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第五章
32.それぞれの行き先は、己の決断が道を作る
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アルムヘイルの空に鐘の音が響き渡った。摂政となったタイラーは、ランドルフの王位剥奪とともに、今日王位につく。
晴れ渡った空に祝砲が打ち鳴らされ、王宮の大広間では大司教による戴冠式が行われる。
承認・宣誓・塗油・叙位・戴冠に続き、上級王族の代わりに上位貴族が新国王に対して忠誠を誓った。
レガリアを戴冠し玉座に座り、列席の貴族たちの祝辞を受けているタイラー新国王は、少し寂しそうに広間を見回した。
(やっぱり、いない⋯⋯)
タイラーは摂政としての激務の合間に、エレーナとの婚姻の打診をしたが、丁寧な断りの手紙が届いている。
《 王家とビルワーツの血は相容れぬものと存じます。遠い空の下より、タイラー第一王子殿下のご活躍をお祈り致しております 》
「断られるのは分かっていたが⋯⋯ほんの微かな希望も残さないとは、あっぱれだと思わないか?」
エレーナ自筆の手紙をひらひらとさせながら、タイラーは自嘲気味に侍従長に話しかけた。
「内密に送るよう仰せになられた時より、覚悟しておられたのでしょう? 潔く諦めて釣書の山に目を向けてくださいますれば、非常に助かります」
ネルズ元公爵⋯⋯現マコーリー侍従長が、苦笑いを浮かべた。
ループ前、政務を一手に引き受けさせられていた話を、エレーナから無理矢理聞きだした侍従長だったが、その内容の濃さに驚きよりも哀れを感じた。
(どれほどの時間を使い、どれ程の努力をされたのか⋯⋯だからこそ、あれだけの強さで事を成し遂げられたのか)
『わたくしが生まれる前から中途半端に残り、膿を吐き出し続けている悪魔を、潰しに行こうと思っておりますの。4カ国一斉に』
エレーナと炭焼き小屋であった時は、義憤に駆られただけの若者だと思っていた。ループだなどと言う戯言を信じはしなかったが、言っている事には一理ある。
そのお陰⋯⋯たった一人で立ち向かおうとするエレーナの姿勢に、侍従長は目の覚める思いがした。
自分は諦めていなかったか、タイラー王子が選ぶのを待つだけだと逃げていなかったか。
侍従長は負け戦だと思っていた。オーレリアが後ろ盾となっていても、4カ国が一斉に蜂起すれば一瞬で負けが決まる。
それでも区切りはつけられる⋯⋯。思いの丈を口にすれば、長い隠遁生活と決別する晴れ舞台にはなるだろう。
タイラーが自分の道を選ぶ為の良い機会になれば、それで十分だと。
(オーレリアの後ろ盾どころか、エレーナ様はほとんど手を借りずに、やり遂げてしまわれた)
『準備にはもちろんオーレリアから人手を貸したがな、予測から計画まで、エレーナひとりでやり遂げた。これは自分自身の戦いだから、できる限り人を巻き込みたくない⋯⋯だと』
少しでも敵が付け入る隙を残していたら、敵に反撃のチャンスを与えたら⋯⋯新たなターゲットを作るのが怖い。
エリオットから話を聞いた侍従長は絶句した。
エレーナの為人を知りたいが為に、侍従長は『ループ前の経験』とやらを無理矢理聞き出した。エレーナの話はかなり婉曲になっている部分はあったが、夢や妄想ではないと信じざるを得ない情報ばかり。
(ループの話が本当だとして⋯⋯もう、本当だとしか思えないが⋯⋯同じ人生を生きた記憶が私にあったとしても、エレーナ様と同じように戦える気がしない。
エレーナ様は、道を選ぶのは自分自身だと仰られた)
「わたくしは陛下と共にある道を選びましたが、お妃選びには口を出せませんので」
「しかし、あれほどの令嬢を知った後では⋯⋯少しだけ傷を癒やす時間を貰わないと、立ち直れそうにない。その後は本気で考える」
