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一回目 (過去)
70.リリアーナ、教会へ行く
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教会の前で馬車を降りたリリアーナをナスタリア神父が出迎えた。
「公爵家までナスタリア様がお迎えに来てくださると思ってましたのに」
「私の事はナスタリア神父とお呼び下さい。彼女はシスター・タニア、リリアーナ様のお世話を担当いたします。
お部屋にご案内してくれますか、シスター・タニア?」
「シスター・タニアと申します。こちらへどうぞ」
「宜しくね、タニア。ナスタリア神父、お部屋までご一緒して下さいな。私のドレスやアクセサリーを準備してくださったのでしょう? 凄く楽しみですわ」
「シスター・タニアとお呼び下さい。お気に召すかどうか分かりませんが教会での暮らしに適した物を準備しております」
「でも、本当は一番のお気に入りのドレスやアクセサリーで綺麗になったのを見ていただきたかったです」
とても13歳とは思えない。シスター・タニアに媚の売り方も科の作り方も気位の高い場末の娼婦のようだと思われている事に気付かず、リリアーナはナスタリア神父にしなだれかかった。
「少し離れて歩いていただきます。聖職者の身体に触れるのは禁止事項のひとつです」
「でも、よろけてしまったら?」
上目遣いで粘るリリアーナ。
「ご安心下さい。シスター・タニアが助けてくれるでしょう」
女性にしては背の高いシスター・タニアはローブを身につけているが、地の加護を持ちレイピアの扱いが得意な聖騎士のひとり。今も恐らくナイフを何処かに隠し持っているだろう。
リリアーナ達を置いてナスタリア神父がさっさといなくなり宿泊予定の部屋に案内されると途端に態度を変えたリリアーナ。
「えーっ、ここに泊まれって言うの? もうちょっとマシな部屋はないの? これじゃ馬小屋じゃない。私が公爵令嬢だって知ってる?」
公爵邸のリリアーナの衣装部屋の半分、ローザリアの部屋の倍の大きさの部屋には1人掛けのソファとテーブルのセット、ベッドやシンプルなドレッサーが置いてある。部屋の隅にはクローゼット代わりの長櫃と書物机。
ベランダはないが大きな窓にはレースのカーテンがかかっており、厚みのある絨毯が敷かれていた。隣室に続くドアの向こうにはトイレと浴槽もある貴賓室の一つ。
なんらかの理由で身を隠したい貴人や人前にあまり顔を出したくない人の為に水回りも揃えられた特別な部屋で、見た目はシンプルだがそれぞれの家具や備品は大切なものが揃えられている。
最高級のオークを使った家具と今では作り手の少なくなった年代物のニードル・ポイントレース。陶器の種類の中で最も歴史が古いアースンウェアの花瓶。敷かれている絨毯は聖王国の教皇から下賜されたものだった。
「はい、存じております。礼儀知らずで我儘な令嬢の妹様で、貴族令嬢の見本のような方だとお聞きしております。教会の規律を守り精霊や加護について真摯に学ぶ意欲をお持ちだとも」
「そっ、その通りよ。で、ナザエル枢機卿はどこにいるの?」
「執務室ではないかと思いますがはっきりとは分かりかねます」
「じゃあ、会いに行くわ。案内して」
「許可のない方は教会内を歩き回ることはできません。また、枢機卿の執務室のある階は決められた方以外行くことができません」
「だったら許可をもらってきてよ」
「できません。本日は夕食までお部屋でお寛ぎ下さいとのことです。ドアの外には護衛がおりますので何かあればお声をおかけ下さい。くれぐれも出歩かれませんように」
「部屋から出るなってこと? だったら、ナスタリア神父にここへ来るよう言いなさい! 彼には私をもてなしてもらうわ」
「お部屋にご不満がおありのようですが、それぞれ由緒正しいお品ばかりでございます。どうかその旨お忘れなきよう」
シスター・タニアはリリアーナの言葉を無視してパタンとドアを閉めた。
(わざわざ壊れやすいアースンウェアの花瓶を使うなんて、ナスタリア神父をよほど怒らせたみたいね。壊したら公爵家でも弁償出来ないものまであったし)
地雷まみれの部屋でリリアーナはひとり腹を立てていた。物に当たり散らしたいが態々釘を刺されたばかりで壊すのは憚られる。
「由緒正しい? 古臭くってけち臭い物ばかり⋯⋯今どき長櫃だなんて」
