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ループ
190.はじまりはいつも
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「どうやら問題解決のようだね」
「オーガスト枢機卿に全部任せてしまって申し訳なかったけどね」
教会のやりとりを少し離れた場所から見ていたローザリア達。
「良いんじゃないかな。オーガスト枢機卿はああ見えて計算高いところがあるから、ここで恩を売っておけばローザリア聖女計画が近付くとか思ってると思う」
「うっ、それは嫌かも⋯⋯別のお礼考えとく。じゃあ、スコルに会いに行こうか」
「きゅっ!」
ローザリアは石碑の相談をする為にスコルの森に行くのだが、その付き添いを兼ねてずっとお預けになっていた薬草の森の散策にも向かう予定でいる。
(ナスタリア助祭が目がキラッキラ。本当に薬草好きなんだ)
スコルの森に転移すると相変わらずそこは澄んだ空気と爽やかな風が吹き、生い茂った木々が騒めく度に木漏れ日が姿を変える。葉の上でお昼寝していた光の精霊が起き上がって笑顔で手を振り、落ち葉の中から地の精霊が顔を覗かせた。
「王都と比べるとまさに別天地のようですね」
最近はエリサがこうやって時々話しかけてくれるのがとても嬉しいローザリアは、そっとエリサの手を握った。
「うん、やっぱりここは凄いね」
「みゅ、みみゅう~」
最近言葉の増えたフィードがローザリアの腕から降りようと暴れはじめた。
「スコルがお迎えに来てくれたみたい」
短い足でてとてと走って行くフィードの後をのんびり歩いて行くと悠然と尻尾を揺らしながらスコルがやって来た。
飛びついて来たフィードをヒョイッと咥えて背に乗せたスコルはついてこいと言わんばかりに背を向けた。
見知った石碑の横に腹這いになったスコルはローザリアを見て目を細めた。
【力が解放されたようじゃな】
「お久しぶりです。みんなのお陰で石碑の修復が終わったので」
【精霊王から聞いておる。ここに出すと良い】
ローザリアはアイテムボックスから出した石碑を並べ頭を下げた。
「宜しくお願いします」
【精霊王の無茶振りは昔からでのう。仕方あるまいて。そこの坊やは薬草が見たいのであろう? 行ってくるが良い】
ローザリアとエリサはお茶の準備をしてフィードが精霊と戯れるのをのんびりと眺めた。
【あの少年に会って行くか?】
「もしかしてジェイクですか?」
【随分とヤンチャになってきおったぞ】
「うーん、やめておきます。今世では知らない同士だし。突然村に現れたら吃驚させちゃうだけなんで」
ジェイクは一歳になり村中をヨタヨタと歩き回っているらしい。あちこちに出没しては父親に摘み上げられ懲りずにまた脱走している。
水不足を何とかしようとジェイクが王都まで脱走してくることはもうないだろうから出会う機会はないかもしれない。
(元気一杯で地の加護持ちのジェイクと、水の加護持ちとして産まれてくる可愛い妹のサラちゃんにいつか会えたらいいなぁ)
エリサとフィードをスコルの元に残してナスタリア助祭の様子を見に来たローザリアは大量の草に目を丸くした。辺り一面に数えきれないほど沢山の種類の草が生えている。
「こんなに種類があるのに雑草と薬草の区別がつくのって凄すぎ⋯⋯」
「スコルとの話は終わったの?」
草の山にしゃがみ込んでいたナスタリア助祭が振り向いた。
「うん、ほとんどお茶してただけだし。いいお天気だからお散歩したくなって。ナスタリア助祭は?」
「珍しい薬草とかこの季節には手に入りにくいのとか一杯あって⋯⋯」
ほくほく顔のナスタリア助祭は今までで一番嬉しそうな顔をしていた。
薬草をアイテムボックスに入れて近くの岩に並んで腰掛けた。
「アイテムボックスって便利だよなぁ。魔道具にもあるそうなんだけどローザリアのと違って中身が時間と共に劣化するんだって」
「そうか、それだと薬草とか食べ物には使いにくいね」
「あの、話は変わるんだけど⋯⋯これからローザリアはどうするの?」
「仕事と家を探さなくちゃって思ってる。エリサ⋯⋯お母さんと一緒に暮らせる家」
「⋯⋯学校とかって興味ない?」
「うーん、なくはないけど。加護がどうとか言われたら面倒な事になりそうだし、下働きとかで雇ってもらえるとこを探そうかなって」
「僕の生まれた国はこの国より西にあるんだ。間にひとつ別の国を挟んでるからこの国のことはあまり知られてないし、そこは加護は関係なくて試験を受けて合格すれば誰でも入れるんだ」
「そうか、ナスタリア助祭は遠い国から来たんだ⋯⋯でもやっぱり無理だと思う」
ローザリアには移動する為の旅費も学費もない。それどころか本当は日々の食費さえないのだが、現状はナザエル神父達があれこれ持ってきてくれる食材に頼り切っている。
「いつまでも今みたいにみんなに甘えてばかりじゃダメだから仕事を探す予定なの。お母さんもそうするって言ってくれたし」
教会やナザエル神父達の援助、支援や出世払いなと言葉を尽くしてもローザリアは首を縦に振らなかった。
「人に甘えるのはもうお終いにしなくちゃいけないの」
(過去のナスタリア神父も今のナスタリア助祭も同じくらい好きだと思う⋯⋯だから離れた方がいい)