「わたくしの目の黒いうちに、陛下のお子を抱かせて下さると信じております」
整えられた濃い茶髪は白髪の方が多い。日に焼けた肌と深い皺、節くれだった手にはうっすらと白く傷が残っている。
(その全てが私を守ってくれた証だな⋯⋯侍従長の献身を無駄にはしない。エレーナが戦っている間、悠々と暮らしていた分頑張らなくては)
「⋯⋯もう楽器は触らないのか?」
「さて、陛下がそのような余裕を下さるならば、考えないでもありませんな。もしや、年寄りに慈悲を下さるのですか?」
「そうだな⋯⋯マコーリー侍従長が年寄りだと思ったら考える。侍従長は定年がないそうだしな」
ほとんど機能していない議会、不正の温床になっている大臣や上級事務官と、やる気のない下級事務官。
「これと同じような状況から国を建て直されたマクベス王は、本当に偉大な方だったんだな」
激務の中でも会うたびに笑顔を見せてくれた。抱き上げて頭を撫でて⋯⋯。
「陛下は陛下らしい国王を目指していかれるのが、一番でございましょう」
「ああ、自分の道は自分で」
元ネルズ公爵としての人脈、ネルズ公爵の繋いできた縁⋯⋯それ以外にも、ランドルフ達の悪政に耐え続けてきた忠臣もいる。タイラーを信じてついて行くと思ってくれる忠臣はまだいないが。
新生アルムヘイルは少しずつ、未来に向かって歩みはじめたばかり。
皇帝は、第二皇子から継承権と身分を剥奪した上で斬首。第二皇子派の者達も悉く粛清し、空席となった役職についた者達の教育に奔走した。
各国に公開された醜聞で経済は大打撃を受け、国を離反する者や独立を宣言する属国が相次いだが、一年後の退位に向けて寸暇を惜しんで走り回っている。
クレベルン王国は、ハントリー侯爵家の縁故3代までを連座で処刑。国王は退位し塔に幽閉された。国王やハントリー一族の資産は賠償金と慰謝料の一部とされ、不足分は国庫から捻出される事に決まったが、帝国同様に各国から経済制裁を受け、崩壊寸前まで追い詰められている。
連合王国は国王の退任、ハザラスとセルビアスの族長は斬首となり即時決行された。魔女に支払う代償で、息も絶え絶えになっていたクームラは、斬首される時涙を流した。
『これで終わる⋯⋯は、早く首を落としてくれ』
アルムヘイルは、エロイーズ・ランドルフ・エドワードの身分を剥奪。1年後に宣言通りの刑を執行すると発表した。
1年間は過去の犯罪について取り調べを行う予定だが、死ななければ問題ないと言う過酷なもの。匿名で送られた大量の回復用魔道具が非常に有効だったと伝えられたほど、非情な取り調べが行われたと言う。
大広間でエロイーズが苦しみはじめたのは、魔女の天秤が要求した代償のせいだが、公には単なる体調不良とされた。
その後、取り調べを受けられる程度に体調が復活したエロイーズは、声を張り上げて笑った。
『あーっはっは! 妾は魔女にさえ負けぬと言う事じゃ』
『魔女など恐るるに足らぬ。妾をここから解放するのじゃ、魔女にも負けぬ妾を失うは、この世界の損失ぞ!』
果たして、それが真実なのか⋯⋯。
取り調べと言う名の猶予期間が終わり、微量の毒を与えられたが、症状を緩和する処方はなされず放置。1週間後、国民の前で火炙りに処されることになった。
毒のせいで見る影もなくやつれ果て、痛みに苦しむエロイーズ達に、死んだ家族や友人達の恨みだと大量の石が投げつけられる。毒に侵されたエロイーズ達の身体には傷がついていくが、市民達の罵声と涙が彼等の心に届いたかは分からない。
火がつけられ叫び声が上がりはじめた頃、柔らかな風が吹きはじめた。
「火は燃え盛るのに、風が煙を消しさる⋯⋯これは⋯⋯殺された者達の恨みか」
「おそらくは」
エロイーズの死の直前に『黎明の魔女』が現れた。
