173 / 191
ループ
172.息巻く枢機卿、堂々の登場
しおりを挟む
「小耳に挟んだんだが、どうやらリリアーナは王太子の婚約者候補らしい。
今回の件でリリアーナの部屋から火が出た⋯⋯リリアーナが火の加護を使ったんじゃないかって言った奴がいるらしくて、神託の儀をやり直すべきだって話が出てるそうだ」
「そうなるとトーマック公爵家はますます厳しい立場に追い込まれますね」
元々加護を持っていなかったリリアーナにジンが水の加護があるよう見せかけた。
「火と風が得意なジンがリリアーナに水の加護に似せた何かを持たせるには結構無理をしてたと思うんだ。大量の魔石はそれに関係してるのか⋯⋯」
ナスタリア助祭がぶつぶつ言いながら考え込んだ。
「それにしても、神託の儀をやり直したらリリアーナは多分加護なしだってなるんじゃないかな」
「そうなったら公爵家が黙ってないだろうな。リリアーナは火事はペンダントのせいだって言ってるし、カサンドラ達は必要ないって騒いでる」
「ペンダント?」
ナザエル神父とニールの話を聞いていたローザリアが口を挟んだ。
「爆発の後、いつもつけていたペンダントの石が割れて火が出たって言ってるそうだよ」
「⋯⋯紫水晶だわ。カサンドラ様だったか王弟妃様だったかから戴いたんだってリリアーナに自慢された事がある。そう言えば、洞窟で⋯⋯ジンの瞳も紫水晶みたいだって思ったの」
私は愛されているからこんな素敵なプレゼントが届くと自慢げにリリアーナが見せてきた。
「ペンダントの紫水晶にジンの力が込められてたってことか。多分元は闇の魔石だな」
「そのペンダントなら私も見た事があります。リリアーナ様が神託の儀を迎えるお祝いに王弟妃様から贈られたもののはずです。寝る時も離さないで身につけておられましたから間違いないと思います」
「繋がったな」
「今は教会本部の人が王国に来ているんですよね」
「ああ、オーガスト枢機卿がきてるぜ。精霊教会一の堅物で公爵家を潰すと息巻いてるぜ」
「だったら、その方に神託の儀をもう一度やってもらいましょう」
「勝負に出るのか?」
「はい、時間をあけたらジンに余裕を与えるだけだから一気に畳みかけた方がいいと思う」
「オーガスト枢機卿はしつこいからな、普通の平民にはなれなくなるぜ?」
「もしもの時はスコルのとこに転移して匿ってもらいます」
スコルのいる森の石碑の周りには結界が張られている。ローザリアが望めばその中に逃げ込めるだろう。
「あの森にいればオーガスト枢機卿にはバレないだろうし、村で畑仕事とかさせて貰えば食べていけそうだし」
「みゅみゅっ」
「フィードがずいぶん自信ありげだな。
だったら、明日の朝一番で教会に押しかけるとするか。オーガストの爺さんは早起きだから、夜明け前にはここを出るぞ」
翌朝、オーガスト枢機卿を急襲したローザリア達は王宮に来ていた。
オーガスト枢機卿の名前で内務大臣に面会を申し込み順調に執務室に案内されたものの、本人は会議中だと言われて待ちぼうけを喰らっていた。
「それで、アウグスト・ギャンター内務大臣は本当に信用できるのですかな?」
王家も王宮の官僚も毛嫌いしているオーガスト枢機卿が眉間に皺を寄せた。
「多分⋯⋯としか言えません。でも、内務大臣よりも信用できる人が思いつかないんです」
前世でナスタリア神父が信用していた人だから大丈夫だと思うとは言えず、ローザリアは曖昧な返事をした。
呼び出しの手紙は偽物で、あの断罪の場にいなかったのは理由があったのだと信じたい。
「デニス・セルゲイ宰相の方が信用できるのではないかと思うのじゃが⋯⋯」
セルゲイ宰相はリリアーナの加護を調べ直そうと国王に進言している者の一人で、闇の魔石が持ち込まれた経緯を徹底的に調べるべきだと言っているオーガスト枢機卿と意見が一致している。
「今回の件について宰相はかなり本腰を入れて調べるべきだと言っておられた。それに比べるとギャンター内務大臣は日和見主義のように見受けられましたがなあ」
デニス・セルゲイ宰相はあの断罪の場にいた。
「宰相が王弟妃や王家側の人かどうかは判断できませんが、風見鶏のようと言うか長いものに巻かれるような人かもしれないとは思っています」
あの日、何の証拠もなくローザリアを断罪する王太子とリリアーナに協力していた宰相は、ナザエル枢機卿やニールが闇の魔法陣に囚われた時に黙認した人なのだから。
過去は過去だと思いつつもやはり信用するのは危険すぎる気がした。
「信念があって王家に傅いていると言うよりも最も自分に利のある方についているだけかも」
「ナスタリア助祭が言うような愚かな人物には見えませんでしたがのぉ、精霊王の加護をお持ちのローザリア様のお言葉では従わざるを得ませんな」
「トーマック公爵家が宰相を蹴落として、自分の子飼いの伯爵をその地位につけようとしているのは有名な話だからな。リリアーナを潰せば自分の利益になると思ってる可能性はある」
ナザエル神父の説明にオーガスト枢機卿が腕を組んで考え込んだ。
