会社を1週間で辞めた新人がアングラパーティーの主催者でした

塔野とぢる

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紫屍鬼部という男

村崎万蔵①

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俺は残りのロッカーもひとつひとつ開けて中身を確認した。しかし汚い書類が詰まっている程度で、「紫屍鬼部」の手がかりになるようなモノはまるで見当たらない。

残りの鍵が合致する金庫を探すのは途方もないように思えたし、目下最大級の手がかりと思われた金庫開錠が空振りに終わった以上、長居する気にもなれなかった。

遊佐への説明用に、金庫の写真だけ一枚撮る。そして小箱に鍵を戻し、ロッカーの上に戻した。

その日はあまり仕事にならなくて、俺は失意の中、帰路の電車内で遊佐に写真付きのメッセージを送った。

「倉庫で金庫を見つけた。鍵も開けることができたが中身は空っぽ。これで手がかりはゼロに戻った」

どこかで俺は少し安堵していた。遊佐に関わり続けることが、俺の人生に不可逆的な変化を及ぼす。その道を辿り続けることに恐怖もまた感じていたからだ。手がかりがあればそこを掘る程度の積極性はあった。しかしそれ以上は億劫でもあった。

遊佐からの返信は早かった。

「開けたってことは、鍵は見つけたんですか」
「古書店の老店主が場所を知っていてね」
「古書店…ああ、一階の。なんでそんなことを部外者が知っているんです?」
「倉庫の半分は古書店に貸しているんだよ。だから管理も共同だったとかじゃないかな。商品がロッカーの上にも積まれていたようだし」
「そういった杜撰さは昔からなんですね」

法的にグレーな掲示板をやっていたくらいだから、キッチリした風土は生まれづらかったのだろう。そんなことを思ったがなんとなく俺は口にしなかった。

「しかしすまんな。これで手がかりはなくなってしまった。藤堂愉快は諦めざるを得ない」
「……いや、薗田さん。僕、気になりますよその老店主」

遊佐は俺の何気ない状況説明に引っ掛かりを得たようだった。

「僕を、古書マニアというていで古書店に連れて行ってくれませんか。店主に顔は割れてないはずなんで」
「辞めた会社にそこまで接近して抵抗ないのか」
「即辞めムーブかました奴にそんなこと聞きます?」
「それもそうだな」

「しかしなーー。盲点でした。一階の古書店」
「特別評判の良い店でもないぞ? 客いるの見たことないし」
「僕は本じゃなくて店主に興味をもったんですよ」

あんな老人にか?と言いかけて止まる。そもそも俺も店主のことをよく知らないし、接点といえば今日の問答が過去最大のものになるだろう。確かに今日いきなり後ろに立っていた時は異様な雰囲気を感じたが、それは俺がいたずらを発見されたような状況にビビり散らかしていたに過ぎないと思っていた。

「薗田さん。村崎万蔵は蒐集家でもあったんですよ。中でも専門分野はーー古書」


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