勘違いされるハイエルフ姫

桔梗

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天空城

不安から立ち上がれ

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 炎馬王国のエンテイ王子に出会い、彼等から逃げてきた私はアルテミア王国を出て、広大なマップの主要都市を旅して回った。大陸を越え、海を越え、空を越え、次元を越えた。それでも3年の月日を費やしても帰る方法も同胞も見つからなかった。

 絶望した私が流れ着いたのは天空マップにある浮島【フラワーガーデン】だった。
 黄昏の空。優しいそよ風により花弁を揺らす美しい花々。古代文明の遺跡が僅かながらに残っている庭園に誰もいない。ここには私ひとりだった。


『この世界には私だけなんだね。ひとりぼっちになっちゃった…。』


 膝を抱えて顔を伏せる。


『どうして私なのかなぁ…』

 涙が止まらなかった。今までは泣かないように気を張り詰めていた。泣けば帰れないと認めたようで嫌だったからだ。でも、3年も旅をして何も収穫ないようじゃ、2度と帰れない事は明白だった。

『帰りたい!帰りたいようッ』

 両親に会いたかった。友達に会いたかった。今ごろきっと心配してるはずだ。だって現実世界の私はきっと昏睡状態のはずなのだから。親孝行もまだこれからだっていうのに、親に迷惑をかけてどうするのよ。親不孝な娘じゃないか。

『ごめんなさいお母さん、お父さん。』


 今の私を見たら、悲劇のヒロイン気取りと仲間は笑うか怒るでしょうね。でも、今だけは許してほしいと思う。泣くだけ泣いたら、また歩き出せるから。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 1日いっぱい泣いた。たぶん一生分は泣いたと思うけど、顔はいつも通りだった。

『あんなに泣いたのに目も腫れてない。こんなに現実感があるのに体はアバターなんだね。偽物の体だから目も腫れないのかな。』

 持っていた化粧セットから鏡を取り出して身嗜みを整え、新しい服にも着替えた。
 
『天空城にでも行こうかな。今ならお祭りの時期だから気分転換になるかも。』

 天空城は天空マップの五指に入る主要都市の一つなの。天使族が治める都市で、様々な種族と共存している国なのだ。
 今回は力を抑えて、普通のエルフとして滞在するつもりだ。炎馬王国のような騒動を引き起こしたくないからね。それに、1人でいたくないから人の側にいたいもの。

『友達が出来ればいいなぁ。』

 NPC 相手じゃ友達になれるか分からないけれどね。


 


ー天空城ー

 ワープで天空城ターミナルへ移動した私は賑やかな人の気配にホッとした。
 
 ターミナルには沢山の人が行き交い、賑わっていた。私の後ろにはワープ石という、巨大な円柱の半透明な石があり、そこから多くの人々が出入りしている。旅人や傭兵、商人と様々だ。

 さて、今日の目的は宿を探すことだ。取り合えず半年はここに住むつもりなので、風呂つきの綺麗な宿を探そうと思う。お金の心配?そんなのないわ。だって私の財産はかなり派手な買い物をしても痛くもない位あるもの。クエストや国の経営とかでかなりの金額が貯まってるの。億とか兆を超えた金額とだけ言っておくね。

『マップとかで見ると、かなり沢山の宿があるようね。』

 雑貨店で購入したマップを頼りに宿を探していたら、50件以上もあると判明した。

『こんなに多いと決めるの大変だわ。どうしようかしら。』

 風呂つきの綺麗な宿を探すには効率が悪すぎた。

『仕方がないからギルドでも行って紹介してもらうしかないわね。』

 冒険者ギルドに行けば大抵の事は解決できるので頼ることにした。

 天空城の冒険者ギルドは1つしかないが、とても大きな施設になっている。大きさは東京ドームほど。木造三階建てで、一般市民は一階で依頼をすることができる。
 私は一階の受付へ並んで宿の情報を提供してもらうことにした。

「探されている宿はこの宿がオススメですよ。【妖精の靴】という宿で、我がギルドが経営している高級宿になります。宿泊者はいずれもやんごとなき方々ばかりですよ。」

『トラブルとかはないの?』

「とんでもありません。宿には優秀なスタッフがお客様をおもてなしさせていただいております。ご要望には誠心誠意御応えしてますので、ご不快にはさせませんよ。」

 それほど勧めるならと妖精の靴に泊まってみることにした。

「ようこそ妖精の靴へ。」

 一等地にその宿は建っていた。落ち着いた雰囲気で気品のある調度品が高級感を漂わせていた。

『30日ほど宿泊します。おいくらですか。』

「一泊6000ツェルになるので、18万ツェルになります。」

 白い革の財布から小切手を取り出し、サインと魔力の判を押した。この小切手はお金を出す手間を省くために、この世界の銀行で販売しているものだ。使い方は簡単。小切手に名前と魔力の判を押すだけでいい。後は預金から引き落としされるだけ。

「こちらがユナ様のお部屋になります。」

 案内された部屋はとても広く明るい内装で私はとても気に入った。夕食は一階の宴会ホールで戴くことになっているようだ。夕食までは時間があるので部屋で休むことにした。

『はぁ…。』

 なんだか疲れた。

『私、ここで生きていくんだよね。頑張れるかな。』

 不安なことが沢山ある。でも、こうして前向きに一歩を踏み出せたんだから。きっと大丈夫だよね。

『アルテミアにもいつか帰らないとね。あそこは私の大切な国なんだから。』

 
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