今回の件でリリアーナの部屋から火が出た⋯⋯リリアーナが火の加護を使ったんじゃないかって言った奴がいるらしくて、神託の儀をやり直すべきだって話が出てるそうだ」
「そうなるとトーマック公爵家はますます厳しい立場に追い込まれますね」
元々加護を持っていなかったリリアーナにジンが水の加護があるよう見せかけた。
「火と風が得意なジンがリリアーナに水の加護に似せた何かを持たせるには結構無理をしてたと思うんだ。大量の魔石はそれに関係してるのか⋯⋯」
ナスタリア助祭がぶつぶつ言いながら考え込んだ。
「それにしても、神託の儀をやり直したらリリアーナは多分加護なしだってなるんじゃないかな」
「そうなったら公爵家が黙ってないだろうな。リリアーナは火事はペンダントのせいだって言ってるし、カサンドラ達は必要ないって騒いでる」
「ペンダント?」
ナザエル神父とニールの話を聞いていたローザリアが口を挟んだ。
「爆発の後、いつもつけていたペンダントの石が割れて火が出たって言ってるそうだよ」
「⋯⋯紫水晶だわ。カサンドラ様だったか王弟妃様だったかから戴いたんだってリリアーナに自慢された事がある。そう言えば、洞窟で⋯⋯ジンの瞳も紫水晶みたいだって思ったの」
私は愛されているからこんな素敵なプレゼントが届くと自慢げにリリアーナが見せてきた。
「ペンダントの紫水晶にジンの力が込められてたってことか。多分元は闇の魔石だな」
「そのペンダントなら私も見た事があります。リリアーナ様が神託の儀を迎えるお祝いに王弟妃様から贈られたもののはずです。寝る時も離さないで身につけておられましたから間違いないと思います」
「繋がったな」
「今は教会本部の人が王国に来ているんですよね」
「ああ、オーガスト枢機卿がきてるぜ。精霊教会一の堅物で公爵家を潰すと息巻いてるぜ」
「だったら、その方に神託の儀をもう一度やってもらいましょう」
「勝負に出るのか?」
「はい、時間をあけたらジンに余裕を与えるだけだから一気に畳みかけた方がいいと思う」
「オーガスト枢機卿はしつこいからな、普通の平民にはなれなくなるぜ?」
「もしもの時はスコルのとこに転移して匿ってもらいます」
スコルのいる森の石碑の周りには結界が張られている。ローザリアが望めばその中に逃げ込めるだろう。
「あの森にいればオーガスト枢機卿にはバレないだろうし、村で畑仕事とかさせて貰えば食べていけそうだし」
「みゅみゅっ」
「フィードがずいぶん自信ありげだな。
だったら、明日の朝一番で教会に押しかけるとするか。オーガストの爺さんは早起きだから、夜明け前にはここを出るぞ」
翌朝、オーガスト枢機卿を急襲したローザリア達は王宮に来ていた。
オーガスト枢機卿の名前で内務大臣に面会を申し込み順調に執務室に案内されたものの、本人は会議中だと言われて待ちぼうけを喰らっていた。
「それで、アウグスト・ギャンター内務大臣は本当に信用できるのですかな?」
王家も王宮の官僚も毛嫌いしているオーガスト枢機卿が眉間に皺を寄せた。
「多分⋯⋯としか言えません。でも、内務大臣よりも信用できる人が思いつかないんです」
前世でナスタリア神父が信用していた人だから大丈夫だと思うとは言えず、ローザリアは曖昧な返事をした。
呼び出しの手紙は偽物で、あの断罪の場にいなかったのは理由があったのだと信じたい。
「デニス・セルゲイ宰相の方が信用できるのではないかと思うのじゃが⋯⋯」
セルゲイ宰相はリリアーナの加護を調べ直そうと国王に進言している者の一人で、闇の魔石が持ち込まれた経緯を徹底的に調べるべきだと言っているオーガスト枢機卿と意見が一致している。
「今回の件について宰相はかなり本腰を入れて調べるべきだと言っておられた。それに比べるとギャンター内務大臣は日和見主義のように見受けられましたがなあ」
デニス・セルゲイ宰相はあの断罪の場にいた。
「宰相が王弟妃や王家側の人かどうかは判断できませんが、風見鶏のようと言うか長いものに巻かれるような人かもしれないとは思っています」
あの日、何の証拠もなくローザリアを断罪する王太子とリリアーナに協力していた宰相は、ナザエル枢機卿やニールが闇の魔法陣に囚われた時に黙認した人なのだから。
過去は過去だと思いつつもやはり信用するのは危険すぎる気がした。
「信念があって王家に傅いていると言うよりも最も自分に利のある方についているだけかも」
「ナスタリア助祭が言うような愚かな人物には見えませんでしたがのぉ、精霊王の加護をお持ちのローザリア様のお言葉では従わざるを得ませんな」
「トーマック公爵家が宰相を蹴落として、自分の子飼いの伯爵をその地位につけようとしているのは有名な話だからな。リリアーナを潰せば自分の利益になると思ってる可能性はある」
ナザエル神父の説明にオーガスト枢機卿が腕を組んで考え込んだ。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
594
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる