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地下の狂宴

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しばらく、音だけがしていた。

誰もが知る人気女優が、おそらく、絶大な経済力や権力を持つ男たちと交尾する音。それはおぞましくもあり、凄まじく興奮を掻き立てるものだった。

(安い方です)

遊佐が言った言葉を思い出す。なるほど。これなら妥当だ。
そしてギリギリ、現実として受け入れられる。
陰謀論の類、芸能界の真実みたいなそういうやつ。
それをたぶん目にしたのだという、そこまでの経験。

当事者になれない悔しさと、安堵を感じた。

周りを見ると、なぜか部屋の人数が減っていた。これを見聞きするために大金を払ったであろう男たちが、すぐに立ち去るのは些か違和感があった。

俺と一緒に部屋に残っていた小男が、スタッフらしき男に誘導されて、入ってきたのとは違う扉に誘導される。タイムアップを悟り、俺もその後に続いた。

しかしその先の部屋で、彼らは全裸になっていた。

そして、更に奥の部屋から、数人の裸の女が入ってきた。

彼女らは、先ほどまで俺が観ていた女優と同じ顔と身体をしていた。

……いや、同じ容貌をしていた。


状況を飲み込めないままに、周りに倣って全裸になる。男と女はほぼ同数で、ひとりでふたりを相手する女が居たことから、ちょうど俺は一対一で相対する格好となった。

「……お兄さん、初めて?」
「はい」
「緊張しすぎ笑」
「……あの、皆さん…影武者ですか? ひょっとしてクローン?」
「あはは。何言ってんの。整形だって。てか概要も知らないで来た感じ?超大金払ってんのにその反応おかしくない?」
「主催者と縁がありまして……おっ!!」

唐突に下半身を握られて変な声が出てしまう。
女優とほぼ同じ顔をした彼女は妖艶に微笑んだ。

「あんまりお喋りすると怒られるの…声は変えられないからね。とりあえず周りに倣って楽しんで」

俺はその日、彼女とひとしきり愉しんだ。

終わり際、たぶん最初の彼女が僕のところに戻ってきて、耳を舐めながら囁いて教えてくれた。

「私たちは使い捨て。2回分の整形費用をもらって、一度はパーティー用の顔に。その後で、自分の好きな顔に変えるの。もしかしたらどこかでまた会うかもしれないし、もうどこかで会ってたかもね。だけどお兄さんにはわからない。私たちがこの顔なのは、今この場所だけだからーー」

そして、壮絶な体験は幕を閉じた。

現実離れした感覚は家に帰り着くまで続き、遊佐からのメッセージに気づいたのは、風呂に浸かり、夜食を食べ、布団に潜ったあとのことだった。

「もし興味があれば、今後もご招待します。だけどその代わり、先輩に調べて欲しいことがあるんです。御社ではーー少し、やり残してしまいましてね」

「ひひっ…成果次第では、のゲストとしてご招待しますよ」

「次のメインステージは、藤堂愉快とうどうゆかいです。先輩……好きって言ってましたよね?」

俺が唯一と言ってもいい、ファンを標榜している有名アイドル。奴は狙ったのか、それとも偶然か。

決して踏み入れてはならない領域が、眼前へと迫っていた。
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