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第26話 密談
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トビーが立ち止まった屋敷の重厚な鉄扉の前には、2人の警備兵が立っていた。鎧ではなく、機動性を重視した軽装備の彼らは、王都の高級住宅街の治安を守るために派遣された警備兵である。そのうちの1人が、トビーに気づき、静かに声をかけた。
「エドワード様、ここにはもう来られない方が良いと思います」
警備兵は、トビーの過去を知る旧知の者なのだろう、その目はどこか寂しげな色を帯びていた。
「あぁ、でもいつかこの屋敷を取り戻してやる」
トビーの瞳は怒りに満ちていた。先導者のスキルに支配されている状態であれば、このような感情を露わにすることはあり得ない。
「私もフィッツジェラルド家の再興をいつまでもお待ちしています。でも、あまり無理をしてはいけません。まずはご自身を大事にして下さい」
その時、もう一人の警備兵が、訝しげな表情で声をかけてきた。
「おい、コイツは何者だ」
「このお方は、以前この屋敷に住んでおられたエドワード様です」
「あぁ、あの大事件を起こしたフィッツジェラルド家の息子か」
衛兵は一瞬で表情を鬼のような形相に変え、トビーを睨みつけながら唾を吐き捨てるように言った。
「お前の親父は俺たちの税金を食いつぶした糞野郎だ。しかも、若い女性を誘拐して奴隷として売っていたらしいな。糞野郎の息子がのうのうと王都の町を歩いてるんじゃねぇぞ」
衛兵はそう言って、トビーに向かって蹴りを繰り出した。しかし、トビーは泥底で培った身のこなしでひらりとかわす。空を蹴った衛兵はバランスを崩し、石畳に転んでしまった。
「貴様、よくもやりやがったな。治安維持院へ突き出してやる!」
転んだ衛兵が立ち上がりながら叫ぶ。
「やめとけ!」
旧知の警備兵はすぐさま間に入り、トビーに向かって切羽詰まった声で叫んだ。
「エドワード様、お逃げ下さい!」
「離せ、すぐに応援を呼んでやる!」
転んだ衛兵は旧知の警備兵を突き放そうとする。
「早く、逃げてください!」
トビーは、ここに長居すれば自身が危険に晒されること、そして旧知の警備兵まで巻き込んでしまうことを察知した。彼は一瞬、旧知の警備兵に視線を送り、踵を返して王都の町並みへと逃げることにした。
トビーは高級住宅街を後にして、ケーニヒシュタット公園にたどり着いた。そこは、重厚な石造りの建物が立ち並ぶ王都の町並みにあって、まるで緑の宝石が埋め込まれたかのように静謐な空間だった。公園の中央には鏡のように静かな水面を湛えた大きな池が広がり、水面に映る青空と、池のほとりに植えられた色鮮やかな薔薇や、気品のある白いユリが鮮やかなコントラストを描いていた。白鳥の彫刻が施された噴水からは、規則正しい水音が響き、手入れの行き届いた芝生はまるで深い絨毯のようだった。トビーは、その公園のベンチに腰を下ろし、呼吸を整えた。すると、トビーの背後に気配もなく誰かが立つ。
「エドワード様、ボスに裏切りの嫌疑がかけられています。それに、先導者のスキルの効果が薄れていると言ってました」
トビーの背後に居たのは、薄い水色のシャツに、グレーのネクタイ、そして濃紺のベストと仕立ての良い黒のズボンという目立たない服装をしたシュペーアーであった。彼は、公園の利用者として完全に溶け込み、影のように立っていた。
「そうか、いずれ気付かれると思っていたので問題ない。シュペーアー、どのように報告するつもりだ」
「ありのままを報告します。トビーはなんらかの方法を使用して、先導者のスキルを逃れて、服従したフリをしていたと報告するつもりです」
トビーは平然とした顔で池を見つめたまま言った。