俯いて考え込んでいたナスタリア助祭が突然立ち上がりローザリアの前に跪いた。
「甘いショコラトルとしょっぱいエショデ」
「オーガスト枢機卿に全部任せてしまって申し訳なかったけどね」
教会のやりとりを少し離れた場所から見ていたローザリア達。
「良いんじゃないかな。オーガスト枢機卿はああ見えて計算高いところがあるから、ここで恩を売っておけばローザリア聖女計画が近付くとか思ってると思う」
「うっ、それは嫌かも⋯⋯別のお礼考えとく。じゃあ、スコルに会いに行こうか」
「きゅっ!」
ローザリアは石碑の相談をする為にスコルの森に行くのだが、その付き添いを兼ねてずっとお預けになっていた薬草の森の散策にも向かう予定でいる。
(ナスタリア助祭が目がキラッキラ。本当に薬草好きなんだ)
スコルの森に転移すると相変わらずそこは澄んだ空気と爽やかな風が吹き、生い茂った木々が騒めく度に木漏れ日が姿を変える。葉の上でお昼寝していた光の精霊が起き上がって笑顔で手を振り、落ち葉の中から地の精霊が顔を覗かせた。
「王都と比べるとまさに別天地のようですね」
最近はエリサがこうやって時々話しかけてくれるのがとても嬉しいローザリアは、そっとエリサの手を握った。
「うん、やっぱりここは凄いね」
「みゅ、みみゅう~」
最近言葉の増えたフィードがローザリアの腕から降りようと暴れはじめた。
「スコルがお迎えに来てくれたみたい」
短い足でてとてと走って行くフィードの後をのんびり歩いて行くと悠然と尻尾を揺らしながらスコルがやって来た。
飛びついて来たフィードをヒョイッと咥えて背に乗せたスコルはついてこいと言わんばかりに背を向けた。
見知った石碑の横に腹這いになったスコルはローザリアを見て目を細めた。
【力が解放されたようじゃな】
「お久しぶりです。みんなのお陰で石碑の修復が終わったので」
【精霊王から聞いておる。ここに出すと良い】
ローザリアはアイテムボックスから出した石碑を並べ頭を下げた。
「宜しくお願いします」
【精霊王の無茶振りは昔からでのう。仕方あるまいて。そこの坊やは薬草が見たいのであろう? 行ってくるが良い】
ローザリアとエリサはお茶の準備をしてフィードが精霊と戯れるのをのんびりと眺めた。
【あの少年に会って行くか?】
「もしかしてジェイクですか?」
【随分とヤンチャになってきおったぞ】
「うーん、やめておきます。今世では知らない同士だし。突然村に現れたら吃驚させちゃうだけなんで」
ジェイクは一歳になり村中をヨタヨタと歩き回っているらしい。あちこちに出没しては父親に摘み上げられ懲りずにまた脱走している。
水不足を何とかしようとジェイクが王都まで脱走してくることはもうないだろうから出会う機会はないかもしれない。
(元気一杯で地の加護持ちのジェイクと、水の加護持ちとして産まれてくる可愛い妹のサラちゃんにいつか会えたらいいなぁ)
エリサとフィードをスコルの元に残してナスタリア助祭の様子を見に来たローザリアは大量の草に目を丸くした。辺り一面に数えきれないほど沢山の種類の草が生えている。
「こんなに種類があるのに雑草と薬草の区別がつくのって凄すぎ⋯⋯」
「スコルとの話は終わったの?」
草の山にしゃがみ込んでいたナスタリア助祭が振り向いた。
「うん、ほとんどお茶してただけだし。いいお天気だからお散歩したくなって。ナスタリア助祭は?」
「珍しい薬草とかこの季節には手に入りにくいのとか一杯あって⋯⋯」
ほくほく顔のナスタリア助祭は今までで一番嬉しそうな顔をしていた。
薬草をアイテムボックスに入れて近くの岩に並んで腰掛けた。
「アイテムボックスって便利だよなぁ。魔道具にもあるそうなんだけどローザリアのと違って中身が時間と共に劣化するんだって」
「そうか、それだと薬草とか食べ物には使いにくいね」
「あの、話は変わるんだけど⋯⋯これからローザリアはどうするの?」
「仕事と家を探さなくちゃって思ってる。エリサ⋯⋯お母さんと一緒に暮らせる家」
「⋯⋯学校とかって興味ない?」
「うーん、なくはないけど。加護がどうとか言われたら面倒な事になりそうだし、下働きとかで雇ってもらえるとこを探そうかなって」
「僕の生まれた国はこの国より西にあるんだ。間にひとつ別の国を挟んでるからこの国のことはあまり知られてないし、そこは加護は関係なくて試験を受けて合格すれば誰でも入れるんだ」
「そうか、ナスタリア助祭は遠い国から来たんだ⋯⋯でもやっぱり無理だと思う」
ローザリアには移動する為の旅費も学費もない。それどころか本当は日々の食費さえないのだが、現状はナザエル神父達があれこれ持ってきてくれる食材に頼り切っている。
「いつまでも今みたいにみんなに甘えてばかりじゃダメだから仕事を探す予定なの。お母さんもそうするって言ってくれたし」
教会やナザエル神父達の援助、支援や出世払いなと言葉を尽くしてもローザリアは首を縦に振らなかった。
「人に甘えるのはもうお終いにしなくちゃいけないの」
(過去のナスタリア神父も今のナスタリア助祭も同じくらい好きだと思う⋯⋯だから離れた方がいい)
俯いて考え込んでいたナスタリア助祭が突然立ち上がりローザリアの前に跪いた。
「甘いショコラトルとしょっぱいエショデ」
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