『悪逆非道の限りを尽くしたエロイーズよ。魔女の禁忌を己の欲望に利用した代償を貰い受けにきた』
『い、今更⋯⋯は! 妾から取れるものなど何も⋯⋯』
既に命は尽きかけている。嘲笑いかけたエロイーズの顔が、魔女の笑い顔に気付いて凍りついた。
『人の与える罰は今世で払い終わったらしい。だが、人は生まれ変わる。故に、其方の払わねばならん代償は、生まれ変わった先で払い続けることになる。払い終わるまで、何度生まれ変わろうとも⋯⋯魔女の契約とはそう言うもの。安心するが良い、代償を払い終えておらんクームラも其方と同じ道を辿る。来世が楽しみであろう?』
『い、い、いやぁぁぁ!』
エレーナはエリオット達の制止を振り切り、処刑の場に一市民として立ち会った⋯⋯自分の最後の仕事だから。
長年、ランドルフ達と散財し続け、贅の極みを尽くしたジュリエッタは国家転覆罪で、身分剥奪の上斬首。エドワード達に比べると、温情と言える処置であった。
ソフィー・ライエンとその一族は、麻薬密売の幇助など複数の罪に問われ、毒杯を賜った。
多額の賠償金を請求されたエドワードの愛人達の家は、財産を差し押さえられた。いくつかの家は資産を抱えて逃亡を図ったが、騎士団に捕縛されて牢に収容された。
不正を働いていた貴族や商人達にも同様の刑が課された。
財産差し押さえ、奪爵や降爵、商会の取り潰し、斬首となった者も多い⋯⋯賠償金の不足分は荒地の開拓・鉱山開発・硝石集め・水車を使わない縮絨・大青染め・皮なめし等々に従事して支払う。
それらの仕事は⋯⋯『船乗りや娼館なら良かったのに』と言う者もいるほど、過酷な仕事ばかり。
アルムヘイルでは奴隷の所持は禁じられているが、法の改正を強行『犯罪奴隷』のみが認められる事に決まり、国を傾けた者達は不名誉な第一号に認定された。
鉄の首輪を嵌められ、仕事の中でも最も過酷な部分に従事させられる。
ターニャの兄ライナスは、クームラとターニャの計画を知りつつ、連絡係を務めて多額の報酬を手に入れていた。両親に捨てられた過去を考慮して欲しいとライナスは懇願したが、犯罪奴隷として荒地の開拓団に送られた。
乾き切ってひび割れた地を掘り起こすのは一本の鍬のみ。鉄錆の浮いたそれを、夜明けから星が見えるまで振り続ける。
硬くなったパンは具のないスープの中でボロボロと崩れ、膨れぬ腹は僅かな雑草では鳴り止まない。
ライナスの監視は共に開拓団に参加した者達だが、家族を養う為に覚悟を決めてやって来た彼等が、ライナスを仲間だなどと思うはずがない。
『あの悪魔達の部下だったんだってさ』
『金をもらって妹が地獄に落ちる手伝いをしたんだと』
ただ黙々と鍬を振り下ろすしかできないライナスは、荒地の中でも最も岩の多い場所を担当させられる。鍬が折れれば新しい鍬が支給されるまで、手で岩を掘り続けなければならない。
(農家で真面目に働いてりゃあ、こんな事にはならなかったのに⋯⋯あんな計画に乗るなんて)
粛清が終わる頃には『貴族が半分になった』と言われたほどだが、国民が喜んだのは税率が下げられた時だけ。
『どうせまた⋯⋯』
『今だけだって⋯⋯』
奴等はすぐに金をせびりはじめる⋯⋯ タイラー達は、王家や官僚達への期待の薄さを体感させられた。
優しそうな顔と穏やかな声は見せかけかも⋯⋯新国王のタイラーは『激烈王』と巷で呼ばれるようになったが、アルムヘイルが急速に平和を取り戻したのは間違いない。
帝国・クレベルン王国・連合王国の3カ国からもぎ取った『賠償金や慰謝料』を惜しみなく注ぎ込み、ひたすら国の繁栄に邁進した。
タイラーの在位中に、王政の廃止を決定し『選挙君主制』へと変えたのも大きな功績の一つ。貴族院と庶民院の両院制、庶民院の優越⋯⋯。貴族が牛耳っていた国政に風穴を開け続けた。