「お前は知っているのだろ。俺が先導者のスキルから逃れる方法を」
シュペーアーは、全く表情を変えないまま、淡々と返答した。
「話術士のスキルで自分自身に暗示をかけているのですね」
「正解だ。俺はアイツに会う時はかならず、自分自身を騙して心を空にしている。だから感情をもたない俺にはアイツの先導者のスキルは効かない」
「ボスが何を話すか想定して役者のように演じているのですね」
シュペーアーは問いかけた。
「そうだ。俺はボスに会う時は心を持たないロボットだ」
トビーは淡々と種明かしをする。
「さすがエドワード様、感服致します」
トビーはシュペーアーに問いかけた。
「シュペーアー、お前はどちらの味方なのだ」
「私はボスを崇拝していますので、答えるまでもないと思います」
トビーはニヤリと笑った。
「嘘をつくな。お前の職業は隠密に特化している。存在を消し去る力のあるお前は先導者のスキルは効かないだろう」
「さすがですね。ボスですら気付いていないのに……。ボスに報告するのでしょうか?」
手の内を見破られたシュペーアーだが、声のトーンも表情も変化しない。
「するわけがないだろう。俺とお前はお互いに情報を交換する立場だ。お前に利用価値があるうちは、ばらすつもりはない」
「それが賢明な判断です」
トビーは表情を引き締め、本題を切り出した。
「ところでシュペーアー、妹の居場所はわかったのか?」
トビーは妹、エーデルの居場所を探るよう、シュペーアーに依頼をしていた。
「残念ですが進展はありません。ボスの屋敷にいるのは確実です。しかし、ボスの屋敷に潜入するのは危険過ぎます。いろいろとボスの関係者達の言動をチェックしているのですが、エーデル様の話は一切出てきません」
「そうか……。引き続き捜査をお願いする」
「わかりました。では、これで私の要件は終わりです。後は好きなようにしてください」
シュペーアーがそう述べた瞬間。トビーの頭に、強烈な衝撃が走った。意識が遠のき、視界がぐるりと回転する。トビーは抗う間もなく、そのままベンチから崩れ落ち、意識を失った。
「エドワード様、ここにはもう来られない方が良いと思います」
警備兵は、トビーの過去を知る旧知の者なのだろう、その目はどこか寂しげな色を帯びていた。
「あぁ、でもいつかこの屋敷を取り戻してやる」
トビーの瞳は怒りに満ちていた。先導者のスキルに支配されている状態であれば、このような感情を露わにすることはあり得ない。
「私もフィッツジェラルド家の再興をいつまでもお待ちしています。でも、あまり無理をしてはいけません。まずはご自身を大事にして下さい」
その時、もう一人の警備兵が、訝しげな表情で声をかけてきた。
「おい、コイツは何者だ」
「このお方は、以前この屋敷に住んでおられたエドワード様です」
「あぁ、あの大事件を起こしたフィッツジェラルド家の息子か」
衛兵は一瞬で表情を鬼のような形相に変え、トビーを睨みつけながら唾を吐き捨てるように言った。
「お前の親父は俺たちの税金を食いつぶした糞野郎だ。しかも、若い女性を誘拐して奴隷として売っていたらしいな。糞野郎の息子がのうのうと王都の町を歩いてるんじゃねぇぞ」
衛兵はそう言って、トビーに向かって蹴りを繰り出した。しかし、トビーは泥底で培った身のこなしでひらりとかわす。空を蹴った衛兵はバランスを崩し、石畳に転んでしまった。
「貴様、よくもやりやがったな。治安維持院へ突き出してやる!」
転んだ衛兵が立ち上がりながら叫ぶ。
「やめとけ!」
旧知の警備兵はすぐさま間に入り、トビーに向かって切羽詰まった声で叫んだ。
「エドワード様、お逃げ下さい!」
「離せ、すぐに応援を呼んでやる!」
転んだ衛兵は旧知の警備兵を突き放そうとする。
「早く、逃げてください!」
