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紫屍鬼部という男
鍵
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「新人さんが倉庫整理に来たかと思ったが。君は見たことがある顔だ。なにか捜しものかね」
古書店の倉庫に侵入ひていた俺に、店主は穏やかに話しかけた。
「そのロッカーは何度か処分してくれと頼んだが。放置されてから十年は経ったかな」
「そ、そうです。このロッカーの中身を確認して不用なら処分するよう言われておりまして。しかし中に金庫があるんです」
咄嗟に出た言い訳にしては上出来だった。すると彼はロッカーの上に乗った小箱を指差した。ロッカーの上には他にも書類などが無造作に積まれていた。
「鍵ならあの箱に入っているはずだよ。この倉庫にある金庫の類はぜんぶ鍵をまとめてある。それを教えてもらえなかったのかね。まあ、私にも鍵をかけている理由もわからないが」
「……中身を知っているんですか?」
「何十年、他人に貸した場所に放置されているものに、価値があるとは思わんというだけだ」
「確かに、それもそうですね」
ロッカーの上にはギリギリ手が届かない。
「そこらへんの古本を足場に使って構わんよ。靴は脱いでくれ」
俺は店主の言葉に甘えてなるべく頑丈そうな全集の束を足場に小箱へと手を伸ばした。なんとか片手に箱を掴んだが、バランスを崩して他のものも落としてしまった。
バサバサと書類が広がる。黄ばんでボロボロのワープロ用紙。穴あけパンチで穿たれた穴を紐で綴じてある。脆くなった穴部分が千切れて、落ちた拍子にバラバラと散らばってしまった。俺が体勢を立て直す前に、店主はそれを拾い上げた。
「うわ、すみません」
「……こんなところにあったか」
「あ、それは」
「これはウチの商品だね。探していたものだよ。偶然に感謝する」
「そうですか」
俺の頭の中はロッカーを開けられるという飛躍的進歩でいっぱいだった。店主は書類の枚数を数え、トントンと揃えて小脇に抱えると、俺への興味をなくしたように告げた。
「用が済んだら鍵は元に戻しておいてくれ」
彼はそのまま静かに部屋を出ていった。
鍵は全部で10を超える数がひとつのホルダーに纏められており、総当たりのチェックは煩雑を極めたが、8本目でようやく俺は目当ての金庫の開錠に成功した。
しかし、中身は空っぽだった。
古書店の倉庫に侵入ひていた俺に、店主は穏やかに話しかけた。
「そのロッカーは何度か処分してくれと頼んだが。放置されてから十年は経ったかな」
「そ、そうです。このロッカーの中身を確認して不用なら処分するよう言われておりまして。しかし中に金庫があるんです」
咄嗟に出た言い訳にしては上出来だった。すると彼はロッカーの上に乗った小箱を指差した。ロッカーの上には他にも書類などが無造作に積まれていた。
「鍵ならあの箱に入っているはずだよ。この倉庫にある金庫の類はぜんぶ鍵をまとめてある。それを教えてもらえなかったのかね。まあ、私にも鍵をかけている理由もわからないが」
「……中身を知っているんですか?」
「何十年、他人に貸した場所に放置されているものに、価値があるとは思わんというだけだ」
「確かに、それもそうですね」
ロッカーの上にはギリギリ手が届かない。
「そこらへんの古本を足場に使って構わんよ。靴は脱いでくれ」
俺は店主の言葉に甘えてなるべく頑丈そうな全集の束を足場に小箱へと手を伸ばした。なんとか片手に箱を掴んだが、バランスを崩して他のものも落としてしまった。
バサバサと書類が広がる。黄ばんでボロボロのワープロ用紙。穴あけパンチで穿たれた穴を紐で綴じてある。脆くなった穴部分が千切れて、落ちた拍子にバラバラと散らばってしまった。俺が体勢を立て直す前に、店主はそれを拾い上げた。
「うわ、すみません」
「……こんなところにあったか」
「あ、それは」
「これはウチの商品だね。探していたものだよ。偶然に感謝する」
「そうですか」
俺の頭の中はロッカーを開けられるという飛躍的進歩でいっぱいだった。店主は書類の枚数を数え、トントンと揃えて小脇に抱えると、俺への興味をなくしたように告げた。
「用が済んだら鍵は元に戻しておいてくれ」
彼はそのまま静かに部屋を出ていった。
鍵は全部で10を超える数がひとつのホルダーに纏められており、総当たりのチェックは煩雑を極めたが、8本目でようやく俺は目当ての金庫の開錠に成功した。
しかし、中身は空っぽだった。
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