無職のおっさんはRPG世界で生きて行けるか!?Refine

田島久護

文字の大きさ
63 / 75
第二章・アイゼンリウト騒乱編

第60話 分かり易い悪役、戻る

しおりを挟む
 兄弟はリムンを護るべく前に出て背中を盾に爆風を防いだ後、直ぐに前に向き直り身構えた。煙で姿が見えないが、底冷えするような気を放つ人物が自分たちの前方に居る。

そして本能が告げていた。逃げなければ殺される、と。

「よくぞここまで持ちこたえた」

 煙が風に流された後に現れたのは、青白い顔をしたアグニス宰相だった。

「おぉアグニス殿! 良く援軍に来てくれた!」

 アグニスに駆け寄ろうとするビッドをビルゴは留める。さっきまで居た骸骨兵や魔族は跡形も無く消え去っていたが、アグニスの足元に陰では無い黒い何かが波打つようにうねり広がっていたのに気付いたからだ。

「今さらここに何の用だ」
「何の用? それはお前が良く知っているだろうビルゴよ」

 徐々に薄くアグニスの体の周りを青白い炎が覆い始める。ビルゴはそれに見覚えがあった。自分を助け唆した魔族が纏っていたものだ。上位の魔族を何故ビッドが知っている? そして何故自分をも知っている?

ビルゴはそこで気付いた。自分はまんまと嵌められコウたちを一旦首都から離し、コイツらが準備を完了するまでの時間稼ぎに使われたのだ。

そしてこいつこそが真の黒幕だ、と。

恐らくあの魔族二人組もこの件は知らないだろう……と思うが、用心の為にこの件を伝えに行かせた方が良い。今尚何も起きていないのだから中の奴らはまだ戦っている筈だ。

「……大体想像がつくな」
「だろうな。お前達は実に良くやってくれた。姫もあの冒険者もな」

 アグニスはそう言い終えると肩を震わせて笑いを堪えた。全ては思惑通り。ステージは最終段階へ移行。アイツは魔族へと堕ち力を得た上に生贄を喰らいパワーアップもしている。理論上この国どころかこの大陸にも勝てる者は一人いるかどうか。

だが今その一人がここに来た。自分の計画をより完璧にする為応援に来てくれたかのようなタイミングで。まさに運命は私に味方したのだ、とアグニスは考え愉快で堪らなかった。

「何の話だ兄者!」

 戸惑うビッドは兄の方を掴んでそう言うが兄は微動だにしない。確かにアグニスは悪そうな顔をしているが、姫を思い国を思ってこれまで色々動いていたと言う人物だ。兄と意味ありげな会話をしているのは何故なのか。

一刻も早く皆でコウの元へ行かないと。こんなところで言い争っている場合じゃない。ビッドはそう思い揺さぶるが反応が無かった。

「……ビッド、娘を連れてあの冒険者の元へ行け」
「な、何でだ兄者!」

「あ、貴方魔族なの……?」

 怯えて身を屈ませるリムンの言葉にビッドは驚きビルゴはその言葉が終わる前に構える。

「流石ドラフト族とゴブリンシャーマンのハーフ。近い者を感知する力があるようだな」
「ば、馬鹿な?!」

「別に不思議はあるまい。我は前王と共に戦い、今も生きている。冒険者は私が王に生かされていると考えていたようだが、半分当たりで半分外れだ」
「ビッド、早く連れて行け」