トビーは、ここに長居すれば自身が危険に晒されること、そして旧知の警備兵まで巻き込んでしまうことを察知した。彼は一瞬、旧知の警備兵に視線を送り、踵を返して王都の町並みへと逃げることにした。
トビーは高級住宅街を後にして、ケーニヒシュタット公園にたどり着いた。そこは、重厚な石造りの建物が立ち並ぶ王都の町並みにあって、まるで緑の宝石が埋め込まれたかのように静謐な空間だった。公園の中央には鏡のように静かな水面を湛えた大きな池が広がり、水面に映る青空と、池のほとりに植えられた色鮮やかな薔薇や、気品のある白いユリが鮮やかなコントラストを描いていた。白鳥の彫刻が施された噴水からは、規則正しい水音が響き、手入れの行き届いた芝生はまるで深い絨毯のようだった。トビーは、その公園のベンチに腰を下ろし、呼吸を整えた。すると、トビーの背後に気配もなく誰かが立つ。
「エドワード様、ボスに裏切りの嫌疑がかけられています。それに、先導者のスキルの効果が薄れていると言ってました」
トビーの背後に居たのは、薄い水色のシャツに、グレーのネクタイ、そして濃紺のベストと仕立ての良い黒のズボンという目立たない服装をしたシュペーアーであった。彼は、公園の利用者として完全に溶け込み、影のように立っていた。
「そうか、いずれ気付かれると思っていたので問題ない。シュペーアー、どのように報告するつもりだ」
「ありのままを報告します。トビーはなんらかの方法を使用して、先導者のスキルを逃れて、服従したフリをしていたと報告するつもりです」
トビーは平然とした顔で池を見つめたまま言った。
「お前は知っているのだろ。俺が先導者のスキルから逃れる方法を」
シュペーアーは、全く表情を変えないまま、淡々と返答した。
「話術士のスキルで自分自身に暗示をかけているのですね」
「正解だ。俺はアイツに会う時はかならず、自分自身を騙して心を空にしている。だから感情をもたない俺にはアイツの先導者のスキルは効かない」
「ボスが何を話すか想定して役者のように演じているのですね」
シュペーアーは問いかけた。
「そうだ。俺はボスに会う時は心を持たないロボットだ」
トビーは淡々と種明かしをする。
「さすがエドワード様、感服致します」
トビーはシュペーアーに問いかけた。
「シュペーアー、お前はどちらの味方なのだ」
「私はボスを崇拝していますので、答えるまでもないと思います」
トビーはニヤリと笑った。
「嘘をつくな。お前の職業は隠密に特化している。存在を消し去る力のあるお前は先導者のスキルは効かないだろう」
「さすがですね。ボスですら気付いていないのに……。ボスに報告するのでしょうか?」
手の内を見破られたシュペーアーだが、声のトーンも表情も変化しない。
「するわけがないだろう。俺とお前はお互いに情報を交換する立場だ。お前に利用価値があるうちは、ばらすつもりはない」
「それが賢明な判断です」
トビーは表情を引き締め、本題を切り出した。
「ところでシュペーアー、妹の居場所はわかったのか?」
トビーは妹、エーデルの居場所を探るよう、シュペーアーに依頼をしていた。
「残念ですが進展はありません。ボスの屋敷にいるのは確実です。しかし、ボスの屋敷に潜入するのは危険過ぎます。いろいろとボスの関係者達の言動をチェックしているのですが、エーデル様の話は一切出てきません」
「そうか……。引き続き捜査をお願いする」
「わかりました。では、これで私の要件は終わりです。後は好きなようにしてください」
シュペーアーがそう述べた瞬間。トビーの頭に、強烈な衝撃が走った。意識が遠のき、視界がぐるりと回転する。トビーは抗う間もなく、そのままベンチから崩れ落ち、意識を失った。
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