平民学校は6歳から4年間、授業料免除で昼食付き。成績や品行によっては援助金が出される事もある。低所得者向けの職業斡旋ギルドや、救貧院の設立。寡婦や孤児への援助など、枚挙にいとまがない。
タイラーが名君の誉と共に、マクベスの横に眠るまで⋯⋯。
晴れ渡った空に祝砲が打ち鳴らされ、王宮の大広間では大司教による戴冠式が行われる。
承認・宣誓・塗油・叙位・戴冠に続き、上級王族の代わりに上位貴族が新国王に対して忠誠を誓った。
レガリアを戴冠し玉座に座り、列席の貴族たちの祝辞を受けているタイラー新国王は、少し寂しそうに広間を見回した。
(やっぱり、いない⋯⋯)
タイラーは摂政としての激務の合間に、エレーナとの婚姻の打診をしたが、丁寧な断りの手紙が届いている。
《 王家とビルワーツの血は相容れぬものと存じます。遠い空の下より、タイラー第一王子殿下のご活躍をお祈り致しております 》
「断られるのは分かっていたが⋯⋯ほんの微かな希望も残さないとは、あっぱれだと思わないか?」
エレーナ自筆の手紙をひらひらとさせながら、タイラーは自嘲気味に侍従長に話しかけた。
「内密に送るよう仰せになられた時より、覚悟しておられたのでしょう? 潔く諦めて釣書の山に目を向けてくださいますれば、非常に助かります」
ネルズ元公爵⋯⋯現マコーリー侍従長が、苦笑いを浮かべた。
ループ前、政務を一手に引き受けさせられていた話を、エレーナから無理矢理聞きだした侍従長だったが、その内容の濃さに驚きよりも哀れを感じた。
(どれほどの時間を使い、どれ程の努力をされたのか⋯⋯だからこそ、あれだけの強さで事を成し遂げられたのか)
『わたくしが生まれる前から中途半端に残り、膿を吐き出し続けている悪魔を、潰しに行こうと思っておりますの。4カ国一斉に』
エレーナと炭焼き小屋であった時は、義憤に駆られただけの若者だと思っていた。ループだなどと言う戯言を信じはしなかったが、言っている事には一理ある。
そのお陰⋯⋯たった一人で立ち向かおうとするエレーナの姿勢に、侍従長は目の覚める思いがした。
自分は諦めていなかったか、タイラー王子が選ぶのを待つだけだと逃げていなかったか。
侍従長は負け戦だと思っていた。オーレリアが後ろ盾となっていても、4カ国が一斉に蜂起すれば一瞬で負けが決まる。
それでも区切りはつけられる⋯⋯。思いの丈を口にすれば、長い隠遁生活と決別する晴れ舞台にはなるだろう。
タイラーが自分の道を選ぶ為の良い機会になれば、それで十分だと。
(オーレリアの後ろ盾どころか、エレーナ様はほとんど手を借りずに、やり遂げてしまわれた)
『準備にはもちろんオーレリアから人手を貸したがな、予測から計画まで、エレーナひとりでやり遂げた。これは自分自身の戦いだから、できる限り人を巻き込みたくない⋯⋯だと』
少しでも敵が付け入る隙を残していたら、敵に反撃のチャンスを与えたら⋯⋯新たなターゲットを作るのが怖い。
エリオットから話を聞いた侍従長は絶句した。
エレーナの為人を知りたいが為に、侍従長は『ループ前の経験』とやらを無理矢理聞き出した。エレーナの話はかなり婉曲になっている部分はあったが、夢や妄想ではないと信じざるを得ない情報ばかり。
(ループの話が本当だとして⋯⋯もう、本当だとしか思えないが⋯⋯同じ人生を生きた記憶が私にあったとしても、エレーナ様と同じように戦える気がしない。
エレーナ様は、道を選ぶのは自分自身だと仰られた)
「わたくしは陛下と共にある道を選びましたが、お妃選びには口を出せませんので」
「しかし、あれほどの令嬢を知った後では⋯⋯少しだけ傷を癒やす時間を貰わないと、立ち直れそうにない。その後は本気で考える」
「わたくしの目の黒いうちに、陛下のお子を抱かせて下さると信じております」
整えられた濃い茶髪は白髪の方が多い。日に焼けた肌と深い皺、節くれだった手にはうっすらと白く傷が残っている。