何が入ってるのかと開けてみてリリアーナは絶句した。
「何これ⋯⋯これを着ろってこと?」
「公爵家までナスタリア様がお迎えに来てくださると思ってましたのに」
「私の事はナスタリア神父とお呼び下さい。彼女はシスター・タニア、リリアーナ様のお世話を担当いたします。
お部屋にご案内してくれますか、シスター・タニア?」
「シスター・タニアと申します。こちらへどうぞ」
「宜しくね、タニア。ナスタリア神父、お部屋までご一緒して下さいな。私のドレスやアクセサリーを準備してくださったのでしょう? 凄く楽しみですわ」
「シスター・タニアとお呼び下さい。お気に召すかどうか分かりませんが教会での暮らしに適した物を準備しております」
「でも、本当は一番のお気に入りのドレスやアクセサリーで綺麗になったのを見ていただきたかったです」
とても13歳とは思えない。シスター・タニアに媚の売り方も科の作り方も気位の高い場末の娼婦のようだと思われている事に気付かず、リリアーナはナスタリア神父にしなだれかかった。
「少し離れて歩いていただきます。聖職者の身体に触れるのは禁止事項のひとつです」
「でも、よろけてしまったら?」
上目遣いで粘るリリアーナ。
「ご安心下さい。シスター・タニアが助けてくれるでしょう」
女性にしては背の高いシスター・タニアはローブを身につけているが、地の加護を持ちレイピアの扱いが得意な聖騎士のひとり。今も恐らくナイフを何処かに隠し持っているだろう。
リリアーナ達を置いてナスタリア神父がさっさといなくなり宿泊予定の部屋に案内されると途端に態度を変えたリリアーナ。
「えーっ、ここに泊まれって言うの? もうちょっとマシな部屋はないの? これじゃ馬小屋じゃない。私が公爵令嬢だって知ってる?」
公爵邸のリリアーナの衣装部屋の半分、ローザリアの部屋の倍の大きさの部屋には1人掛けのソファとテーブルのセット、ベッドやシンプルなドレッサーが置いてある。部屋の隅にはクローゼット代わりの長櫃と書物机。
ベランダはないが大きな窓にはレースのカーテンがかかっており、厚みのある絨毯が敷かれていた。隣室に続くドアの向こうにはトイレと浴槽もある貴賓室の一つ。
なんらかの理由で身を隠したい貴人や人前にあまり顔を出したくない人の為に水回りも揃えられた特別な部屋で、見た目はシンプルだがそれぞれの家具や備品は大切なものが揃えられている。
最高級のオークを使った家具と今では作り手の少なくなった年代物のニードル・ポイントレース。陶器の種類の中で最も歴史が古いアースンウェアの花瓶。敷かれている絨毯は聖王国の教皇から下賜されたものだった。
「はい、存じております。礼儀知らずで我儘な令嬢の妹様で、貴族令嬢の見本のような方だとお聞きしております。教会の規律を守り精霊や加護について真摯に学ぶ意欲をお持ちだとも」
「そっ、その通りよ。で、ナザエル枢機卿はどこにいるの?」
「執務室ではないかと思いますがはっきりとは分かりかねます」
「じゃあ、会いに行くわ。案内して」
「許可のない方は教会内を歩き回ることはできません。また、枢機卿の執務室のある階は決められた方以外行くことができません」
「だったら許可をもらってきてよ」
「できません。本日は夕食までお部屋でお寛ぎ下さいとのことです。ドアの外には護衛がおりますので何かあればお声をおかけ下さい。くれぐれも出歩かれませんように」
「部屋から出るなってこと? だったら、ナスタリア神父にここへ来るよう言いなさい! 彼には私をもてなしてもらうわ」
「お部屋にご不満がおありのようですが、それぞれ由緒正しいお品ばかりでございます。どうかその旨お忘れなきよう」
シスター・タニアはリリアーナの言葉を無視してパタンとドアを閉めた。
(わざわざ壊れやすいアースンウェアの花瓶を使うなんて、ナスタリア神父をよほど怒らせたみたいね。壊したら公爵家でも弁償出来ないものまであったし)
地雷まみれの部屋でリリアーナはひとり腹を立てていた。物に当たり散らしたいが態々釘を刺されたばかりで壊すのは憚られる。
「由緒正しい? 古臭くってけち臭い物ばかり⋯⋯今どき長櫃だなんて」
何が入ってるのかと開けてみてリリアーナは絶句した。
「何これ⋯⋯これを着ろってこと?」
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