「逃がすと思うのか?」

 アグニスはあっという間にリムンの前に立ち、豪華な装飾が施された黄金色の剣を突き刺そうとした。だが自分の予想より早く到達してしまったアグニスは戸惑う。

色々計画通り過ぎて浮かれてしまったがこれでは駄目だ。絶望への供物が減っては計画が台無しになる、そう考え相手の行動を待つ。

「させるか!」

 ビルゴが素早く反応しアグニス目掛けてハンマーを振るった。アグニスはそれを利用し風圧に流されるようにふわりと空中を泳ぎながら避ける。

タイミングは完璧だったのに何が足りなかったんだと臍を噛むビルゴに対し、アグニスは哀れに思いながら微笑む。

相手の力量も測れないのであればそれだけ開きがある証拠。ならば生贄二匹を逃がしても適当な時間稼ぎにはなるか、と考え改めて剣を構える。

「ふふ、やるな。準備運動の相手としては丁度良い」
「準備運動で終わりだ。ビッド早く!」

 ビッドはビルゴの声に戸惑いを振り切り、リムンを担いで城内へと走る。訳が分からないが分かるのはあの場に居ても殺されるだけだという点だけだ。

「見逃して良かったのか?」
「ああ、構わんよ。全てが問題無い。恐らくあの二人が着く頃には、王は消えているだろう。真打ちは後から出て行くのが道理」

「先ほどまでの骸骨兵も魔族も、そして中の魔族や竜も全て贄と?」
「そういう事だ。もう少しで完成する。カギを握るこの堕天剣ロリーナが私の元にあるのでな」

「堕天剣……まさか」
「そう、そのまさかだよ。禁呪である作成方法で作られた剣。雌雄一対の剣の片方だ。あの王は妻が産後の肥立ちが悪くて死んだと思っていたようだが、それは違う。あの娘は天界から追い出された、言わば堕天使だったのだよ。容姿は醜くされ、全てが人に劣るようにして人の世に出された罪人だ。王は自らに近い者を選んだのだ。本当によく選んでくれた、私の為に」

 アグニスはビルゴにそう語って聞かせ少し気分が良かった。やっと誰かに話せる。これまで温め続け狙い続けた結果結末に漸く辿り着け、それを明かせる快感に酔いしれそうになる。だがコイツに聞かせてもあまり驚きが無いので、早く姫やあの冒険者に聞かせたい。堪らない驚愕の表情と絶望そして憤怒の感情を味わえるだろう、そう考えるだけでアグニスは絶頂しそうになり堕天剣を抱きしめる。

対してビルゴは気色の悪いアグニスが、更に気色の悪い動きをし始め色々な恐怖が押し寄せてきて大変だった。だが堪えてリムンたちが辿り着くまでの時間を稼がないとと思い、相手が語りそうな話を振ってみる。

「貴様の望みは何だ?」
「私の望み、か。フフッそんなものは決まっていよう? まぁ最も望みでは無く最早達せられるべき目的だがな」

 アグニスは堕天剣ロリーナを構える。この男の望みはあのハーフたちが冒険者のところへ辿り着くまでの時間稼ぎ。残念なのはそれはこちらも同じ。ぼろ雑巾になっても遊ばせてもらうのになぁとニヤリとしてから、アグニスは相手の望みを叶えてやろうと語り始める。

「私の目的は前王を凌ぎ最強の力と武器を携えこの国や周辺国だけでなく、この大陸そして最終的にはこの世界を統べることだ。暗君は宰相から精気を吸い上げ生かしたつもりだろうが大外れだ。私がそうさせて魔力を繋げたのだ。そしてお前達が行っていた生贄の抽出も、私に注がれていた。更に骸骨兵や魔族の魂も吸収し、後は仕上げをすれば私は完全になる!」
「痴人の夢を見るな!」

 ビルゴの渾身の一撃をアグニスは片手で受け止めてしまう。ビルゴはそれに驚いて一歩下がりそうになるが堪え、全力で押し込もうとする。自分はドラフト族歴代最強の戦士とまで言われた男だ。家族を守り切れなかったが、今度こそ守る。その為にもこれくらいで諦めて堪るかと歯を食いしばる。

 対してアグニスはそれをニヤニヤしながら見つめていた。温い温すぎる。神が作りし民族の末裔にしては残念な実力。こちらが気を遣って遊ばねばならぬのは面倒ではあるが、一つ一つ切り落として行き何処まで生きていられるかやるのも一興だろう。やっと思うままに振舞える時が戻って来たのだからなと考えニヤニヤが止まらない。

「少しは楽しませてくれよ。まだ完ぺきではないのだからなこの剣は」

 軽々ハンマーを手で押し返した後、切っ先を下に向け無防備に構えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...