(その全てが私を守ってくれた証だな⋯⋯侍従長の献身を無駄にはしない。エレーナが戦っている間、悠々と暮らしていた分頑張らなくては)
「⋯⋯もう楽器は触らないのか?」
「さて、陛下がそのような余裕を下さるならば、考えないでもありませんな。もしや、年寄りに慈悲を下さるのですか?」
「そうだな⋯⋯マコーリー侍従長が年寄りだと思ったら考える。侍従長は定年がないそうだしな」
ほとんど機能していない議会、不正の温床になっている大臣や上級事務官と、やる気のない下級事務官。
「これと同じような状況から国を建て直されたマクベス王は、本当に偉大な方だったんだな」
激務の中でも会うたびに笑顔を見せてくれた。抱き上げて頭を撫でて⋯⋯。
「陛下は陛下らしい国王を目指していかれるのが、一番でございましょう」
「ああ、自分の道は自分で」
元ネルズ公爵としての人脈、ネルズ公爵の繋いできた縁⋯⋯それ以外にも、ランドルフ達の悪政に耐え続けてきた忠臣もいる。タイラーを信じてついて行くと思ってくれる忠臣はまだいないが。
新生アルムヘイルは少しずつ、未来に向かって歩みはじめたばかり。
皇帝は、第二皇子から継承権と身分を剥奪した上で斬首。第二皇子派の者達も悉く粛清し、空席となった役職についた者達の教育に奔走した。
各国に公開された醜聞で経済は大打撃を受け、国を離反する者や独立を宣言する属国が相次いだが、一年後の退位に向けて寸暇を惜しんで走り回っている。
クレベルン王国は、ハントリー侯爵家の縁故3代までを連座で処刑。国王は退位し塔に幽閉された。国王やハントリー一族の資産は賠償金と慰謝料の一部とされ、不足分は国庫から捻出される事に決まったが、帝国同様に各国から経済制裁を受け、崩壊寸前まで追い詰められている。
連合王国は国王の退任、ハザラスとセルビアスの族長は斬首となり即時決行された。魔女に支払う代償で、息も絶え絶えになっていたクームラは、斬首される時涙を流した。
『これで終わる⋯⋯は、早く首を落としてくれ』
アルムヘイルは、エロイーズ・ランドルフ・エドワードの身分を剥奪。1年後に宣言通りの刑を執行すると発表した。
1年間は過去の犯罪について取り調べを行う予定だが、死ななければ問題ないと言う過酷なもの。匿名で送られた大量の回復用魔道具が非常に有効だったと伝えられたほど、非情な取り調べが行われたと言う。
大広間でエロイーズが苦しみはじめたのは、魔女の天秤が要求した代償のせいだが、公には単なる体調不良とされた。
その後、取り調べを受けられる程度に体調が復活したエロイーズは、声を張り上げて笑った。
『あーっはっは! 妾は魔女にさえ負けぬと言う事じゃ』
『魔女など恐るるに足らぬ。妾をここから解放するのじゃ、魔女にも負けぬ妾を失うは、この世界の損失ぞ!』
果たして、それが真実なのか⋯⋯。
取り調べと言う名の猶予期間が終わり、微量の毒を与えられたが、症状を緩和する処方はなされず放置。1週間後、国民の前で火炙りに処されることになった。
毒のせいで見る影もなくやつれ果て、痛みに苦しむエロイーズ達に、死んだ家族や友人達の恨みだと大量の石が投げつけられる。毒に侵されたエロイーズ達の身体には傷がついていくが、市民達の罵声と涙が彼等の心に届いたかは分からない。
火がつけられ叫び声が上がりはじめた頃、柔らかな風が吹きはじめた。
「火は燃え盛るのに、風が煙を消しさる⋯⋯これは⋯⋯殺された者達の恨みか」
「おそらくは」
エロイーズの死の直前に『黎明の魔女』が現れた。
『悪逆非道の限りを尽くしたエロイーズよ。魔女の禁忌を己の欲望に利用した代償を貰い受けにきた』
『い、今更⋯⋯は! 妾から取れるものなど何も⋯⋯』
既に命は尽きかけている。嘲笑いかけたエロイーズの顔が、魔女の笑い顔に気付いて凍りついた。
