリア様の間違いを指摘するつもりはないのでしょう。
人の上に立つ者がいついかなる時も間違いを指摘されずにいれば、独裁政権になるしか道はないとわたくしは考えます。自分の思い通りに周りが動くのが当然だと勘違いし、正しくない事でも誰かがフォローしてくれる。
都合の悪いことが起きれば、自分の言葉を無理矢理にでも良いように理解してくれる者達が、下の者に責任を押し付けて表面ズラを整えてくれる。
ジョーンズの考えは、詰めの甘いビルワーツ侯爵家に相応しいと言えるでしょうが、それに馴染まないわたくしのいる場所ではありません」

「詰めが甘い?」

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