『人の与える罰は今世で払い終わったらしい。だが、人は生まれ変わる。故に、其方の払わねばならん代償は、生まれ変わった先で払い続けることになる。払い終わるまで、何度生まれ変わろうとも⋯⋯魔女の契約とはそう言うもの。安心するが良い、代償を払い終えておらんクームラも其方と同じ道を辿る。来世が楽しみであろう?』
『い、い、いやぁぁぁ!』
エレーナはエリオット達の制止を振り切り、処刑の場に一市民として立ち会った⋯⋯自分の最後の仕事だから。
長年、ランドルフ達と散財し続け、贅の極みを尽くしたジュリエッタは国家転覆罪で、身分剥奪の上斬首。エドワード達に比べると、温情と言える処置であった。
ソフィー・ライエンとその一族は、麻薬密売の幇助など複数の罪に問われ、毒杯を賜った。
多額の賠償金を請求されたエドワードの愛人達の家は、財産を差し押さえられた。いくつかの家は資産を抱えて逃亡を図ったが、騎士団に捕縛されて牢に収容された。
不正を働いていた貴族や商人達にも同様の刑が課された。
財産差し押さえ、奪爵や降爵、商会の取り潰し、斬首となった者も多い⋯⋯賠償金の不足分は荒地の開拓・鉱山開発・硝石集め・水車を使わない縮絨・大青染め・皮なめし等々に従事して支払う。
それらの仕事は⋯⋯『船乗りや娼館なら良かったのに』と言う者もいるほど、過酷な仕事ばかり。
アルムヘイルでは奴隷の所持は禁じられているが、法の改正を強行『犯罪奴隷』のみが認められる事に決まり、国を傾けた者達は不名誉な第一号に認定された。
鉄の首輪を嵌められ、仕事の中でも最も過酷な部分に従事させられる。
ターニャの兄ライナスは、クームラとターニャの計画を知りつつ、連絡係を務めて多額の報酬を手に入れていた。両親に捨てられた過去を考慮して欲しいとライナスは懇願したが、犯罪奴隷として荒地の開拓団に送られた。
乾き切ってひび割れた地を掘り起こすのは一本の鍬のみ。鉄錆の浮いたそれを、夜明けから星が見えるまで振り続ける。
硬くなったパンは具のないスープの中でボロボロと崩れ、膨れぬ腹は僅かな雑草では鳴り止まない。
ライナスの監視は共に開拓団に参加した者達だが、家族を養う為に覚悟を決めてやって来た彼等が、ライナスを仲間だなどと思うはずがない。
『あの悪魔達の部下だったんだってさ』
『金をもらって妹が地獄に落ちる手伝いをしたんだと』
ただ黙々と鍬を振り下ろすしかできないライナスは、荒地の中でも最も岩の多い場所を担当させられる。鍬が折れれば新しい鍬が支給されるまで、手で岩を掘り続けなければならない。
(農家で真面目に働いてりゃあ、こんな事にはならなかったのに⋯⋯あんな計画に乗るなんて)
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『どうせまた⋯⋯』
『今だけだって⋯⋯』
奴等はすぐに金をせびりはじめる⋯⋯ タイラー達は、王家や官僚達への期待の薄さを体感させられた。
優しそうな顔と穏やかな声は見せかけかも⋯⋯新国王のタイラーは『激烈王』と巷で呼ばれるようになったが、アルムヘイルが急速に平和を取り戻したのは間違いない。
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だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
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離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
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